1.国家賠償法第2条の意義
国家賠償法第2条は、公の営造物(例、道路、河川)の設置または管理に瑕疵があり、これによって損害が他人に生じたときに国あるいは公共団体が損害賠償の責任を負う、と定める。第1条と異なり、公権力の行使とは言えない「公の管理作用に基づく損害」についての国または公共団体の損害賠償責任を規定するのである。
国家賠償法第2条は、基本的には民法第717条の特別法であるが、次のような違いがある。
①国家賠償法第2条の「公の営造物」は、民法第717条の「土地の工作物」より広い概念である。通説・判例によると、「公の営造物」には、不動産だけでなく動産も含まれる(例として、公用自動車、電気かんな、拳銃、警察犬など)。
ここで注意しておかなければならないのは、「公の営造物」の意味である。この「公の営造物」は、行政法学上の営造物を意味せず、基本的には公物を意味する。従って、行政法学上の営造物のうち、施設的部分である有体物のみを指す。無体財産や人的施設は含まれない(大阪地判昭和61年1月27日判時1208号96頁)。
行政法学上の営造物とは、行政主体(国や公共団体など)によって公の目的に供用される人的施設および物的施設の総合体である。例として、国公立学校、病院、図書館などがあげられる。これに対し、行政法学上の公物とは、行政主体(国や公共団体など)によって公の目的に供用される有体物である。国家賠償法第2条には、例として、人工公物としての道路、および自然公物としての河川があげられている。
②民法第717条には占有者免責条項があるが、国家賠償法第2条にはない。
③「公の営造物」の設置・管理は、事実上の状態があればよいとされる。法律上の管理権や、所有権など法律上の権原を必要としない。
④国家賠償法では第3条になるが、費用負担についての独自の規定がある。すなわち、国または公共団体が損害賠償責任を負う場合で、「公の営造物」の設置・管理者と費用負担者が異なるときは、費用負担者も損害賠償責任を負う。
⑤国家賠償法第2条にいう責任は、一般に無過失責任と言われる(内容は必ずしも明確でない)。
⑥国家賠償法第2条第2項により、同第1項にいう損害の原因について他に責任を負うべき者があるならば、その者に対して国または公共団体が求償権を有する。
●最一小判昭和59年11月29日民集38巻11号1260頁
事案:京都府は京都市内の天神川河川改修工事を行った。それに伴い、溝渠が設置されたが、改修工事が進まず、溝渠には水が充満していた。しかし、この溝渠には転落を防止するための設備などが備えられていなかった。某日、Xの子がこの溝渠に転落し、溺死した。Xは、京都市に対して国家賠償を請求する訴訟を提起した。京都地判昭和52年3月18日民集38巻11号1269頁はXの請求を棄却したが、大阪高判昭和昭和54年5月15日判時942号53頁はXの請求を一部認容した。最高裁判所第一小法廷は、京都市の上告を棄却した。
判旨:「国家賠償法2条にいう公の営造物の管理者は、必ずしも当該営造物について法律上の管理権ないしは所有権、賃借権等の権原を有している者に限られるものではなく、事実上の管理をしているにすぎない国又は公共団体も同条にいう管理者に含まれるものと解するのを相当とする」。京都市は本件溝渠について事実上の管理をすることになったというべきであり、「本件溝渠の管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国家賠償法二条に基づいてその損害を賠償する義務を負うものといわなければならない。そして、このことは、国又は京都府が本件溝渠について法律上の管理権をもつかどうかによつて左右されるものではない」。
▲地方自治法第244条の2第3項にいう指定管理者〈株式会社、NPO、一般法人、公益法人などが指定されうる〉が管理する「公の営造物」が通常有すべき安全性を欠いており、それが原因で利用者に損害が生じた場合に、普通地方公共団体が損害賠償責任を負うのであろうか。この問題については、設置者が普通地方公共団体であることに変わりはないから、指定管理者が管理を行う「公の施設」において利用者に損害が生じた際には、設置者である普通地方公共団体が国家賠償法第2条第1項による損害賠償責任を負うべきであると理解されている。
この点については、塩野宏『行政法Ⅲ行政組織法』〔第四版〕(2012年、有斐閣)227頁、村上順・白藤博行・人見剛編『新基本法コンメンタール地方自治法』(2011年、日本評論社)366頁[三野靖担当]参照。
2.国家補償法第2条の瑕疵の意味
設置・管理の瑕疵の解釈については争いがある。まず、学説の状況を概観しておこう。
〔1〕客観説
国家賠償法第2条のもつ特殊性を強調するのが、通説でもある「客観説」である。この説は、設置の瑕疵を、設計や構造の過程に不完全な点があること(原始的な瑕疵)と解し、管理の瑕疵を、維持・修繕・保管等に不完全な点があること(後発的な瑕疵)と解する。
●最一小判昭和45年8月20日民集24巻9号1268頁(高知落石事件。Ⅱ―235)
