2023年度に入ってから、路線バスや鉄道路線の減便のニュースをよく見かけるようになりました。9月に発表された金剛自動車のバス路線全廃は衝撃的ではありましたが、或る程度は予想されていることであったのかもしれません。あまり良くない表現かもしれませんが、金剛自動車の件は昨今の公共交通機関の現状をよく示す象徴と考えてもよいでしょう。
世に2024年問題と言われますが、これは2024年4月から事業用自動車(バス、タクシー、トラックなど)の運転手の労働時間規制が始まること、例えば残業時間に対する規制が厳しくなることから、旅客輸送、貨物輸送の双方に減便その他の影響が出る問題をいいます。COVID-19のために首都圏の深夜バスが軒並み運休となり、生活スタイルの変化なども起こったことで廃止されたりもしていましたが、それで話は終わらず、路線バスの減便などに至ることとなりました。一方、やはりCOVID-19のために、否、それ以前からネットショッピングの普及によって宅配業者の利用件数は増えたでしょうが、これからはその方面にも影響が出ることでしょう。旅客輸送、貨物輸送のいずれについても、運転手の過酷な労働の実態はよく知られておりますし、バスやタクシーでは高齢化も進んでいます。その意味において、運転手の労働時間規制は必要です(そもそも、ここまで過酷になったことの一因は規制緩和のためでしょう)。公共交通事業者は、この2024年問題に対処するために列車やバスの減便ダイヤ改正を進めている訳ですが、利用者の生活に影響が出ることも否めませんし、既に減便が実施されている地域も存在するため、2023年問題と表現してもよいのではないかと考えたのです。
また、人口の減少、モータリゼイションの深化などにより、各地の公共交通機関は維持可能か否かが問われる水準と同じか下回るような状況に追い込まれています。そのため、従来からの路線を維持するにも費用ばかりかかりますし、運転手が不足することにもなります。さりとて、公共交通機関空白地帯が増えるならば、各都道府県、各市町村の産業政策や観光政策に負の影響が出ることとなります。私自身が大分市に住んでいた頃(今から20年程前です)に九州各地の観光地などを訪れて思ったのは、公共交通機関を利用するのでは不便に過ぎる観光地、言い換えれば自家用車で訪れることが前提になっている観光地など、遠方からの客を呼べる訳がないということです。自家用車で訪れるならば宿泊の必要もない場合が多いですし、鉄道路線もなく、バスの本数も極端に少なければ、行先とすることをあきらめる、そこまでいかなくとも戸惑うことでしょう。
さて、本日(2023年10月12日)は長崎県の話題です。朝日新聞社のサイトに、本日の10時付で「長崎バスが来年4月から16区間を廃止 2024年問題うけ」(https://www.asahi.com/articles/ASRBC7QVPRBCTOLB00B.html)という記事が掲載されていました(以下の引用も、原則として同記事からのものです。なお、長崎バスは、長崎自動車が運行しているバスの通称です)。
記事によると、長崎自動車は、2024年4月1日に9路線16区間を廃止することを昨日発表しました。合計で23.41kmとのことです。それだけでなく、32箇所のバス停も廃止されます。そのうちの29箇所は、2022年度における平日1便あたりの利用者が0.9人以下であるとのことで、これでは廃止されても仕方のないことでしょう(残りの3箇所の廃止理由が書かれていないのは気になるところですが)。
9路線16区間の廃止の理由は「自動車運転者の労働時間改善のため、同月から労働時間の基準が厳しくなり運転者不足に拍車がかかる一方、沿線の人口減少と少子高齢化でバス利用者が減り続けていること」と説明されたようです。しかも、日本各地で多く見られるように「新規に募集しても応募が少ない『なり手不足』で運転者を確保しづらい状況で、他路線も将来的には減便など見直しがなされる可能性もあるという」訳ですから、かなり深刻な状況にあると言わざるをえません。
記事には「影響をうける区間」が示されていますが、あまり詳しく書かれておらず、記事にも長崎自動車のサイトに掲載されている「路線(区間)の廃止について」を参照するように書かれていたので、実際に参照してみました。次の路線・区間が廃止予定とされています。
①式見経由桜の里線
畝刈〜大見崎〜相川(5.9km。廃止される停留所は、吉原、沖平東、沖平南、大見崎、田熊の浦。)
式見〜手熊〔海岸通り。1.3km。廃止される停留所は、式見(海岸通り)、手熊(海岸通り)。〕
②岬木場(野母崎)線
岬木場〜諸町(5.1km。廃止される停留所は、岬木場、根井路、長迫、黒瀬、井上、小泊、製氷工場前。)
③岬木場(川原)線
川原公園前〜岬木場(4.9km。廃止される停留所は、池田、川原木場、木場公民館、岬木場)
④無線中継所線
無線中継所前〜開〔0.9km。廃止される停留所は、無線中継所前、星取、開(中継場線)。〕
