私がこのブログに「近鉄内部線・八王子線が廃止される可能性」という記事を載せたのは、昨年の8月22日のことです。それ以来、多くの方々にコメントをいただきました。また、11月1日には実際に両線を利用してみました。その模様は、ホームページのほうの「待合室」を経てこのブログにも3回に分けて載せております〔今年1月27日付の「存廃問題に揺れる近鉄内部線・八王子線に乗る(その1)」など〕。
長らく気になっていたのですが、先程、朝日新聞名古屋本社版の記事、および毎日新聞三重版の記事に気づきました。朝日新聞名古屋本社版のほうは8月6日7時11分付の「『ナローゲージ』の近鉄内部・八王子線、存続の方向」(http://digital.asahi.com/articles/NGY201308060001.html)という記事で、毎日新聞三重版のほうは8月6日付の「近鉄:内部・八王子線存続問題 近鉄、民有案を拒否 四日市市提案に「譲歩の用意ある」/三重」(http://mainichi.jp/area/mie/news/20130806ddlk24020148000c.html)という記事です。
両者の記事を読み比べると、かなり角度などが違います。朝日新聞のほうは、内部線・八王子線が鉄道路線として残される方向で近鉄と四日市市が調整に入った、という趣旨なのですが、毎日新聞のほうは、7月8日に四日市市の副市長(二名)が近鉄本社を訪れて市の「民有民営方式」という提案を行い、近鉄側が拒否したという内容です。
朝日新聞の記事によると、今月5日、近鉄と四日市市との間で交渉が行われたようです。そこで、内部線、八王子線の双方が鉄道路線として存続する方向で調整することとなった、とのことです。1年間あたりで3億円ほどの赤字を抱えるとも言われる両路線(一つにまとめられています)ですが、当初、近鉄はBRT化を四日市市に提案していました。これなら経費をかなり抑えることができるからです。しかし、四日市市、そして住民は鉄道路線としての存続を求めていました。
そこで近鉄は、いわゆる公有民営方式を提案しました。これは上下方式などと言われる方法の一つで、若桜鉄道(鳥取県)や青い森鉄道などで採用されているもので、鉄道の線路などは地方公共団体(など)が保有し、運行は鉄道会社が行います。
地域公共交通の活性化及び再生に関する法律第25条の2以下に「鉄道事業再構築事業」に関する規定があり、若桜鉄道についてはこの「鉄道事業再構築事業」の認定を受けています。若桜鉄道については、沿線の地方公共団体である若桜町および八頭町が第三種鉄道事業者として鉄道施設(線路、車両など)を保有し、若桜鉄道が第二種鉄道事業者として運行を担当します。若桜町のサイトにある「『若桜谷公共交通活性化総合連携計画』を策定しました」という記事(http://www.town.wakasa.tottori.jp/dd.aspx?itemid=2388#itemid2388)を参照したところ、第二種鉄道事業者が第三種鉄道事業者に支払う線路(施設)使用料のことは記されておらず、若桜鉄道のサイトに掲載されている「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に基づく 鉄道事業再構築実施計画の認定(『公有民営化』第1号)について〔若桜町・八頭町・若桜鉄道㈱〕」(http://www.infosakyu.ne.jp/~wakatetu/oshirase/jyouge.html)にも記されていないのですが、おそらく、無償またはそれに近い額であるということでしょう。
近鉄内部線・八王子線にもこれを適用するということになると、近鉄は運行のみを担当し、鉄道施設や車両などは四日市市が保有する、ということになります。四日市市は、この点に難色を示したようです。それはそうでしょう。線路、信号、車両などの維持管理にはそれなりのお金がかかる訳です。一方、近鉄は線路(施設)使用料を払わない、あるいは払ったとしても低廉で済みます。若桜鉄道の場合は若桜町、八頭町、鳥取県などが出資する第三セクターの路線でしたので、公有民営方式に移行するのもスムーズであったと推測されますが、内部線・八王子線の場合は違います。