事案:高知県内の国道56号線の或る区間においては落石が頻発しており、某日、崩土と落石が生じてトラックの助手席に座っていた青年が即死した。その両親が原告となって国と高知県に対して損害賠償を請求する訴訟を提起した。一審判決(高知地判昭和39年12月3日下民集15巻12号2865頁)は請求を認容する判決を下し、控訴審判決(高松高判昭和42年5月12日高民集20巻3号234頁)は国および高知県の控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷も国および高知県の上告を棄却した。
判旨:「本件道路には従来山側から屡々落石があり、さらに崩土さえも何回かあつたのであるから、いつなんどき落石や崩土が起こるかも知れず、本件道路を通行する人および車はたえずその危険におびやかされていたにもかかわらず、道路管理者においては、『落石注意』等の標識を立て、あるいは竹竿の先に赤の布切をつけて立て、これによつて通行車に対し注意を促す等の処置を講じたにすぎず、本件道路の右のような危険性に対して防護柵または防護覆を設置し、あるいは山側に金網を張るとか、常時山地斜面部分を調査して、落下しそうな岩石があるときは、これを除去し、崩土の起こるおそれのあるときは、事前に通行止めをする等の措置をとつたことはない、というのである。(中略)かかる事実関係のもとにおいては、本件道路は、その通行の安全性の確保において欠け、その管理に瑕疵があつたものというべきである」。また、「本件道路における防護柵を設置するとした場合、その費用の額が相当の多額にのぼり、上告人県としてその予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それにより直ちに道路の管理の瑕疵によつて生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできない」。従って、「本件事故は道路管理に瑕疵があつたため生じたものであり、上告人国は国家賠償法2条1項により、上告人県は管理費用負担者として同法3条1項により損害賠償の責に任ずべきことは明らかである」。
〔2〕折衷説
公物の物的欠陥(客観説の内容)に公物管理者の行為責任(安全管理義務)を含めるのが、折衷説である。この説によると、例えば次に示す判決のように、山崩れなどによって通行に危険が生じることを的確に予想せず、通行止めなどの措置をとらなかったために事故が発生したという場合にも、賠償責任が生じることになる。
●名古屋高判昭和49年11月20日判時761号18頁(飛騨川バス転落事件)
事案:昭和43年8月、観光バス2台が岐阜県内の国道41号線に駐車していたところ、付近で発生した土石流に2台とも押し流されて飛騨川に転落・水没した。その結果、104名が死亡した。遺族らが損害賠償請求訴訟を提起し、一審判決(名古屋地判昭和48年3月30日判時700号3頁)は遺族らの請求を一部認容したが、控訴した。名古屋高等裁判所は、原判決を一部変更した上で、遺族らの請求を認容した。なお、当時、通行止めなどの措置はとられていなかった。
判旨:「国道41号は、その設置(改良)に当たり、防災の見地に立つて、使用開始後の維持管理上の問題点につき、詳細な事前調査がなされたとは認め難く、そのため崩落等の危険が十分に認識せられなかつたため、その後における防災対策や道路管理上重要な影響を及ぼし、防護対策および避難対策の双方を併用する立場からの適切妥当な道路管理の方法が取られていなかつたもので、国道41号の管理には、交通の安全を確保するに欠けるところがあり、道路管理に瑕疵があつたものといわなければならない。そして、本件事故は右管理の瑕疵があつたために生じたものであるから、被控訴人は国家賠償法2条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある」。
〔3〕主観説(義務違反説)
民法第715条との密接な関係を重視して不法行為責任と解する「義務違反説」は、設置・管理の瑕疵を公物管理者の安全確保義務違反と考える。この見方によると、公物に物的欠陥があったとしても、公物管理者の安全確保義務違反が存在しなければ賠償責任を問えないことになる。
●最一小判昭和50年6月26日民集29巻6号851頁
事案:奈良県桜井市内で県道の掘穿(くっせん)工事が行われており、その現場には工事標識板、バリケードおよび赤色灯標柱が設置されていたが、それらは先行する車によって倒され、赤色点滅灯も消えていた。その直後、車で通りかかったAが気づいてハンドルを切ったが間に合わず、道路付近の田に転落し、同乗していたBが死亡するという事故が発生した。Bの遺族であるXらは、県道の管理者である奈良県に県道の管理の瑕疵があったとして損害賠償請求訴訟を提起した。一審判決(奈良地判昭和45年3月16日交通事故民事裁判例集3巻2号398頁)はXらの請求を棄却し、控訴審判決(大阪高判昭和46年5月31日交通事故民事裁判例集8巻3号599頁)はXらの控訴を棄却した。最高裁場所第一小法廷もXらの上告を棄却した。
判旨:本件事実関係に照らせば「本件事故発生当時、被上告人において設置した工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱が道路上に倒れたまま放置されていたのであるから、道路の安全性に欠如があつたといわざるをえないが、それは夜間、しかも事故発生の直前に先行した他車によつて惹起されたものであり、時間的に被上告人において遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことは不可能であつたというべく、このような状況のもとにおいては、被上告人の道路管理に瑕疵がなかつたと認めるのが相当である」。
