ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

日本からトロリーバスが完全に消えるようです

2023年06月10日 11時20分00秒 | 社会・経済

 今日になって知ったのですが、現在、日本で唯一となっているトロリーバスが近々消滅するらしいというニュースがありました。北日本新聞社のサイトに、2023年6月1日5時付で「立山黒部貫光、トロリーバス廃止検討 25年度以降、電気バスに」(https://webun.jp/articles/-/406153)、日本経済新聞社のサイトに5月31日19時44分付で「国内唯一のトロリーバス消滅へ 立山黒部貫光、EV転換」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC318IN0R30C23A5000000/)という記事が掲載されています。

 トロリーバスは、架線から電気を受けて走行するバスのことで、日本では鉄道として扱われています。「軌道法第31条の一般交通の用に供する軌道に準ずべきものを定める省令」(昭和22年運輸省・内務省令第2号)においては「軌道法第31条第2項の規定により、一般交通の用に供する軌道に準ずべきものを、次のとおりとする」として「無軌条電車」があげられており、鉄道事業法施行規則第4条においては、鉄道事業「法第4条第1項第6号の国土交通省令で定める鉄道の種類」として、第5号に「無軌条電車」があげられています。この「無軌条電車」がトロリーバスです。

 このブログで川崎市を走っていたトロリーバスの話題を扱いましたが、第二次世界大戦後には川崎市の他、横浜市、東京都、名古屋市、京都市および大阪市においてトロリーバスが運行されていました。ちなみに、戦前には宝塚市と川西市に日本最初のトロリーバスが走っていました(日本無軌道電車)。しかし、いずれも期間は短く、ここに列挙した都市では最も長く運行された京都市でも37年程しか運行されていません。また、最後に廃止されたのは横浜市で、1972年のことでした。

 一方、1964年、長野県の大町市と富山県の立山町との間に関西電力による関電トンネルトロリーバスが開業しました。立山黒部アルペンルートの一部を構成する関電トンネルトロリーバスは、横浜市のトロリーバスが廃止されてから、長らく日本唯一のトロリーバスとして親しまれていました。

 1996年になって、同じ立山黒部アルペンルートに、もう一つのトロリーバスが登場します。それが、今回の主題である立山黒部貫光のトロリーバスです。立山トンネルを走るトロリーバスですが、実は、最初からトロリーバスであった訳ではありません。1971年から1995年まではディーゼルエンジンのバスが走行していました。しかし、トンネル内に滞留する排気ガスが問題となったことからトロリーバスに置き換えられたとのことです。

 しかし、2018年の秋をもって、関電トンネルトロリーバスの運行が終了しました。2019年の春からは電気自動車バスが運行されるようになり、立山黒部貫光のトロリーバスが日本唯一の例となったのです。

 その立山黒部貫光のトロリーバスも、電気自動車バスに置き換えられることが表明されました。これは立山黒部貫光の社長が記者会見において明らかにしたことで、理由としてはトロリーバスの備品調達の困難性があげられています。たしかに、開業から30年程が経過しようとしており、しかも日本でここしかトロリーバスが走っていないとすると、部品製造のコストも問われそうですし、車両を置き換えるにしても費用対効果の面で疑問が湧くところでしょう。上記日本経済新聞社記事には立山黒部貫光の2023年3月期連結決算が取り上げられており、それによると「売上高が前の期比73%増の34億円、最終損益が5億6700万円の赤字(前の期は7億7400万円の赤字)だった。利用者数は48万人で、90万人に近い水準だった20年3月期の半分強にとどまる」とのことです。トロリーバスよりは電気自動車バスのほうが費用対効果の面で優れていると判断されたのでしょう。

 上記両記事には明確に書かれていないのですが、趣旨からすれば、トロリーバスが運行されるのは2024年の秋までと考えられます。立山黒部アルペンルートは冬季に閉鎖されるからです。

 この電気自動車バスの構造ですが、両記事に書かれていないものの、関電トンネルの電気自動車バスと同様のものになると考えられます。

 関電トンネルの電気自動車バスの場合は、長野県大町市にある扇沢駅において、屋根に載せたパンタグラフを使って急速充電を行っています。鉄道でもJR東日本の烏山線を走るEV-E301系が同様の充電方法を行っています。コストなどを考えるならば、立山黒部貫光も関電トンネルと同様のシステムによる電気自動車バスを導入することでしょう。

 トロリーバスは、架線から電気を受けて走行するシステムであるため、排気ガスを出さないという長所があります。しかし、集電装置であるトロリーが架線から外れやすい、基本的に架線が張られていない場所では走行できない(蓄電池を積んでいれば話は別ですが)などの短所があり、廃止が進みました。ディーゼルエンジンの改良が進み、さらにハイブリッド車や電気自動車の普及が進めば、トロリーバスから置き換えられることは必然です。

 (私自身は、一度だけ、関電トンネルトロリーバスを利用したことがあります。学部生時代のことで、まだ立山トンネルにはディーゼルエンジンのバスが走っていました。また、14年程前に、北京でトロリーバスの走行を見たことがあります。)


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