ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

近江鉄道全路線乗車記(3)

2019年11月04日 00時00分00秒 | 旅行記

 貴生川駅に着きました。当初から近江鉄道の様子を見るという目的を持っていましたので、草津線や信楽高原鉄道には乗らないこととしました。両線には、またの機会を見つけてということになります。

 貴生川駅の北口です。「貴生川駅」と書かれている所にエレベーターが設置されています。JR草津線と信楽高原鉄道の駅は橋上駅となっており、近江鉄道の駅はホームの上にあります。

 次は八日市線に乗ります。そのためには15時28分発の彦根行きに乗ることとなります。まだ時間があるので、駅の東側にあるコンビニエンスストアに行きました。昼食をとっていなかったので、菓子パンを買いました。

 貴生川駅は甲賀市にあります。そう、伊賀と並ぶ忍者の里として有名で、伊賀市と甲賀市は忍者対決をするそうです(しかも最終決戦は市長対決であるとか)。

 ところで、皆様は甲賀をどのように読まれますでしょうか。

 「こうが」と読む方が多いと思われますが、現在、正式の読み方は上の写真にもあるように「こうか」です。貴生川駅からJR西日本草津線に乗って柘植駅へ向かうと3つ目が甲賀駅ですが、この駅の読み方も「こうか」です。

 地名は難しいもので、松阪牛で有名な三重県松阪市も「まつざか」と読む人が多いのですが、正式には「まつさか」です。私は「まつさか」と読んで親に怒られたことがあります。そこで「辞書でも地図でも読んでみて」と言ったら「本当だ」と納得されました。

 近江鉄道の貴生川駅に戻ると、2番線に「赤電」の方向板が付けられた車両が停まっています。どういう訳か、運転士が少し動かしては止めて、という作業を繰り返していました。もう昔の話になりますが、西武鉄道でもこのような、あるいはこれと似たような塗装の電車が走っていました。改造されているとは言え、正面のスタイルは西武401系のままと言ってよいでしょう。

 1番線に停車中の彦根行きに乗ると、2号車のほうに多くの客が乗っています。1号車では無人駅で扉が開かないためですが、それでも私を含めて4人が乗っていました。発車時刻が近くなるにつれて増えてきました。

 ここから八日市駅までは、私にとってただ折り返すだけなのですが、日野駅の構内にLE10のための車庫、給油施設などの跡が残っていました。たしかに、八日市駅から貴生川駅までの間が、近江鉄道の路線で最も乗客が少ない部分でしょう。しかし、11月1日に乗ったところでは、LE10の1両編成では乗客をさばけないだろうとも思えます。早々に2両連結となり、合理化の意味は薄れたのでした。

 八日市駅で降りると、目の前に16時10分発の近江八幡行きが止まっています。これに乗りました。2号車(モハ1808)の座席は埋まっており、立っている人もいます。1号車(モハ808)には、私を含めて15人の客が乗っています。今回利用した限りでの話となりますが、近江鉄道の各路線の接続はよく、本数の少なさをカヴァーしているようにみえます。

 発車して右へ曲がり、すぐに新八日市駅に着きます。7、8人の客が乗りました。この辺りは完全な住宅地で、速度もそれなりに出ますが、すぐに太郎坊宮前駅です。「たろうぼうぐうまえ」と読みますが、車内アナウンスは「たろぼうぐうまえ」と言っています。方言なのでしょう。発車すると、また広大な水田が見えてきました。

 交換駅の市辺駅に着きます。かなりの徐行で進入するので、すぐに駅到着とわかります。発車して、大きく右へカーブし、再び水田と住宅地を抜けます。八日市線は近江鉄道全線で電車が最も速く走る路線と言えるでしょう。60km/h以上を出しているはずです。

 交換駅の平田駅に着き、何人かが乗りました。八日市行きと交換です。

 左側の水田の背後に山が迫ってきます。林の脇を通り、左側に工場、右側に住宅地と水田を見て、武佐駅(交換駅)に着きました。10人くらいの客が乗ってきました。既に夕方であるとはいえ、ローカル線としては乗客が多いのではないでしょうか。

 広大な水田、東海道新幹線の下を通り抜け、速度を上げます。今回乗った中では最も速く感じられました。左にAEON(イオン近江八幡ショッピングセンター)が見え、近江八幡駅が近いことがわかります。彦根駅と近江八幡駅のどちらの周辺が、街として大きいのでしょうか。電車は減速し、左へ曲がり、右にJR東海道本線が見えると、16時29分、近江八幡駅に到着です。これで近江鉄道の鉄道全線を乗り終えました。

