「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その1」
「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その2」
「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その3」
「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その4」
の続き
前回記事で、変化図1についての形勢判断や最善手順などを問いかけましたが、回答はありませんでした。
希望はしましたが、期待はしていなかったので、まあ、いいんですけど…(笑)
facebookの将棋関係のグループで問いかければ、すぐ反応はあると思いますが、何かと面倒なので……
王位戦 第5局
本局を迎えた時点で、対戦成績は豊島9勝、藤井6勝。
王位戦はこの時点で藤井王位(棋聖)の3勝1敗で、勝てば防衛が決まる一局。
戦型は“相掛かり”。先手が7四の歩を飛車でかすめ取る最近見かける戦型だ。
“先手の歩得”対“後手の手得”。先手の飛車がやや窮屈になっているのに乗じて、後手が主導権を取りに行くというような流れになり、“横歩取り戦(空中戦)”に近い感覚だ。
歩の突き捨てや垂らしなど、大胆かつ細心の組み手争いで第2図。
第2図以下、△4四角▲7七銀△3三桂▲2九飛△8五飛▲8八歩(第3図)と進む。
中段で頑張る先手の飛車を下がらせて、△8五飛と歩を払ったが、単に△3三桂だと2二の角が一時的にではあるが陰になってしまうので、先に△4四角と角の働きを維持して桂を跳ねる工夫を見せた。
第2図の▲5八金も飛車を下段に引いた時に、一段目に飛車の利きを通す準備で、後手の動きは織り込み済みだったのだろう。
この第3図で、41分考えた豊島竜王は△7五銀!
攻勢に出るのなら、△7五銀が第一感。40分の考慮とは言え、予定の一着だったのではないだろうか。ところが………
△7五銀には▲9七桂がある。
控室でも、▲9七桂と跳ぶ変化を調べられており、
(A)△6六銀▲8五桂△7七銀成▲同金だが、そのあとの継続手が見えないという。
(B)△8七歩成▲同歩△6六銀や、
(C)△6六角▲8五桂△7七角成などが検討されたが、先手が飛車持つと、後手陣の3筋が壁でつらい形だという。
【中継解説より】
44分の熟慮で、藤井王位は▲9七桂と着手。やはり……
では、第3図では後手はどう指すべきだったのか?
※局後の感想※
代えて△2二銀は▲7六銀△8三飛▲4四角△同歩▲6六歩△4三角▲6五歩△同銀▲6一角△8二飛▲6五銀△同角▲8三銀△6二飛▲7二角成で、
「(後手が)まずいような気がします」(豊島)
「いやー、しかし、筋が悪い攻めなので」(藤井)
手順途中の☖8三飛に代えて☖8二飛でも同様に進めて、☖6五同銀のタイミングで☗4六角と打たれて後手が悪いという。
「先手の2九の飛車がいい形なので。後手は代えて☖9五歩と突いておくのが、いちばんアヤがあったかもしれませんね」(豊島)
僭越ながら、書かせていただくと、
やはり、△2二銀と指したい。
第3図では後手玉の壁形が気になる。後々、響いてきそうだ。
壁形の解消もあるが、互いに3筋の桂頭の弱点があり、3筋が戦場になる可能性が大で、3筋の補強の意味もある。△2二銀の価値は高い。
▲9七桂を見て、豊島竜王が固まった(ように見えた)。
やはり、見落としなのか?
桂を端に跳ねるのは利きが1か所のみで、働きが弱いので、指しにくい手ではあるが、後手の飛車銀の弱点を突いており、すぐ視界に浮かんでくる手であろう。
《その手を竜王が見落とすはずがなく、何か秘手があるのだろう》と上記の中継解説のようにいろいろ考えるが、思わしい局面にはならない。
何とか勝負形に持ち込む……いや、大盤解説のため、勝負を長引かせる手を模索しているように思えた。(▲9七桂は10時33分の着手)
70分後(それでも11時43分)、△8四飛!
