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【澪標(みおつくし】の巻 その(5)
源氏は、紫の上に明石の御方のことをきちんと打ち明けないうちに、他から聞き込まれることもあろうかと、
「さこそあなれ、あやしうねじけたるわざなりや。さもおはせなむと思ふあたりには心もとなくて、思ひの外に口惜しくなむ。……憎み給ふなよ」
――実はそういうことなのです。妙にいじわるな仕業ですね。子供があればと思うあなたには生まれそうもなくて、以外な所にできるとは残念です。おまけに女だそうで、構わず置いておいても良さそうですが、そうも行かず、連れて来てお見せしますから憎まないでくださいね――
紫の上は、顔を赤らめて、嫉妬をいつもご注意いただくことが、自分でも困ったものと
申し上げます。(嫉妬などいつするものでしょう)
源氏は程よくにっこりなさって
「そよ、誰がならはしにかあらむ。思はずにぞ見え給ふや。人の心より外なる思ひ遣りごとして、もの怨じなどし給ふよ。思えば悲し」とてはてはては涙ぐみ給ふ。
――ほら、それですよ。一体誰が経験させるのでしょう。心外ですね、思いもかけぬことに、気を回しすぎて恨んでおいでだこと、思うだに悲しい。と言ってついには涙ぐんでいらっしゃる――
紫の上は、すべては一時の出来心なのだと、明石の御方のこともお思いになろうとなさいますが、
源氏はつづけてこうおっしゃいます。
「この人をかうまで思ひやりごととふは、なほ思ふやうの侍るぞ。まだきに聞えば、またひが心得給ふべければ」と宣ひさして「人柄のおかしかりしも、所がらにや、まずらしう覚えきかし」など語り聞え給ふ。
――明石の御方をこうまで思いやってお尋ねするのはね、理由があるのですよ。早くお話しすればまた誤解なさるでしょうし、――と、途中で言いさして、――明石の御方の人柄が立派に思われたのも、海辺での淋しい思いからだったのでしょう、などとお話になります。――
◆この箇所は、お互いの心のなかの心理描写。お互いのくいちがいが出ています。
ではまた。
【澪標(みおつくし】の巻 その(5)
源氏は、紫の上に明石の御方のことをきちんと打ち明けないうちに、他から聞き込まれることもあろうかと、
「さこそあなれ、あやしうねじけたるわざなりや。さもおはせなむと思ふあたりには心もとなくて、思ひの外に口惜しくなむ。……憎み給ふなよ」
――実はそういうことなのです。妙にいじわるな仕業ですね。子供があればと思うあなたには生まれそうもなくて、以外な所にできるとは残念です。おまけに女だそうで、構わず置いておいても良さそうですが、そうも行かず、連れて来てお見せしますから憎まないでくださいね――
紫の上は、顔を赤らめて、嫉妬をいつもご注意いただくことが、自分でも困ったものと
申し上げます。(嫉妬などいつするものでしょう)
源氏は程よくにっこりなさって
「そよ、誰がならはしにかあらむ。思はずにぞ見え給ふや。人の心より外なる思ひ遣りごとして、もの怨じなどし給ふよ。思えば悲し」とてはてはては涙ぐみ給ふ。
――ほら、それですよ。一体誰が経験させるのでしょう。心外ですね、思いもかけぬことに、気を回しすぎて恨んでおいでだこと、思うだに悲しい。と言ってついには涙ぐんでいらっしゃる――
紫の上は、すべては一時の出来心なのだと、明石の御方のこともお思いになろうとなさいますが、
源氏はつづけてこうおっしゃいます。
「この人をかうまで思ひやりごととふは、なほ思ふやうの侍るぞ。まだきに聞えば、またひが心得給ふべければ」と宣ひさして「人柄のおかしかりしも、所がらにや、まずらしう覚えきかし」など語り聞え給ふ。
――明石の御方をこうまで思いやってお尋ねするのはね、理由があるのですよ。早くお話しすればまた誤解なさるでしょうし、――と、途中で言いさして、――明石の御方の人柄が立派に思われたのも、海辺での淋しい思いからだったのでしょう、などとお話になります。――
◆この箇所は、お互いの心のなかの心理描写。お互いのくいちがいが出ています。
ではまた。