永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(113)

2008年07月21日 | Weblog
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【澪標(みおつくし】の巻  その(6)

 源氏はさらに、明石の御方の、あの夜のはっきりではありませんが容貌の美しさや、琴の音の趣深かったことなどお忘れになりがたい様にお話を続けられます。紫の上は、あの頃はまたとない悲しさに嘆いていましたのに、あなたは気まぐれにせよ、他に愛情を分けておられたとは、と穏やかではいられないお気持ちになって、

「『われはわれ』とうちそむきながめて『あはれなりし世の有様かな』とひとりごとのやうにうちなげきて、うた
『思ふどちなびく方にはあらずともわれぞけぶりにさきだちなまし』」
――「所詮、私はわたし」と、あちらをお向きになって眺めいりながら、「なんと悲しい間柄でしたこと」と独り言のようにおっしゃって、「私の方が先にこの世から消えてしまうでしょう」――

「何とか。心憂や。……」
――何をおっしゃる、嫌なことだなあ。(一体誰のために辛い憂き世を流離ってきたことか。ただあなたを思えばこそなのに)――

 源氏は箏の琴を引き寄せて、掻き合わせを紫の上にお薦めになりますが、明石の御方がお上手とお聞きになっていたことを妬ましく思われたようで、手にもお触れになりません。
 
おっとりと鷹揚だった紫の上が、嫉妬心がおつきになって腹を立てているご様子も又なかなか見どころがあると、源氏はお思いです。

 五月五日は、明石の姫君の五十日(いか)に当たると、源氏は密かに数えられて、それにしても、所もあろうに、あのような辺鄙な田舎に可愛そうな有様で生まれ来たことよ。姫君を先々妃にと思えば、愛おしく、流敵という運命もこのことの為であったことよ。

 世にもまれなる立派なものばかりをお持たせになって、お祝いの使者を五日に違わず到着させました。

ではまた。

◆写真:貴族の従者の狩衣


源氏物語を読んできて(庶民の服装・都の女性)

2008年07月21日 | Weblog
庶民の都の女性

 小袖や、手無(てなし)という袖のない衣を着て、湯巻を巻く。袴ははくこともはかないこともある。
髪は、結わえるくらいで貴族ほど長くはせず、後で結わえる。鉢巻でくるむこともある。
下駄(げた)や草履(ぞうり)をはく。はだしのこともある。

庶民の服地

 庶民の服に関しては、甚だ資料が乏しいのが現状です。高級官僚 からの 「お下がり」 を頂ける人々を除けば、通称 「野良着 (のらぎ)」 になります。その素材は、麻布 ・紙布 ・獣毛などとなり、「絹」 素材の布の服は、とても無理でした。

源氏物語を読んできて(装束の具・帖紙)

2008年07月21日 | Weblog
帖紙・畳紙(たとうがみ)
 
 さまざまな用をなす懐紙が儀礼用に変化したもので、束帯や衣冠の際に懐中します。束帯の場合は単色ですが、衣冠の場合は二枚の色を変えて重ね色目を楽しみました。
 現在は白の檀紙または鳥の子紙を用い、若年は紅の鳥の子、壮年は白の檀紙に金箔を散らしたもの(写真)、宿老は白の檀紙を用いるようになっています。