英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

相棒 season22 第4話「天使の前髪」

2023-11-09 20:17:50 | ドラマ・映画
今回は、《正当防衛に見せかけるトリック》や《その証拠(痕跡)が右京ならではのリバーブだった》などの脚本家の狙いが先行してしまった結果、独りよがりが目立った残念なストーリーだった。

 その“独りよがりさ”を書き立てたいが、何を言っているのか分からなくなる恐れがあるので、まず、事件の大まかな真相を。
――(芽の出ない)女優・久保崎美怜が、しつこくつきまとわれた上、突然マンションに押し掛けられ、乱暴されそうになろ、無我夢中で抵抗するうち、ナイフで刺してしまった。男は数日前、オーディションで審査員を務めていた舞台演出家。一見、正当防衛が成立しそうに思えた。さらに、美怜証言を裏付ける音声が匿名で警察に送られた(美怜の部屋を盗聴していたらしい)
 ところがこのふたりには因縁があって、過去にその演出家は美怜の妹をレイプしていて、そのせいで妹は自殺していた。今回の事件は、姉・美怜の復讐殺人だった。
 《自室に盗聴器が仕掛けられていたことを利用したトリック》……アドバイスを受けたいと持ち掛け演出家にレイプされるシーンを演じてもらう。自室の家具などを稽古場に持ち込んでいるので、《盗聴音声には自室でレイプされそうになり、抵抗しているうちに刺してしまった》と誤認させる。その後、死体と家具を自室に運び、刺した直後の悲鳴などを演じた――


【強引な点や疑問な点】 
《ストーリーの小道具に過ぎなかった登場人物の3人》
若い劇団員・有村凛……美怜の“人となり”を語っただけで、それきりだった。非常に尊敬していたので、事件の真相を知ったら、相当なショックを受けるのではないだろうか?
美怜が働いていた店の店長……盗聴器を仕掛けていたが、その目的は?(盗聴自体が楽しみ?それとも美怜に執着?)
演出家・工藤祐一……”女好き”で問題人物と噂されていたが、それを語った今回のプロデュース会社の社員は《過去に女性劇団員に手を出した》らしいぐらいしか知らなかった。
 実際は、その劇団の運転資金を持ち逃げして、国外逃亡。そんな犯罪者が、捕まらないで大手を振って活動しているのは非常におかしい

《無理があるトリック》
・死体と小道具などを運ぶのはかなり困難
・盗聴音声のトリックの証拠(痕跡)がリバーブだったが、それを調べるまでもなく、編集の痕跡が残るのでは?
  クラッシック好きな右京は、《盗聴された音声の前半と後半部分のリバーブ(残響)が違う》ことに気がついた
・稽古場に血痕も残るのでは?

初めから自分の部屋で犯行を行う方が合理的(容易)だと思うが、右京に“リバーブ”の違いによるトリックの立証をさせたかったのであろう。

《その他の疑問点》
・劇団員がやめてしまって、ふたりだけというのも不自然。現在の団員2人だけという設定は必要?…二人だけの方が音声トリックを実行しやすい。美怜が身軽なので、殺人を実行するのに気持ちの抵抗が少なくなる。
・妹さんの墓に花が供えられていて、供えた女性、さらに犯行動機に容易に辿り着き。そういった事件の背景にあるものを亀山が語るだけというのも雑。
・レイプされた心の傷は私の想像以上に深いものであると思うが、姉にああまで言っておいて(←私は大丈夫)、大好きな姉に大きな悲しみを残して自殺するのは、どうなのか?
天使の前髪……幸運の女神には前髪しかない
「幸運の女神に出会った人がつかまえやすいように髪を顔の前に垂らしてあるが、前髪しかなく後ろには髪がないので、追いかけてつかむことはできない」
 "やってきたチャンスを見逃してしまうと、もう追いかけてもモノにすることはできない”ので、「今が女優になるチャンスよ」と妹が背中を押した

《その言葉を殺人に使用したのは、姉の思い》としているが、脚本家の驕りのように感じる

【正当防衛を巡る真相】
正当防衛(刑法第36条1項)――《急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、止むを得ずにした行為は罰しない》
 急迫不正の侵害……突然、違法な侵害が迫った緊急事態

「今回の場合は、工藤はあなたの部屋に予告なく押し掛けた…まさに突然の緊急事態です。
 自己、又は、他人の権利を防衛するため……すなわち、あなたはあなた自身を守るため、襲ってきた工藤を刺した、一度だけ。そして殺害した。
 つまり、今度の事件には、正当防衛成立の要件が余すことなく、すべて揃っているんです」(右京は美怜がこれらの要件をお膳立てしたのでは?と疑う)
これに対し、美怜は「杉下さんがどう思おうと、真実は神様が証明してくれます」と。
(この言葉については、後述)

【美怜を追及するシーンで、美怜の真意が語られたが】
「“天使の前髪”という妹が自分の背中を押してくれた大切な言葉を汚したのか?」(亀山)
「妹と一緒に復讐をしたかった」

