ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

地域振興のための商品券~果たして地域振興に貢献するか~

2015年02月27日 12時13分40秒 | 国際・政治

 (今回の記事は、カテゴリーを「社会・経済」、ジャンルを「経済」としてもよいものですが、現在の内閣が基本政策の一つとして打ち出している「地方創生」と深く関わるため、「国際・政治」→「政治」としておきます。)

 このブログでは、「地方創生」と「地方分権」との関係について「「まち・ひと・しごと創生法」と地方分権(とりあえず「その1」)」(2014年12月05日10時06分39秒付)、「「まち・ひと・しごと創生法」と地方分権(その2)」(2014年12月15日00時05分25秒付)、「「まち・ひと・しごと創生法」と地方分権(その3)」(2014年12月26日01時04分42秒付)、として記してきました。十分な内容ではないことを承知しておりますが、これらの記事を書いた時点においては、次のような疑問がありました。

 「地方創生と地方分権は全く別個の概念であり、両者は少なくとも部分的に対立するものではないのか。あるいは、地方創生とは、少なくとも部分的に地方分権を否定する概念ではないのか。」

 「ふるさと納税」の拡充、地域振興のための交付金などという形で、政策は進められています。これらが妥当なものであるかどうか、疑問無しとはしないでしょうが、全国の地方自治体の多くは、「地方分権」ではなく「地方創生」にこそ活路などを見出しているように見えます。そのような中で、今日(2015年2月27日)付の朝日新聞朝刊3面14版に掲載された「地域振興に商品券 効果は? 『使い道自由』交付金4200億円」という記事(以下、朝日①記事。デジタル版では、今日の5時付でhttp://digital.asahi.com/articles/DA3S11623224.htmlとして掲載されています)が興味深い内容を含んでいるので、ここで紹介しつつ、少しばかり考えをめぐらせてみましょう。

 商品券というと、小渕内閣時代の「地域振興券」を想起される方も多いでしょう。1999年に各地で施行されましたが、そもそも与党、とくに永田町でも懐疑的な意見が多かったと言われており、実際に蓋を開けてみたら期待された効果はほとんど現実のものとはならなかったのです。「交付の対象を限定したからである」という解釈も成り立ちえますが、そもそも一時的に消費を増やすだけの政策であったため、持続的な効果を生じうるものではなかったでしょう。選挙対策であると言われるならば、その通りであり、その面での効果はあったのかもしれませんが、これでは超短期的な効果しかないことが明らかです。

 その後も似たような政策が繰り返されましたが、しっかりとした検証がなされてきたのかどうかは不明確であると言えるでしょう。しかし、再び商品券配布政策が繰り返されようとしています。

 朝日①記事には、大和郡山市(奈良県)、茨城県、延岡市(宮崎県)および紫波(しわ)町(岩手県)の話が書かれています。とくに、商品券ということでは大和郡山市の話が参考になるでしょう。小渕内閣期の地域振興券でも同じような話があったからです。

 大和郡山市は、昨日(2月26日)に補正予算案を同市議会に提出しました。その中に、プレミアム付き商品券の発行が盛り込まれています。何枚綴りなのかはわかりませんが、1冊の商品券を1万円で購入します。そうすると、12000円分の買い物をすることができるというものです。バスの回数券と似ているシステムで、勿論、大和郡山市内でしか使えません。

 しかし、大和郡山市内であれば、どこの店でも使用できる訳です。既に同市は2012年度から商品券発行政策を行っていますが、「やはり」というべきか、商品券の多くは地元の商店街などで使われておらず、イオンモール大和郡山など、大型店で使用される割合が非常に高いとのことです(消費者とすれば当然の行動であり、責められるような話ではありません)。2014年度に大和郡山市商工会が調査したところ、商品券の91%は大型店で使用されていました。地域の雇用(主にパートタイム労働)には役立つかもしれませんが、自営業の振興には役立っていないと言えるでしょう。朝日①記事を引用させていただくならば「地元商店街の活性化もねらいの一つだったが、この3年で商工会の会員数は1198店から1118店に減った」とのことです。プレミアムが付いたところで、同じ結果となるでしょう。

 茨城県は、2500円で購入すると5000円分も使用できるという、プレミアムとしては破格とも言える宿泊券を6万枚発行します。そのための補正予算案を県議会に提出するというのですが、4億5千万円も支出するだけに、効果の検証が望まれます。

 朝日①記事によると、この宿泊券は2013年度から始められたそうで、「県内の宿泊者数や観光客が使うお金は2割近く増えた」のですが、「宿泊券が使える宿の登録数は当初185カ所あったが、『宿泊券の利用がゼロだった』などの理由で抜ける宿が相次ぎ、2年目は133カ所に」減少したとのことです。しかし、茨城県は「観光施設の入場券などが入った『周遊券』も新たに売り出す予定」を立てています。

