ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

法科大学院のカリキュラム

2012年03月23日 00時28分31秒 | 受験・学校

 3月22日付の朝日新聞朝刊37面13版に「日大法科大学院、不適合の評価」という小さな記事が掲載されています。

 大学を評価する機関として、大学基準協会があります。この評価そのものなどの意義についても様々な問題があるものと思われますが、それは今回、とりあえず脇においておきます。同協会は、毎年、幾つかの大学について評価を下しています(余談ですが、2010年度に大東文化大学も評価の対象となりました)。2011年度も、40校(大学、短期大学、専門職大学院、法科大学院)が評価の対象となっていますが、そのうちの7校が「過去に不適合や評価保留などとされたことを受けた再評価・追評価で」あったということです。

 2008年度の評価で、同協会は日本大学の法科大学院に対して「不適合」という評価を下しました。再評価などは3年後に行われることとなっており、2011年度、同法科大学院に対する再評価が行われたのですが、再び不適合と評価されました。

 その理由は、上記朝日新聞の記事によると、カリキュラムに占める「法律基本科目」の割合が高く、「実務的な科目」が少ないという趣旨のようです。そのため、司法試験対策に偏った科目編成となっている、というのです。

 ここにいう「法律基本科目」とは、憲法、行政法、民法、商法、会社法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法のことです。いずれも司法試験の必須科目になっています。この他、法科大学院では「法律実務基礎科目」、「基礎法学・隣接科目」、「展開・先端科目」という分野があり、それぞれに様々な科目が置かれています。たとえば、租税法や労働法などは「展開・先端科目」に置かれることが多いでしょう。

 日本大学法科大学院のサイトで公表されているカリキュラムを見ると、たしかに「法律基本科目」の修了要件単位数が多くなっています。しかし、これは多くの法科大学院に共通することではないでしょうか。別に司法試験と関係がなくとも「法律基本科目」に力点が置かれるのは、法学系の大学院である以上、当然のことです。法科大学院は、大学院とは言っても法学研究科とは全く異なり、むしろ法学部に近い存在ですので、憲法、民法、刑法の三大基礎科目を中心とするカリキュラムになるのが理にかなうことではないでしょうか。また、日本大学法科大学院における設置科目は、(少なくとも大東の法務研究科よりは)かなり多く、「基礎法学・隣接科目」の多さには驚かされました。

 他の法科大学院がどのようなカリキュラムを組んでいるのか、比較検討した訳ではありませんのでよくわかりません。ただ、実際の問題として「法律実務基礎科目」は、本来であれば司法修習所が行うべきと考えられるものでもありますし、司法試験の科目に入っているものはありません。

 大学基準協会の評価を受けるためには、非常に分厚い報告書を提出しなければなりません。また、その報告書に対する評価も量の多いものです。従って、いかなる基準の下に同協会が大学に対する評価を下したかについては、最低限、評価そのものを読まなければなりません。今、読みうる状況ではないのでここまでとしておきますが、「適合」と判断された法科大学院と「不適合」と判断された法科大学院との差異がさほど大きいものとは思われません。

 法科大学院が司法試験対策に走っているという批判は、以前から存在します。これは半分ほど当たっており、半分ほど的外れです。そもそも、法科大学院を修了した者だけが司法試験の受験資格を取得するという原則の下に制度が組み立てられています。従って、試験のことを全く考えない大学院など、存在意義はありません。試験科目が定められている以上、対応するカリキュラムを編成しなければなりません。とくに「法律基礎科目」は、民法など、膨大な範囲を扱わなければならないので、どうしても修了要件の単位数は増えます。

 一方、現在の司法試験には、法科大学院に設置される「法律実務基礎科目」および「基礎法学・隣接科目」に対応する試験科目が全く存在しません。これでは、修了要件単位数が少なくなるのも当然でしょう。また、担当可能な者に限りがあるという問題も忘れてはいけません。

 今後、法科大学院に対して大学基準協会がいかなる判断を示すのか。2012年度にも幾つかの法科大学院が評価対象となりますから、注意しておく必要があります。「不適合」が今後も出されるようであれば、もはや個別の法科大学院の問題ではありません。司法試験制度と合わせて、全体を見直すべきでしょう。

 21世紀に入ってから進められた司法改革で、裁判員制度と新司法試験・法科大学院制度が誕生しました。色々な問題はあるとはいえ、素人に事件の判断をさせる裁判員制度はとりあえずのところ成功しており、法律の玄人を作り出そうとする新司法試験・法科大学院制度は失敗でしょうか。そもそも、この双方は方向性として全く相容れないものであり、それが現在の司法制度に並存していること自体がおかしな話です。

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自治体としての資格が疑わしい! 東浦町(愛知県)の問題は、徹底的に調査し、地方交付税の配分停止または

2012年03月23日 00時26分36秒 | 国際・政治

 3月3日付で「こんなことをやる町に、市になる資格はない」という記事を投稿しました(http://blog.goo.ne.jp/derkleineplatz8595/d/20120303)。今回はその続きです。