●最三小判平成22年3月2日判時2076号44頁
事案:平成13年10月8日、北海道縦貫自動車道函館名寄線を自動車で走行していたAは、中央分離帯付近から飛び出してきた狐との衝突を避けようとしてハンドルを切った。その結果、Aの乗用車は中央分離帯に衝突して車道上で停止した。そこにBが運転する自動車が追突し、Aが死亡した。Aの遺族であるXらは、Bに対して損害賠償を、道路管理者であるY(日本道路公団。平成17年10月1日に東日本高速道路株式会社が承継)に対して国家賠償を請求する訴訟を提起した。一審判決(札幌地判平成19年7月13日判例集未登載)はYに対する請求を棄却したが、控訴審判決(札幌高判平成20年4月18日裁判所ウェブサイト)はYに対する請求の一部を認容した。Yが上告し、最高裁判所第三小法廷はXらの請求を全て棄却した。
判旨:①「国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、当該営造物の使用に関連して事故が発生し、被害が生じた場合において、当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、その事故当時における当該営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきである」(前掲最一小判昭和45年8月20日、後掲最三小判昭和53年7月4日を参照)。
②「本件道路には有刺鉄線の柵と金網の柵が設置されているものの、有刺鉄線の柵には鉄線相互間に20cmの間隔があり、金網の柵と地面との間には約10cmの透き間があったため、このような柵を通り抜けることができるキツネ等の小動物が本件道路に侵入することを防止することはできなかったものということができる。しかし、キツネ等の小動物が本件道路に侵入したとしても、走行中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではなく、通常は、自動車の運転者が適切な運転操作を行うことにより死傷事故を回避することを期待することができるものというべきである。このことは、本件事故以前に、本件区間においては、道路に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事故が年間数十件も発生していながら、その事故に起因して自動車の運転者等が死傷するような事故が発生していたことはうかがわれず、北海道縦貫自動車道函館名寄線の全体を通じても、道路に侵入したキツネとの衝突を避けようとしたことに起因する死亡事故は平成6年に1件あったにとどまることからも明らかである」。
③「これに対し、本件資料(−日本道路公団が平成元年に発行した「高速道路と野生動物」。引用者注)に示されていたような対策が全国や北海道内の高速道路において広く採られていたという事情はうかがわれないし、そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであり、加えて、前記事実関係によれば、本件道路には、動物注意の標識が設置されていたというのであって、自動車の運転者に対しては、道路に侵入した動物についての適切な注意喚起がされていたということができる」。
〔4〕学説の状況を踏まえての一般論
このような状況であるが、判例は、事案などによって見解を異にするようであり、決定的な見解はない。また、どの説が妥当であるかということよりも、事案の妥当な解決に向けた解釈を採用すべきであろう。
とりあえず、一般論として、次のことを指摘しうる。
a.国家賠償法第2条に定められた責任は単なる結果責任ではない。
b.従って、条文上は、瑕疵を判断する際に、公物の客観的状態以外の要素も考慮しうる。
c.公物の状況や性質により、瑕疵の有無や性質は異なりうる。
c−1.公物の本来の用法に従えば損害は生じない場合、すなわち、本来の用法に従わなかったために損害が生じた場合であれば、設置または管理に瑕疵はないことになりうる〔後掲最三小判昭和53年7月4日、後掲最三小判平成5年3月30日〕。
c−2.公物の本来の用法に従えば、利用者にとっての損害は生じないが、第三者(例えば近隣住民)に被害が発生した場合には、設置または管理に瑕疵はあるということになりうる。
d.その上で、次のように定式化されている。
①「営造物」(公物)が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性がある状態にあれば、瑕疵が存在すると言いうる〔後に取り上げる大阪空港訴訟最高裁判決において述べられていることで、後掲最一小判昭和59年1月26日においても述べられている〕。
②このような瑕疵の存否は「当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき」である(これは後掲最三小判昭和53年7月4日において述べられていることで、後掲最一小判昭和59年1月26日および後掲最三小判平成5年3月30日においても述べられている)。
3.道路の設置・管理の瑕疵
