永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(111)

2008年07月19日 | Weblog
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【澪標(みおつくし】の巻  その(4)

 源氏の子としては、めずらしく姫君であったと、お喜びは一通りではありません。占いで源氏の御子は三人で、帝、后、太政大臣の位を極めるでしょうと予言されたことを思い合わせられて、一旦は空しく思われた時期もおありでしたが、御子が帝になられた今、あの相人の予言は空しくなかったと、お思いになるのでした。

 住吉の神の導き給ふところ、明石の御方の世に類なき宿縁があって、さればこそあの頑なな親も、及びもつかぬ高い望みを持ったのであろうか。

「さるにては、かしこき筋にもなるべき人の、あやしき世界にて生まれたらむは、いとほしうかたじけなくもあるべきかな、このほど過ぐして迎えてむ、と思して……」
――そうとすれば、畏れおおい后の位に上るべき人が、あやしげな田舎で生まれたとあっては、いたわしくもったいなくもあることよ。もうしばらくしたら、京へ迎え取ろう、と
思われて、(東の院を急ぎ修理するようお言いつけになります。)――

 源氏は、あのような田舎ではしっかりした乳母もおらぬと、さる、つてを見つけてお申し出になります。訳あってはかない子持ちの若い女で、早速こっそりとその家に行かれます。例によって一夜を共にしてのち、明石へ発たせたのでした。

「入道待ちとり、よろこびかしこまり聞ゆること限りなし。そなたに向きて拝み聞えて、あり難き御心ばへを思ふに、いよいよいたはしう、恐ろしきまで思ふ」
――入道は乳母をはじめとしてもろもろを頂き、限りもなく源氏の御志を感謝恐縮もうしあげます。京の方角に拝み奉って、いよいよ恐ろしいくらいに明石の御方母子を大事にしようと思います――

 乳母は、なるほどこのような田舎ではと、京での夢見心地も醒めてしまいましたが、
「いとうつくしうらうたく覚えて、あつかひ聞ゆ」
――乳母は姫君(明石の御方の子)が大層可愛らしく思われて、お世話申し上げます――

 明石の御方も源氏のご配慮に慰められて、お手紙を書かれます。
源氏は
「あやしきまで御心にかかり、ゆかしう思さる」
――不思議なほど姫君のことがお心にかかり、早く見たいと思われます――

だはまた。

源氏物語を読んできて(装束の具・檜扇)

2008年07月19日 | Weblog
檜扇(ひおうぎ)
 
 平安時代の中期から用いられたもので、笏だけではメモ欄が少ないという理由からか、薄い檜板を糸で綴って扇の形にしたものです。
 これは日本独自の物です。
 束帯、衣冠など冠を着用する場合には必ず用いました。ただし束帯の場合は懐中するだけのもので、衣冠の場合は笏を持たないのでこれを笏の代わりに右手に持つことになりました。
 狩衣でも冬場は持つことがあります。

源氏物語を読んできて(装束の具・蝙蝠扇)

2008年07月19日 | Weblog
蝙蝠扇(かわほり)
 
 蝙蝠は夏の持ち物で、直衣や狩衣の際に用いました。この目的は現在の扇子とほぼ同じで、酷暑冷却用のものです。
 今日の扇子と異なるのは骨が5本程度と少ないこと、骨の片面しか紙が張られていないことです。
 かつての宮中での蔵人などの活動的廷臣は冬の束帯でも檜扇でなくこれを用いたそうです。 非常に軽便なために多用されました。