ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

気になる内閣提出法律案第7号(第190回国会) 続

2016年02月06日 11時16分56秒 | 国際・政治

 1月29日9時55分4秒付で「気になる内閣提出法律案第7号(第190回国会)」という記事を掲載しましたが、今回はその続きのようなものです。

 衆議院のサイトを見たら、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法及び財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律案」が掲載されました。

 改正法律らしく、添削型の条文ですので、元の規定と比べないと何が何だかわかりません。そこで、今回は「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部改正」という見出しが付された第2条を見てみます。次の通りです。

 「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律(平成二十四年法律第百一号)の一部を次のように改正する。

 第一条中「平成二十四年度から平成二十七年度までの間の各年度の一般会計の歳出の財源に充てる」を「経済・財政一体改革を推進しつつ、平成二十八年度から平成三十二年度までの間の財政運営に必要な財源の確保を図る」に改め、「とともに、平成二十四年度及び平成二十五年度において、基礎年金の国庫負担の追加に伴いこれらの年度において見込まれる費用の財源を確保するため、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第六十八号)の施行により増加する消費税の収入により償還される公債の発行に関する措置を定める」を削る。

 第四条を削る。

 第三条中「おいては」の下に「、平成三十二年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化に向けて経済・財政一体改革を総合的かつ計画的に推進し」を加え、同条を第四条とする。

 第二条の見出し中「平成二十四年度から平成二十七年度まで」を「平成二十八年度から平成三十二年度まで」に改め、同条第一項中「及び第四条第一項の規定」を削り、「平成二十四年度から平成二十七年度まで」を「平成二十八年度から平成三十二年度まで」に改め、同条を第三条とする。

 第一条の次に次の一条を加える。

   (定義)

  第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

   一 経済・財政一体改革 我が国経済の再生及び財政の健全化が相互に密接に関連していることを踏まえ、これらのための施策を一体的に実施する取組をいう。

   二 国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化 国民経済計算(統計法(平成十九年法律第五十三号)第六条第一項の規定により作成する国民経済計算をいう。)における中央政府及び地方政府のプライマリーバランスの合計額(東日本大震災(平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。)からの復興のための施策に必要な経費及びその財源に充てられる収入その他の財政の健全性を検証するに当たり当該合計額から除くことが適当と認められる経費及び収入に係る金額を除く。)が零を上回ることをいう。

 附則第二項を削り、附則第一項の項番号を削る。」

 以上の内容を「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」(面倒なので、以下では「公債発行特例法」と記します)にあてはめてみます(改正により追加または変更される部分を太字で、削除される部分を取消線で示します)。

 「(趣旨)

 第一条 この法律は、最近における国の財政収支が著しく不均衡な状況にあることに鑑み、平成二十四年度から平成二十七年度までの間の各年度の一般会計の歳出の財源に充てる経済・財政一体改革を推進しつつ、平成二十八年度から平成三十二年度までの間の財政運営に必要な財源の確保を図るため、これらの年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるとともに、平成二十四年度及び平成二十五年度において、基礎年金の国庫負担の追加に伴いこれらの年度において見込まれる費用の財源を確保するため、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第六十八号)の施行により増加する消費税の収入により償還される公債の発行に関する措置を定めるものとする。

 (定義)

 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

  一 経済・財政一体改革 我が国経済の再生及び財政の健全化が相互に密接に関連していることを踏まえ、これらのための施策を一体的に実施する取組をいう。

  二 国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化 国民経済計算(統計法(平成十九年法律第五十三号)第六条第一項の規定により作成する国民経済計算をいう。)における中央政府及び地方政府のプライマリーバランスの合計額(東日本大震災(平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。)からの復興のための施策に必要な経費及びその財源に充てられる収入その他の財政の健全性を検証するに当たり当該合計額から除くことが適当と認められる経費及び収入に係る金額を除く。)が零を上回ることをいう。

 (平成二十四年度から平成二十七年度まで平成二十八年度から平成三十二年度までの間の各年度における特例公債の発行等)

 第三条 政府は、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第四条第一項ただし書の規定及び第四条第一項の規定により発行する公債のほか、平成二十四年度から平成二十七年度まで平成二十八年度から平成三十二年度までの間の各年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、当該各年度の予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。

2 前項の規定による公債の発行は、当該各年度の翌年度の六月三十日までの間、行うことができる。この場合において、当該各年度の翌年度の四月一日以後発行される同項の公債に係る収入は、当該各年度所属の歳入とする。

3 政府は、第一項の議決を経ようとするときは、同項の公債の償還の計画を国会に提出しなければならない。

4 政府は、第一項の規定により発行した公債については、その速やかな減債に努めるものとする。

(特例公債の発行額の抑制)

 第四条 政府は、前条第一項の規定により公債を発行する場合においては、平成三十二年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化に向けて経済・財政一体改革を総合的かつ計画的に推進し、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする。

(平成二十四年度及び平成二十五年度における年金特例公債の発行等)