道路については、通常有すべき安全性の他、無過失責任および予算抗弁の排斥が原則とされる。その旨を示すものとして、既に取り上げたものの他に次のような判決がある。
●最三小判昭和50年7月25日民集29巻6号1136頁(Ⅱ―236)
事案:和歌山県内の国道170号に故障車がおよそ87時間にわたって放置された(このことを警察署は知っていたが、土木事務所は知らなかった)。この故障車に時速60キロメートルで走行していた原動機付自転車が衝突し、運転していたAが死亡した。Xら(両親)は、故障車を運転していたY1、この故障車の持ち主Y2、および国道を管理するY3(和歌山県)に対して損害賠償を請求した。一審判決(和歌山地妙寺支判昭和45年6月27日交通事故民事裁判例集3巻3号954頁)は、Y1およびY2に対する請求の一部を認めた(確定)がY3に対する請求を棄却した(控訴)。控訴審判決(大阪高判昭和47年3月28日判時675号58頁)はY3に対する請求の一部を認めた。Y3は上告したが、最高裁判所第三小法廷は上告を棄却した。
判旨:「道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努める義務を負うところ(道路法42条)、前記事実関係に照らすと、同国道の本件事故現場付近は、幅員7.5メートルの道路中央線付近に故障した大型貨物自動車が87時間にわたつて放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であつたにもかかわらず、当時その管理事務を担当する橋本土木出張所は、道路を常時巡視して応急の事態に対処しうる監視体制をとつていなかつたために、本件事故が発生するまで右故障車が道路上に長時間放置されていることすら知らず、まして故障車のあることを知らせるためバリケードを設けるとか、道路の片側部分を一時通行止めにするなど、道路の安全性を保持するために必要とされる措置を全く講じていなかつたことは明らかであるから、このような状況のもとにおいては、本件事故発生当時、同出張所の道路管理に瑕疵があつたというのほかなく、してみると、本件道路の管理費用を負担すべき上告人は、国家賠償法2条及び3条の規定に基づき、本件事故によつて被上告人らの被つた損害を賠償する責に任ずべきであり、上告人は、道路交通法上、警察官が道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路の交通に起因する障害の防止に資するために、違法駐車に対して駐車の方法の変更・場所の移動などの規制を行うべきものとされていること(道路交通法1条、51条)を理由に、前記損害賠償責任を免れることはできないものと解するのが、相当である」。
この他、前掲最一小判昭和50年6月26日、前掲名古屋高判昭和49年11月20日、東京高判平成5年6月24日判時1462号46頁・73頁(日本坂トンネル事故訴訟)を参照。
4.河川管理の瑕疵
道路は人工公物であるが、河川は自然公物であると、一応は分けることができる。国家賠償法第2条には河川が例示されているが、水害については設置・管理の瑕疵を認めることは可能であろうか。そして、河川は自然公物であることから、人工公物である道路などとは性質が違うということになるのであろうか。
●最一小判昭和59年1月26日民集38巻2号53頁(大東水害訴訟最高裁判決。Ⅱ―237)
事案:昭和47年7月、大阪府大東市にある未改修河川が集中豪雨のために氾濫したため(溢水型水害)、床上浸水などの被害を受けた住民が、河川管理者である国、河川管理の費用負担者である大阪府、および排水路の管理者で大東市に対して、国家賠償法第2条および第3条により損害賠償を請求した。一審判決(大阪地判昭和51年2月19日判時805号18頁)および控訴審判決(大阪高判昭和52年12月20日判時876号16頁)は三者の管理責任を肯定したが、最高裁判所第一小法廷は破棄差戻判決を下した。
判旨:まず、次のように一般的前提が述べられる(いわゆる大東基準)。
①「国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい」(後掲最大判昭和56年12月16日を参照)、「かかる瑕疵の存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである」(後掲最三小判昭和53年7月4日を参照)。
②「河川の管理については、(中略)道路その他の営造物の管理とは異なる特質及びそれに基づく諸制約が存するのであつて、河川管理の瑕疵の存否の判断にあたつては、右の点を考慮すべきものといわなければならない。すなわち、河川は、本来自然発生的な公共用物であつて、管理者による公用開始のための特別の行為を要することなく自然の状態において公共の用に供される物であるから、通常は当初から人工的に安全性を備えた物として設置され管理者の公用開始行為によつて公共の用に供される道路その他の営造物とは性質を異にし、もともと洪水等の自然的原因による災害をもたらす危険性を内包しているものである。したがつて、河川の管理は、道路の管理等とは異なり、本来的にかかる災害発生の危険性をはらむ河川を対象として開始されるのが通常であつて、河川の通常備えるべき安全性の確保は、管理開始後において、予想される洪水等による災害に対処すべく、堤防の安全性を高め、河道を拡幅・掘削し、流路を整え、又は放水路、ダム、遊水池を設置するなどの治水事業を行うことによつて達成されていくことが当初から予定されているものということができるのである。