⑤七工区線
七工区中央〜金堀団地(0.95km。廃止される停留所は、七工区中央、七工区、金堀団地。)
⑥サンセットマリーナ線
福田車庫前〜福田サンセットマリーナ(0.6km。廃止される停留所は、福田サンセットマリーナ。)
⑦ミニバス“元気くん”
大学病院構内など5区間〔1.53km。廃止される停留所は、大学病院玄関前、歯学部玄関前、大橋(車庫内)〕
⑧ミニバスけやき台線
三川橋〜けやき台(1.0km。廃止される停留所は、下けやき台、中けやき台、上けやき台、けやき台。)
⑨プレミアムライナー川平バイパス線
上横尾〜(直行)〜横尾中央など3区間(1.23km。長崎自動車は「運行系統はR5年5月に廃止済み」と記しています。廃止される停留所はありません。)
このブログに掲載することは避けますが、長崎自動車のサイトには地図も掲載されています。⑤のみ時津町で、他は長崎市内です。⑦は市街地と言ってよい場所であり(近くに長崎電気軌道の大学病院前電停があります)、その他は市街地から離れた場所です。⑧は、地図を見る限りではニュータウン路線ではないかと思われます。ここでもニュータウンによくある問題が見られるのでしょうか。
長崎県を訪れたのが3回か4回、長崎市を訪れたのが1回(しかも20年以上も前)しかなく、長崎県内で路線バスを利用したことがないので(鉄軌道と徒歩だけでまわりました)、事情などはよくわかりません。ただ、今回、改めて長崎市の地図を見ると、思っていたよりもかなり広い面積を有していることがわかりました。これは、平成の大合併という大波の結果であり、2005年1月に香焼町、伊王島町、高島町、野母崎町、三和町および外海町を編入し、2006年に琴海町を編入したことによるものです。同年の長崎市の人口は45万人を超えていましたが、2023年9月における推計人口は40万人を下回っています。当時、合併のメリットがあれこれと言われていたことを思い出しますが、結局、人口は減少した訳です。おそらくは地理的な条件によるところが大きいのでしょうが、様々な社会的条件が重なっていることは言うまでもありません。
今回は長崎県の例を扱いましたが、日本全国、各都道府県でこれからも減便ダイヤ改正の話題に溢れることでしょう。もとより、理由には各地で共通のものと各地に固有のものとがあるでしょう。それぞれの事情を観察しなければなりません。しかし、高度経済成長期、あるいはそれ以前から見られた一極集中(全国的には東京への)、モータリゼイション、鉄道敷設法に基づいたローカル線建設も一因となった日本国有鉄道の弛緩さらに破綻、公共交通機関に独立採算制を求める日本の政策などが、公共交通機関の衰退につながったと言えるでしょう。これまで、各都道府県および各市町村が公共交通機関の維持・発展にどれだけの関心(しかも真剣なもの)を向けてきたのか、疑わしいところもありますが、まちづくり、地域づくりを進めるためにも、地域の公共交通は柱の一つとして考えられる必要があります。
それだけではありません。地方公共団体にのみ公共交通機関の維持・発展の役目を押しつけるのは筋違いです。理由は簡単で、交通のネットワークは基本的に各地方公共団体の枠を超えるものであるためです。少なくとも、ネットワークの維持のための基本線については、国が積極的に関与すべきです。勿論、地方分権の考え方を忘れてはなりませんが、地方公共団体に全てを丸投げすることとは意味が異なります。その意味において、今年の通常国会で成立し、今月1日からほぼ完全に施行された地域公共交通活性化再生法には一定の評価を下すことができますが、不十分であると考えられるのも事実です。
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書いているうちに、九州新幹線長崎ルート、一般的な呼称では西九州新幹線のことを思い出しました。2022年9月23日に佐賀県の武雄温泉駅と長崎駅との間で開通したのですが、本来であれば九州新幹線の新鳥栖駅から長崎駅までの路線なのであり、新鳥栖駅から武雄温泉駅までの区間の開通が何時になるのか全く見込めません。これは、佐賀県の費用負担問題があるためで、同県はフリーゲージトレインの導入を条件としていたようです。在来線を活用できるからでしょう。しかし、フリーゲージトレインの開発は断念されました。フル規格で進めるしかないのです。佐賀県の立場も尊重する必要はありますが、いつまで現在のように、博多駅から武雄温泉駅までは鹿児島本線、長崎本線および佐世保線を走る在来線特急を走らせ、武雄温泉駅で新幹線に接続するという方法を採るのでしょうか。九州新幹線(鹿児島ルート)と異なり、かなり長引く蓋然性が高いと思われます。そうなれば、高速バスに乗客を奪われることも十分に想定できます。元々、九州では高速バス路線網が発達しており、利用客も多かったからです。
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