 第四条  政府は、財政法第四条第一項の規定にかかわらず、平成二十四年度及び平成二十五年度における基礎年金の国庫負担の追加に伴い見込まれる費用(この項の規定により発行する公債に係る平成二十四年度及び平成二十五年度における利子の支払に要する費用を含む。)の財源については、当該各年度の予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。

 2 前項の規定により発行する公債及び当該公債に係る借換国債(特別会計に関する法律(平成十九年法律第二十三号)第四十六条第一項又は第四十七条第一項の規定により起債される借換国債をいい、当該借換国債につきこれらの規定により順次起債される借換国債を含む。次項において同じ。)についての償還及び平成二十六年度以降の利子の支払に要する費用の財源は、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律の施行により増加する消費税の収入をもって充てるものとする。

 3 第一項の規定により発行する公債及び当該公債に係る借換国債(次項において「年金特例公債」という。)については、平成四十五年度までの間に償還するものとする。

 4 年金特例公債は、特別会計に関する法律第四十二条第二項の規定の適用については、国債とみなさない。

 附則

  この法律は、公布の日から施行する。

 2 政府は、平成二十四年度の補正予算において、政策的経費を含む歳出の見直しを行い、同年度において第二条第一項の規定により発行する公債の発行額を抑制するものとする。

 今国会で改正法律案が可決され、法律として成立すれば、公債発行特例法は以上のように改正されることになる訳ですが、まず気になるのは公債発行特例法の適用期間でしょう。これまでは今年度、すなわち平成27年度までであったのですが、これを平成32年度(西暦に直せば2020年度)まで延長しています。次に、公債発行そのものについて事前に承認を得るような形で規定する一方で「経済・財政一体改革」および「国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化」という概念を打ち出しています。或る程度はやむをえないこととはいえ、これら二つの概念と赤字公債(特例公債)の発行とがどのような関係にあるのかが問われることとなるでしょう。当然のことながら、赤字公債の発行を抑制しなければ「国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化」を達成することはできないからです。従って、歳出予算を全面的に、かつ徹底的に見直さなければならないこととなります。しばらくのあいだ、投資的経費を減少させることが手っ取り早い、というところでしょうか。

 前の段落で記したことと関連しますが、公債発行特例法には「減債に努める」という規定があるものの、具体的な目標は何も示されていません。この点は、改正法律が成立しても同じです。「経済・財政一体改革」についての定義規定が置かれたものの、その具体的な方策は見えてきません。おそらく、経済財政諮問会議あたりで出された方針に従うこととなるでしょう。しかし、明確な目標がなければ、実行も難しいでしょう。

 改正法律案を見て思い出されるのが「財政構造改革の推進に関する特別措置法」(平成9年12月5日法律第109号)です。この法律については、制定当時に様々な批判が寄せられましたが、それなりの意義はあったと考えられます。さしあたり、「第一章 総則」の規定を引用しておきましょう。

 「(目的) 

第一条 この法律は、国及び地方公共団体の財政収支が著しく不均衡な状況にあることにかんがみ、財政構造改革の推進に関する国の責務、財政構造改革の当面の目標及び国の財政運営の当面の方針を定めるとともに、各歳出分野における改革の基本方針、集中改革期間(平成十年度から平成十二年度までの期間をいう。以下同じ。)における国の一般会計の主要な経費に係る量的縮減目標及び政府が講ずべき制度改革等並びに地方財政の健全化に必要な事項を定めることを目的とする。

(財政構造改革の趣旨)

第二条 財政構造改革は、人口構造の高齢化等我が国の経済社会情勢の変化、国際情勢の変化等国及び地方公共団体の財政を取り巻く環境が大きく変容している中で、国及び地方公共団体の財政が危機的状況にあることを踏まえ、将来に向けて更に効率的で信頼できる行政を確立し、安心で豊かな福祉社会及び健全で活力ある経済を実現することが緊要な課題であることにかんがみ、経済構造改革を推進しつつ、財政収支を健全化し、これに十分対応できる財政構造を実現するために行われるものとする。

(財政構造改革の推進に関する国の責務)

第三条 国は、前条の趣旨にのっとり、財政構造改革を推進する責務を有する。

(財政構造改革の当面の目標)

第四条 財政構造改革の当面の目標は、次のとおりとする。

 一 平成十七年度までに、一会計年度の国及び地方公共団体の財政赤字額(国際連合の定めた基準に準拠して内閣府が作成する国民経済計算の体系(以下「国民経済計算の体系」という。)における中央政府の貯蓄投資差額及び地方政府の貯蓄投資差額を合算した額であって、零未満のものをいう。以下同じ。)を零から差し引いた額を当該会計年度の国内総生産(国民経済計算の体系における国内総生産をいう。以下同じ。)の額で除して得られる数値(次条において「財政赤字の対国内総生産比」という。)を百分の三以下とすること。

