アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)がノバク・ジョコビッチ(セルビア)を、6-4、6-3のストレートで破り、初優勝を遂げた。
グループリーグを終えて準決勝進出者が決まった時点というか、グループリーグの最中で「ジョコビッチの優勝は堅い」と思ったテニスファンが多かったはずだ。(私もフェデラーファンでありながら、ジョコビッチを破るのは厳しいなあと)
ノバク・ジョコビッチ
「昨年夏から今年前半」と「今年のウィンブルドン以降」では、“ジョコビッチがふたりいるのではないか”と思えるほどの、天と地ほどの違いがあった。
右肘の故障が悪化し、昨年のウィンブルドンの途中棄権。その後、今年1月の全豪オープンには復帰したが(4回戦敗退)、その後、手術し休養。3月に復帰したが、BNPパリバ・オープンではダニエル太郎に、マイアミオープンではブノワ・ペールに敗れる(共に初戦)など、世界ランクは22位まで後退してしまった。
しかし、ジョコビッチはウィンブルドン選手権からパリ・マスターズの決勝でハチャノフに敗れるまで22連勝(この間、全米オープン、シンシナティ・マスターズ、上海マスターズを制覇)と無敵状態であった。
パリマスターズで敗れたものの、今大会のグループリーグと準決勝(対アンダーソン戦)でも無敵ぶりは健在だった。
けれども、決勝戦を迎えた時点では、“もしかしたら”という感触があった。
そう、準決勝でズべレフがロジャー・フェデラーを2-0のストレートで撃破したからだ。
ロジャー・フェデラー
フェデラーは昨年、全豪とウィンブルドンを制覇、マスターズ1000では3大会で優勝(準優勝1回)と見事な復活を遂げた。今年も全豪制覇はしたが、ウィンブルドンでは準々決勝敗退、全米も4回戦敗退、マスターズ1000も準優勝2回に留まり(マスターズ500での優勝はある)、不本意な成績と言える。
しかし、100%とは言えないモノの、各大会で上位に進出し、ゲームの内容も高レベルを維持している。パリ・マスターズの準決勝のジョコビッチ戦は、両者の名勝負の中でも上位に入る激闘だった。
今大会を含めた今年のフェデラーの印象としては、
①ファーストサーブの成功率が低い(これが苦戦の一番の原因)
②ストローク戦でのアンフォーストエラーが多い
③ストロークの威力がやや減少(ストローク戦で圧されることが増えた)
④パッシングショットのミスが若干増えた
⑤ネットプレーは健在で、そのセンス、反応速度、ボールコントロールは素晴らしい
⑥アプローチショットは弱め
⑦相手が執拗にフェデラーのバックを攻めることが多くなった(最近はスライスボールでうまく対応している)
今大会のフェデラーは、初戦で錦織に敗れたものの、立て直し、ティエム、アンダーソンにストレート勝ちで1位通過を果たしている。正確なショットや絶妙なネットプレーを軸に快勝。スライスボールを効果的に駆使し、アンフォーストエラーも少なかった。ただ、依然、ファーストサーブの成功率は低かった。
そして、準決勝。
フェデラーのグループの方が日程を一日早く消化し、ジョコビッチのグループの準決勝進出者を待つ形となった。2試合終了時点では4名全員に2位通過の可能性があった。もちろん、ジョコビッチと準決勝で当たるのは最悪だが、ズべレフも嫌だなと(残る二人はチリッチとイスナー)。
アレクサンダー・ズベレフ
21歳。次世代を担うであろう逸材。
昨年5月のBNLイタリア国際で、準々決勝でラオニッチ、準決勝でイスナーに勝利。決勝ではジョコビッチを破り、マスターズ1000で初優勝。ロジャーズ・カップ決勝でもフェデラーを破り優勝。11月には世界ランク3位に。
ただ、4大大会では目立った成績を残せず、今年も伸び悩みの感があり、今大会前の世界ランクは5位。
198センチの長身から繰り出すサーブは強力。足も速くコートカバー能力も高い。ストロークも安定しており、ネットプレーもうまい。
要するに典型的万能タイプ。
