風をうけて vol.3

お引越ししてまいりました。
拙いブログですがよろしくお願いします。

暑中お見舞い申し上げます。

2019-08-05 09:26:41 | 童話
毎日、暑い日が続いてます。

あるひとが言いました。

「今年は7月は得をしちゃったから、8月くらいは我慢しよう」

そうですね、確かに7月は雨ばかりで、涼しい日ばかりでした。

でも、それは別。

暑いものは暑いし、我慢できないモノは我慢できない!(笑)

暑さだけならね、、、我慢しろと言われれば我慢しちゃう。

元々、夏が好きなので、このくらいへっちゃら。

でも、今の仕事はさすがに堪えるわ。

ともかく、拘束時間が長すぎるんです。

17時15分に始まる仕事は、残業を含めて12時間を超えます。

つまり、一晩中起きている訳で、当然仮眠時間なんてなく、働き通し。

そりゃ休憩時間もあるけど、からだを休める効果は殆どありません。

息を抜く程度、、、それに、工場自体が古く、、、空調は一切コントロールできない状態。

スポットクーラーのみの冷房では汗を引かせる力はありません。

睡眠不足、高温、殺人的ノルマ、どれをとっても退社後に余暇を楽しむ余裕なんてひとつもありません。

寝ているか、働いているか、意識を失くす前のちょっとした飲みの時間。

一日でそれ以外の時間が無い、、、そんな生活を強いられています。

まさか、この年齢になって、ここまで時間を失くす生活をするとは夢にも思いませんでした。

世間で言う、中小企業での就労はこのような環境で、このような仕事内容で、このような生活を強いられる。

その事を知っただけでも、私の社会的知識は広がりを見せたとも言えないこともありませんが、はっきり言って過酷。

大きな企業の恵まれた環境で、それでも待遇に不満を持つのは、決して好ましくないと、就労42年目にしてようやく気付かされました。

今年の夏同様に、7月までは得をしちゃったんだから、、、的な、41年間は得をしちゃったんだから、、、我慢しなさい。

いいえ、これは我慢すべきことじゃない。

暑さに我慢を重ね、その結果、脱水や熱中症で命を落とす結果と同じように、60歳を超えて人生の残り時間を、労働の為だけに暮らすのは、命を落とすのと、そう変わりはない、、、そう思われて仕方ありません。

とは言うものの、その会社、仕事が全て嫌と言う訳でもありません。

日本人の定着率に難があり、従業員の多くが外国人労働者のこの会社。

まるで、世界を一周しているかのような人間関係が築けるのです。

群馬県と言えば、ブラジル人が大勢暮らしているのはご存じでしょう。

でも、南米からこの日本に来て働いているのはブラジル人だけではありません。

パラグアイ、チリ、ペルー、アルゼンチン、その他、、、そう、その昔、日本から南米に移住した日本人はそのような国で生き抜いてきた、、、その子孫の方々が再びこの日本で働いています。

研修を目的に、中国、バングラデッシュ、タイ、ベトナム、その他大勢のアジア圏の方々もいます。

その人達と接することの楽しい事。

働ながら、まるで外国旅行をしているかの様。

何故だか、夜勤の勤務者の責任者、管理者として、その仕事も命いじられ冗談じゃないと思いながらも、毎日就業前の朝礼を行っているのですが、はっきり言って、この時間が一番楽しい。

人前で話すのはそれ程得意でもないけど、外国人と一緒に「今日も頑張りましょう」と、声を合わせる時は笑顔で声を出せる時間なのです。

この先、どれだけこの仕事を続けて行けるのか、正直自信はありません。

体力的にもいっぱいいっぱい。

精神力にも限りがあります。

でも、今を精一杯生きる。

それしかないですよね。

もう少し、もう少しだけ、頑張ってみますわ、、、多くの外国人の方達と一緒に。。。ね。



コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新生

2019-03-20 04:45:49 | 童話
2月、、、そして3月。

実に色々なことがありました。

就活、、、、そして就職、、、更に、、、、(涙)

いや、就職で泣いたわけではありません。

心を病むってこういうモノなのでしょね。

毎朝、目を覚ますたびに襲われる吐き気、耳鳴り、そしてけだるさ。

いつまでたっても気持ちが軽くなることがありませんでした。

その原因、、、、とは。

「FukayaLife-neo」

それは私が立ち上げ、しっかりと成長を成し遂げていたランニングチーム。

ところが、あろうことか破たんを招く悪魔が陰に潜んでいたのです。

その悪魔は鋭い切り口で私を攻撃。

身に覚えのない事や、非難する言葉は容赦なく私を痛めつけました。

目に見えない恐怖心、、、そして、チームへの影響も・・・考えられ、。

私は自分の事はともかく、チームのメンバーさんへの影響を考え、自分が矢面に立ってその攻撃から私の命ともいえるこのランニングチームを守ろうと決心しました。

一度、すべてを持ちだし、このチームから離れることが私のチームを守る唯一の手段。

その事をチームには知らせず、私は退会することに至ったのです。

もちろん、メンバーさんからは不信感を抱かれ、私は孤立。

こんな疎外感は生まれて初めて感じたものです。

しかし、これが最良の道と決意した以上、理由も述べずに貫き通すのが代表としての役割。

そうして、私は私のチームを守っているつもりでいました。

そうして、数十日。

もうほとぼりも覚めたころかと、私はもう一度チームに戻らせていただきたい旨を告白。

そうして迎えた飲み会の席で、私は頭を下げ一連の騒動に決着を付けようとしました。

そしてみなの承認をうけ、再び「FukayaLife-neo」の代表へと復帰、、、したかに思えていたのですが、、あるメンバーさんからNO!の厳しい判決を下されてしまったのです。

