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第37回 取消訴訟以外の抗告訴訟、当事者訴訟

2021年02月22日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.無効等確認訴訟(行政事件訴訟法第3条第4項、同第36条)

 無効等確認訴訟は、行政事件訴訟法第3条第4項において「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟」と定義されるものである。中心は「処分」の無効確認訴訟であるが、他に「処分」の不存在確認訴訟または存在確認訴訟、「処分」の有効確認訴訟、「処分」の失効確認訴訟がある。

 〔1〕「定期のバスに乗り遅れた取消訴訟」〈塩野宏『行政法Ⅱ行政救済法』〔第六版〕(2019年、有斐閣)214頁による表現である。〉

 無効等確認訴訟は、取消訴訟と異なり、出訴期間や不服申立前置の制約から外れる。そのため、取消訴訟の出訴期間を徒過してから提起されることが少なくない。その意味において、形式的にも実質的にも、無効等確認訴訟は取消訴訟の補充的制度という位置づけを与えられている。このため、無効等確認訴訟については、取消訴訟よりも厳しい原告適格の制限がなされている。

 〔2〕無効等確認訴訟の原告適格

 行政事件訴訟法第36条は「無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる」と定める。この規定は難解であり、どのような者に原告適格が認められるかが争われている。

 (1)二元説

 原告適格は次のいずれかの者に認められるとする説で、立法関係者が採っていた。

 ・「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」

 ・「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」

 二元説を採ると「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」であれば、予防訴訟(差止訴訟)としての無効確認訴訟が認められる。

 (2)一元説

 同条の文理に忠実な解釈を採る。この説によると、原告適格は「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」であり、かつ「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に認められる。

 (3)「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」の意味

 ①形式的解釈説=申請却下処分や営業許可の取消処分の無効のように、「現在の法律関係に関する訴え」を提起できない場合にのみ、無効確認訴訟の提起が許される。所有権確認訴訟や身分確認訴訟というような「現在の法律関係に関する訴え」が可能であれば、無効確認訴訟の提起は許されない。

 ②実質的解釈説=「現在の法律関係に関する訴え」を、実質的意味における当事者訴訟(後述)または民事訴訟と解する。そのため、土地収用法に基づく収用裁決の無効については所有権確認訴訟のみが許されるが、公務員の免職処分については身分確認訴訟と無効確認訴訟の両方が許される。

 ③判例

 ●最三小判昭和51年4月27日民集30巻3号384頁

 課税処分を受けてまだ租税を納付していない者は、滞納処分を受けるおそれがあるため、無効確認訴訟の原告適格を有すると判断された。

 ●最三小判昭和60年12月17日判時1179号56頁

 土地区画整理組合の設立認可処分の無効確認を求める原告について、土地区画整理事業施行区域内の宅地の所有権者や借地権者が法律上当然に組合員としての地位を取得させられるということから、原告適格を認めている。

 ●最二小判昭和62年4月17日民集41巻3号286頁(Ⅱ-180)

 事案:Xは土地改良区Yから、土地改良法に基づいて換地処分を受けたが、それによって農道に接する部分が極端に狭くなり、農作業の遂行が困難になったとして、本件換地処分が「照応の原則」に違反するとしてその無効確認を求める訴訟と訴外Aに対する関連換地処分の無効確認を求める訴えを提起した。一審判決(千葉地判昭和53年6月16日行集33巻3号558頁)はXの請求を棄却し、控訴審判決(東京高判昭和57年3月24日行集33巻3号548頁)は一審判決を破棄してXの請求を却下したが、最高裁判所第二小法廷は控訴審判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻した。

 判旨:土地所有者など多くの権利者に対する換地処分は「通常相互に連鎖し関連し合っているとみられるのであるから、このような換地処分の効力をめぐる紛争を私人間の法律関係に関する個別の訴えによって解決しなければならないとするのは」換地処分の性質に照らして適当と言い難い。また、本件の場合は「換地処分がされる前の従前の土地に関する所有権等の権利の保全確保を目的とするものではな」く、「当該換地処分の無効を前提とする従前の土地の所有権確認訴訟等の現在の法律関係に関する訴え」が本件のような紛争を「解決するための争訟形態として適切なものとはいえ」ない。

 ●最三小判平成4年9月22日民集46巻6号571頁・1090頁(「もんじゅ」訴訟。Ⅱ-162・181)