4大大会で勝てないのが不思議なくらいだが、おそらく精神的にムラがあるせいだろう。
高いポテンシャルなので、当然目指すプレーも高レベル。しかし、それ故、思い描くプレーができないとストレスが溜まり、冷静さを失うことが多い。ラケットをたたき折るシーンも多い。
プレーへのいら立ち、いらだつ自分への怒りが、さらにプレーを乱す……
今大会のグループリーグで、ジョコビッチとの対戦があった。
第1セットは拮抗した展開で4-4で迎えた第9ゲーム。ズべレフは2度のブレイクポイントを握ったが、モノにできず、逆に第10ゲーム、2度のブレイクポイント(セットポイント)をしのいだが、最後にこの試合初めてのダブルフォルトで第1セットを失った。
第2セットも第2ゲームのサービスゲームをデュースでブレイクポイントを握られながらも、凌ぐなど踏みとどまった。その直後の第3ゲームのファーストポイントは、フェデラー×ジョコビッチ戦を思わせるようなスーパープレーの連続だった。しかし、前ゲーム(第1セットの最終ゲーム)から、凡ミスが増え始め、このゲーム辺りから、ズべレフに苛立ちが見え始めた。
第4ゲームで凡ミスを連発し、ゲームを失うと、集中力を失い、堰が切れたように、一気に1-6で第2セットを失ってしまった。
しかし、このジョコビッチ戦以外は、充実したプレーで、2勝1敗で準決勝に進出した。
ジョコビッチ戦の第1セットと合わせて考えると、やはり、フェデラーとはもちろん、ジョコビッチにも伍して戦えるポテンシャルを持っている。
準決勝 フェデラー × ズベレフ
第1ゲーム、ズべレフがダブルフォルトを犯し、15-30。
次のプレーのストローク戦、フェデラーの強めのストロークがネット。この後、サーブのフリーポイント(相手がボールに当てただけで返球できない)、サービスエースとすんなりサービスキープができ、気分が楽になった。ストロークをネットに掛けたこのプレーが分岐点になった気がしてならない。
この後は白熱の試合内容。ズべレフがストロークの威力で押していたが、フェデラーはスライスを織り交ぜるなど球種や打点を変えて対抗、時折見事なネットプレーでゲームの流れを渡さなかった。
しかし、フェデラーはサービスゲームでズべレフにポイントを先行されると苦しくなる。
フェデラーのファーストサーブはやはり成功率が低く、ファーストサーブ自体も威力が若干弱く、苦戦時を切り抜けてきたサービスエースも取れない。
第12ゲーム、強烈なリターンを決められ、次のプレーでは、パッシングのスーパーショットを決められ、0-30とリードされると、この後も連取され、ゲームを失うと同時に第1セットを落としてしまった。ズべレフはスーパープレーが出ると強さが2割増しになる。
しかし、フェデラーもタダでは終わらせない。第2セットの第3ゲーム、40-0とブレイクチャンスをつかむ。このチャンスを30-40と盛り返されるも、バックの強打を決めてブレイクする。
けれども…直後の第4ゲームをブレイクバックされてしまう。この後は、白熱の展開が続き、タイブレーク(なぜか“タイブレイク”ではなく“タイブレーク”と発音されることが多い)にもつれ込む。
4-5で迎えてのフェデラーのサービス。深いストロークがアプローチショットになり、チャンスボールが。これをネットに詰めたフェデラーがボレーをネットに掛けてしまう。4-6となり、マッチポイント。1本踏ん張り5-6としたが、サーブはズべレフ。
これを強打のストロークでフェデラーを揺さぶった後、最後はエースをフェデラーのコートに叩き込み、勝利をものにした。
フェデラーは無念の準決勝敗退。
今大会、ストロークは正確で、スライスボールも巧みに駆使していた。ネットプレーも見事だった。質の高いテニスを維持していた。
惜しむらくは、サーブの威力と成功率が低かったこと。それと、パッシングショットが決まらなかったこと。アプローチショットも緩かった気がした。
それにしても、フェデラーはファイナルに15回出場して、なんと14回準決勝進出(グループリーグ通過)。優勝6回、準優勝4回。
