民宿に2泊したがどこも1泊2食で五千円である。温水シャワーで汗を流す。浴槽にお湯が張られていることはまずない。衣服の着脱の場所が見当たらず各自で工夫する必要がある。食事は皆が満足で、こんな安い料金でいいのかと思わず口にする人もいた。旅行中に昼食に飛び込んだどの食堂でも気前のいい盛り付けには感心する。このように感じてしまう原因は東京の物価がいかに高いかの裏返しだろう。
伊江島の民宿「さんご荘」に宿泊予約した時に「できれば親父さんの三線を聴きたい」と要望した。その願いが叶い「今夜は近くに住んでいる親父が夕食時に駆けつける」と半袖半ズボン姿の日焼けした青年が教えてくれた。食堂に集まる前に私以外の3人が「謝礼あるべし」と言いだした。各自が千円ずつ出して急遽皺を伸ばした封筒に納めた。あの時お渡ししておいて良かったと思う。三線を弾いたのは親父さんだけではなかった。
ジーンズ姿の若い女性が隣りで三線を構えている。NHKテレビの「ごきげん歌謡笑劇団」に登場する、さすらいの歌姫・瀬口侑希といった風情である。あの晩あの女性がなぜそこに現れたのか今でも不思議な気分にさせられる。食堂には他の男性宿泊客2人が居合わせていた。配られた歌詞カードには6曲が印刷されている。沖縄古謡の「安里屋ユンタ」とわらべ歌「てぃんさぐぬの花」の2曲の他によく知られている「涙そうそう」「島人ぬ宝」などである。
「安里屋ユンタ」の「マタハーリヌツィンダラカヌシャマヨ」は「また逢いましょう、美しき人よ」という説が有力だ。「てぃんさぐぬ花」とはホウセンカのことで一番の歌詞の意味は「ホウセンカの花は爪先に染めなさい、親の言うことは心に染めなさい」だ。最後にカチャーシーが始まる。女性が踊り始めて誘われるように男達も踊り始めた。その様子が動画に撮られていて部屋に戻って見せられたが赤面するばかりだった。私のカチャーシーはやたら腰を振りすぎて品がない。本人が楽しければそれでいいと慰められた。沖縄ではほぼ一年を通して中高校生のホームスティが行われてる。それを最初に始めたのは伊江島だという。