■最終話■
日頃の練習コースであるにもかかわらず、そこが何処であるのか全く分からない。
強い雨は路面を濡らし水溜りをつくる。
シューズの中はすでにグチョグチョ・・。
カーブの多い山道。
前方にランナーが持つ蛍光スティックは現れない。
【92km地点】
雨の中、ボランティアスタッフが手を叩いて応援してくれる。
「おい!帰ってきたか!!」
声の主はボランティアのご近所兄さん、
「おい!!間に合う!間に合うぞ!!」
もう疲れもピークで、右手を上げて答えるのが精いっぱい。
「行けーーーっ!!」
大柄な兄さんの叫びが暗闇にコダマして弱った心に突き刺さる。
雨は豪雨に変わり、強風とともに体を打ち付け始める。
帽子のツバから流れ落ちる雨が顔を濡らす。
ボロボロの体、メンタルはズタズタに引き裂かれてダラダラと歩き始める。
前が全く見えない猛烈な雨になる。
暗闇の豪雨は歩いても辛い・・。
【93.9km 最終関門】
関門時間15分前に通過。
関門所を通り過ぎているのにリタイアバスに中にはランナー達の姿が見える。
低体温症にでもなったのだろうか・・。
沿道のおばさんが「お帰り、よく頑張ったね」とねぎらってくれる。
しかしまだ「ただいま」とは言えない、・・・あと6km。
一度歩き出した体は冷えて、思うように動かない。
ボランティアのおじさんが自分の走る前方を懐中電灯で照らしてくれる。
「そこはもう水溜りだから、そっちを通って」
灯りに誘導されて水溜りを避ける。
「頑張って!」
送りだされる声に涙が出そうになるが、暗闇に戻ると水溜りを走る。
「バシャバシャ」と音を立てて水溜りの中を抜ける。
【97.2km 最終エイド】
もう給水を取っている時間は無いはずだ・・。
エイドボランティアの手拍子で前に進む。
「間に合いますよ!間に合いますよ!頑張って!」
知り合いが突然出てきてエールをもらう。
もう走り続けないと間に合わない・・。
「止まりたい・・止まれない」
ヨロヨロ走りの自分に突然のご褒美がきた。
前方に赤鉄橋の灯りが現れた。
赤鉄橋は市街地に着いたことを知らせてくれる目印。
ついに山道は終わり、明るい住宅街に入る。
残り1km。
最後の急坂を前にして「あと12分です!」と沿道から声が聞こえてきた。
急坂を数人のランナー達が歩いて登っている。
ここまで同じように暗闇で雨に打たれ、それでも前を向いて頑張った同志達。
早歩きで坂の頂上まで上り、下りで一気に走り出す。
ギリギリだが・・・間に合った!!
下りながらクネクネと曲がる住宅街に入る。
ゴールアナウンスが遠くから聞こえ始める。
暗い裏通りを走り抜けると中村高校の正門に向かう。
「残り5分を切りました!!」
ゴール会場のウグイス嬢が叫んでいる。
急に声援が多くなり、ビクトリーロードとなる。
「おめでとう!!やったねー!」
飛脚応援隊の数人が迎えてくれる。
さらに、ずいぶんと聞き覚えのある声が耳に飛び込む・・・
次男の叫びに胸を打たれる。
ついに照明が眩しいグラウンドに入る。
自分のゼッケンがコールされ、オーロラビジョンに映し出される。
「おかえりなさ~~い!!」
マイクアナウンスが温かく迎えてくれる。
ゴールゲート付近ではチーム飛脚と応援組のみんなが声を振り絞って叫んでくれる。
歓喜のハイタッチ。
女宴会部長は号泣していて、それを横で見た嫁が大きく笑っている。
宴会部長とは9年前のチーム結成時からの苦楽を共にした戦友だ。
ピンと張られたゴールテープに向かいステップを刻む。
両手を広げてゴール!
7年ぶりのゴールは制限時間3分半前のギリギリだった。
念願のメダルを掛けてもらい、パイプ椅子に腰を下ろす。
ボランティアの中学生達がチップを外してくれたり、アイシングを持ってきてくれたり、
手際よく働いてくれる。
中学生達には知り合いも多く、次々とねぎらってくれる。
雨がシャワーのように落ちてくるが、もう全く気にならない。
まもなくゴール関門は閉鎖され、大会は終了となる。
立ち上がり仲間達と合流した頃、「ドンッ!!」と大きな花火が打ちあがる。
前日に受付会場で貰った石の絵は花火だった。
ちゃんとゴールして、次々と上がる花火を見上げることができた。
チームと記念撮影。
家族と記念撮影。
やっぱり四万十ウルトラ100kmは「最高だった」。
チームはこの後、いつものように宴会場へと向かう・・・。
■完■
~あとがき~
スミマセン・・、長いですね。
自分のブログなんで好き勝手やってます(笑)。
相変わらずのギリギリランナーで、自分でも思わず笑ってしまいます。
・・・がしかし、
ギリギリということは「毎回14時間も楽しんでいる」ということでもあるわけで・・、
四万十川ウルトラマラソンを誰よりも満喫しているのかもしれません。
四万十市民として、
四万十川ウルトラマラソンの素晴らしさを少しでも伝えることが出来たら・・、
そういう思いから毎回ブログに書いてきた次第です。
「奮闘記」「敢闘記」ときてやっと「完走記」が書けたことも幸いです。
第22回四万十川ウルトラマラソン、
100kmマラソンなのに完走率は70%を越えています。
やはり全国からやってくる健脚ランナー達ってスゴイ人ばかりなんですね~。
でも実は約3割、人数にして何と約500人ものランナーがリタイアしています。
体調不良、脚のトラブル、理由は様々でしょうがバスの中で涙された方も多いことでしょう。
私も8回の出場の中で半分はバスに乗りました。
ゆっくりと体を休めて、気持ち新たに再度の挑戦お待ちしております。
マラソンを走るということは、生きていく糧となりそうですね。
やっぱり心身ともに健康で元気が一番!
