カラダよろこぶろぐ

山の記録と日々の話

敗退のきろく。

2014-08-15 | ヤマのこと

今年は初めて6連休の休みがとれたので とても楽しみにしていた夏休み

当初の予定は憧れの南アルプス荒川三山あたり縦走 4泊5日 予備日1日 の計6日間

ところが台風11号の接近で金曜出発が出来なくなり 予約してあった「毎日あるぺん号」をキャンセル
日程変更でも一度キャンセル扱いとのことで代金の3割 5400円のキャンセル料を釈然としないまま払う


土曜日、台風接近で雨
日曜日、台風は夜には通過してしまうとのことで代替案はあったけど諦めきれず 行けるかも?と
再度「毎日あるぺん号」を予約して 登山口である畑薙ダムを目指すことにした
6日間のうち2日間動けなかったので残りの休みは4日間
台風後の週間天気予報は晴れ


日曜日、夕方まで雨と風が強かったが バス運休の電話がなかったので大丈夫なんだと思い竹橋へ


それが間違いの始まりだった




「着きました、降りてください」 8月11日 月曜日の朝
運転手に起こされバスを降りたら 目の前には寝起きの頭にすぐに理解出来ない光景があった


「ご覧の通り林道土砂崩れですから東海フォレストのバスは今日は迎えに来ません
歩いていくか このままバスに乗って東京に戻るか決めてください
ええ 山に予定変更というのはよくある事ですから 仕方ないでしょう」


何言ってんだ?この人 運転手のあまりに非情なその言葉に怒っても始まらない
情報を得ようとスマホを見れば「圏外」 そうだ 自分で確認してこないのが悪いのだ
バスが走れない場合もあるという想定をしなかった自分が悪いのだ
この沼平には公衆電話もトイレも何もない 
その場に居合わせた登山者20名ほどと 下山してきた若者との情報交換
結果 進むしかなかった




車なら1時間のところ 林道を歩き「椹島ロッジ」までのCTは約5時間
土砂崩れは大小20数か所あった
土砂を乗りこえ歩いていく 初めての体験
東日本大震災の あの風景が頭に浮かんでは消えた




花もなければ景色もない 
時折雲の間から射す日差しだけが希望をくれる
トンネルを抜け 時折休み あまり涼しくない林道を 黙々とただ進むだけ



椹島ロッジには13時前に着いた 日差しと数時間ぶりの人の気配にほっとした

健脚の人はそのまま赤石小屋や聖平小屋を目指して行った
当初の予定では朝一で赤石小屋を目指す予定だった 赤石小屋までCT5時間
今からスタートなら私が着く頃はもう夜 どう考えても自分には無茶 今夜はロッジに泊まるしかなかった
仕事があるので木曜日までには何が何でも東京に戻らなければならないのに
残り時間はあと3日間




到着してまた予想外の出来事 椹島ロッジは昨晩から停電だという 自家発電もないらしい

「昨日の夕方には林道閉鎖状況を アルペン号に連絡してあるから皆さん承知の上で来たんじゃないんですか? 
え?何も言われなかったって?それは酷いなあ 乗る前に言われてたら行き先変更だって出来たのにね」
ロッジの人は皆とても親切だった


停電の復旧は林道の土砂をどけてから 車が通れるようになって多分今夜遅くの予定
だけど今は電気がないのでお風呂は沸かせない 食事はガスでなんとかなるが冷蔵庫はダメ
唯一の楽しみのビールは常温のものしかない 川の水も冷たくないので冷やせない
18時 ヘッデンを付けたままぬるいビールを飲み 夕食を頂く

天気予報を見たくても携帯の電波が来ていない ここはソフトバンクだけだって docomoしか持ってない
たしか明日は晴れ予報だった 朝から登ってどこまで行けるか 希望を胸に真っ暗なロッジで眠りについた




だけど翌朝 山は微笑んでくれなかった
ぽつぽつ降り出していた雨は出発の5時には土砂降りの雨になった
昨晩20時過ぎに復旧した電気で ロビーのTV天気予報を見ると晴れ予報が一転
今日から週末まで傘マークのついてない日はない なんていじわるな どうしよう
ロッジのロビーをうろうろしているうちに また電気がバンッ と落ちた


残り時間はあと2日
止む気配がない土砂降りの雨
こんな雨の中8時間かけて登って行って
明日も晴れの保証はない  いやいや晴れるかもしれない 
「次に大雨が降らなければ大丈夫でしょう」
と昨日オーナーさんが言っていた林道はまた崩れるかもしれない いや崩れないかもしれない

稜線まで登って もし林道がまた崩れたら 稜線から標高差2000m 6時間かけて下山してきて
そこから更に畑薙第一ダムのバス停まで5時間歩かなければならない
タイムリミットは木曜日のバスの発車時刻14:25
そんなギリギリのスケジュールで動ける? 11時間も歩いたことないのに
到着した時から既にすべてが予定外だったのに 最終日だけ時間通りにいくって本気で思ってる?