決勝 ジョコビッチ × ズベレフ
ツアーファイナル準決勝というビッグゲームでフェデラーを破ったことで、ズべレフはステップアップしたのではないだろうか?そんな期待を持って、決勝戦を観た。
互いにサービスゲームをキープする淡々とした展開。しかし、ズべレフの方がスンナリキープ、ジョコビッチの方は、“苦労”というほどではないが、ラリーが続くことが多かった。
奇しくもグループリーグと同様に4-4で迎えた第9ゲームに分岐点を迎える。30-40でズべレフがブレイクポイントを握る。
ズべレフのリターンをジョコビッチがネット。今回は3球目であっけなくブレイクを決まった。
第10ゲームは、ズべレフのサーブがビシビシ決まり40-0。ジョコビッチが1本返したが、次のプレー、4球目のジョコビッチのストロークがオーバーになり、すんなりズべレフがサービスキープで第1セットを6-4でズべレフが先取した。
第1セットの主なスタッツは、ウイナー……ズべレフ13、ジョコビッチ4。アンフォーストエラー……ズべレフ7、ジョコビッチ5。1stサーブ……88%、ジョコビッチ62%。ズべレフのアンフォーストエラーが(いつもより)かなり少なく、1stサーブの入りが非常に良かった。
第2セットは出だし3ゲームはブレイク合戦。
ブレイク直後の第2ゲーム、ズべレフは勝ちを急いだのか、2つのダブルフォルトと2つのアンフォーストエラーでゲームを落とす。
ポイントとなったのは、第3ゲームの15-15からのプレー。28回のラリーの末、ネットに掛けたジョコビッチが、げんなりした表情を見せた後、ボールパーソンの差し出すタオルを受け取らず、3秒ほどしゃがみ込んでしまった。
……こんなジョコビッチは初めて観た
この試合、ズべレフは実に辛抱強かった。
ストローク合戦が何度もあったが、ひたすら来たボールを忠実にヒットし、コートの中央付近に返し続けた。中央付近で打ちあうシーンが多かったが、角度に変化をつけるのは殆どジョコビッチで、ズべレフはそれに対しても逆らわない方向へ返していた(クロスに返すのも、勝負を決めるためではなく、クロスは距離が長いので単に返しやすいだけ)。
ストローク合戦で焦れて無理に動いたり、堪えきれずネットに掛けるのはジョコビッチ。いつもとは逆の展開だった。
返球に専念したズべレフのボールがいつもより伸びていたのかもしれないし、ジョコビッチは連勝の反動が来て疲労が出たのかもしれない(トーナメントは勝てば勝つほど試合が増える)。
次のプレーも象徴的だった。
ズべレフのリターンをバックハンドでドロップショット。これがネットに掛かり、15-40。
このドロップショットは、ズべレフを揺さぶるという意図ではなく、ジョコビッチが疲れていて、ラリーを避けたように見えた。実際、ボールパーソンからボールを受け取る時のジョコビッチは肩で息をしていて、疲労の表情を隠すこともしなかった。
次のポイントも3球目を無理に強打し、ネットに掛けてしまった。ズべレフが2-1。(ブレイク数はズべレフが1つ多い)
第4ゲーム、ジョコビッチが30-15とリードするも、ズべレフのセカンドサーブを安易に打ち返しミス。ジョコビッチはゲームでブレイクバックをすることができず、3-1とズべレフがリードをキープ。
結局、第2セット、ジョコビッチは徐々に打つ手がなくなっていったという感じで、第9ゲームでもブレイクを許し、3-6で押し切られた。
ズべレフの快勝と言っていいだろう。
ズべレフがついにビッグタイトルを獲得。
将棋に例えてしまうが、豊島王位、王座に重なって見えてしまう。
来年はさらに、しかも、大きく飛躍するのではないだろうか。
ついでに語らせていただくと、フェデラーが今大会を勝つと、ツアー勝利数が100となっていた。大きな故障をしない限り、来年、マスターズ1000か500シリーズで勝利を上げると思うが、出来ればグランドスラム(4大大会)で勝利して欲しい(100回目になる必要はない)
でも、今回100回目の優勝を果たせなかったことがどうしても羽生竜王の100タイトル獲得に重なり、不吉さを感じてしまう。