 事案:「第33回 取消訴訟の原告適格(1)」において取り上げた判決である。なお、本件については、旧動燃を被告として「もんじゅ」の建設および運転の差止めを求める民事訴訟も併合提起されている。

 判旨:「第33回 取消訴訟の原告適格(1)」において紹介した部分に加えて、前掲最二小判昭和62年4月17日が引用されており、第36条にいう「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」は、「当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味する」と述べられている。

 (4)取消訴訟の規定の準用の有無

 ①行政事件訴訟法第38条第1項により準用されるもの

 被告適格等(同第11条)、管轄(同第12条)、関連請求(同第13条)、請求の客観的併合(同第16条)、共同訴訟(同第17条)、第三者による請求の追加的併合(同第18条)、原告による請求の追加的併合(同第19条)、国または公共団体に対する請求への訴えの変更(同第21条)、第三者の訴訟参加(同第22条)、行政庁の訴訟参加(同第23条)、職権証拠調べ(同第24条)、判決の拘束力(同第33条)、訴訟費用の裁判の効力(同第35条)。

 ②同第38条第2項により準用されるもの

 取消しの理由の制限のうち、裁決の取消しの訴えに関するもの(同第10条第2項)、原告による請求の追加的併合のうち、処分の取消しの訴えを裁決の取消しの訴えに併合して提起する場合(同第20条)。

 ③第38条第3項により準用されるもの

 釈明処分の特則(同第23条の2)、執行停止(同第25条)、事情変更による執行停止の取消し(同第26条)、内閣総理大臣の異議(同第27条)、執行停止等の管轄裁判所(同第28条)、執行停止に関する規定の準用(同第29条)、執行停止の決定等への第32条第1項の準用(同第32条第2項)。

 ④準用されないもの

 主なものとして、出訴期間(同第14条)、事情判決(同第31条)および取消判決の第三者効(同第32条第1項)がある。但し、最三小判昭和42年3月14日民集21巻2号312頁(Ⅱ-205)は、無効確認判決に第三者効があると述べている。

 (5)主張および立証責任

 「処分」の無効(裁量権の逸脱濫用→処分の違法性が重大かつ明白であること)についての主張および立証責任は、原告が負う〔最二小判昭和42年4月7日民集21巻3号572頁(Ⅱ-197)〕。

 

 2,不作為違法確認訴訟(行政事件訴訟法第3条第5項、同第37条)

 〔1〕不作為違法確認判決の意味

 不作為違法確認判決は、何らかの応答義務を行政庁に課すものである(行政事件訴訟法第38条第1項により、同第33条が準用される)。但し、行政庁が申請通りの許可などを出さなければならないという訳ではなく、申請を拒否する処分も行政庁の応答義務を果たしたことを意味する。

 〔2〕不作為違法確認訴訟の原告適格

 処分または裁決についての申請をした者に限定される。この申請が適法であるか不適法であるかは問題にならない。不適法であれば申請を却下すればよいのであり、その点においても行政庁は応答義務を負うこととなるからである。

 行政事件訴訟法第3条第5項にいう「法令に基づく申請」は、法令に明文の規定がある場合は勿論、明文に規定が存在しなくとも、解釈によって原告の申請権が認められればよい、と解される。また、「法令」に内規や要綱などを含める考え方もある。さらに、同項にいう「相当の期間」の意味が問題となるが、行政手続法第6条に定められる標準処理期間が参考となるものと考えられる。

 〔3〕取消訴訟の規定の準用の有無

 (1)同第38条第1項により準用されるもの

 被告適格等(同第11条)、管轄(同第12条)、関連請求(同第13条)、請求の客観的併合(同第16条)、共同訴訟(同第17条)、第三者による請求の追加的併合(同第18条)、原告による請求の追加的併合(同第19条)、国または公共団体に対する請求への訴えの変更(同第21条)、第三者の訴訟参加(同第22条)、行政庁の訴訟参加(同第23条)、職権証拠調べ(同第24条)、判決の拘束力(同第33条)、訴訟費用の裁判の効力(同第35条)。

 ②同第38条第4項により準用されるもの

 処分の取消しの訴えと審査請求との関係(第8条)、取消しの理由の制限のうち、裁決の取消しの訴えに関するもの(同第10条第2項)。

 ③注意

 第一に、同第9条は準用されないが、「法律上の利益」は必要と解される。従って、不作為違法確認訴訟の提起後、行政庁が処分または裁決をした場合には、不作為状態が解消されるため、「法律上の利益」は失われ、訴訟は却下される。

