ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

果たしてどうなのだろう? 大阪府泉佐野市の試み

2012年03月25日 01時58分44秒 | 国際・政治

 3月23日(金)に読売新聞社が報じていましたが、大阪府の南部にある泉佐野市が、市の命名権(ネーミングライツ)を「売却」する方針に出ました。

 野球場などの施設ではおなじみになりつつある命名権ですが、自治体の名称自体に手がつけられるのは、おそらく初めてのことでしょう。私自身は通ったこともないのですが、泉佐野市は関西国際空港株式会社の本社の所在地であり、関西国際空港の一部の所在地である(ややこしいことに、この空港はいくつかの市町にまたがって存在しています)、りんくうタウンという大型プロジェクトの舞台にもなった場所ですが、財政状況が非常に厳しく、財政健全化団体に指定されています。よほど財源が逼迫しているのか、今回の命名権の話になったという訳です。

 しかも、命名権は市の名称に留まりません。愛称も対象となっています。私が通勤で利用する東急田園都市線を走る東京メトロの車両には香川県の広告が出ていて、同県の愛称が「うどん県」となっているのですが(うどんは香川県に限られるものでもないでしょうが)、泉佐野市は正式名称も愛称も命名権の対象とするのです。

 話はこれで終わりません。市役所庁舎の通称、市道の通称まで命名権「売却」の対象としています。そればかりでなく、泉佐野市の職員が着用する制服にも広告を入れようという徹底ぶりです。この話を聞いて、大相撲のテレビ中継を思い出しました。私が何を言いたいのかについては、テレビ中継を見て、土俵に注目してください。広告そのものの和服を着ている人たちがいます。同じようなことが市の職員の制服などに取り入れられるのです。

 りんくうタウンは、はっきり言えば企業誘致に失敗しています。しかも、企業誘致は既に単純かつ古い(古色蒼然?)方法となっています。朝日新聞3月19日付朝刊1面のトップ記事は「補助金で企業誘致 苦境  200億円交付後 21社撤退・縮小」、2面14版の関連記事で「去る工場 惑う地元」で、泉佐野市の話はありませんが、近場の問題は出ています。一時期は亀山ブランドなどという言葉までCMで使われたシャープ亀山工場は、自治体の企業誘致がどのような結果に陥りやすいかという問題の典型的な解答にすらなっています。しかし、読売新聞社の報道によるならば、泉佐野市は、まだ雇用創出や税収の上昇という夢を見ているようです。

 いずれにせよ、大胆ともいえる同市の試みですが、命名権の売却ですので、契約の問題が出てきます。中身は「売却」というより賃貸借か消費貸借か使用貸借か、ただの広告料か、といったところで、命名権は1年から5年の間とされています。金額は「企業から提案してもらう」そうで、泉佐野市は準備などをしないのでしょうか。

 大阪市長の橋下徹氏は高く評価しているそうですが、ここまで身も蓋もない話は、世の中にそう多くないでしょう。橋下氏は新しい発想と評価しているようですが、命名権そのものは別に新しいものでも何でもないですし、企業誘致や税収のアップに結び付けられている点はむしろ古い発想で、せいぜい発展形というところでしょう。

 一方で命名権の「売却」は中途半端とも言えます。どうせなら市そのものを企業に売却するか賃貸したらどうでしょうか。国や他の地方公共団体に売却か賃貸してもよいでしょう。民間企業で買収または賃借するところがなければ、国か他の地方公共団体が受けるのも一つの手です。たとえば国の直轄地になるとか、東京都の直轄地になるのです(東京都は、いわゆる島嶼部で直轄地を持っています)。

 ただ、この案も全く新しいというものでもありません。沖縄県にある北大東島、南大東島および沖大東島は、第二次世界大戦終戦後まで一企業の所有地でした。北大東島および南大東島は大日本精糖が、沖大東島はラサ工業が所有しており、どこの市町村にも属しておらず、企業による自治が行われていたそうです(沖大東島は現在もラサ工業の私有地です。但し、北大東村に所属する無人島の扱いとなっています)。

 もっとも、大東諸島は無人島から発展しており、日本の市町村制が適用されたのは沖縄返還によります。そのため、既存の市町村が企業に自治体そのものを売却した訳ではないのです。日本の法律では、地方公共団体が別の法人に売却されることを想定していませんが、全く不可能という訳でもないでしょう。橋下知事の主張などからすれば、地方公共団体そのものがどこかの企業に売却されれば、自ずと行政運営スタイルが企業経営スタイルに準じたものになるでしょうから、政治思想などに合致するでしょう。問題は、どこが泉佐野市を購入するか、という点だけです。

 もう一つ、東京都の直轄地とする、と記したのにも理由があります。大阪府は「大阪都」になろうとしています。一番簡単な方法は、大阪府が東京都に編入されることです。そうすれば、大阪府に都政を敷くことは簡単です。勿論、こんなことを大阪市民や大阪府民が望んでいるとは思えません。私も、そうなって欲しいとは思っていません。しかし、大阪府が「大阪都」になったからといって、地方交付税交付団体から脱却できる訳でもありません。「都」になりたいのであれば、東京都に編入されるのが最も手っ取り早い、というだけのことです。

コメント (1)
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