まあ、私の愛するロジャーが、羽生竜王の厄を払ってくれたと考えておこう。
グループリーグを終えて準決勝進出者が決まった時点というか、グループリーグの最中で「ジョコビッチの優勝は堅い」と思ったテニスファンが多かったはずだ。(私もフェデラーファンでありながら、ジョコビッチを破るのは厳しいなあと)
ノバク・ジョコビッチ
「昨年夏から今年前半」と「今年のウィンブルドン以降」では、“ジョコビッチがふたりいるのではないか”と思えるほどの、天と地ほどの違いがあった。
右肘の故障が悪化し、昨年のウィンブルドンの途中棄権。その後、今年1月の全豪オープンには復帰したが(4回戦敗退)、その後、手術し休養。3月に復帰したが、BNPパリバ・オープンではダニエル太郎に、マイアミオープンではブノワ・ペールに敗れる(共に初戦)など、世界ランクは22位まで後退してしまった。
しかし、ジョコビッチはウィンブルドン選手権からパリ・マスターズの決勝でハチャノフに敗れるまで22連勝(この間、全米オープン、シンシナティ・マスターズ、上海マスターズを制覇)と無敵状態であった。
パリマスターズで敗れたものの、今大会のグループリーグと準決勝(対アンダーソン戦)でも無敵ぶりは健在だった。
けれども、決勝戦を迎えた時点では、“もしかしたら”という感触があった。
そう、準決勝でズべレフがロジャー・フェデラーを2-0のストレートで撃破したからだ。
ロジャー・フェデラー
フェデラーは昨年、全豪とウィンブルドンを制覇、マスターズ1000では3大会で優勝(準優勝1回)と見事な復活を遂げた。今年も全豪制覇はしたが、ウィンブルドンでは準々決勝敗退、全米も4回戦敗退、マスターズ1000も準優勝2回に留まり(マスターズ500での優勝はある)、不本意な成績と言える。
しかし、100%とは言えないモノの、各大会で上位に進出し、ゲームの内容も高レベルを維持している。パリ・マスターズの準決勝のジョコビッチ戦は、両者の名勝負の中でも上位に入る激闘だった。
今大会を含めた今年のフェデラーの印象としては、
①ファーストサーブの成功率が低い(これが苦戦の一番の原因)
②ストローク戦でのアンフォーストエラーが多い
③ストロークの威力がやや減少(ストローク戦で圧されることが増えた)
④パッシングショットのミスが若干増えた
⑤ネットプレーは健在で、そのセンス、反応速度、ボールコントロールは素晴らしい
⑥アプローチショットは弱め
⑦相手が執拗にフェデラーのバックを攻めることが多くなった(最近はスライスボールでうまく対応している)
今大会のフェデラーは、初戦で錦織に敗れたものの、立て直し、ティエム、アンダーソンにストレート勝ちで1位通過を果たしている。正確なショットや絶妙なネットプレーを軸に快勝。スライスボールを効果的に駆使し、アンフォーストエラーも少なかった。ただ、依然、ファーストサーブの成功率は低かった。
そして、準決勝。
フェデラーのグループの方が日程を一日早く消化し、ジョコビッチのグループの準決勝進出者を待つ形となった。2試合終了時点では4名全員に2位通過の可能性があった。もちろん、ジョコビッチと準決勝で当たるのは最悪だが、ズべレフも嫌だなと(残る二人はチリッチとイスナー)。
アレクサンダー・ズベレフ
21歳。次世代を担うであろう逸材。
昨年5月のBNLイタリア国際で、準々決勝でラオニッチ、準決勝でイスナーに勝利。決勝ではジョコビッチを破り、マスターズ1000で初優勝。ロジャーズ・カップ決勝でもフェデラーを破り優勝。11月には世界ランク3位に。
ただ、4大大会では目立った成績を残せず、今年も伸び悩みの感があり、今大会前の世界ランクは5位。
198センチの長身から繰り出すサーブは強力。足も速くコートカバー能力も高い。ストロークも安定しており、ネットプレーもうまい。
要するに典型的万能タイプ。
4大大会で勝てないのが不思議なくらいだが、おそらく精神的にムラがあるせいだろう。