私も少し休んで、また少しずつ走り始めたいと思います。
それでは、最後までお付き合いくださった気の長~い皆さま、
「ありがとうございました」
■5■
中半(なかば)地区に突入。
地元民だからこそ知っているが「中半は長い・・」
「70km以降からウルトラが始まる」。
そう云われる位、ここからが正念場となる。
1車線の細い道に後ろからバスが入ってくる。
山際に避けるついでに見上げるとバスには多くのランナーが収容されている。
リタイアバスの中から見えるコースの景色は知っている。
バスの下に見えるランナー達はヨレヨレで、しかしなお前を向いてゴールを目指し頑張っていて、
「自分はどうしてあきらめてしまったのだろう・・」と自分を責めたりするものだ。
走りながらリタイアバスをやり過ごす。
長い中半地区も終わり、久保川地区に入る。
【79.5km】第5関門。
関門時間はまだ40分残す。
ここまで頑張ってきたおかげで、近年の自分のペースに追いつき、追い越せてきた。
【80km地点通過】。
ボランティアスタッフがいいことを教えてくれた。
「ここからはキロ9分でも30分おつりがきますよー!」
おおっ、うれしい!かなりうれしい!
通りすがりの男性ランナーが大きな声で、
「あ~あ、あとたったの20kmしか四万十を楽しめないんだ~~!」
・・・いや、残念ながら自分はそんな心境にはなれない。
やっぱり「あと20kmもあるのか・・」というのが本音。
キロ9分はうれしいが、脚が動くうちは頑張る。
周りのランナーも同じ気持ちなのか、走るランナーが多い。
これまでの経験で、まわりに走るランナーが多いときは完走ペースに乗っているはず。
前を行く赤シャツの青年ランナーに追いつき、声を掛ける。
「キロ9分でもおつりがくるそうですよ!」
青年「そうなんですか!初めてなんで今がどうなのかさっぱりわからなくて・・」
「ウルトラのゴールの感動を体験してみたいんで、頑張ります!」
「頑張りましょう~!!」
ランナー同志の会話というのは気持ちのリフレッシュに最適で、
疲れ果てた体をなお動かしてくれる。
鵜ノ江地区に入る。
雨の中、坂道をのぼる。
「お~い!がんばれ~!!」
車の中から知り合い女性にエールをもらう。
知り合いも結構いるが、四万十ウルトラは沿道の応援があたたかい。
どこを走っても「頑張れー!」と応援してくれたり、お年寄りは手を叩いて励ましてくれる。
四万十ウルトラの醍醐味は【美しい自然とあたたかい応援】にある。
鵜ノ江のトンネルをくぐるとオートキャンプ場「かわらっこ」に到着する。
「かわらっこ」がある田出ノ川地区は死んだ母の出里であり、我らがチーム飛脚の応援ポイントでもある。
「お待たせー!」
大きく手を振って応援隊にアピールする。
飛脚応援隊。
「完走ペースやね~~!」
「そうそう、このまま行けたら久し振りにメダルもらえるかもね!」
長く待たせたくせに、たいした愛想もふらず先を急ぐ。
2車線の県道を横にそれて川登地区の旧道に入る。
民家が多く、声援も多い。
【86.9km】第6関門。
大川筋中学校のすぐ横が関門所。
関門時間は30分を残す。
曇天のせいで暗くなるのが早い。
三里地区に入るころにはすぐ横の四万十川が暗くて見えなくなった。
「何だか気持ちのいい音楽が聞こえてきてるよ」
後ろを走る2人の女性ランナーの話し声が耳に入った。
沿道の応援にスティールパンの演奏をする2人組が現れた。
60kmの部に出場している女宴会部長はスティールパン奏者でもある。
きっとこの心地よい音色の応援に喜んだことだろう。
そういえばここまでオカリナおじさんなどの演奏応援を見かけることはなかった。
やはり雨のせいか・・・。
【89km】給水エイド。
「手を洗いませんか~?」
大きなバケツの前で柄杓を片手に見覚えのある顔が現れた。
実姉がボランティアスタッフとして働いていた。
「おおっ、ビックリした~」
「アンタ、せっかくやし手ぐらい洗っていってよ!」
「いや・・寒いからエエわ」
姉は保育園の園長先生、市の職員としてボランティア参加しているようだ。
【90km地点通過】
辺りは真っ暗になり、雨も強くなってきた。
山道のカーブではボランティアのみなさんが自家用車のライトを照らしてくれる。
ヘッドライトが照らす地面は雨が激しく打ち付けている。
【90.9km 給水エイド】
エイドで蛍光スティックを渡される。
暗くて分かりづらいがここは三里沈下橋近くの採石場。
あと9km・・。
前後を行くランナーの間隔が空きはじめ、孤独になることが多くなる。
暗闇で雨に打たれ続け、ついにメンタルも折れ始めた・・。
■5■