バネの風

千葉県野田市の「学習教室BANETバネ」の授業内容や、川上犬、ギャラリー輝の事、おもしろい日常を綴ります。

記憶のひきだしを開く

2013-01-10 07:21:46 | 感動
 正月は双方の実家をはしごする。
 高齢者となった父母と生活をともにするひと時となるが、考えさせられること多々ある。そこから何を感じるか。

 正月のプチツアーとして義父を東京見物に誘った。これはチャーのかねてからの希望で、生家のあった街を父に見せてあげたい、そして自分も見たいということ。都内を車でサクサク移動するには正月はもってこい。
 父は以前住んでいた街を見ることにさほど関心がないようだった。しかし、「いやー、そんなとこ行ったって」と言いながら、老いては子に従えなのか,単純に出かけることが楽しみなのか、足取り軽く車に乗り込んだ。
 高速より下の道の方が空いている。父は車を運転しない。自転車で動き回る。高齢となった今は出歩く距離は限られ、車でほんの10分ほどの街並を懐かしそうにする。
 車はいよいよチャーの生家のあった下町に入る。工場用地だったところに大学が建ち全く知らない街に見えたのか、後部座席から父の様子を確認するが特段の反応はない。車は更に商店街や路地に入る。チャーは古そうな建物を見つけると、「あのクリーニングあった?」とか「この魚屋知ってる?」としきりに父の記憶を促そうとする。車がやっと1台通れる路地を回ると、生家があった場所に出た。そこは駐車場になっていた。すると父は、「ここに長屋があったんだよ。」と説明してくれた。
 路地から商店街を抜け表通りに出た時、正面に隅田川の堤防が見え、父の頭に地図が描けたのだろうか、先程通った大学前の道は以前からよく知る道であることがわかった様子だった。
 その後新橋に向かった。車を駐車場に入れ駅前を歩く。
 駅ロータリーに出たその時、「あの機関車、そのままだ」と父は強い言葉で言った。ゆっくり歩きながら新橋烏森口前にさしかかると、急に饒舌になった。サラリーマン時代の話しが吹き出してきた。会社帰りの一杯風の店に入りたかったけど,正月で開いているのは地下の小洒落た店しかなかった。そこで焼き鳥や酎ハイを注文する。
 食事しながら父は田舎での生活、上京してからのこと、サラリーマン時代のこと、そして母のこと。戦前戦後の激動を生きたドラマ。いろいろ語ってくれた。チャーすら初めて聞く話が多かった。
 店を出て、父の希望から烏森口と機関車前で記念撮影をする。

 人の記憶が蘇る瞬間。面影なくした街に、当時のままを残すものがたった一つあった。そこから開いた。ジワジワと。

 人が喜ぶ姿を見ると嬉しい。来てよかったという気持ちに満たされての帰路となった。

 それから数日後、別の視点を知ることとなった。
 娘は父のドラマから何かを得た。19歳が人生の示唆を得たのかもしれない。

 同じ時を共有し、何に心動くか。



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