第1回作戦会議が居酒屋で行われた。
たいていこういうことの始まりは居酒屋なんだよね。
こういうことって、それは「みんなでわいわい何かをやること」。
2年前NPOの企画でアルファハイブリッドマラソン大会を行った。
バドミントン部と陸上長距離部がマラソンで競う。持久力ではひけをとらないと豪語するシャトラーが多かったが、さすがに天下の長距離部にかなうわけがないから、ハンディてんこ盛りでのマラソン大会だった。
この大会は、種目の異なる部活が交流し、教室で机を並べる仲間の部活動での顔を知る日があってもいいじゃね? 的な理由付けはあった。しかし個人的には、「みんなにすいとんをふるまう」が目的だった。真冬に走ったあとなら一層美味しいだろうと思い、マラソンがセットされたというのが本音。
スタートを写真に収めてから、寸胴鍋2個分のすいとんづくりにとりかかった。
お手伝いの人と一緒に家で食材をカットしてきたので、当日は煮込んですいとんを入れるだけ。
寸胴鍋で煮込むとはいっても、実際やるとなると場所の確保、コンロの準備、鍋に水入れ、そして湯をわかす。結構これらに時間がかかった。
「チャッカマンどこ?」
から始まるんだから。
さてこうしてようやく灰汁を取り出した頃、
「最初の人、ゴールしちゃいました!」
スタートとゴールの写真はしっかり撮るつもりでいたから、ゴールに見張りの人を立てていた。
全部作り終え、しばし談笑した後、ゴールする彼らを写真に収め労う、そんなイメージをしていたのに、
「なんだって!」
鍋の管理を他の人に任せゴールとなっている校門まで走ると、もうすでに陸上部が数名ゴールしていた。
「ゴール写真撮るから、もう一回あのあたりから着順通りに走って!」
とお願いすると、陸上部員達は笑顔を引きつらせながら走り直してくれた。それからバタバタとすいとんの完成に向けたのだから
「あんな忙しい思いはもうこりごり」
となり、去年も今年度もこの企画は流れた。正確にいうと、流した。
そのお蔵入りさせていたハイブリッド再び!
「うちの田んぼで米作りませんか?」
なんて話が舞い込んだ。
「やります、やります」
となり、バドミントン部と陸上長距離部合同で稲作体験することとなった。
田んぼ持ち主の星野さんとの打ち合わせ、すなわち作戦会議を行った。
星野さんがあらかじめ打ち合わせ資料を作ってくれていたので、我々はそれを元に話し合いを進めた。
子ども達が田植えや稲刈りをして米を収穫する、これがこのプロジェクトの目的。できればなんでも手作りで、というロハスなロマン路線で行こうとする我々に、できる限り寄り添ってくれる星野さん。
「今は皆機械植えなんだよね」
とぽつりと言ったけど、皆で体験したいという思いを受けとめそれに合わせて話を進めてくれるのだった。
打ち合わせを進めいろいろ質問するうちに、これは植えて刈り取って、収穫できました!なんて簡単なことじゃないぞと思い始めた。米作りって八十八回の手がかかるんだよね。植えるまでの準備、途中の手入れなど残りの86回の手はどうするのか。結局星野さんにおんぶに抱っこになってしまいそうだなどと思うけど、星野さんはそれらに頓着することなく終始ニコニコ顔だった。
そのくせこちらは「あーしたい、こーしたい」、と思うままにおもしろそうな企画を語ると、それに対して「大変だからやめとけ」とか「それは無理だ」などと否定する言葉は一切発せず、突拍子もないアイディアに対して、
「じゃ、こうしよう」
と実現可能路線で提案してくれる。
そうして我々のテーブルには「夢」を詰めた気球がボワンと浮き上がり、プランを語るたびに大きく膨らんでいくのを感じた。
夜9時を過ぎた頃、星野さんをお宅に送りがてら現地を視察することにした。
10アールの田んぼって、いったいどれくらいの広さなのか検討がつかない。
1アールは10m×10m。それが10個分。ということは10m×100m。田んぼの形としては20m×50mかなとプリントの裏に図を書きながら話し合っていた。じゃ、バドミントンコートいくつ分? 16面分くらい? と頭で描いたけど、具体的にイメージできない。
「米はどれくらい収穫できるのですか?」
と質問すると、
「480キロくらいかな」
関東平野の真っ平らな地に、10アール単位で区画されたと思われる田んぼが並ぶ。月明かりに、狐の影が浮かび上がるような気配と、幹線道路の音と人家のたたずまいが近い里山。
「ここから、むこうの少し黒い線が見えるあたりまでだよ」
ここで横1列に40人が並び田植えする。
畦ですいとんとかカレー炊き出ししようと思う。
「(義父さんが)プリントまで用意してくれているとは思いませんでしたよ」
と星野さんの婿にあたる齋藤先生が言った。
30年前。結婚してすぐの時に、夫は夏合宿を別所温泉でやりたい、その時子ども達に山登りやバーベキューを体験させたいと語った。父は夫のプランに楽しそうに乗り、その準備やら後片付けにも積極的に関わった。
あの時の義父と婿の姿が蘇る。
星野さんが終始笑顔でわたしたちの思いに寄り添ってくれること。あの時の父が夫の思いに全面的に協力し、一緒に楽しんでくれたこと。
きっと楽しいことになる、と思う。
田植えではミミズや蛙投げ大会になってしまうかもしれないけど。