 二 平成十年度から平成十六年度までの間の各年度に国の一般会計において特例公債(財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第四条第一項ただし書の規定により発行される公債以外の公債であって、一会計年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、特別の法律に基づき発行されるものをいう。以下同じ。)を発行する場合には、著しく異常かつ激甚な非常災害の発生又は経済活動の著しい停滞(国内総生産の伸び率の低い事態が継続する等の政令で定める状況をいう。)が国民生活等に及ぼす重大な影響に対処するための施策の実施に重大な支障が生ずるときを除きその発行額の縮減を図りつつ、一般会計の歳出(同法第二十九条で定める補正予算(以下単に「補正予算」という。)が作成された場合における一般会計の歳出を含む。)は、平成十七年度までに特例公債に係る収入以外の歳入をもってその財源とするものとし、あわせて同年度の予算における公債依存度(一般会計の歳入(補正予算が作成された場合における一般会計の歳入を含む。)の額における公債金収入の額(同法第四条第一項ただし書の規定により発行する公債に係る収入の額及び特例公債に係る収入の額を合算した額をいう。)の占める割合をいう。以下同じ。)を平成九年度の予算における公債依存度に比して引き下げること。

(財政赤字の対国内総生産比の公表)

第五条 平成十年度から平成十七年度までの間における各年度の予算及び当該各年度の地方団体(地方交付税法(昭和二十五年法律第二百十一号)第二条第二号に規定する地方団体をいう。第四十一条において同じ。)の歳入歳出総額の見込額に関する地方財政計画(同法第七条に規定する地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類をいう。第四十一条において同じ。)の国会への提出後、遅滞なく、総務大臣及び財務大臣は、当該各年度における財政赤字の対国内総生産比の見込みの数値を計算して、公表するものとする。

2 総務大臣及び財務大臣は、前項に規定する各年度における国民経済計算の体系における中央政府の貯蓄投資差額及び地方政府の貯蓄投資差額が公表された場合においては、遅滞なく、当該各年度における財政赤字の対国内総生産比を計算して、公表するものとする。

(国の財政運営の当面の方針)

第六条 国は、第四条に規定する財政構造改革の当面の目標の達成に資するよう、財政運営に当たり、一般歳出の額(一般会計の歳出の額から国債費(特別会計に関する法律(平成十九年法律第二十三号)第四十二条第一項 の規定その他政令で定める規定による一般会計から国債整理基金特別会計への繰入金をいう。)の額、同法第二十四条の規定による一般会計から交付税及び譲与税配付金特別会計への繰入金の額その他政令で定める経費の額を合算した額を控除した額をいう。以下同じ。)を抑制するとともに、次に掲げる観点等を踏まえ、特別会計を含むすべての歳出分野を対象とした改革を推進することを当面の方針とする。

 一 行政の各分野において国及び地方公共団体と民間が分担すべき役割を見直すこと。

 二 行政の各分野において国と地方公共団体が分担すべき役割を見直すこと。

 三 国及び地方公共団体の施策により国民の受ける利益の水準とそれに要する費用を支弁するための国民の負担の水準との間の衡平を図ること。

 四 活力ある経済社会を創出すること。

 五 財政資金を効率的に配分すること。

 六 国民負担率(一会計年度において国の収入となる租税及び印紙収入の額並びに地方公共団体の収入となる租税の額を合算した額、当該会計年度における国民経済計算の体系における社会保障負担の額及び一般政府の無基金雇用者福祉帰属負担の額を合算した額並びに当該会計年度における国及び地方公共団体の財政赤字額を零から差し引いた額を合算した額を国民経済計算の体系における国民所得の額で除して得られる数値をいう。)を百分の五十を上回らないように抑制すること。

2 政府は、平成十年度の当初予算(補正予算及び財政法第三十条で定める暫定予算以外の予算をいう。以下同じ。)を作成するに当たり、一般歳出の額が平成九年度の当初予算における一般歳出の額を下回るようにするものとする。」

 「財政構造改革の推進に関する特別措置法の停止に関する法律」(平成10年12月18日法律第150号)により、「財政構造改革の推進に関する特別措置法」の効力は停止されており、それが現在にまで至っているのですが、当時の経済状況に鑑みれば仕方のないところであったとはいえ、再施行も廃止もされないままであるのは残念なことでした。具体化という点では不十分な部分も認められるものの、現在の公債発行特例法などと比較しても「財政構造改革の推進に関する特別措置法」には一定の(数値)目標が示されており、赤字公債発行に対する一定の歯止めが法的拘束力を伴いつつ示されていました。この法律を見直した上で再施行するべきではないかとも考えるのですが、少なくとも現在の政府にその気はないようです。しかし、東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所の大事故というダブルパンチはありましたが、これらを考慮した上での抑制策を具体的に示すことは可能であるはずです。「財政構造改革の推進に関する特別措置法」も、平成7年1月17日の阪神・淡路大震災や、その前から続いていた景気の低迷(相次いで金融機関などが破綻しました)があったという背景の下に制定されました。

 さらに詳しく分析する必要はありますが、今回はこの程度としておきます。


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