私が生まれ育った高津区は、従業員寮はもとより、学生寮が多かった所です。今でも溝の口駅・武蔵溝ノ口駅周辺や武蔵新城駅周辺には学生寮がいくつかありますが、かつてはもっと多かったと記憶しています。坂戸にもありましたし、二子新地駅の近くにもいくつかありました(これは國學院大学の学生から聞いた話です)。
しかし、首都圏の有名大学でも学生寮に入る学生は少なくなったようです。何年前の話か覚えていませんが、東京大学や早稲田大学でも首都圏出身者が7割以上を占めているということを聞きました。もっとも、首都圏の鉄道網などを考えれば、学生寮に入る人が少なくなるのも理解できます。東京都23区、とくに山手線より内側であれば、遠距離であっても親元から通学できるという学生が多いでしょう。私が担当したゼミの学生でも何人かおりました。学生寮に入居するための費用と通学定期券の費用を比べれば、ということになります。
このようなことを記したのも、2020年9月18日11時付で、朝日新聞社のサイトに「学生寮運営会社が破産 寮生300人が退寮迫られる(新型コロナウイルス)」という記事(https://www.asahi.com/articles/ASN9K7265N9HUTIL021.html?iref=comtop_list_edu_n03)が掲載されているのを見つけたからです。
東京都は武蔵野市に開成という会社があります。学生寮(学生会館)を運営していました。内訳は、女子学生寮が6、男子学生寮が2で、武蔵野市、中野区、杉並区、板橋区、武蔵野市、三鷹市および調布市にあります。
9月9日、開成は東京地方裁判所から破産宣告を受けました。新型コロナウイルス感染症の影響によるとも言えるのですが、それは決定打であるというにすぎないようです。上記記事にも「近年経営が悪化していたところに、新型コロナウイルスの影響による入寮者減が拍車をかけたとみられている」と書かれています。
詳細についてはよくわかりませんが、元々、この会社は物件を借り上げる形で学生寮を運営していたようです。2000年代に2つの物件を自ら取得したのですが、これが裏目に出たのか「借入金が増えて財務体質が悪化し」たとのことです。2000年代といえば、大学進学希望者の地元志向が強く言われるようになった時代であると記憶しています。バブル崩壊後、庶民の生活は下がる一方でした。そして、先程も記したように、東京大学や早稲田大学など首都圏にある有名大学でも首都圏出身者が増えていました。地元志向という点では首都圏も同じです。いや、私自身の経験などからしても、首都圏出身の大学進学希望者ほど地元志向あるいは首都圏志向が強い人はいないでしょう(医学部進学希望者は別としておきますが)。私が学部生であった頃にも、片道2時間以上をかけて通学する学生は少なくなかったのでした。
その意味において、学生寮は新型コロナウイルス感染症がなかったとしても衰退傾向にあったと言えます。家主としても、と書きかけたのですが、続きを書くのはやめておきます。記事にも「近年は利用が減少傾向で、コロナ禍の影響が出る前で8~9割の稼働率だった」と書かれており、杉並区内にあるこの会社の学生会館(サイトで特定できますが、敢えて記さないでおきます)では2017年度まで40室全てに入居者がいたものの、それ以降は減少しており、今年の春は24室のみ入居者がいるということでした。入居率6割では苦しいでしょう。結果として、学生会館長へのボーナスはなく、給料は未払いで、9月10日からは入居学生に対する食事も出されていないとのことです。
原因の一つに新型コロナウイルス感染症があることは否定できません。大学でオンライン授業が増えれば、学生寮に入居する意味がないからです。新入生であれば東京に来ないでしょう。私も、首都圏から遠く離れた実家でオンライン授業に臨んでいる学生の例を知っています。
ただ、現在も入居している学生がいます。8の学生寮を合わせて300人近いそうで、ほとんどの学生が「10月末までの退寮を10月末までの退寮を迫られている」ということです。学生寮の運営を引き継いでくれる会社などがあればよいのですが、その可能性があるのは1つだけというのでは、混乱が生ずるでしょう。9月中旬または下旬から後期が始まる大学が多いのですから。
また、1年分の賃料を先払いしている学生(またはその親)もいます。問題は返還の可能性です。
学生寮を運営する会社の破産という事件一つからでも、あれやこれやの事柄が複雑に絡んでいます。時代の変化を読みとることもできるでしょう。
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