………直前に指した7五の銀をほぼ無条件で差し出す……何という、辛抱!
……結局、投了を先延ばしにしたのみに留まった。
終局は16時47分。▲9七桂以降、辛い6時間だったことだろう。
▲9七桂(第4図)以降は、局面図のみ。
叡王戦 第5局
本局を迎えた時点で、対戦成績は豊島9勝、藤井7勝。
この『豊島×藤井19番勝負』に限ると、豊島3勝、藤井6勝とダブルスコアだが、この一局に勝つと、タイトル戦としては1勝1敗。非常に大きな勝負である。
本局は上述の王位戦第5局と同じ進行をたどったが
第1図の▲8七歩で前局を離れた。
本局の後手の豊島叡王は、二枚銀を繰り出していった。
以下は、図面のみを示す。
二枚の銀が連携を組んで動いていくが、僻地に進むことになってしまった。
第8図の先手の金銀も逆形、角も隠居状態ではあるが、後手の2筋の屈伏形も大きい。
この後、先手の藤井二冠は、8筋を攻め込まれ(攻め込ませた?)、飛車を取られる(取らせた)間に、7七の金をスルスルと繰り出し、急所に歩を成り込んだ。
8筋を攻め込まれて歩が切れていることを逆用し、8三に歩を叩けたのも大きい。
図の後手の飛車tと二枚の銀は、相当の愚形。
4手後の▲9七桂(第10図)は控室をうならせた手だ。
「将棋はこうやって勝つのか」と感嘆させた手だ。棋士の第一感は▲5五角で、この▲9七桂は見えないという。(奇しくも、前局の王位戦第5局で豊島竜王にとって激痛の▲9七桂と合致している)
実は、控室の▲5五角が正着で、▲9七桂は逆転を誘引しかねない危険な一着だったという。
実際、ABEMAのAIの評価値はほぼ互角の値を示した(実際は、もっと深く読ませると先手が大優勢と示すという‥‥『将棋世界』小暮克洋氏の観戦記)
▲9七桂には、△5六歩の勝負手があった。
以下、▲5六同銀なら△8七歩成▲同銀△7六銀▲同銀に△7八飛(変化図1)で逆転の雰囲気が充満。
ただし、△5六歩には▲5六同銀ではなく▲4六歩が巧手で△同角とさせてから▲5六銀と歩を払えば、以下△8七歩成▲同銀△7六銀▲同銀△7八飛と同様に進んでも▲4七玉(変化図2)で先手良し。
とは言え、豊島叡王も「△5六歩、あるいは△8七歩成▲同銀△5六歩と指すべきだった」と小暮氏にメールで答えている(『将棋世界』より)
また、藤井二冠も「△5六歩~△8七歩成の筋は見えていなかったが、△5六歩に▲4六歩で先手が残している」とメールで答えている(『将棋世界』より)
▲9七桂で2分消費して、秒読みになっていたので、△5六歩と指されていたら、もしかしたら……。とにかく、△5六歩以降の展開が見たかったなあ。
因みに、高見七段は「△4六歩は難易度が高すぎる手」だと言う。
「▲5六同銀の形自体、先手の中央が厚くなってお手伝いにも映る。運よく△5六歩が見えたとしても、▲同銀に△7六銀が▲7四金でダメと速断しちゃうと、そこでアウト。
▲5六同銀にスピーディーな△8七歩成~△7六銀がワンセットってことを見抜くには、ハードルはメチャクチャ高いです」と語っている。
‥‥そうなのかなぁ。確かに、△8七歩成~△7六銀は見えにくいが、▲9七桂(第10図)での△5六歩は選択肢としては△3六歩と同格のように思えるのだが……
そして、もし、▲5六同銀と取ってくれて、その局面を前にしたら、△8七歩成~△7六銀~△7八飛の筋が見える可能性は低くないような気がする。
実戦は、▲9七桂△3六歩で、起伏なく終局となった。
これで、叡王を奪取。史上最年少(19歳1ヵ月)で三冠を達成した。
「その6」に続く
「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その2」
「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その3」