高いポテンシャルなので、当然目指すプレーも高レベル。しかし、それ故、思い描くプレーができないとストレスが溜まり、冷静さを失うことが多い。ラケットをたたき折るシーンも多い。
プレーへのいら立ち、いらだつ自分への怒りが、さらにプレーを乱す……
今大会のグループリーグで、ジョコビッチとの対戦があった。
第1セットは拮抗した展開で4-4で迎えた第9ゲーム。ズべレフは2度のブレイクポイントを握ったが、モノにできず、逆に第10ゲーム、2度のブレイクポイント(セットポイント)をしのいだが、最後にこの試合初めてのダブルフォルトで第1セットを失った。
第2セットも第2ゲームのサービスゲームをデュースでブレイクポイントを握られながらも、凌ぐなど踏みとどまった。その直後の第3ゲームのファーストポイントは、フェデラー×ジョコビッチ戦を思わせるようなスーパープレーの連続だった。しかし、前ゲーム(第1セットの最終ゲーム)から、凡ミスが増え始め、このゲーム辺りから、ズべレフに苛立ちが見え始めた。
第4ゲームで凡ミスを連発し、ゲームを失うと、集中力を失い、堰が切れたように、一気に1-6で第2セットを失ってしまった。
しかし、このジョコビッチ戦以外は、充実したプレーで、2勝1敗で準決勝に進出した。
ジョコビッチ戦の第1セットと合わせて考えると、やはり、フェデラーとはもちろん、ジョコビッチにも伍して戦えるポテンシャルを持っている。
準決勝 フェデラー × ズベレフ
第1ゲーム、ズべレフがダブルフォルトを犯し、15-30。
次のプレーのストローク戦、フェデラーの強めのストロークがネット。この後、サーブのフリーポイント(相手がボールに当てただけで返球できない)、サービスエースとすんなりサービスキープができ、気分が楽になった。ストロークをネットに掛けたこのプレーが分岐点になった気がしてならない。
この後は白熱の試合内容。ズべレフがストロークの威力で押していたが、フェデラーはスライスを織り交ぜるなど球種や打点を変えて対抗、時折見事なネットプレーでゲームの流れを渡さなかった。
しかし、フェデラーはサービスゲームでズべレフにポイントを先行されると苦しくなる。
フェデラーのファーストサーブはやはり成功率が低く、ファーストサーブ自体も威力が若干弱く、苦戦時を切り抜けてきたサービスエースも取れない。
第12ゲーム、強烈なリターンを決められ、次のプレーでは、パッシングのスーパーショットを決められ、0-30とリードされると、この後も連取され、ゲームを失うと同時に第1セットを落としてしまった。ズべレフはスーパープレーが出ると強さが2割増しになる。
しかし、フェデラーもタダでは終わらせない。第2セットの第3ゲーム、40-0とブレイクチャンスをつかむ。このチャンスを30-40と盛り返されるも、バックの強打を決めてブレイクする。
けれども…直後の第4ゲームをブレイクバックされてしまう。この後は、白熱の展開が続き、タイブレーク(なぜか“タイブレイク”ではなく“タイブレーク”と発音されることが多い)にもつれ込む。
4-5で迎えてのフェデラーのサービス。深いストロークがアプローチショットになり、チャンスボールが。これをネットに詰めたフェデラーがボレーをネットに掛けてしまう。4-6となり、マッチポイント。1本踏ん張り5-6としたが、サーブはズべレフ。
これを強打のストロークでフェデラーを揺さぶった後、最後はエースをフェデラーのコートに叩き込み、勝利をものにした。
フェデラーは無念の準決勝敗退。
今大会、ストロークは正確で、スライスボールも巧みに駆使していた。ネットプレーも見事だった。質の高いテニスを維持していた。
惜しむらくは、サーブの威力と成功率が低かったこと。それと、パッシングショットが決まらなかったこと。アプローチショットも緩かった気がした。
それにしても、フェデラーはファイナルに15回出場して、なんと14回準決勝進出(グループリーグ通過)。優勝6回、準優勝4回。
決勝 ジョコビッチ × ズベレフ
