南無煩悩大菩薩

今日是好日也

簡単・目安スー

2020-10-25 | 古今北東西南の切抜

(picture/source)

ーにわかに、親近感を妙に覚える人たちが確かにいる。わからないがそれは否応を特定することの出来かねる、ひとつの在り方、として多数派ではないにしても確かに近いと感じるのである。ー

村上:昔から気になっているのは、確率です。気象情報で「何%」というと、いかにも科学的になったように見えるけれど、何%と言った時の100%から引いた方はわからないわけでしょう。そのわからないということをわからないとして正面から受け止める。何%とは何を意味しているのかということをきちんと理解して、よくわからんのだけれども、そのわからんところに対応しようという気持ちで、最後まで我々自身がいられるのか、それとも数字が「%」で出たから、その数字をよりどころにして行動しましょうとなるのか。

西垣:非常によいことをおっしゃっていただきました。最近のAI(artificial intelligence)というのは、統計処理をやっています。確率分布を仮定して、計算して答えを出す。ところが状況ががらりと変わってしまうと、分布そのものが変わるので、AIの計算結果は役に立たなくなる。そこが問題なのです。

カンタン・メイヤス―という現代哲学者はわからなさに二通りあると言っています。一つは英語で言えばポテンシャリティ(潜勢力)。これは確率的なわからなささで、繰り返しているうちにだんだん見当がついてくる。もう一つは。ヴァ―チャリティ(潜在性)です。こちらは、対象の挙動がなにをもたらすか全く予測が出来ない偶然性みたいなものなのです。わからなさにはこの二つがあるのに、我々はみんな大体ポテンシャリティでなんとかなると思っています。地震を例にすると、首都圏直下型地震が起きる確率は何%だとかいいますが、メイヤス―にいわせると「そんなことはヴァ―チャリティだからわからない」となるでしょう。

要するに世の中の事実の根本には、我々人間には偶然としか思えない根本的なわからなさがあるということです。サイコロを振って出る目を当てるようなポテンシャリティについては、確率計算で予測できるけれど、そればかりではないのです。

AIは過去のデータに引きずられる存在で、全く新しい環境条件のもとでは役に立ちません。ところが人間などの生物は、新たな環境の中でもなんとか生き抜こうとする。このなんとか生き抜こうとする直観力みたいなものが弱まると、死にます。生物種は滅びます。人間はそのことに気がつかないといけないんじゃありませんか。

中村:フランソワ・ジャコブと言う研究者がいます。彼は生物とは何かを説明しています。私は彼の考え方がとても好きです。彼は、生物を①予測不能性、②偶有性、③プリコラージュ(ありあわせの材料、道具でものを造ること)、と言っています。寄せ集めでできた予測不能なものが生物だと、分子生物学者として説明しているのです。私は直感的に、この説明はぴたりと当たっているなあと思っています。

西垣:当たっていますねえ。

村上:最近私が「わからないことについてどう対応したらいいか」ということで、大変感銘を受けたのは森山成彬さんという精神科医がおっしゃった言葉です。彼が、「ネガティブ・ケイパビリティ」と言う言葉を提案されたんですよ。ごく簡単に言ってしまうと、「ちょっと立ち止まって待つ」です。

我慢すること、それに耐える能力。要するに現代社会はできる限り懸命に正解を探し当てて、果断にそれを実行することが要求されている、その能力がポジティブ・ケイパビリティです。その能力ばかりで人間は行動し、判断するのが正しいと思われているけれど、ちょっと待って、決断し、行動するのを少し控えてみようという、その時間に耐えてみようよいう能力です。

ー切抜/中村桂子、村上陽一郎、西垣通、「ウィルスとは何か」より

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