カラダよろこぶろぐ

山の記録と日々の話

刻まれた記憶

2006-12-10 | ヒビのこと

いつものジョギングコース。
川沿いの住宅の中に一軒、気になる家があった。
その家には弓道に関わる何かを製作しているような看板があって、
その家の前には木製の、手作りらしい茶色のベンチがあった。

その家はとても日当たりがよく、木製のベンチには
午前中から太陽の光が燦々と降り注ぐ、心地の良い場所だった。

天気の良い日には時々、その家の方であろう
おじいさんがベンチに座っていた。

一見ちょっと気難しそうな、細くて、背の高いおじいさんだった。
多分、職人さんなんだろう、と思う。
背筋がピン、と伸びていてカッコよかった。
仕事の合間にちょっと休憩、という感じで、カモ達に餌をあげていた。

でも第一印象とは裏腹に柔らかな声で、「おはようございまぁ~す」
と声をかけてくれる。
そこを通る人みんなに声をかけていた。
こちらもだんだん慣れて、「良い天気ですねー」とか軽い挨拶を
交わすようになっていた。

そこを通るとき、そのおじいさんがベンチに座りながら
「おはようございまぁ~す、良い天気ですねぇ」
と声をかけてくれるのが結構楽しみだったりした。
いつも変わらない笑顔が嬉しかった。

昨年の春辺りから、たまにしか姿を見なくなり、
夏ごろには全くそのベンチに座らなくなった。
病気にでもなったのだろうか・・・
と心配ではあったが、わざわざ家の人に聞くほどの仲でもないので
それはしなかった。
年配の方だからな、とは思っていた。

今日、そのベンチに今まで無かったものを発見した。
いつからか、あったのだろうけど気付かなかった。

いつもそのおじいさんが座っていたベンチの背もたれに、
名前の頭文字と”1923-2005”
と白い色でステンシルしてあった。
真っ青な冬の空に、その白い文字が眩しかった。
そっか、82歳だったんだ、やっぱりもう会えないんだ。

だけどそのベンチは主がいなくなってもその場所から動いていない。
きっと家族もみんな、おじいさんのこと誇りだったんだろうな、
と、そのベンチの文字を見て、思った。

陽だまりのベンチに座りながら、微笑むおじいさんの姿。
私の記憶にもしっかりと刻まれた。