この治水事業は、もとより一朝一夕にして成るものではなく、しかも全国に多数存在する未改修河川及び改修の不十分な河川についてこれを実施するには莫大な費用を必要とするものであるから、結局、原則として、議会が国民生活上の他の諸要求との調整を図りつつその配分を決定する予算のもとで、各河川につき過去に発生した水害の規模、頻度、発生原因、被害の性質等のほか、降雨状況、流域の自然的条件及び開発その他土地利用の状況、各河川の安全度の均衡等の諸事情を総合勘案し、それぞれの河川についての改修等の必要性・緊急性を比較しつつ、その程度の高いものから逐次これを実施していくほかはない。(中略)河川の管理には、以上のような諸制約が内在するため、すべての河川について通常予測し、かつ、回避しうるあらゆる水害を未然に防止するに足りる治水施設を完備するには、相応の期間を必要とし、未改修河川又は改修の不十分な河川の安全性としては、右諸制約のもとで一般に施行されてきた治水事業による河川の改修、整備の過程に対応するいわば過渡的な安全性をもつて足りるものとせざるをえないのであつて、当初から通常予測される災害に対応する安全性を備えたものとして設置され公用開始される道路その他の営造物の管理の場合とは、その管理の瑕疵の有無についての判断の基準もおのずから異なつたものとならざるをえない」。前掲最一小判昭和45年8月20日は、「河川管理の瑕疵については当然には妥当しない」。
▲上記に引用したところを要約すると、次のようになる。
a.「営造物の設置又は管理」の瑕疵は、「営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態」である。
b.瑕疵の存否は「当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきものである」。
c.河川が「通常予測し、かつ、回避しうる水害を未然に防止するに足りる安全性を備えるに至っていないとしても、直ちに河川管理に瑕疵があるとすることはでき」ない。従って、「河川の備えるべき安全性としては、一般に施行されてきた治水事業の過程における河川の改修、整備の段階に対応する安全性をもって足りる」。
d.河川の管理についての瑕疵の有無は、「諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理に置ける財政的、技術的および社会的諸制約の下での同種・同規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである」。
以上のことから、既に改修計画が定められ、これに基づいて現に改修中である河川については、その計画が上記の基準に照らして格別不合理なものと認められないときには、特段の事由が生じない限りは、その部分について改修が未だ行われていないとの一事を以て河川管理に瑕疵があるとすることはできない、ということになるであろう。
大東基準は「改修の不十分な河川」の溢水水害に関するものである。それでは、この基準が、改修済み河川、あるいは改修完了部分において発生した破堤水害にも適用されるのであろうか。
●多摩川水害訴訟(最一小判平成2年12月13日民集44巻9号1186頁。Ⅱ―238)
事案:テレビドラマの題材にもなった有名な事件である。昭和49年8月30日から9月1日にかけての豪雨によって多摩川が増水し、同水系の工事実施基本計画により改修や整備が必要とされていなかった箇所の堤防が計画高水流量の規模の洪水により破壊され、家屋の流出などに至った(破堤型水害)。東京地判昭和54年1月25日判時913号3頁は原告らの請求を認めたが、東京高判昭和62年8月31日判時1247号3頁は大東基準をストレートに適用して原告らの請求を棄却した。そのため、原告らが上告し、最高裁判所第一小法廷は本件を東京高等裁判所に差戻した。
判旨:①「国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい、このような瑕疵の存在については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきものである。ところで、河川は、当初から通常有すべき安全性を有するものとして管理が開始されるものではなく、治水事業を経て、逐次その安全性を高めてゆくことが予定されているものであるから、河川が通常予測し、かつ、回避し得る水害を未然に防止するに足りる安全性を備えるに至っていないとしても、直ちに河川管理に瑕疵があるとすることはできず、河川の備えるべき安全性としては、一般に施行されてきた治水事業の過程における河川の改修、整備の段階に対応する安全性をもって足りるものとせざるを得ない。そして、河川の管理についての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理における財政的、技術的及び社会的諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきであると解するのが相当である」〔前掲最一小判昭和59年1月26日、最一小判昭和60年3月28日民集39巻2号333頁(加茂川水害訴訟)〕。
