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Brugge Style
あのころ、october 14
先日、ロイヤル・バレエでヴァージニア・ウルフの三部作Woolf Worksを見た。
その時に、このように書いた。
「ヴァージニア・ウルフは、『登場人物たちの背後に美しい洞窟を掘る』ことによって、過去を『現在の瞬間』に浮かび上がらせるこの手法を、『トンネル掘りのプロセス』と語っている。」
その次の日、まったく不思議なことに、2人の方からほとんど同じ内容のメールを受け取った。
まるで過去につながるトンネルの奥から浮かび出てきたような内容だった。
神戸の異人館街に昔あったレストラン&カフェOctober14について2021年に書いているが、何か他に覚えていることはないだろうか、と。
そのメールを読んで、過去が『現在の瞬間』に駆け上ってきた。
2023年。わたしはロンドン南方にある、まさに北野の異人館街に建っているようなスタイルの家の中にいる。
ここにいながら、1980年代も終わりの頃、神戸の港と市街地が眼下に広がる異人館の中のカフェOctober 14にいて、紅茶を飲みながら本を読んでいる(気がする)。
その時に感じていた、空間的に広がるような時間の感覚と、急くような期待感、美や世界への憧れが、蛇口を開けたように溢れ出てきたのである。
今も昔も、異人館街には何か自分が探している時空間や、期待感や、憧れががあるような気がする。
しかし、実際に行ってみても、探しものの後ろ髪さえつかむことができない。それでも毎度、行かずにはいられない。
「何か有るようで何も無い、何も無いようで何か有る」という禅の言葉を思い出す。
先週、ウィーンのオーストリア応用美術・現代美術館MAK見学はたいへん興味深かった。
世紀末ウィーンで発達した「用の美」に従するインテアリアや雑貨の常設展示と、川俣正さんによるアジア展が開催されていた。川俣さんの展示では、ヨーロッパに輸入された日本の伊万里や屏風などの文物が、透明のトンネル状の展示室に置かれていた。
19世紀の西洋のインテリアや雑貨が神戸や横浜を介して日本へ入って来、日本の文物がヨーロッパへ渡ったことが可視化されている美術館。
神戸港が外国に向けて開港され、外国人居留地が区画されたのは1868年(以後1899年まで)。北野には異人館街ができはじめた。そのころ、英国はビクトリア朝、オーストリアは華やかなりし世紀末ウィーン...
ああ、こういうランプ、こういう椅子、異人館にあるよなあとか、人はこういう未来を夢見ていたのだな、などと...
現在は坂の上の異人館の看板を出している、幻のOctober 14に関して思い出をたどる。
わたしが覚えているのは...(もし何か他に覚えている方がいらしたらぜひ教えてください!)
中国大使館として使われていた異人館をそのまま利用していた
カナディアン・シーフード&カフェ(カナディアン・シーフードって何? って感じじゃないですか)
ケーキに定評があった
1階、2階ともいわゆる異人館のムードで、えんじ色のペンキが塗られた板張りの廊下にクリーム色の壁(<記憶に自信なし)
神戸の海と街並みが一望できる2階の窓際の席が常に人気
アクセサリーなどの販売をしていた
書籍やポストカードもあった(ような記憶)
ポットでサービスされる紅茶800円。4種類
ディナーコースは4000円からの設定
ランチタイムは11:30から14:30
ティータイムは16:30まで
火曜日定休
078ー241ー6113
(以上具体的な数字は93年ごろの情報。日記が残っているため)
当時の写真も手元に残っており、壁には蔦が絡まり、低めの門が美しく、今の「坂の上の異人館」(上から2番目とすぐ下の写真)とは似ても似つかぬ外見である。
ジュエリー企業4℃の経営が関係していた(確実)。
アパレル企業のワールドが経営に関わっているという話も聞いたことがある(自信なし)。
1995年に発生した阪神・淡路大震災により、異人館の約3割は倒壊・解体されたが、まだ40棟ほどが現存、保存措置が講じられているそうである。
北野の坂道を歩けば、安っぽい飾り付けをした館もあれば、崩れおつるにまかされている館もある。どちらを見ても胸が痛む。
いつかわたしが長者になったら、半壊した建物を含めたら60棟あるという(公開されているのは15棟のみ)異人館のひとつを買い、ファサードや窓枠や暖炉やパーケットの床は残し、近代化できるところは思い切りそうして、ヨーロッパを思いながら生活しよう。
子供に無料で英語や文化を教えたり、逆に新しいことを教えてもらったり。
一角を「ベルギー風カフェ」にして、夫を亭主にしたて、コーヒーとワッフルを出す店をしよう...
名前はNovember 5にしよう。
そう思った翌日、神戸新聞に「北野ガーデン閉館」のニュースが踊った。
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