2012年9月、当時の野田首相が尖閣国有化を宣言したとき、
田中角栄・周恩来以来の尖閣棚上げが一方的に破棄された中国では
日本への非難行動が全国を席巻しました。
そのとき日本語学科に入学した学生たちが、今はもう4年生です。
当時、一年生になったばかりなのに、さんざん言われ、
「日本語学科だと?この売国奴~!」
「何故そんな馬鹿な国の言語を学ぶのか。」
「君は愛国心がないのか。」等々、
私は(まあ、「売国奴」とか、なんて古臭い言葉を使うんでしょ)と
呆れたものですが、何と今は
日本のある層の人々もそっくりの言葉を使っています。
発想もほぼ同じです。
私はいざとなればいつでも引き上げることができるので、
困り方もそう大したものではありませんでしたが、
中国で生まれ、中国で育った学生たちは、
国家が作った大学の日本語学科を受験して立派な成績を収め、
胸を張って入学したと思ったら、さんざん罵られて
たいへんだったと思います。
中日関係が揺れるたびに、
日本語学科の学生たちは肩身の狭い思いをします。
「私たちは何も悪いことをしていません!」
と、日本語学科の学生たちが叫ぶのを何度聞いたことでしょう。
そんなことを頭に置いて、下の江けいさんの作文を読んでみてください。
―――「愛に満ちた日本への第一歩」 江けい(王へんに京)
大学一年生のとき、時間を潰しているタクシードライバーと雑談する機会がありました。
ちょうど魚釣島をめぐって中日関係が冷え込んだときでした。ドライバーが、
「俺は日本が大嫌いだ。
日本は世界一残酷な民族でおれ達中国人はひどい目に遭ったんだ。
日本語を聞いたらむかつく……。」
と言いました。突然言われたその言葉に、私は呆然としてしまいました。
いよいよ大学に入って興味のある日本語が勉強できるはずの私は、
悲しさで心がぐちゃぐちゃになりました。
日本が犯した中国での残虐行為は事実ですが、それはずっと前に起こったことで
今の日本人に関係ないんじゃないか。
そう見なければ、今の中国人といい、日本人といい、
中日関係は全面的に理解できないように思います。
そのような誤解を解くために日中の青年交流が必要だと思います。
実際に、日本から木子さんという大学生がうちの学校に交流にきたことがありました。
中国には『朋あり遠方より来たる、また楽しからずや』という古い言葉があるように、
私たちは喜びと緊張で遠路はるばる来た木子さんをお迎えして案内しました。
一年生の私たちは、日本語があまり上手ではありませんが、
それでも木子さんは辛抱強く、優しく私たちが知らない日本のことを紹介してくれました。
授業の後で木子さんは私たちと一緒にバスケットボールをしました。
ボールを運んで走る木子さんの元気な姿を見たら、これこそ日本人だと思いました。
みんなも夏の日光を浴びて汗がぽたぽた流れるほど疲れましたけれど、
本当に楽しかったです。
一週間はあっという間に過ぎ、お別れのときがきました。
この一週間で日本について理解できないことをいろいろ木子さんに聞いてもらい、
木子さんを通して、日本の若者の親切さや活発であることがわかりました。
ところで、今年の四月も三人のクラスメートが交換留学生として日本に行きました。
その一員として留学した親友の伍さんが日本の写真と日本の生活についての日記を
ウィチャットなどの通信ソフトで送ってくれました。
初めて日本に行った伍さんの目で見た日本の先生は優しいし、
住んでいる留学生の寮もきれいだし、環境もいいし大満足だそうです。
初めて日本人の友達ができ、藤井さんという名の可愛い女の子です。
デザインの授業を受けた時に、
伍さんのそばに座っている丸顔で可愛い藤井さんに気がついて、
積極的に声をかけました。
藤井さんは国籍を問わず熱心に詳しく何でも教えてくれました。
それからは一緒にデザインをしたり、小さな声で雑談をしています。
また、ゴールデンウィークに旅行することを約束しました。
藤井さんのお蔭で、自分が全然知らない国にいる伍さんは、
家族のような温かさを感じています。
現在、中日両国の若者の交流を促進するために中日青年交流センターがあります。
ここでは中日両国の留学システムを作ったり、国際青年研修大学を設立したり、
中日バイリンガル教育をしたりしています。
以前にもこのセンターでは、早稲田大学と北京大学の学生が回線を結び、
インターネットを通して、今後の日中関係を正面から向き合いながら、
色々な問題点を討論しました。
このような活動により、中日両国の若者はきっと相手のことがもっと理解できるように
なるのではないでしょうか。
これまで中日両国の青年は勇気を持ち、愛に満ちてお互いに第一歩を歩んできました。
今後も両国の交流を促進するために、メディアなどの言葉を鵜呑みにせず、
きちんと日本人と向き合って、自分の目で判断できるように頑張らなければならない。
その日、ドライバーに
「私は今、日本語を勉強しているけれども、後悔なんか全然していません。
私は中日の平和に微力ながら尽くせることが自慢です。」
と言いました。
今は五月です。
青い空と降り注ぐ太陽の光を浴びながら日本語を読んでいる私は、
本当に幸せだと改めて感じています。
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