②「本件河川部分については、基本計画が策定された後において、これに定める事項に照らして新規の改修、整備の必要がないものとされていたというのであるから、本件災害発生当時において想定された洪水の規模は、基本計画に定められた計画高水流量規模の洪水であるというべきことになる。また、本件における問題は、本件堰及びその取付部護岸の欠陥から本件河川部分において破堤が生じたことについて、本件堰を含む全体としての本件河川部分に河川管理の瑕疵があったかどうかにある。したがって、本件における河川管理の瑕疵の有無を検討するに当たっては、まず、本件災害時において、基本計画に定める計画高水流量規模の流水の通常の作用により本件堰及びその取付部護岸の欠陥から本件河川部分において破堤が生ずることの危険を予測することができたかどうかを検討し、これが肯定された場合には、右予測をすることが可能となった時点を確定した上で、右の時点から本件災害時までに前記判断基準に示された諸制約を考慮しても、なお、本件堰に関する監督処分権の行使又は本件堰に接続する河川管理施設の改修、整備等の各措置を適切に講じなかったことによって、本件河川部分が同種・同規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を欠いていたことになるかどうかを、本件事案に即して具体的に判断すべきものである」。
▲上記に引用したところを要約すると、次のようになる。 この判決は、一般論として大東基準を承認するが、ストレートに適用していない。
a.工事基本計画が策定され、その計画に準拠して改修・整備がなされ、またはその計画に準拠して新規の改修・整備の必要がないものとされた河川の改修・整備の段階に対応する安全性とは、「同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性をいう」。
b.「許可工作物の存在する河川部分における河川管理の瑕疵の有無は、当該河川部分の全体について、前記判断基準の示す安全性を備えていると認められるかどうかによって判断すべきであ」る。
c.「本件における河川管理の瑕疵の有無を検討するに当たっては、まず、本件災害時において、基本計画に定める計画高水流量規模の流水の通常の作用により本件堰及びその取り付け部護岸の欠陥から本件河川部分において破提が生ずることの危険を予測することができたかどうかを検討し、これが肯定された場合には、右予測をすることが可能となった時点を確定した上で、右の時点から本件災害時までに前記判断基準に示された諸制約を考慮しても、なお、本件堰に関する監督処分権の行使又は本件堰に接続する河川管理施設の改修、整備等の各措置を適切に講じなかったことによって、本件河川部分が同種・同規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を欠いていたことになるかどうかを、本件事案に即して具体的に判断すべきである」と述べた。
d.「基本計画の下で改修が完了した河川部分」を「改修の不十分な河川」と同一視しえない。
e.管理の対象が許可工作物であるか河川管理施設であるかによって河川管理の特質、および、これに伴う諸制約の程度に著しい差異があるとはいえない。
このことから、大東基準は破堤水害には適用されない部分がある、ということになる。
5.供物関連瑕疵
●最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁(大阪空港訴訟最高裁判決。Ⅱ―149・241)
事案:大阪空港の近隣住民が、大阪空港の夜間(21時から翌日の7時まで)の使用差止め、および過去および将来に係る損害賠償の支払いを求めた民事訴訟である。一審判決(大阪地判昭和49年2月27日判時729号3頁)および控訴審判決(大阪高判昭和50年11月27日判時797号36頁)は近隣住民の請求を認めたために、国が上告した。
判旨:最高裁判所大法廷は、差止請求につき、国営空港の運営に、運輸大臣(当時)に与えられた「航空行政権」という公権力の行使を本質的内容とする権限があり、民事訴訟による請求は認められないと述べて、国の上告を認容し、近隣住民の請求を却下した。一方、損害賠償請求については国の上告を棄却し、近隣住民の請求を、過去の分についての損害賠償に関してのみ認容した。国家賠償法第2条第1項にいう瑕疵については「営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいう」とした上で、次のように述べる。 「そこにいう安全性の欠如、すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、ひとり当該営造物を構成する物理的、外形的な欠陥ないし不備に」より危害を生じさせる危険性がある場合のみでなく、「その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含み、また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者に対するそれをも含むべきである。すなわち、当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくとも、これを超える利用によって危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右営造物の設置、管理には瑕疵があるというを妨げず」、国家賠償法第2条の責任が免れられうる訳ではない。
