熱過ぎる夏が終わりイキナリ涼しい秋が到来した。そこそこ家の周りも片付いた昼下がりの午後、図書館の書架の前を行きつ戻りつする。メリハリの利いた読みやすい著者の一冊を片手に「さ~て次は何にしようか」と思案するのは、映画館の前で数ある中のどれにしようと惑うのに似た楽しみの一つといえよう。
解説に「1995年夏米国生活を終え、新しい生活を初めて私は今何を書くべきか思案していた。さる雑誌の投書(夫がサリンの被害に会い当初は会社もそれなりに遇してくれていたが、日々が重なるにつれ冷たくなり退職を余儀なくされた)を読んでいた。そういった理不尽さ迄引き起こしたサリンに関する’ノンフイクション物’を書きたかった」とあった。世界的に認知されている著者の新分野でもあった。
それは’95年3月20日、オカルト集団オウムによって、地下鉄5線で揮発性の神経ガスサリンが同時多発的にバラ播かれ死者13名、負傷者6300名を出した事件である。700頁に及ぶその本は翌年一年がかりで被害者60名にインタビューを求め、各章の前にその方の職業や面談での印象を記してある。今半ばであるが、紙上では未逮捕の3容疑者に公費懸賞金が懸けられたニュースと、松本サリン事件で容疑者視された河野善行氏が奥様の3回忌を済ませ鹿児島に移住とあった。「大好きな海に囲まれ、趣味の釣りと写真に打ち込み、講演で知り合った人達と芋焼酎を酌み交わしている」という。