ひとりのみ ながめふるやの つまなれば ひとをしのぶの くさぞおひける
一人のみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞおひける
貞登
長雨の中、わたしは古い家で独り物思いにふける妻なので、軒先にしのぶ草が生い茂るように、あなたを偲ぶ思いが沸き起こってきます。
「長雨」と「眺め」、「降る」と「古る(家)」、「端(軒先の意)」と「妻」、「忍(草)」と「偲ぶ」と掛詞が多用された複雑な構造です。前者の意味だけを拾っていくと「長雨の降る中、一人で暮らす家の軒先には忍草が生い茂っている」となりますし、後者だけ拾えば「わたしはたった一人、古い家で物思いにふける妻なので、あの人を偲ぶ思いが沸き起こってくる」となりますね。
作者の貞登(さだ の のぼる)は平安時代前期の貴族で、第54代仁明(にんみょう)天皇の子。名前は「みのる」と読まれることもあるようです。勅撰集への入集は、古今集のこの一首のみです。