「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その4」
の続き
前回記事で、変化図1についての形勢判断や最善手順などを問いかけましたが、回答はありませんでした。
希望はしましたが、期待はしていなかったので、まあ、いいんですけど…(笑)
facebookの将棋関係のグループで問いかければ、すぐ反応はあると思いますが、何かと面倒なので……
王位戦 第5局
本局を迎えた時点で、対戦成績は豊島9勝、藤井6勝。
王位戦はこの時点で藤井王位(棋聖)の3勝1敗で、勝てば防衛が決まる一局。
戦型は“相掛かり”。先手が7四の歩を飛車でかすめ取る最近見かける戦型だ。
“先手の歩得”対“後手の手得”。先手の飛車がやや窮屈になっているのに乗じて、後手が主導権を取りに行くというような流れになり、“横歩取り戦(空中戦)”に近い感覚だ。
歩の突き捨てや垂らしなど、大胆かつ細心の組み手争いで第2図。
第2図以下、△4四角▲7七銀△3三桂▲2九飛△8五飛▲8八歩(第3図)と進む。
中段で頑張る先手の飛車を下がらせて、△8五飛と歩を払ったが、単に△3三桂だと2二の角が一時的にではあるが陰になってしまうので、先に△4四角と角の働きを維持して桂を跳ねる工夫を見せた。
第2図の▲5八金も飛車を下段に引いた時に、一段目に飛車の利きを通す準備で、後手の動きは織り込み済みだったのだろう。
この第3図で、41分考えた豊島竜王は△7五銀!
攻勢に出るのなら、△7五銀が第一感。40分の考慮とは言え、予定の一着だったのではないだろうか。ところが………
△7五銀には▲9七桂がある。
控室でも、▲9七桂と跳ぶ変化を調べられており、
(A)△6六銀▲8五桂△7七銀成▲同金だが、そのあとの継続手が見えないという。
(B)△8七歩成▲同歩△6六銀や、
(C)△6六角▲8五桂△7七角成などが検討されたが、先手が飛車持つと、後手陣の3筋が壁でつらい形だという。
【中継解説より】
44分の熟慮で、藤井王位は▲9七桂と着手。やはり……
では、第3図では後手はどう指すべきだったのか?
※局後の感想※
代えて△2二銀は▲7六銀△8三飛▲4四角△同歩▲6六歩△4三角▲6五歩△同銀▲6一角△8二飛▲6五銀△同角▲8三銀△6二飛▲7二角成で、
「(後手が)まずいような気がします」(豊島)
「いやー、しかし、筋が悪い攻めなので」(藤井)
手順途中の☖8三飛に代えて☖8二飛でも同様に進めて、☖6五同銀のタイミングで☗4六角と打たれて後手が悪いという。
「先手の2九の飛車がいい形なので。後手は代えて☖9五歩と突いておくのが、いちばんアヤがあったかもしれませんね」(豊島)
僭越ながら、書かせていただくと、
やはり、△2二銀と指したい。
第3図では後手玉の壁形が気になる。後々、響いてきそうだ。
壁形の解消もあるが、互いに3筋の桂頭の弱点があり、3筋が戦場になる可能性が大で、3筋の補強の意味もある。△2二銀の価値は高い。
▲9七桂を見て、豊島竜王が固まった(ように見えた)。
やはり、見落としなのか?
桂を端に跳ねるのは利きが1か所のみで、働きが弱いので、指しにくい手ではあるが、後手の飛車銀の弱点を突いており、すぐ視界に浮かんでくる手であろう。
《その手を竜王が見落とすはずがなく、何か秘手があるのだろう》と上記の中継解説のようにいろいろ考えるが、思わしい局面にはならない。
何とか勝負形に持ち込む……いや、大盤解説のため、勝負を長引かせる手を模索しているように思えた。(▲9七桂は10時33分の着手)
70分後(それでも11時43分)、△8四飛!
………直前に指した7五の銀をほぼ無条件で差し出す……何という、辛抱!