ツアーファイナル準決勝というビッグゲームでフェデラーを破ったことで、ズべレフはステップアップしたのではないだろうか?そんな期待を持って、決勝戦を観た。
互いにサービスゲームをキープする淡々とした展開。しかし、ズべレフの方がスンナリキープ、ジョコビッチの方は、“苦労”というほどではないが、ラリーが続くことが多かった。
奇しくもグループリーグと同様に4-4で迎えた第9ゲームに分岐点を迎える。30-40でズべレフがブレイクポイントを握る。
ズべレフのリターンをジョコビッチがネット。今回は3球目であっけなくブレイクを決まった。
第10ゲームは、ズべレフのサーブがビシビシ決まり40-0。ジョコビッチが1本返したが、次のプレー、4球目のジョコビッチのストロークがオーバーになり、すんなりズべレフがサービスキープで第1セットを6-4でズべレフが先取した。
第1セットの主なスタッツは、ウイナー……ズべレフ13、ジョコビッチ4。アンフォーストエラー……ズべレフ7、ジョコビッチ5。1stサーブ……88%、ジョコビッチ62%。ズべレフのアンフォーストエラーが(いつもより)かなり少なく、1stサーブの入りが非常に良かった。
第2セットは出だし3ゲームはブレイク合戦。
ブレイク直後の第2ゲーム、ズべレフは勝ちを急いだのか、2つのダブルフォルトと2つのアンフォーストエラーでゲームを落とす。
ポイントとなったのは、第3ゲームの15-15からのプレー。28回のラリーの末、ネットに掛けたジョコビッチが、げんなりした表情を見せた後、ボールパーソンの差し出すタオルを受け取らず、3秒ほどしゃがみ込んでしまった。
……こんなジョコビッチは初めて観た
この試合、ズべレフは実に辛抱強かった。
ストローク合戦が何度もあったが、ひたすら来たボールを忠実にヒットし、コートの中央付近に返し続けた。中央付近で打ちあうシーンが多かったが、角度に変化をつけるのは殆どジョコビッチで、ズべレフはそれに対しても逆らわない方向へ返していた(クロスに返すのも、勝負を決めるためではなく、クロスは距離が長いので単に返しやすいだけ)。
ストローク合戦で焦れて無理に動いたり、堪えきれずネットに掛けるのはジョコビッチ。いつもとは逆の展開だった。
返球に専念したズべレフのボールがいつもより伸びていたのかもしれないし、ジョコビッチは連勝の反動が来て疲労が出たのかもしれない(トーナメントは勝てば勝つほど試合が増える)。
次のプレーも象徴的だった。
ズべレフのリターンをバックハンドでドロップショット。これがネットに掛かり、15-40。
このドロップショットは、ズべレフを揺さぶるという意図ではなく、ジョコビッチが疲れていて、ラリーを避けたように見えた。実際、ボールパーソンからボールを受け取る時のジョコビッチは肩で息をしていて、疲労の表情を隠すこともしなかった。
次のポイントも3球目を無理に強打し、ネットに掛けてしまった。ズべレフが2-1。(ブレイク数はズべレフが1つ多い)
第4ゲーム、ジョコビッチが30-15とリードするも、ズべレフのセカンドサーブを安易に打ち返しミス。ジョコビッチはゲームでブレイクバックをすることができず、3-1とズべレフがリードをキープ。
結局、第2セット、ジョコビッチは徐々に打つ手がなくなっていったという感じで、第9ゲームでもブレイクを許し、3-6で押し切られた。
ズべレフの快勝と言っていいだろう。
ズべレフがついにビッグタイトルを獲得。
将棋に例えてしまうが、豊島王位、王座に重なって見えてしまう。
来年はさらに、しかも、大きく飛躍するのではないだろうか。
ついでに語らせていただくと、フェデラーが今大会を勝つと、ツアー勝利数が100となっていた。大きな故障をしない限り、来年、マスターズ1000か500シリーズで勝利を上げると思うが、出来ればグランドスラム(4大大会)で勝利して欲しい(100回目になる必要はない)
でも、今回100回目の優勝を果たせなかったことがどうしても羽生竜王の100タイトル獲得に重なり、不吉さを感じてしまう。
まあ、私の愛するロジャーが、羽生竜王の厄を払ってくれたと考えておこう。