暮れに、2016年日本公開の映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」をテレビで観た。これは第2次大戦後の冷戦を背景にアメリカで猛威をふるった赤狩りによって映画界から追われながらも偽名で活動を続け「ローマの休日」などの数々の名作を残した不屈の脚本家ダルトン・トランボの伝記ドラマだ。
印象的な場面がある。トランボが家族と一緒に劇場から出てきたとき、反共主義者の暴漢にコーラを浴びせられる。その翌日トランボが馬の手綱をひき、馬上の娘との会話のシーンだ。「パパは共産主義者なの?」「そうだよ」「違法なの?」「いいや」「パパは危険な過激派だって?ホント」「過激派であるかもな。だが危険なのはコーラをかけるやつだけだ。パパは国を愛している。いい政府だ、だがどんなものでも改善できる」
「ママも共産主義者?」「違う」「私は?」「どうかなテストしてみよう。好きな弁当は?」「ハムサンド」「それを学校へ持っていった日に弁当のない子がいたら?」「分ける」「分ける?働きに行けと言わないのか?」「言わない」「金を貸すのか、利息6%で」「ハハ」「知らんぷりするのか?」「違うよ」「おやおや、ちびっ子共産主義者だな」
赤狩り支持派のジョン・ウェインを衆人環視の場でトランボが挑発して、やりこめる場面がある。西部劇は先住のインディアンを追放してできたアメリカ合衆国を讃える愛国的な娯楽映画とも言える。かつてジョン・ウェインの西部劇を手に汗握って観ていた。いまにして思えば一面的な楽しみ方だったと鼻白む思いがする。