人間は気ままな動物である。
人間は、自分の力で、あるいは仲間と力をあわせても運ぶことのできないものを、自分の所有物にする。
自分の手に負えないものを所有したがるのが、人間以外の動物との違いである。
人間のその欲求は、生産や生活に必要なものから遊び道具まで、広い範囲にわたっている。
なかでも、遊び道具は専有期間つまり持ち物としての寿命が短く、それを使った遊びに飽きればもっぱら次のものを使い、それまでのものは遊び場に放置される。
遊んだあとは親が片付けるものと習慣づけられて育った放置人は、片付けということを知らずに大人のような体と顔をもった人間になっている。
この舟は、ひと冬の間だけでなく、次の夏にも海に浮かばなかったのではないだろうか。
もう現れることのない持ち主を待つでもなく待たぬでもなく、ただ雨水を溜めて砂浜に横たわっている。
こうなると、風情は消え去る。
ただそこにあるというだけで、物好きな雑写人の目にとまることしか、この世に役割を持たない。