 第二に、訴訟の性質上、同第14条は準用されない。従って、不作為の状態が継続している限り、不作為違法確認訴訟を提起できる。

 〔3〕義務付け訴訟(行政事件訴訟法第3条第6項、同第37条の2以下)

 (1)義務付け訴訟の種類

 義務付け訴訟は、訴訟要件および本案勝訴要件の違いにより、非申請型義務付け訴訟(直接型義務付け訴訟。同第3条第6項第1号)と申請型義務付け訴訟(申請満足型義務付け訴訟。同第2号)に区別される。

 非申請型義務付け訴訟は、法令に基づく申請を前提としない義務付け訴訟である。申請権を有しない原告が、行政庁に一定の処分をなすことを請求し、裁判所が判決でその処分をなすことを義務付ける、というものである。

 これに対し、申請型義務付け訴訟は、法令に基づく申請を前提とする義務付け訴訟である。申請権を有する原告が、行政庁に対し、申請を満足させる応答をなすことを求め、裁判所が判決でその応答をなすことを義務付ける、というものである。

 (2)処分の特定性

 「一定の処分(又は裁決)」を求める以上、裁判所における判断が可能である程度にまで特定される必要性がある

 (3)非申請型義務付け訴訟

 ①訴訟要件

 行政事件訴訟法第37条の2第1項は「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあ」ること、および「その損害を避けるため他に適当な方法がない」ことを求める。補充性の要件である。ここで補充性は、義務付け訴訟に代わりうる救済手続がとくに法律で定められている場合(例、国税通則法第23条に定められる更正の請求)を指すものと理解される〈塩野・前掲書251頁、櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第6版〕(2019年、弘文堂)330頁〉。なお、「重大な損害」に関する解釈の指針は行政事件訴訟法第37条の2第2項に示されている。

 同第3項は、非申請型義務付け訴訟の原告適格が「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」に認められる旨を定める。なお、「法律上の利益」の有無の判断については同第9条第2項を準用する(同第37条の2第4項)。

 ②本案勝訴要件(第同37条の2第5項)

 非申請型義務づけ訴訟における原告勝訴の判決は、行政庁にその処分(または裁決)をすることを義務付けることになる。そのためには、次のいずれかが必要である。

 ・「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」ること。

 ・「行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」こと。

 ③仮の義務付け(同第37条の5第1項)

 裁判所が、原告の申立てにより「仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること」である。その要件として、次の点があげられている(同第3項)。

 ・「その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」こと:執行停止より厳格である。なお、「償うことのできない損害」には、金銭賠償が不可能な損害はもとより、社会通念上、金銭賠償のみで救済することが不相当と認められる場合も含まれる〈櫻井・橋本・前掲書343頁〉

 ・「本案について理由があるとみえる」こと=本案について原告が勝訴する見込みがあること。

 ・「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが」ないこと(同第3項)

 仮の義務付けについては同第33条第1項、同第25条第5項ないし第8項が準用される。また、仮の義務付けに基づいて行われる処分の性質については、仮の処分説と本来の処分説との対立がある。

 (4)申請型義務付け訴訟

 ①訴訟要件

  行政事件訴訟法第37条の3第1項は、次のいずれかがあることを前提とする。

 第一に、「当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと」、すなわち不作為である(同第1号)。

 第二に、「当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること」、すなわち申請拒否処分または審査請求却下・棄却裁決である(同第2号)。

 その上で、同第2項は、第1項各号に規定する「当該法令に基づく申請又は審査請求をした者」に原告適格が認められる旨を定める。

 また、同第7項は、同第1項に定められる義務付け訴訟のうち「行政庁が一定の裁決をすべき旨を命ずることを求めるものは、処分についての審査請求がされた場合において、当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効等確認の訴えを提起することができないときに限り、提起することができる」と定める。そのため、他の場合には処分について取消訴訟などを提起することとなる。

 ②申請型義務付け訴訟と他の抗告訴訟との併合提起

 同第3項により、申請型義務付け訴訟を単独で提起することはできず、必ず、他の抗告訴訟と併合して提起しなければならない。これは、他の抗告訴訟との役割・機能の分担の観点に立つものである。

 同第1項第1号に該当する場合には「処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え」と併合して提起することとなる。