憧れていた 風に揺れる荒川のお花畑
圧倒されるような大きな峰々が連なる南アルプス南部 青空の下の稜線歩き


せっかくきたのだからとか 色々考えた
雨だって登ればいいじゃない 行ってみなけりゃ解らないことだってある
でも ああでもない こうでもない 考えてるうちにすべてが面倒くさくなっちゃった 
もう いいよ やめようよ 気持ちが萎えちゃったよ 何にも楽しいと思えない
そうだよ私はマイナス思考だよ 夢を描きすぎて上手くいかなくて 気持ちが負けたんだ
最後まで行きたがっていたダンナには申し訳ないけど 無理やり登って行って
「山から下りれませんでした ごめんなさい」って 会社休めないんだから仕方ない
登山口敗退決定 一歩も登れずに 登らずに




帰ると決めてからも簡単ではない 車のない私たちはバスを確保しないと帰れない
しずてつに予定変更の電話をするも今日は満席だのなんだの
衛星電話しかないから 用件が済むまでに100円玉がどんどん飲まれ2千円近くかかったかな
それでもようやく帰りのバスを確保し また土砂で崩れてしまわないうちに8時台のバスで椹島脱出
土砂はある程度片付けられていたけど 崩壊した車道を通る時だけは 乗客全員下車にて通過 
崩れた穴を覗き込んでみる あと20センチ内側だったら 車は完全に通れなかっただろうなぁ



東海フォレストのバスは畑薙夏季臨時駐車場まで無事に走れた
駐車場に車を止めていた人はスイスイ帰って行ったけど 私達にはまだ行程の半分が残っている
もしバスが大雨で来れなかったら ここに泊まるか タクシー呼んで静岡駅まで約3万円

一日一本のしずてつジャストラインの出発時間まで4時間ちょっと
畑薙夏季臨時駐車場には何もないので 駐車場から徒歩40分の「白樺荘」で時間調整することにした
ここでようやく衛星放送が見れて 天気予報が解ったけど ここはまだ携帯圏外
井川地区大雨洪水警報で足止めくらった登山者が何人かスタンバイしていた

こんな山の中に一軒だけ建つキレイな施設 赤石温泉はつるつるのいいお湯だった



せっかく温泉で汗を流しても 静岡行きのバスに乗るためには
白樺荘からまた「畑薙第一ダム」のバス停まで1時間ちょっと登らなければならない
車だったら10分だろうな
車を持たない私達 頼れるのは自分の足だけ 雨の中 合羽を着なおして登り返した
途中 井川の自主運行バスが横に止まりドアが開いた バスに乗りなよと 感謝



ダムの奥 小さなほったて小屋のようなバス停は足を置く場も困るほどの水浸しだった
またいつ崩れるかわからないからと 赤石から下りてきて
東海フォレストのバスに慌てて飛び乗ったというソロの男性がひとり座っていた
台風のさなかに稜線を歩いた武勇伝を笑顔で話す その気力体力が眩しかった
結局 静岡駅までの乗客は 彼と我々の三人だけで3時間揺られていった




自分は整備された登山道しか歩いたことのない軟弱登山者なのに 台風通過直後に山に入って
現地に着いて エスケープ案も気力も体力も予備日も 何もかも足りなかった事に気づき
帰りを気にして登ることを選べなくなった 情けない自分  
すべて自分の考えの甘さのせいでの失敗だった


この記録を書く事がとても嫌だった せっかくの夏休みなのに何も出来ず悲しくて情けなくて 
できるならいつだって楽しくてサイコーな記事を書きたいのに
ブログってなんだろう なんで書かなきゃいけないのかな 止めたくなる こんな時



でもまた こうして自分の情けなさを書き残してしまった 変だよね




南アルプス南部はとてもとても遠かった
今はまだ また行けばいいじゃないか という気力は沸いてこない



2014年 夏 敗退のきろく おしまい。





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