ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

2020年度予算の繰越金が30兆円を超える?

2021年07月27日 07時00分00秒 | 国際・政治

 このブログで、2020年度第3次補正予算について何度か記しました(「驚きの令和2年度第3次補正予算の案」および「緊急事態宣言再々延長 何のための令和2年度第3次補正予算?」)。どう考えても執行できない補正予算を組んだのであれば、2020年度内に第4次補正予算を組むべきであったと思うのですが、そうしなかったために巨額の繰越金が生まれることとなりました。読売新聞社が、2021年7月26日5時付で「昨年度予算の繰越金、30兆円の見通し…コロナ対応補正で過去最大に」(https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210725-OYT1T50300/)として報じています。

 30兆円超という繰越金は、勿論、過去最大の額です。2020年度予算は、当初予算の他に3回にわたる補正予算のために、当初は102兆7000億円程であったのが175兆円7000億円程という膨大な額になった訳ですが、その5分の1程は執行されていないのです。予算単年主義ということからすれば、不用(不要)な予算項目が多く組まれたということになります。

 記事には、2012年度に7兆6000億円程の繰越金が発生したことが書かれています。当時の予算が手元にないのですが、建設公債の発行限度額より多いくらいでしょう。7兆円台というと最近の法人税収額くらいではないかと思われます。しかし、2020年度予算の繰越額は30兆円を超えますので、これは同年度の特例公債(赤字国債)の発行限度額(当初予算において25兆4462億円)を超えます。ちなみに、2021年度の特例公債(赤字国債)発行限度額は37兆2560億円です。

 こうなると、記事にも書かれているように「与党は歳出増への圧力を強めるとみられ」るでしょう。しかし、COVID-19のために繰越金が多くなったとも考えられるので、安易な歳出増は必ず破綻を招きます。

 資料を入手して分析したいところですが、さしあたりは上記記事によると、「繰越金が最も多かったのは、実質無利子・無担保融資を行う官民金融機関の資金繰り支援の予算で、約6.4兆円になる見通しだ。コロナで業績が悪化した企業に対する政府系金融機関の融資が想定ほど伸びなかった。地方創生臨時交付金も、5兆円程度を繰り越す予定だ。営業時間の短縮要請に応じた飲食店を支援する協力金の原資が主な用途となるが、都道府県が担う給付作業が追い付かなかった」ということです。本当に「都道府県が担う給付作業が追い付かなかった」ためなのかという疑問はあります。そもそも政府系金融機関の融資や地方創生臨時交付金の仕組みに問題があったから、繰越金が巨大になったのではないかとも考えられるのです。

 また、緊急包括支援交付金が1.5兆円、GoTo関係が1.3兆円となっています。GoToは、内容の良し悪しを問う前にそもそも時期が悪く、未消化のまま終わるであろうということが簡単に予測できただけに、第3次補正予算を編成したことの意味が改めて問われなければなりません。そして、その繰越額は国債の返済金に充てるべきでしょう(自転車操業的になるのは仕方のないところです)。

 緊急包括支援交付金が1.5兆円の繰越となったことについても、具体的な事情を追及しなければならないでしょう。この交付金は、記事を引用するならば「医療機関がコロナ患者を受け入れる病床の確保に必要な費用などに充てる」ためのものですから、有効に使われるべき交付金です。そして、COVID-19の変異株(ウイルスは短期間に何度も変異します)などに対処するためにキープされるべきものです。

 記事にも「国と地方の長期債務残高は21年度末に、主要国で最悪の水準となる1209兆円まで膨らむ見通しだ」と書かれています。ドイツが、2020年にCOVID-19への対策として時限的減税などの策を打ち出せたのは、財政黒字であったからに他なりません。その裏返しが日本で、2020年に一度だけ特別定額給付金が出されただけです(考え方によっては、国民が国に納めた税金が国民に戻ってきただけなのです)。法的性格も曖昧で語義矛盾とも捉えられる自粛要請が緊急事態宣言の名の下に繰り返されたのも、結局は財政赤字のためでしょう。

 景気が悪いから歳出増というのは、日本で何度となく繰り返されてきました。しかし、効果はあったのでしょうか。

 おそらく、これまでと全く同じで、何らまともな検証はなされないまま、今年も景気回復策などとして大盤振る舞いなのかどうかわからないバラマキ政策が次々に出されることでしょう。日本の特技と言えるでしょう。

 ここで冷静に思い出していただきたいのは、バラマキというのは広く薄くの話であって「あれもこれも」なので効果が非常に薄いということです。節分の時の豆まきと同じで、豆を大量にまいても相手が多いので一人一人が手にする豆は僅かなものです。そして、1970年代まで進められてきた、鉄道敷設法に基づく国鉄のローカル線建設と同じで、日本全国に広がる建設予定線に、何のメリハリも付けずに予算を薄くばらまいたので、建設途上のまま開通もせずに廃止された路線が多かったのでした。あるいは、開通した路線であっても収益をほとんどあげられないところが多いのです。

 私も含めて、日本人の多くは「あれもこれも」という思考に陥りがちです。しかし、COVID-19のおかげで得られた教訓は、「あれもこれも」ではなく、キルケゴールの著作ではありませんが「あれかこれか」(Entweder-Oder)が大事であるということです。取捨選択が必要であると言い換えてもよいでしょう。そして、場合によっては「あれもこれも」選択するのではなく、「あれもこれも」選択しない(Weder-Noch)ということです。


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