60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

アルゴ

2012年11月16日 08時46分44秒 | 映画
 映画「アルゴ」を観て来た。この映画は史実に基づく映画と言うことである。1979年、親欧米化路線を敷いていたパ-レビ国王の圧政に、フランスに亡命していたホメイニーを指導者とする反体制勢力が立ち上がり、イラン革命が勃発する。そんな状況下でパ-レビ国王は皇后や側近とともにエジプトに亡命し、その後癌の治療のためにアメリカに渡った。ホメイニーらが敵視するアメリカが、同じく敵視する国王を受け入れたことに学生らが反発し、同年11月4日にテヘランにあるアメリカ大使館を襲撃し占拠してしまう。そしてアメリカ人外交官や駐留していた海兵隊員とその家族の計52人を人質にし、パーレビ国王の身柄引き渡しを要求した。そんな混乱の中で一部大使館員とその家族の6人が脱出し、テヘランのカナダ大使の私邸に逃げ込んだ。

 襲撃占領の前に大使館員の写真つき名簿等はシュレッダーにかけていたが、名簿がシュレッタ-から復元されれば脱出者がいることが分かり、捕まれば処刑されてしまう。アメリカ国務省はCIAに応援を要請し、人質奪還のプロ、トニー・メンデス(ベン・アフレック)が呼ばれる。トニーは、6人を「アルゴ」という架空の映画のロケハンに来たカナダの映画クルーに仕立て、出国させるという作戦を立てる。プロデューサーに扮したトニーはイランへと向かい、文化・イスラム指導省で撮影許可を申請した後、6人が隠れているカナダ大使の私邸に入る。そこで脱出計画を6人に伝えるのだが、計画のリスクに彼らは反発する。しかし他に脱出の手段はない。仕方なくロケハンに成りすますべく、それぞれの役柄のプロフィールを暗記していく。翌日トニーは怖気づく大使館員を説得して、カナダ大使の私邸から6人を連れ出した。 

 国王の引渡しと反アメリカで殺気立つテヘランの街の中を7人は空港へ向かう。そして200名の民兵が監視する空港を通り抜け、スイス機に搭乗して国外へ脱出を図る。映画はその緊迫感をリアルに描いている。細部は脚色がなされ史実とは違いがあるのであろうが、いかにもハリウッド仕立てのCIAのプロジェクトが実話である事に驚かされる。成功のためには味方をも欺かなければならず、また救済後の問題を懸念して、クリントン大統領がこの事件を明らかにするまで18年間もの間、機密扱いとなっていたという。

 今、イランやリビアなどの中東と欧米との軋轢は抜き差しなら無い状況になっている。なぜそこまでこじれてしまったのか?今まで石油利権に絡んで、その国の権力者に取り入ってきた欧米は、民主化運動の高まりと宗教的な軋轢の中で、今までの利権を失っていく。国内紛争のどちらか一方に加担していると、体制が逆転すれば、加担した側はそのしっぺ返しを食らってしまう。次々と広がっていく中東の紛争の原点と言うべきイラン革命、この映画を見るとイラクやチュニジア、エジプト、そしてリビアの変動とその経緯や流れの一端を感じるとることが出来るように思った。

 街を揺るがす民衆の騒動、今までの積もり積もった権力者への憎悪の感情が一気に吐き出す。法も秩序も理性も良識も失われ暴徒化してしまうさまは、今回の尖閣列島問題で中国の騒動にも同じようなものを感じてしまう。そんな国中を敵に回した中での救出劇である。アメリカ国民だと言うだけで、自分の命を張って救出を実行するCIAのエ-ジェント、日本人だと誰もが尻込みしてしまいしうなリスクの高い仕事を引き受ける。さすがにプロの国だと改めて見直してしまう。そしてもう一つ、この映画を決してヒ-ロ-物とはせず、史実をリアルに描き出そうとするスタンスは、ハリウッド映画の懐の深さとその実力を改めて感じてしまう。見終わって「勉強になった!」と思える良作である。

             


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