漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 636

2025-01-11 05:08:26 | 貫之集

かきくもり あめふることも まだしらぬ かさとりやまに まとはるるかな

かきくもり 雨降ることも まだ知らぬ 笠取山に まどはるるかな

 

笠取山にいて空がかきくもり、雨に降られたという経験などないけれど、まるでそれを経験したかのように、恋に落ちて迷っている私であるよ。

 

 「笠取山」は京都府宇治市にある山。その名前から、笠を取るので雨に濡れないという発想がベースにあっての詠歌ですが、なかなかに難解です。かなり言葉を足して解釈してみました。


貫之集 635

2025-01-10 05:34:10 | 貫之集

あひみずは いけらじとのみ おもふみの さすがにをしく ひとしれぬかな

あひ見ずは 生けらじとのみ 思ふ身の さすがに惜しく 人しれぬかな

 

逢わずには生きられないとばかり思う身であるが、やはり死ぬこともできない、そんな人知れない恋に悩むことであるよ。

 

 逢えないならいっそ命を断ってしまいたいと思うほどの恋心。万葉集に類歌が見られ、あるいはそれを踏まえてのものなのかもしれません。

 

いくばくも いけらじいのちを こひつつぞ われはいきづく ひとにしらえず

いくばくも 生けらじ命を 恋ひつつぞ われは息づく 人に知らえず

(万葉集 巻第十二 第2905番)


貫之集 634

2025-01-09 05:24:20 | 貫之集

ゆめをみて かひなきものの わびしきは さむるうつつの こひにざりける

夢を見て かひなきものの わびしきは さむるうつつの 恋にざりける

 

夢で逢っても甲斐がないとわかってはいても、わびしいのは夢が覚めて恋の現実に戻ることであるよ。

 

 夢での心ときめく逢瀬に比べて現実は。。。という切ない歌ですね。
 この歌は新千載和歌集(巻第十二「恋二」 第1153番)に入集しており、そちらでは第二句が「かひなきことの」とされています。


貫之集 633

2025-01-08 05:33:36 | 貫之集

ひとしれず あだしこころの ありければ なみぢとのみや やまでなくらむ

人しれず あだし心の ありければ 波路とのみや やまで泣くらむ

 

あの人には私に見せない不実な心があったことがわかり、私の涙は波路にでもなったかのように、止まることがない。

 

 「波路」とは船の通る道筋。止まらない涙が頬に残す跡を波路に喩えての詠歌ですが、他で見たことのない喩えですね。


貫之集 632

2025-01-07 05:59:00 | 貫之集

ひとしれず いはぬおもひの わびしきは ただになみだの ぬらすなりけり

人しれず いはぬ思ひの わびしきは ただに涙の ぬらすなりけり

 

人知れず思い、口には出さない恋のわびしさに、ただただ涙が頰を濡らすのであったよ。

 

 初句の「ひとしれず」は貫之が好んだフレーズのようで、この 632 以外にも貫之集には 17 に始まって152503539633、657、さらに「ひとしれぬ」が 542 にあるということで、多くの歌がこの初句から詠まれています。勅撰和歌集にも、17 が拾遺和歌集に、542古今和歌集(0606)に採られており、また新千載和歌集には 539 と非常に良く似た歌(一方が他方の改作であるのかもしれません)が採録されています。