たいていこういうことの始まりは居酒屋なんだよね。
こういうことって、それは「みんなでわいわい何かをやること」。
2年前NPOの企画でアルファハイブリッドマラソン大会を行った。
バドミントン部と陸上長距離部がマラソンで競う。持久力ではひけをとらないと豪語するシャトラーが多かったが、さすがに天下の長距離部にかなうわけがないから、ハンディてんこ盛りでのマラソン大会だった。
この大会は、種目の異なる部活が交流し、教室で机を並べる仲間の部活動での顔を知る日があってもいいじゃね? 的な理由付けはあった。しかし個人的には、「みんなにすいとんをふるまう」が目的だった。真冬に走ったあとなら一層美味しいだろうと思い、マラソンがセットされたというのが本音。
スタートを写真に収めてから、寸胴鍋2個分のすいとんづくりにとりかかった。
お手伝いの人と一緒に家で食材をカットしてきたので、当日は煮込んですいとんを入れるだけ。
寸胴鍋で煮込むとはいっても、実際やるとなると場所の確保、コンロの準備、鍋に水入れ、そして湯をわかす。結構これらに時間がかかった。
「チャッカマンどこ?」
から始まるんだから。
さてこうしてようやく灰汁を取り出した頃、
「最初の人、ゴールしちゃいました!」
スタートとゴールの写真はしっかり撮るつもりでいたから、ゴールに見張りの人を立てていた。
全部作り終え、しばし談笑した後、ゴールする彼らを写真に収め労う、そんなイメージをしていたのに、
「なんだって!」
鍋の管理を他の人に任せゴールとなっている校門まで走ると、もうすでに陸上部が数名ゴールしていた。
「ゴール写真撮るから、もう一回あのあたりから着順通りに走って!」
とお願いすると、陸上部員達は笑顔を引きつらせながら走り直してくれた。それからバタバタとすいとんの完成に向けたのだから
「あんな忙しい思いはもうこりごり」
となり、去年も今年度もこの企画は流れた。正確にいうと、流した。
そのお蔵入りさせていたハイブリッド再び!
「うちの田んぼで米作りませんか?」
なんて話が舞い込んだ。
「やります、やります」
となり、バドミントン部と陸上長距離部合同で稲作体験することとなった。
田んぼ持ち主の星野さんとの打ち合わせ、すなわち作戦会議を行った。
星野さんがあらかじめ打ち合わせ資料を作ってくれていたので、我々はそれを元に話し合いを進めた。
子ども達が田植えや稲刈りをして米を収穫する、これがこのプロジェクトの目的。できればなんでも手作りで、というロハスなロマン路線で行こうとする我々に、できる限り寄り添ってくれる星野さん。
「今は皆機械植えなんだよね」
とぽつりと言ったけど、皆で体験したいという思いを受けとめそれに合わせて話を進めてくれるのだった。
打ち合わせを進めいろいろ質問するうちに、これは植えて刈り取って、収穫できました!なんて簡単なことじゃないぞと思い始めた。米作りって八十八回の手がかかるんだよね。植えるまでの準備、途中の手入れなど残りの86回の手はどうするのか。結局星野さんにおんぶに抱っこになってしまいそうだなどと思うけど、星野さんはそれらに頓着することなく終始ニコニコ顔だった。
そのくせこちらは「あーしたい、こーしたい」、と思うままにおもしろそうな企画を語ると、それに対して「大変だからやめとけ」とか「それは無理だ」などと否定する言葉は一切発せず、突拍子もないアイディアに対して、
「じゃ、こうしよう」
と実現可能路線で提案してくれる。
そうして我々のテーブルには「夢」を詰めた気球がボワンと浮き上がり、プランを語るたびに大きく膨らんでいくのを感じた。
夜9時を過ぎた頃、星野さんをお宅に送りがてら現地を視察することにした。
10アールの田んぼって、いったいどれくらいの広さなのか検討がつかない。
1アールは10m×10m。それが10個分。ということは10m×100m。田んぼの形としては20m×50mかなとプリントの裏に図を書きながら話し合っていた。じゃ、バドミントンコートいくつ分? 16面分くらい? と頭で描いたけど、具体的にイメージできない。
「米はどれくらい収穫できるのですか?」
と質問すると、
「480キロくらいかな」
関東平野の真っ平らな地に、10アール単位で区画されたと思われる田んぼが並ぶ。月明かりに、狐の影が浮かび上がるような気配と、幹線道路の音と人家のたたずまいが近い里山。
「ここから、むこうの少し黒い線が見えるあたりまでだよ」
ここで横1列に40人が並び田植えする。
畦ですいとんとかカレー炊き出ししようと思う。
「(義父さんが)プリントまで用意してくれているとは思いませんでしたよ」
と星野さんの婿にあたる齋藤先生が言った。
30年前。結婚してすぐの時に、夫は夏合宿を別所温泉でやりたい、その時子ども達に山登りやバーベキューを体験させたいと語った。父は夫のプランに楽しそうに乗り、その準備やら後片付けにも積極的に関わった。
あの時の義父と婿の姿が蘇る。
星野さんが終始笑顔でわたしたちの思いに寄り添ってくれること。あの時の父が夫の思いに全面的に協力し、一緒に楽しんでくれたこと。
きっと楽しいことになる、と思う。
田植えではミミズや蛙投げ大会になってしまうかもしれないけど。