また、近鉄は、公有民営方式への移行に際しての初期投資、および一定期間にわたっての赤字の穴埋めも四日市市に求めています。初期投資の額は20億円を超えるのでしょうか。決して安い買い物ではありませんし、財政負担としても重いものになるでしょう。交渉が暗礁に乗り上げるのもやむをえない、というところです。実際、近鉄が赤字の穴埋めの全額負担を四日市市に求めているのに対し、四日市市は一部を補助するとしています。毎日新聞の記事によると、近鉄の営業企画部長は、内部線・八王子線を鉄道として残すならコストの増加は「地元が負担するのが筋」であると主張したようです(この主張をどうお考えでしょうか?)。
しかし、ここへ来て、近鉄は線路などの施設や車両を四日市市に無償で譲渡するという姿勢を見せているようです。その後に維持管理の費用がのしかかるという点に変わりはないのですが、無償ならば移行が楽になる、ということなのでしょう。
今月末が、近鉄が設定した交渉の期限です。無理にその時点までにまとめる必要もないと思われますが(よくわからないのですが、近鉄が一方的に設定した期限であるようにも見えるからです)、四日市市がどのような態度に出るのか、注目されます。
ただ、気になる点がいくつかあります。4月28日付の「やはり、近鉄内部線・八王子線はBRT化されるのか」においても記したのですが、再び記しておきましょう(重複するような部分もあります)。
21世紀に入ってから、近鉄は北勢線、養老線および伊賀線を切り離しました。いずれも三重県内を通る路線です(養老線は岐阜県も通ります)。このうち、北勢線は廃止表明の後に三岐鉄道に譲渡されましたが、養老線と伊賀線については子会社を設立し(養老鉄道、伊賀鉄道)、その子会社が第二種鉄道事業者として運行などを担当するものの、近鉄は第三種鉄道事業者として施設などを保有しています。
しかし、内部線および八王子線については、養老鉄道および伊賀鉄道とは逆に、近鉄が第二種鉄道事業者となる、というのです。このことは、名目上、内部線・八王子線が近鉄路線として残ることを意味するかもしれませんが、施設保有という点では近鉄の関与が減ります。しかも、内部線・八王子線はナローゲージで、車両なども特殊です。養老鉄道や伊賀鉄道であれば、軌間(レールの幅)がJRなどと同じですので、既存の車両や施設が古くなれば他社から購入するなどの方法があります(現に伊賀鉄道は、東急から1000系を購入し、自社保有の車両として運行しています)。しかし、内部線・八王子線ではこの手が使えません。特殊であるだけに、新車のコストもそれなりに高くつくのではないかと思われます。表現が悪いのですが、公有民営方式により、近鉄は施設などの費用の大部分を四日市市(場合によっては三重県)に押し付けることができる訳です(もっとも、車両の整備などに近鉄が全く関わらなくなるとも思えないのですが)。
こうなると、「やはり、近鉄内部線・八王子線はBRT化されるのか」で記したように、内部線・八王子線は完全に近鉄の手から切り離すほうが、筋が通ることでしょう。近鉄四日市駅への乗り入れが問題として残るかもしれませんが、そこは調整次第ということです。
以上に記した点と関わりますが、四日市市は、養老鉄道および伊賀鉄道の実態などを調査したのでしょうか。輸送人員、輸送密度などの点です。養老鉄道の場合は三重県と岐阜県に跨っていますし、沿線市町村も桑名市、海津市、養老町、大垣市、神戸町、池田町、揖斐川町と7市町に跨っていますので、近鉄が子会社を設置したのも理解できます。これに対し、伊賀鉄道の場合は全線が伊賀市内にあります。様々な条件を比較して、伊賀鉄道と同じような方法を採ることができないのか、検討したのでしょうか。
さらに、公有民営方式にした場合の将来像です。年間あたりの輸送量、経費などの試算が必要になるはずです。維持するためには予算を投入しなければなりません。赤字状態が継続し、累積額が増えるのでは、何のために公費をつぎ込むのかがわからなくなります。まして、完全な公営企業と化する訳ではないのです。費用対効果などの検証が求められることになります。
いずれにせよ工都四日市市としては、第二次産業に従事する労働者の意向を無視するわけにはいかないのです。力の方向性が異なる印象があり、理解しがたいのは都市基盤に起因するのだと思います。
内部線・八王子線については「実よりも名を取る」という意味が何となくわかります。狙いもその点でしょう。ただ、撤退のしやすさも念頭に置かれている気はします。いずれにせよ、結論がどのようになるかが問題でしょう。