ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

特別定額給付金 オンライン申請が上手くいかなかった理由の一端は見えたような

2020年08月21日 12時00分10秒 | 国際・政治

 早いもので、特別定額給付金の申請期限が迫っています(今月末です)。うちは6月上旬に申請しました。申請書類が届いたので、スキャナでマイナンバーカードなどを読みとってコピーし、必要なことだけを書いて、10分もかからずに書類を作成しました。たしか、すぐに近所の郵便局の前にあるポストに投函したはずです。3週間ほどかかりましたが、口座に振り込まれていました。

 もう3か月以上前の話になりますが、このブログに、特別定額給付金のオンライン申請を行おうとしたら何度もセッションタイムアウトが発生したことを記しました。その原因の一つが見えたように感じられた記事がありました。今日の朝刊には掲載されておらず、有料会員限定記事なのですが、8時0分付で朝日新聞社のサイトに掲載された「『配れ』現金給付へ政治圧力 システム演習0日、即本番」という記事です(https://digital.asahi.com/articles/ASN8N0G90N8CUUPI002.html)。

 「準備不足だったのだろう」とは思っていました。私が何度やってもオンライン申請ができなかったのは、私のせいということもあるでしょうが、それだけではないだろうと考えました。やはり、あちらこちらの地方自治体で大混乱が起こりました。中にはオンライン申請の受付をやめて紙の申請だけとした所もあります。

 上記記事に沿いつつ、過程を記しておきますと、政府および与党は、3月中旬の段階で現金の給付について検討を始めていました。3月31日には自民党が緊急経済対策を提言していますが、そこでもマイナンバーカードを活用して「迅速かつ簡易な現金給付」をすることが示されていました。

 「この段階でアウトだろう」、「この段階で失敗は約束されていただろう」と思われた方も少なくないかもしれません。マイナンバーカードの普及率が低かったからです。

 総務省によると、今年の1月20日における普及率は全国で15.0%です(人口に対する交付枚数の割合を普及率としておきます)。市町村別で見ると、最も高いのは新潟県岩船郡粟島浦村の58.4%ですが、50%を超えるのはこの村だけで、大分県東国東郡姫島村で46.2%、茨城県猿島郡五霞町で37.9%などとなっており、特別区の平均が20.5%、政令指定都市の平均が16.1%、政令指定都市を除く市の平均が14.3%、町村の平均が12.1%です。また、都道府県別で見ると、最も高い宮崎県で20.5%、他の都道府県は概ね10%台で、最も低い高知県では9.0%です。

 ここで、スマートフォンやパソコンを使ってスピーディーにオンライン申請をしようと、マイナンバーカードを取得しようとする人が増えれば、その発行だけでも時間を取られます。私は、相続などの関係で何年か前に取得していましたが、高津区役所での申請から取得まで1か月ほどかかっています。

 それでもマイナンバーカードにこだわったということになります。普及させようとした訳です。そこで絡んでくるのがオリンピックで、元々、オリンピックおよびパラリンピックが終わってからの消費喚起策としてマイナンバーカードを利用したポイント還元策が検討されていました。現金給付は、この策に乗っかるような形で進められたのです。

 オリンピックが予定通り開催されたならポイント還元策が行われた可能性は高かったでしょうし、或る意味でマイナンバーカードの普及率はどうでもよかったでしょう。しかし、そうはいかなくなりました。そもそも、オリンピック後の経済対策と新型コロナウイルス対策とでは方向性が全く違います。

 その上で、現金給付の中身が問題となりました。4月7日、減収世帯に30万円を給付するという方針が閣議で決定されていましたが、与党の反発(おそらく公明党のそれが強かったはずです)があり、同月16日に全国民に一律10万円を給付するという方針に変更されました。悪いことに、翌日には財務大臣が「手を上げた方に1人10万円ということになる」という趣旨の発言を行っています。混乱を象徴するような出来事でした。自己申告制では一律給付になりません。また、16日の方針変更で補正予算も修正されることとなり、国会での審議入りが一週間ほど遅れました。

 総務省は申請方法を4月20日に発表し、5月1日から申請開始とされました。その間にシステム開発がなされていたはずですが、10日くらいしかなかったそうです。そのため、予行演習の時間も取られず、いわばぶっつけ本番という形になりました。事務を担当する市町村には総務省と内閣府から様々な通知が行われたのですが、誤入力もそのまま届くことは周知されていなかったそうです。こうして、5月から6月中旬まで、システムの改修が行われながらのオンライン申請受付となりました。

 上記記事には「そもそも今回のオンライン申請では、なりすまし申請を防ぐためにマイナンバーカードのICチップに入っている本人認証機能を使っただけで、マイナンバー(12桁の社会保障・税番号)自体は使われていない。マイナンバーの利用範囲は生活保護や児童手当の申請など法律で厳格に定められ、今回のような給付金申請に使うには法改正が必要だ」と書かれています。システム的にはそうだったのでしょう。しかし、私がスマートフォンのアプリを使ってみたところ、暗証番号を二つか三つ入れなければならず、それだけでも手間でした。それから画面通りに進めても、結局はセッションタイムアウトです。パソコンでやってみましたが、結果は同じでした。

 考えてみると、マイナンバーカードをもっていても、使う機会はそれほど多くありません。金融機関での本人確認くらいでしょうか。それも運転免許証があれば済みます。むしろ、マイナンバーカードを普段から持ち歩くような気分になれない、というのが本当のところではないでしょうか。

 また、非常に気になるのは、オンラインシステムそのものです。太田直樹氏のコメントには「現状のように国と自治体がバラバラにシステムを整備し、ネットワークを運用して」いるという部分があります。これでは上手くいきません。少し前に問題とされた公共事業の実態と変わりがないからです。

 例年より1ヶ月ほど遅く、政府は骨太の方針2020を閣議決定しました。その中に行政手続のデジタル化が掲げられているのですが、頭の中に大きな疑問符が浮かびました。私が日本税務研究センターの電子申告の研究会でドイツの電子申告を担当したのはもう20年ほど前のことです(まだ20世紀でした)。上記記事に掲載されている武蔵大学教授の庄司昌彦氏にもあるように、2001年、日本はe-Japan戦略を打ち出しています。そこでは「世界最先端のIT国家」になると提唱されていました。私も覚えています。同年にはインターネット博覧会も行われていたくらいです。しかし、結局は「世界最先端のIT国家」どころか、コロナ禍で在宅勤務が拡がる中でも印鑑を押すためだけに出勤しなければならないというような話が出るほどの状況であった訳です。

 マイナンバーカードの普及率が低い上に慌ててシステム構築を行ったことが、混乱の原因の、少なくとも一つにはなるでしょう。

 そう言えば、6月末で終わった電子マネーのポイント還元も、或る意味では混乱、とまではいわなくとも困惑を招くような政策でした。そもそもクレジットカードを持てない人には意味のない話でした。また、店によっては現金しか使えない所も少なくありません。或る意味で最強の電子マネーはJR東日本のSUICAで、私自身はPASMOを使っており、ポイント還元に乗っかりましたが、そのSUICAやPASMOを使えないスーパーマーケットなども少なくありません。同じ系列でも使える店舗と使えない店舗があったりします。また、他にも電子マネーがあり、この店ではau PAYが使えるけど別の店では使えない、ということはよくあります。残高不足になったりしなければ、買い物で最も速く用を済ませ、後ろに並んでいる他のお客さんに迷惑をかけるようなことがないのはSUICAやPASMOですから、この種を使うことが多いのです。 


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