 一方、同第1項第2号に該当する場合には「処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え」と併合して提起することとなる。

 従って、「処分又は裁決に係る」不作為違法確認訴訟、取消訴訟、無効等確認訴訟のいずれかを適法に提起できる必要がある(同第4項も参照)。

 ③本案勝訴要件(行政事件訴訟法第37条の3第5項)

 次のいずれかが必要である。

 ・「各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ、かつ、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」ること

 ・「各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ、かつ」、「行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」こと。

 ④仮の義務付け

 要件は非申請型義務付け訴訟についてと同じである。

 〔4〕差止訴訟(行政事件訴訟法第3条第7項、同第37条の4以下)

 (1)処分の特定性

 差止訴訟は、行政庁が何らかの処分または裁決を行おうとする場合に、行政庁に対して当該処分または裁決をしてはならない旨を裁判所が命ずることを求める訴訟である。そのため、「一定の処分又は裁決」は、裁判所における判断が可能である程度にまで特定される必要がある。

 (2)訴訟要件

 第一に、「行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている」こと、すなわち処分または裁決がなされる蓋然性がなければならない(同第3条第7項)。

 第二に、「一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあ」り(第37条の4第1項本文)、かつ「その損害を避けるため他に適当な方法が」ないことが求められる(同項ただし書き)。処分が行われた後の取消訴訟が優先するという趣旨であり、取消訴訟ないし執行停止では救済が困難なほどの「重大な損害」と解される。その「重大な損害」の解釈指針は同第2項に示される。

 第三に、差止訴訟の原告適格は「行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り」認められる(同第3項)。なお、「法律上の利益」の解釈について同第9条第2項が準用される(同第37条の4第4項)。

 ●最一小判平成24年2月9日民集66巻2号183頁(Ⅱ−207)

 事案:東京都教育委員の教育長は、平成15年10月23日付で、都立学校の各校長宛に「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」を発し、各校長に対し、学習指導要領に基づき、入学式、卒業式等を適正に実施すること、学式、卒業式等の実施に当たっては、式典会場の舞台壇上正面に国旗を掲揚し、教職員は式典会場の指定された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱し、その斉唱はピアノ伴奏等により行うなど、所定の実施指針のとおり行うものとすること、教職員がこれらの内容に沿った校長の職務命令に従わない場合は服務上の責任を問われることを教職員に周知すること、などを求めた。これに対し、東京都立の高等学校や特別支援学校に教職員として勤務するXら(原告、被控訴人、上告人)が、東京都(行政事件訴訟法改正前は東京都教育委員会)に対し、①「各所属校の卒業式や入学式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱する義務のないこと及びピアノ伴奏をする義務のないことの確認」、および②「上記国歌斉唱の際に国旗に向かって起立しないこと若しくは斉唱しないこと又はピアノ伴奏をしないことを理由とする懲戒処分の差止め」を求め、さらに国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求を行った。東京地判平成18年9月21日判時1952号44頁はXらの請求を認容したが、東京高判平成23年1月28日判時2113号30頁①)は東京地方裁判所判決を取り消したため、Xらが上告した。最高裁判所第一小法廷はXらの上告を棄却した。

 判旨:差止訴訟についての部分のみを示す。

 ・「法定抗告訴訟たる差止めの訴えの訴訟要件については、まず、一定の処分がされようとしていること(行訴法3条7項)、すなわち、行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることが、救済の必要性を基礎付ける前提として必要となる」。

 ・「免職処分以外の懲戒処分(停職、減給又は戒告の各処分)の」差止訴訟の要件については「当該処分がされることにより『重大な損害を生ずるおそれ』があることが必要であり(行訴法37条の4第1項)、その有無の判断に当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされて」おり(同条第2項)、「行政庁が処分をする前に裁判所が事前にその適法性を判断して差止めを命ずるのは、国民の権利利益の実効的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から、そのような判断と措置を事前に行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものと解される」から「差止めの訴えの訴訟要件としての上記『重大な損害を生ずるおそれ』があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当であ」り、(中略)「本件通達を踏まえた本件職務命令の違反を理由として一連の累次の懲戒処分がされることにより生ずる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものであるとはいえず、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであるということができ、その回復の困難の程度等に鑑み、本件差止めの訴えについては上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる」。