……結局、投了を先延ばしにしたのみに留まった。
終局は16時47分。▲9七桂以降、辛い6時間だったことだろう。
▲9七桂(第4図)以降は、局面図のみ。
叡王戦 第5局
本局を迎えた時点で、対戦成績は豊島9勝、藤井7勝。
この『豊島×藤井19番勝負』に限ると、豊島3勝、藤井6勝とダブルスコアだが、この一局に勝つと、タイトル戦としては1勝1敗。非常に大きな勝負である。
本局は上述の王位戦第5局と同じ進行をたどったが
第1図の▲8七歩で前局を離れた。
本局の後手の豊島叡王は、二枚銀を繰り出していった。
以下は、図面のみを示す。
二枚の銀が連携を組んで動いていくが、僻地に進むことになってしまった。
第8図の先手の金銀も逆形、角も隠居状態ではあるが、後手の2筋の屈伏形も大きい。
この後、先手の藤井二冠は、8筋を攻め込まれ(攻め込ませた?)、飛車を取られる(取らせた)間に、7七の金をスルスルと繰り出し、急所に歩を成り込んだ。
8筋を攻め込まれて歩が切れていることを逆用し、8三に歩を叩けたのも大きい。
図の後手の飛車tと二枚の銀は、相当の愚形。
4手後の▲9七桂(第10図)は控室をうならせた手だ。
「将棋はこうやって勝つのか」と感嘆させた手だ。棋士の第一感は▲5五角で、この▲9七桂は見えないという。(奇しくも、前局の王位戦第5局で豊島竜王にとって激痛の▲9七桂と合致している)
実は、控室の▲5五角が正着で、▲9七桂は逆転を誘引しかねない危険な一着だったという。
実際、ABEMAのAIの評価値はほぼ互角の値を示した(実際は、もっと深く読ませると先手が大優勢と示すという‥‥『将棋世界』小暮克洋氏の観戦記)
▲9七桂には、△5六歩の勝負手があった。
以下、▲5六同銀なら△8七歩成▲同銀△7六銀▲同銀に△7八飛(変化図1)で逆転の雰囲気が充満。
ただし、△5六歩には▲5六同銀ではなく▲4六歩が巧手で△同角とさせてから▲5六銀と歩を払えば、以下△8七歩成▲同銀△7六銀▲同銀△7八飛と同様に進んでも▲4七玉(変化図2)で先手良し。
とは言え、豊島叡王も「△5六歩、あるいは△8七歩成▲同銀△5六歩と指すべきだった」と小暮氏にメールで答えている(『将棋世界』より)
また、藤井二冠も「△5六歩~△8七歩成の筋は見えていなかったが、△5六歩に▲4六歩で先手が残している」とメールで答えている(『将棋世界』より)
▲9七桂で2分消費して、秒読みになっていたので、△5六歩と指されていたら、もしかしたら……。とにかく、△5六歩以降の展開が見たかったなあ。
因みに、高見七段は「△4六歩は難易度が高すぎる手」だと言う。
「▲5六同銀の形自体、先手の中央が厚くなってお手伝いにも映る。運よく△5六歩が見えたとしても、▲同銀に△7六銀が▲7四金でダメと速断しちゃうと、そこでアウト。
▲5六同銀にスピーディーな△8七歩成~△7六銀がワンセットってことを見抜くには、ハードルはメチャクチャ高いです」と語っている。
‥‥そうなのかなぁ。確かに、△8七歩成~△7六銀は見えにくいが、▲9七桂(第10図)での△5六歩は選択肢としては△3六歩と同格のように思えるのだが……
そして、もし、▲5六同銀と取ってくれて、その局面を前にしたら、△8七歩成~△7六銀~△7八飛の筋が見える可能性は低くないような気がする。
実戦は、▲9七桂△3六歩で、起伏なく終局となった。
これで、叡王を奪取。史上最年少(19歳1ヵ月)で三冠を達成した。
「その6」に続く
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