「航空行政権」を理由として近隣住民の請求を却下した点については、4人の裁判官による反対意見がある。なお、この判決のためであろうか、新潟空港訴訟(最二小判平成元年2月17日民集43巻2号57頁。Ⅱ―192)では、行政事件訴訟法に定められる取消訴訟が用いられた。
▲この判決によると、営造物利用の態様および程度が一定の限度に留まる限りにおいては危害が生ずるおそれがなくとも、その限度を超える利用によって危害が生ずるおそれがある状況が存在する場合も、営造物の設置・管理に瑕疵があるといえる。そして、公共性の高い事業が地域住民にもたらした公害について国の損害賠償責任を認めたが、将来の損害賠償請求については否定している。また、騒音被害が著しくなってから転入した者の慰謝料請求も否定している。
●最二小判平成7年7月7日民集49巻7号1870頁・2599頁
事案:兵庫県内の国道43号および阪神高速道路を走行する自動車による騒音、振動、大気汚染によって被害を受けたとして、近隣住民が騒音や二酸化窒素の侵入差止めや損害賠償を請求した事件である。一審判決(神戸地判昭和61年7月17日判時1203号1頁)は、差止請求を不適法として却下したが、損害賠償請求については認容した。控訴審判決(大阪高判平成4年2月20日判時1415号3頁)は、差止請求を棄却し、損害賠償請求については認容した(一部変更があった)。最高裁判所第二小法廷は、差止請求を棄却する一方、過去に関する損害賠償について被告の国および阪神高速道路公団の上告を棄却した。
判旨:①「国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態、すなわち他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいうのであるが、これには営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含むものであり、営造物の設置・管理者において、このような危険性のある営造物を利用に供し、その結果周辺住民に社会生活上受忍すべき限度を超える被害が生じた場合には、原則として同項の規定に基づく責任を免れることができないものと解すべきである」(前掲最大判昭和56年12月16日)。「そして、道路の周辺住民から道路の設置・管理者に対して同項の規定に基づき損害賠償の請求がされた場合において、右道路からの騒音、排気ガス等が右住民に対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことが認定判断されたときは、当然に右住民との関係において右道路が他人に危害を及ぼす危険性のある状態にあったことが認定判断されたことになるから、右危険性を生じさせる騒音レベル、排気ガス濃度等の最低基準を確定した上でなければ右道路の設置又は管理に瑕疵があったという結論に到達し得ないものではない」。
②「国家賠償法2条1項は、危険責任の法理に基づき被害者の救済を図ることを目的として、国又は公共団体の責任発生の要件につき、公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときと規定しているところ、所論の回避可能性があったことが本件道路の設置又は管理に瑕疵を認めるための積極的要件になるものではないと解すべきである」。
③「営造物の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となり、営造物の設置・管理者において賠償義務を負うかどうかを判断するに当たっては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察してこれを決すべきものである」。
6.予測できない行動による事故
●最三小判昭和53年7月4日民集32巻5号809頁
事案:Xは、満6歳であった某日に神戸市内の道路で遊んでいた。その道路に防護柵が設けられていて、Xは道路の防護柵に設けられた手摺に後ろ向きに座ったところ、体のバランスを失い、道路の下にある県立高校の校庭に転落し、頭蓋骨陥没骨折などの傷害を負った。Xは神戸市に対する損害賠償請求訴訟を提起した。一審判決(神戸地判昭和48年8月9日判時763号79頁)はXの請求を一部認容したが、控訴審判決(大阪高判昭和52年10月14日判時882号59頁)はXの請求を棄却した。最高裁判所第三小法廷も、Xの上告を棄却した。
判旨:「国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであるところ、(中略)本件防護柵は、本件道路を通行する人や車が誤つて転落するのを防止するために被上告人によつて設置されたものであり、その材質、高さその他その構造に徴し、通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものというべく、上告人の転落事故は、同人が当時危険性の判断能力に乏しい六歳の幼児であつたとしても、本件道路及び防護柵の設置管理者である被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであつたということができる。したがつて、右営造物につき本来それが具有すべき安全性に欠けるところがあつたとはいえず、上告人のしたような通常の用法に即しない行動の結果生じた事故につき、被上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はないものというべきである」。