 ・「差止めの訴えの訴訟要件については、『その損害を避けるため他に適当な方法があるとき』ではないこと、すなわち補充性の要件を満たすことが必要であるとされている(行訴法37条の4第1項ただし書)。(中略)本件通達及び本件職務命令は(中略)行政処分に当たらないから、取消訴訟等及び執行停止の対象とはならないものであり、また、(中略)本件では懲戒処分の取消訴訟等及び執行停止との関係でも補充性の要件を欠くものではないと解される。以上のほか、懲戒処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとは解されないから、本件差止めの訴えのうち免職処分以外の懲戒処分の差止めを求める訴えは、補充性の要件を満たすものということができる」。

 ・差止訴訟の本案について「行政庁がその処分をすべきでないことがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められることが要件とされており(行訴法37条の4第5項)」、当該差止請求においては、本件職務命令の違反を理由とする懲戒処分の可否の前提として、本件職務命令に基づく公的義務の存否が問題となる。この点に関しては、(中略)本件職務命令が違憲無効であってこれに基づく公的義務が不存在であるとはいえないから、当該差止請求は上記の本案要件を満たしているとはいえない」。また、「差止めの訴えの本案要件について、裁量処分に関しては、行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることが要件とされており(行訴法37条の4第5項)、これは、個々の事案ごとの具体的な事実関係の下で、当該処分をすることが当該行政庁の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることをいうものと解される。」

 (3)本案勝訴要件(同第37条の4第5項)

 次のいずれかが必要である。

 ・「行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」ること。

 ・「行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」こと。

 (4)仮の差止め(同第37条の5第2項)

 仮の差止めとは、裁判所が、原告の申立てにより「仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること」をいう。義務付け訴訟における仮の義務付けを不作為命令に変更しただけであり、要件は仮の義務付けとほぼ同じである。

 

 6.公法上の当事者訴訟

 (1)形式的当事者訴訟

 形式的当事者訴訟とは当事者間の法律関係を確認し、または形成する処分または裁決に関する訴訟のうち、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とする訴訟である(同第4条前段)。

 例として、土地収用法第133条第2項に基づいて損失補償を請求する訴訟があげられる。本来は収用委員会の裁決に関する訴えであるが、形式的に「起業者」と「土地所有者又は関係人」と間の訴えとする(同第3項)。収用委員会の裁決のうち、土地の収用に関しては収用委員会の裁決について国土交通大臣に対する審査請求を行うことができる(同第129条)。しかし、損失補償に関する事項については審査請求を行うことができない(同第132条第2項)。この他、著作権法第72条、農地法第85条の3、自衛隊法第105条第9項・第10項などがある。

 なお、形式的当事者訴訟については、行政事件訴訟法第41条第1項により、行政庁の訴訟参加(同第23条)、職権証拠調べ(同第24条)、判決の効力(同第33条第1項)、第35条(訴訟費用の裁判の効力)、釈明処分の特則(同第23条の2)が準用される(他のものについては同第41条第2項を参照)。

 (2)実質的当事者訴訟

 実質的当事者訴訟とは、公法上の法律関係に関する確認の訴えなど、公法上の法律関係に関する訴訟である(同第4条後段)。公法上の当事者訴訟ともいう。なお、公法上の法律関係に関する確認の訴えは、平成16年改正法によって明示されるに至った以前は存在しなかったという訳ではなく、存在することが確認されたという意味である

 この訴訟が置かれている意味であるが、公法と私法との区別が絶対的なものでなく、民事訴訟との区別が付きにくいことから、疑問視されている。実際に、裁判実務では民事訴訟として扱っている。

 なお、実質的当事者訴訟についても、形式的当事者訴訟と同様に取消訴訟の規定の準用があるが、実務上の意味は乏しいといわれている。とくに、同第33条第1項の準用については、その具体的な意味について議論がある。

 実質的当事者訴訟によるとされる例としては、国家公務員法に基づく免職処分が無効であることを前提とする公務員の身分確認訴訟、国立学校における学生退学処分の無効を前提とする在学関係確認訴訟がある。

 (3)参考:争点訴訟

 行政行為の有効・無効が先決問題となっている事件で、私法上の法律関係に関する訴訟を、争点訴訟という。行政事件訴訟ではなく、民事訴訟であるが、行政事件訴訟法第45条に特別の規定がある。

 争点訴訟の例として、農地買収処分の無効について旧地主と新地主との間で争われる訴訟、土地収用裁決が無効であるとして地権者と起業者との間で土地所有権をめぐって争われる訴訟がある。 


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