 3月22日の朝日新聞朝刊(東京本社)には掲載されていなかったのですが、デジタル版には同日3時付で「人口水増し、東浦町職員ら任意聴取へ  愛知県警」という記事が掲載されています(http://digital.asahi.com/articles/NGY201203210108.html?id1=2&id2=cabcadcc)。

 この記事によると、愛知県警は、2010年の国勢調査で東浦町の人口が意図的に水増しされた可能性があるとして捜査する方針を固めたとのことです。今後は刑事事件として立件できるかどうかが問われます。総務省は刑事告発を検討しているとのことです。

 東浦町でも2010年10月に国勢調査が行われました。これに基づいて総務省が2011年2月に速報値を発表しています。その際の人口は50万と80人でしたが、その後の調査で280人分の調査票について居住実態がないということがわかりました。結局、最終的な確定値は4万9800人で、市制移行の基準を満たせなかったこととなります。

 それでは、この280人分の、居住実態のない調査票はどのようにして作られたのでしょうか。記入ミスもあるでしょうが、総務省は96人分について記入ミスではないと判断したようです。その上で、今年の2月に東浦町が総務省に提出した報告書によると「住民票などをもとに居住実態を確かめないで同居人を書き加えたケースが50世帯74人分あった。職業や通勤手段など住民票では補えない情報を想像で書き加えたり、世帯から調査票が出されていないのに職員が勝手に作っていたりしていた」とのことです(引用は上記記事からです)。その上で、東浦町は、国勢調査への「補記」を職員が拡大解釈した、というようなことを述べていますが、それぞれの職員が、それこそ勝手に、つまり独断でやったのでしょうか。担当職員が一人しかいなければ納得できなくもないのですが、個々の職員の判断だけで出来る話ではなく、どこかの段階で組織的な判断がなされていると考えるほうが自然です。

 東浦町は、町の幹部ら4名を減給処分などとしており、これで幕引きとしたかったようです。しかし、統計法に違反し、刑法の公文書偽造罪に該当する行為です。これで終わりとするにはあまりに軽すぎます。同町が地方交付税交付団体か不交付団体かはわかりませんが、交付団体であれば、地方交付税の額にも影響してきますので、少しでも多くの金を騙し取ろうとしたということで詐欺的な行為でもあります。

 勿論、住民票が居住実態を忠実に反映しているとは言えません。3月3日付で紹介した、石川結貴『ルポ  子どもの無縁社会』(中公新書ラクレ)にも幾つかの事例が登場しています。しかし、それなら教育委員会などと連絡を取り合ったりして或る程度の調査をすればよいだけの話で、想像で書き加えるというのは公務員がすべきことではありません。

 このようなことが行われた東浦町に対して、総務省は、たとえ地方分権に反するなどと非難を受けても、断固たる措置を下すべきでしょう。そうでなくとも、今、或る意味で中央は地方にナメられています。おそらく、地方分権とは地方が中央を無視して勝手なことを自由に行ってよいことである、とでも勘違いされているのでしょう。どうかすると、中央を恫喝する地方というような光景も見られます。これに対応しているのかどうなのか、中央が地方のご機嫌を取っているかのように見えます。子どもの機嫌を取って甘やかす親のように見えます。中央が取るべき姿勢は逆です。今、地方分権が叫ばれているからこそ、中央が地方に対して厳しい態度で臨むべきなのです。多少は萎縮的な効果があるとよいでしょう。

 まず、地方交付税の配分停止が地方交付税法によって可能であれば、これを行えばよいでしょう。大幅な減額でも可としておきます。住民に不利益が生じないように配慮しつつも、自前の収入だけでは職員への人件費も賄えない自治体に対しては、その人件費の支出にも影響が出る程度の減額は必要です。

 かつての地方自治法では、機関委任事務などとの関係で、国が地方自治体の長を解任できるという規定がありました。様々な批判を受けたため、削除されてしまいましたが、重大な法律違反があった場合には解任を可能とする規定を復活させるべきかもしれません。

 平成の大合併では人口規模で線を引き(たとえば1万人という線です)、その人口以下の町村を強制的に合併させるというような案が出されたことがあります。これはかなり乱暴な案です。しかし、重大な法律違反を犯した自治体については、合併か分割を強制するのも一つの手であると思われます。地方自治体も法人です。私法人であれば、解散命令などを発することができます。公法人についても検討する価値はあるかもしれません。

 そして刑事罰です。トカゲの尻尾切りに終わらないよう、上層部を厳しく罰すべきです。

 今回はかなり過激なことも書きましたが、問題が問題であるだけに、私が考えていることを記してみました。

 ちなみに、国勢調査に関する虚偽ということでは、1970年に行われた国勢調査に関して北海道にある羽幌町が人口の水増しを行っています。当時、羽幌町は姿勢への移行を目指していたそうで、水増し件数はおよそ6千人程度だったとのことです。結末は、羽幌町長や助役らが統計法違反の罪で有罪判決を受けています。東浦町に関しても、同じような結末が望まれているのかもしれません。

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