 延岡市も、配布された「交付金の大半をプレミアム商品券に充てる」とのことですが、一方で、人口減少の「原因を探るところから始めようと、昨年の転出・転入世帯を対象に引っ越しの理由を尋ねる調査を始め」ました。

 最も興味深いのは紫波町の話でしょう。ここは、交付金の一部を再開発事業に充てます。詳しくは書かれていないのですが、2009年度から紫波町内にある東北本線の、おそらくは紫波中央駅(市内には日詰駅、古館駅もあります)周辺の再開発事業を進めており、既に「オガールプラザ」という複合施設が存在しており、ここには図書館、地域交流センター、子育て応援センター、病院、学習塾、スーパーマーケットなどが入居しています。これによって「駅周辺の人口が5%伸びた」ということで、紫波町は「民間がまちづくりを主導する原則は変えないという」方針であるとのことです。

 交付金と言えば、竹下内閣の「ふるさと創生事業」を思い起こさせますが、今回の交付金は昨年12月27日になされた閣議決定に基づいています。総額で3.5兆円という経済対策で、地方自治体に交付金を配り、使い途は地方自治体の考えるところに委ねるというものです。だからこそ交付金なのであり、地方交付税と同じようなものですから、地方自治体がいかなる政策を打ち出すかが問われる訳です。この件については、2014年12月27日付の朝日新聞朝刊3面14版に掲載された「政権、地方重視前面に 3.5兆円経済対策、きょう決定」という記事(以下、朝日②記事。見出しはデジタル版によります。http://digital.asahi.com/articles/DA3S11526883.html)が参考となります。朝日②記事は、交付金を目玉とする経済政策について「来春の統一地方選を意識し、地域経済を下支えするねらいもあるが、かつての地域振興券のような『ばらまき』にもなりかねない」と指摘しています。

 甘利明経済再生担当大臣(当時。現在の第三次安倍内閣においても同じ)によれば地方と消費を焦点に充てたということになる訳ですが、やはり2014年7月~9月期のGDPがマイナスとなったことが大きかったようです。アベノミクスの「恩恵」を地方に、消費者に実感してもらいたいということなのでしょうが、問題は、過去に行った経済対策の検証をしっかりと行ったか、ということです。この点が政治主導では疎かにされかねないだけに、強調されなければならないでしょう。

 朝日②記事では、1999年の「地域振興券」について「子どもやお年寄り向けに1人2万円分の商品券を配ったが、旧経済企画庁(現内閣府)の分析では、消費喚起効果は振興券使用額の3割強、GDPの押し上げ効果は0.1%程度にとどまった。09年に麻生政権が配った1人1万2千~2万円の『定額給付金』も、内閣府の分析で消費を増やす効果は給付額の3割程度だった」と指摘されています(第一生命経済研究所の熊野英生氏による厳しくかつ的確なコメントも参照してください)。

 ともあれ、「地方創生」政策に基づく経済政策は推進され、交付金も各地方自治体に配分されます。各地方公共団体がいかなる政策を打ち立てるかが課題となります。育児や教育など、長期的な視点を必要とする政策は、短期的な効果を測ることが難しいために敬遠される可能性もありますが、このような方面にこそ有意義に公的資金を利用して欲しいと考えるのは、私だけでしょうか。

 ★★★★★★★★★★

 このところ、大臣の金がらみの問題が続発し(あたかも、2006年9月から1年しか続かなかった第一次安倍内閣・第一次安倍改造内閣の再現を見ているかのようです)、果たして2015年度当初予算が2014年度内に成立するかどうかがわからないような状況となっています。それ以前に、昨年の衆議院解散により、厳しい日程になっていました。衆議院のサイトには現在開かれている第189回国会の「議案の一覧」が掲載されていますが、例年よりも議案数がまだ少なく、提出日も遅くなっています。

 例えば、2015年度当初予算(一般会計予算、特別会計予算および政府関係機関予算)が内閣から衆議院に提出されたのは2月12日ですし、「所得税法等の一部を改正する法律案」(閣法3号)は2月17日に内閣から衆議院に提出され、26日に衆議院財政金融委員会に付託されました。また、「地方税法等の一部を改正する法律案」(閣法5号)は、やはり2月17日に内閣から衆議院に提出され、26日に衆議院総務委員会に付託されました。一方、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」(閣法8号)などは、2月20日に内閣から衆議院に提出されたものの、まだ(衆議院内の各委員会への)付託がなされていないようです。 

 2015年度税制改正の内容を含む諸法律がいつ成立するか、その他の重要な法律がいつ成立するか、注意をしていますが、会期の延長をしなければ多くの議案が会期中に審議を終えられなかったが故に閉会中審査となるか廃案となるか、ということになるかもしれません。


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