マジックは、驚きを楽しむものでした。
同じことが繰り返されれば、できごとへの驚きは冷めていきます。
観客が冷めていったとき、頭も覚めて、タネを探るほうに興味が移ります。
そうなれば、マジックを楽しまずに究めたがる観客が増えていきます。
タネを撮ろうとするカメラマンもあらわれます。
カメラマンの撮る写真は見せるためのものですから、マジックのタネがもし撮れれば、カメラマンの鼻はひくひくうごめくでしょう。
人に知られていないことを私は知っているという、自慢ごとに悦びを感じるようになると、カメラマンも、スパイも、研究者も、リークやすっぱ抜きが自分の仕事の重要部分であるかのような錯覚を起こします。
そのときは、すでに職業神経が鈍化あるいは糜爛状態にあるのです。
マジックのタネも、スパイの情報も、研究者の論文も、ひとびとにまっすぐな感動、安心、喜びを与え続けられるようになったとき、その仕事は完成の域に近づくのでしょう。
バラす、漏らす、抜くという意地汚い競争に明け暮れ、自分のほうがひとびとの目より先にくらんでいるようでは、ちょいのま仕事の足かせは、いつまでたっても外れず、一生ついて回ることでしょう。