 一日乗車券を持っていますから、再び近江鉄道線で宿泊予定地に近い彦根駅まで利用してもよいのですが、東海道本線の新快速に乗ることとしました。近江鉄道線では八日市駅で乗り換えなければなりませんし、1時間ほどを過ごさなければなりません。新快速であれば20分もかかりません。

 こうして、4時間7分をかけて近江鉄道の全路線を利用しました。たった一度ですから多くのことは言えませんし、詳細な分析を行った訳でもないのですが、「近江鉄道全路線乗車記(1)」で記したように、潜在的な鉄道利用可能性は高いのではないかと考えられます。沿線に大規模な工場が多く、それを象徴するかのように、近江鉄道にはフジテック前、スクリーン、京セラ前という駅があります。名称からすぐにわからなくとも、実際に利用してみると目に付くのです。

 また、東海道本線には新快速が走っています。列車によって所要時間に多少の差はあるでしょうが、近江八幡駅から京都駅までは40分弱、大阪駅までは1時間5分程です。また、彦根駅から京都駅までは50分弱、大阪駅までは1時間20分弱というところでしょう。遠いことは否めませんが、通勤や通学が不可能という訳でもなさそうです。

 人口という点に着目すると、国土地理協会の調査によれば、2019年4月における近江鉄道沿線市町村の人口は次の通りです(所在駅も記しておきます)。

 彦根市〔フジテック前駅、鳥居本駅、彦根駅、ひこね芹川駅、彦根口駅、高宮駅、スクリーン駅〕:112,997人

 近江八幡市〔近江八幡駅、武佐駅〕:82,063人

 甲賀市〔水口松尾駅、水口駅、水口石橋駅、水口城南駅、貴生川駅〕:90,833人

 東近江市〔五箇荘駅、河辺の森駅、八日市駅、長谷野駅、大学前駅、京セラ前駅、桜川駅、朝日大塚駅、朝日野駅、新八日市駅、太郎坊宮前駅、市辺駅、平田駅〕:114,186人

 米原市〔米原駅〕:39,138人

 日野町〔日野駅〕:21,436人

 愛荘町〔愛知川駅〕:21,348人

 豊郷町〔豊郷駅〕:7,347人

 甲良町〔尼子駅〕:6,995人

 多賀町〔多賀大社前駅〕:7,561人

 これだけの人口を抱える地域を走り抜けている訳です。勿論、沿線人口を厳密に考えるならば、以上の数字よりは減ります。しかし、近江鉄道全路線と比較して沿線人口が少ないというローカル線は日本に多くあるはずです。すると、近江鉄道全路線には潜在的な通勤利用需要、通学利用需要はかなりあるのではないかと思われるのです。  

 ただ、「近江鉄道全路線乗車記(2)」で記したように、金曜日の午後から夕方にかけてという条件があるとは言え、20代、30代、40代と思しき男性はほとんど乗っていなかったのでした。これに対し、同年代の女性の乗客は比較的多いようです(これは、11月2日に養老鉄道養老線に乗車した時にも感じたことでした)。男性の客は、10代でなければ若くとも50代、大体60代以上ということになります。

 滋賀県南部の自家用車普及率がどの程度かわかりませんが、 同県でも買い物は郊外型大規模店舗へ自家用車で行く、というスタイルが普及しているのでしょう。これは鉄道に限らず公共交通機関にとって痛手となったはずです。

 ただ、最近、郊外のショッピングモールについては、過当競争のためか、比較的短期間で閉鎖される例などが少なくありません。具体的なことは書きませんが、滋賀県には非常に有名な例があります。高齢化、自家用車所持による負担などを考えると、自家用車普及率が今後も一貫して上昇を続けるとは考えがたいでしょう。そうなれば、再び鉄道やバスに注目が集まる可能性も否定できません。

 私鉄は営利企業ですが、単なる営利企業ではなく、公共的役割を担う企業でもあります。その意味において、近江鉄道全路線の行方は滋賀県、上記沿線市町村、そして住民の選択にかかっていると言えます。私は、一度乗っただけではありますが、このまま廃止してしまうのは勿体ないと感じました。

 また、あくまでも相対的であるとはいえ、男性よりも女性のほうが、年齢層に関係なく鉄道などの公共交通機関の利用率が高いとすれば、交通政策などに女性の意見をもっと多く取り入れたほうがよいでしょう。故宮脇俊三氏のように大手私鉄のパターンダイヤを嫌った鉄道ファンの意見を受け入れていたら、公共交通機関の不便さは解消されないままに終わります。距離を置くことができる人の意見こそが有益である、といえるのかもしれません。


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