「盗聴された音声を盗聴魔が警察に送るかどうか不確かだった。なぜ、そんな賭けに出たのか?」(右京)
「“芝居の神様のジャッジを受けたかった」
  ……自分に才能があって切羽詰まった感情を盗聴している人間に伝えることができれば、居てもたってもいられずに行動する
  才能がなくて、伝えることが出来なければ、盗聴を聴いて驚いて…楽しむだけ……自分の芝居の才能に見切るをつけられる。
 妹まで巻き込んで、傷つけて、死なせてしまった芝居の夢を…夢をあきらめることがやっとできる


(これに対して右京)
「それは夢ではありません。もはや呪縛ですよ。
 妹さんがお芝居をやめないでほしいとあなたに言った瞬間から、それが呪縛となって、あなたをからめとってしまったようですねぇ。
 人を殺すための芝居など、この世にはありませんよ。
 芝居は本来、人を幸せにするものではないでしょうか。人生の悲しみや喜びを見せ、立ち向かう勇気を与える。妹さんが見たかったのは、あなたのそんなお芝居だったんじゃあありませんかねえ。僕はそう思いますよ。非常に残念です」

 それを聴いて、高笑いの泣き笑い…崩れ落ちる

 "妹の呪縛”云々は腑に落ちない。おそらく、脚本家は右京に「人を殺すための芝居など、この世にはありませんよ」と語らせたかったのだろうけれど……
 「呪縛」は「まじないをかけて動けないようにすること」(旺文社:『国語辞典』)なので、これでは妹が姉に縛りをかけたことになってしまう(どちらかと言うと、《悪意》を持って)。
 妹はそんなつもりはなかったはず。……この“呪縛”云々の右京の台詞は要らない。実際、このセリフの後に、「妹さんが見たかったのは、人生の悲しみや喜びを見せ、立ち向かう勇気を与えるあなたのそんなお芝居だった」と言っている。

 
【面白かった点】
★絶品な美和子劇場
「女子がどんだけ生きづらいか、男性諸君は分かっていますか?
  ……痴漢でしょう、盗聴、盗撮、セクハラ、ストーキング、DⅤ…もう女ってだけでね、生まれた時から、もうたくさん、めっちゃっ、危険と恐怖にさらされているのだよ。
 その上にね…かわいくしろ!、綺麗にしろ!、男を立てろ!、結婚しろ!、子育てしろ!…えっ?…活躍しろ!、わきまえろ!
 …ちょっとぉ…介護しろ!って…もぉぉ…目立つな!反乱するな!抵抗するな!お前が殺したぁ?……やっとられんわぃ」

「美和子、俺は何の条件も出さないよ。そのままのおまえを愛してる」(亀山、えらい!)
「え?ほっとかれてんの?私?」
 テンポ、抑揚、流暢さ……まさに“名調子!” これを受け止める亀山も素晴らしい!

一応、美和子に呼応するように、右京に熱弁を振るう小出茉梨(こてまり)
「窮屈ですよねぇ。男の立場とか、女の立場とか…
 男性とか女性とか、そういう区別は止めにして、みんな同じ人間でいい。
 大切な人と一緒にいて、その人を応援する…応援される……それだけでもっと楽な幸せな気持ちになれるんじゃないかな」

★犬のおまわりさん?
リバーブを聴き分けてしまう犬並の聴力に感嘆して、
「犬のおまわりさんだ!あはは……(右京を見て)あぁ、すいません」
「面白いじゃありませんか」
「ああ、よかったぁ」
ホッとする亀山が微笑ましい!
  

第1話「無敵の人〜特命係VS公安…失踪に潜む罠」(初回拡大SP)
第2話「無敵の人~特命係VS公安…巨悪への反撃」(拡大SP)
第3話「スズメバチ」

【ストーリー】番組サイトより
特命係がまたも事件を呼び寄せる!
美しき女優の証言は嘘か、真実か?


 右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)が連れ立ってクラシックコンサートに向かっていたところ、血まみれの女性に遭遇。部屋をあらためると、ナイフが胸に突き刺さった男性の遺体が。
 署で事情を聞くと、女性は小さな劇団を主宰する久保崎美怜(藤井美菜)という女優で、死亡した男性は数日前、オーディションで審査員を務めていた舞台演出家だという。美怜は、男性にしつこくつきまとわれた上、突然マンションに押し掛けられ、乱暴されそうになったと証言。無我夢中で抵抗するうち、ナイフが刺さってしまったという。薫は正当防衛だと直感するが、右京は状況に違和感を覚え、彼女が“女優”であることに引っ掛かっていた。
 美怜の周囲を調べると、主宰する劇団は活動休止状態で、金銭的に困窮していたことが判明。それでも活動は続けていたというが、関係者からは美怜が、「才能に悩んでいた」との証言も聞かれる。さらに、彼女の過去についても、驚くべき事実が明らかになる。

刺殺事件で正当防衛は成立するのか?
真相に繋がる女優の重大な過去とは!?
右京の観察眼が驚愕の事実をたぐり寄せる!


ゲスト:藤井美菜

脚本:森下直
監督:守下敏行
コメント (2)
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