●最三小判平成5年3月30日民集47巻4号3226頁(Ⅱ―240)
事案:Xは、その子Aなどとともに某中学校へ行き、校庭でテニスをしていた。Aは校庭で遊んでいたが、テニスコートにある審判台に昇り、背当ての鉄パイプを両手で握って後部から降りようとしたため、審判台が転倒し、Aは下敷きとなって脳挫傷のために死亡した。XはY町に対して損害賠償請求訴訟を提起した。一審判決(仙台地判昭和59年9月18日判タ542号249頁)はXの請求を一部認容した。Y町は控訴したが、控訴審判決(仙台高判昭和60年11月20日民集47巻4号3253頁)は控訴を棄却した。Y町が上告し、最高裁判所第三小法廷は上告を認容し、Xの請求を棄却した。
判旨:「国家賠償法2条1項にいう『公の営造物の設置又は管理に瑕疵』があるとは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、右の安全性を欠くか否かの判断は、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである」(前掲最一小判昭和45年8月20日、前掲最三小判昭和53年7月4日を参照)。「テニスの審判台は、審判者がコート面より高い位置から競技を見守るための設備であり、座席への昇り降りには、そのために設けられた階段によるべきことはいうまでもなく、審判台の通常有すべき安全性の有無は、この本来の用法に従った使用を前提とした上で、何らかの危険発生の可能性があるか否かによって決せられるべきものといわなければならない」。また、「公立学校の校庭が開放されて一般の利用に供されている場合、幼児を含む一般市民の校庭内における安全につき、校庭内の設備等の設置管理者に全面的に責任があるとするのは当を得ないことであり、幼児がいかなる行動に出ても不測の結果が生じないにようにせよというのは、設置管理者に不能を強いるものといわなければなら」ない。また、「公の営造物の設置管理者は、(中略)審判台が本来の用法に従って安全であるべきことについて責任を負うのは当然として、その責任は原則としてこれをもって限度とすべく、本来の用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用しないという注意義務は、利用者である一般市民の側が負うのが当然であり、幼児について、異常な行動に出ることがないようにさせる注意義務は、もとより、第一次的にその保護者にあるといわなければならない」。
7.技術の進歩、改修・修繕など
●最三小判昭和61年3月25日民集40巻2号472頁(Ⅱ―239)
事案:昭和48年某日、大阪環状線福島駅のホームから視力障害者の原告が転落し、電車に轢かれて重傷を負った。原告は、この駅に点字ブロックが設置されていなかったことが事故につながったなどとして、国鉄に対して損害賠償を請求した。大阪地判昭和55年12月2日判タ437号89頁は原告の請求を一部認め、大阪高判昭和58年6月29日判時1094号37頁は全面的に認めたが、最高裁判所第三小法廷は破棄差戻判決を下した。
判旨:「国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠く状態をいい、かかる瑕疵の存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである」(前掲最大判昭和56年12月16日、前掲最三小判昭和53年7月4日、最一小判昭和59年1月26日を参照)。「点字ブロツク等のように、新たに開発された視力障害者用の安全設備を駅のホームに設置しなかつたことをもつて当該駅のホームが通常有すべき安全性を欠くか否かを判断するに当たつては、その安全設備が、視力障害者の事故防止に有効なものとして、その素材、形状及び敷設方法等において相当程度標準化されて全国的ないし当該地域における道路及び駅のホーム等に普及しているかどうか、当該駅のホームにおける構造又は視力障害者の利用度との関係から予測される視力障害者の事故の発生の危険性の程度、右事故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び右安全設備の設置の困難性の有無等の諸般の事情を総合考慮することを要するものと解するのが相当である」。
▲第7版における履歴:「暫定版 国家賠償法第2条」として2020年12月23日07時00分00秒付で掲載し、修正の上、2021年02月24日に掲載。
▲第6版における履歴:2017年10月26日掲載(「第27回 国家賠償法第2条」として)。
2017年11月01日、第28回に繰り下げ。
2017年12月20日修正。
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