高校野球のテレビ放送をよく観る方だ。ひいきチーム以外の試合でも初回の表裏の攻防はつい観てしまう。初回だけ観てテレビのスイッチを切り勝敗の行方を予想する。負けたら次のないトーナメント戦だからどの試合もその滑り出しの緊迫感はたまらない魅力だ。テレビ中継ではセンター方向からのカメラがバッターとキヤッチャーをとらえた画面が長時間写し出される。その画面で気付いた興味深いことがある。その画面の中では連日ほぼ同じ顔ぶれの人達がほぼ同じ席に座っているのである。テレビに写し出されるのはバックネット裏席の前から2列目までのしかも中央部分の席に限られる。
今回甲子園球場の近くに宿をとり開場前の様子を目撃する機会があってその特異な高校野球愛好家の行動様式をはっきりと理解した。まず開会式前日までに中央特別自由席(バックネット裏席)の22400円の「15日間通し券」を購入する。そして毎日徹夜で並ぶのである。並ぶ権利はこのような何らかの前売り券を持つ者だけに限られている。その日の試合が終了したら彼らは球場を離れることなく明日のためにまた並ぶ。それも列の先頭であることが必要だ。こうなるとこれら愛好家同士の協力体制が自然とできあがるのは容易に想像できるというものだ。当日券組はこの人達にはとても太刀打ちできない。それにあの席は一日中直射日光を浴びる席だから頑健な体力の持ち主でなければならないのである。
今回の私が座った席は朝9時から午後4時まで一瞬たりとも直射日光を浴びることのない席だった。そのうえテレビに写る心配もなくバックネットに近いという願ってもない良い席だった。この日私は200円の「かちわり氷」を3回購入して氷嚢代わりに使った。事前に用意したなまかじり用のキュウリ、凍らせた牛乳パック、梅干し、おにぎり、ビールで十分に満足し、甲子園の500円カレーは食することなく終わった。私達の隣の席はNHK関係者の特別席で、この日の解説者の鍛冶舎巧氏や非番のアナウンサー小野塚康之氏の姿を見かけた。鍛冶舎氏は放送終了後に花束を手にしていた。数日後に鍛冶舎氏が25年間つとめた解説者を引退するのを知って花束の謎が解けたのだった。
高校野球は春の選抜大会と夏の選手権大会が行われる。今年は春が82回で夏が92回目である。大会期間はそれぞれ12日と15日で、主催新聞社がそれぞれ毎日と朝日で両社は互いに後援の協力関係も結んでいる。紫紺の大旗に続いて深紅の大優勝旗が沖縄に渡るという記事を見た。たしかに興南高校の我如古(がねこ)主将が今回手にしたのは深紅の大優勝旗だった。私は帰りも来た時と同じ普通列車にした。豊橋から辰野までの飯田線にはじめて乗った。飯田線は天竜川に沿って93の駅がある。このことで中央アルプスと南アルプスの位置関係を明確に把握することになった。