いくら酒に酔った席の事とは言え、本心とはそんな時に出るモノ。

私はチームに戻る条件としてすべての人の承認を受けてこそ、その場に復帰できる、、、、もし反対者がおられれば私はチームを今度こそは本気で去る旨を伝えていました。

その事を踏まえてのNO!の宣告だったと理解しました。

要するに、私は自分のチームに前面に立って敵から必死に守ろうとしていたのに、身内からいとも簡単に足元をすくわれてしまったのです。

こんなことって・・・。

仕方ありません。

私はもうこのチームを去るしかないのです。

完全に力を失いました。

走る気力も、意欲も全く感じなくなってしまったのです。

色々考えました、、、すごく考えました。

食事もまともにできないほど・・・。

でも、自分は間違っていない、、、守るべきことはちゃんと守ってきた、、、きっと今も存在する「FukayaLife-neo」はその証拠。

ならば、自分がそこまで落ち込む必要はないわけです。

起こってしまった出来事はもう取り返すことはできません。

「FukayaLife-neo」はもう私のものではないのです。

ならば、またひとり出直せば良いだけの事。

そうして私は「ふかやジョギング倶楽部」という、たったひとりだけのランニングチームを立ち上げました。

この先、私のランニング生命がどのくらいのこされているのか全く知る由もありません。

が、私はその残された時間をこの「ふかやジョギング倶楽部」へ全身全霊、力の限り尽くしていこうと思っています。

そう決めてから、私の中に残っていた「FukayaLife-neo」にはもう未練は、、、ない、、、と言ったら嘘になります。

自分で産んだ、自分で育てたチームが「Fukayalife-neo」なのです。

でも人も動物も必ず親離れ、子離れの時期が必ずやってくるのです。

今がその時期。

私は成長した「FukayaLife-neo」を見送ります。

もっと、もっと大きくなる「FukayaLife-neo」の後ろ姿をずっと見守っています。

頑張れ、Fukayalife-neo」!

私だって負けてはいませんから。

「FukayaLife-neo」の数倍良いチームを作り上げて見せます。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「上州藤岡蚕マラソン」について真面目に考える。

2017-11-28 15:03:41 | 童話
久しぶりの大会、そして一級品の坂を走って二日経った今日はさすがにまだ足は重いものの、それでもなんとか走れそうです。

これって、持久力もやっと身についてきたということでしょうか。

行ったのは、いつもの熊谷スポーツ文化公園。

ひとりでただ漠然と走っていたのでは勿体ない。

先日のレースの事を思い出しながら走ってみました。

先日はテンションの高いままのその気持ちを記事にしてしまいましたが、こうして時間を置き、冷静に考えてみると反省すべき点がたくさん見つかるのです。



先ずはコース図や高低図を見ながら検証してみましょう。



先ずは0~5km   タイム 22’50

何度かアップダウンを繰り返す。

高低図だけでは分かりにくいけど、これだけでもかなりの勾配。

スタートしたばかりだというのに他のランナーさんの息遣いが荒くなっています。

足を残そうとしても、すでにこの坂でかなりのエネルギーを使ってしまいます。

こんな距離で疲労を感じていたら、このレースは終わったも同然。

幸い、それまでに何度か山を走りに行った効果か、私の感覚ではそれ程は力を使わず走れています。

しかしタイム的にはイマイチ。

既に記録には黄色信号点灯と言ってもいいようなタイムです。

5~10㎞     タイム 22’23

5km先で折り返して今来た道を走る設定。

だからどんなコースなのかは10㎞までは把握できます。

しかし、次第にこの坂に足のスタミナが奪われていくのが分かりますが、まだまだこのくらいでは私の足は大丈夫。

それなのに10㎞先がどうのようなコースなのかの不安や弱気の虫が心の中をはいずり周り、実はもっとあげられる状態なのに、自重してしまいました。

もし、このレースの失敗原因を探すとしたらこの区間は完全に失敗。

失速を恐れ大事に行き過ぎてしまいました。

10㎞~15km   タイム 24’18

失敗はここでタイムに顕著に表れています。

上り基調とは言え、急坂でもありません。

もっと行けた、もっと飛ばしてもよかった。

そう思うのはきっと今だからですが。

その先の勾配がどうなっているのかさっぱり分からない不安はぬぐいようもありません。

また、おそらく距離では15kmで折り返しのはずだけど、折り返してくるトップのランナーさんがなかなか現れないのです。

もしかしたら折り返しではなく、このままこの山を越えるのかと思ったくらいですから。

もしそうであれば、この先を走り切る自信はありません。

完全にブレーキ、いや、アクセルオフの状態。

そうこうしている間に、折り返し猛スピードで下ってくるトップランナーさん出現。

ホッとするものの、トップとの差を考えればこの先も長い坂の存在があることに愕然とするのです。

本来はこのくらいの距離から先を行くランナーさんを追い抜いていくのが私のパターン。

でも、いくら走っても前のランナーさんに追いつけません。

ここで追いつけないという事は、坂であるという事を差し置いても私の本来の走りになっていないという事です。

この失速、加速ができないという事はイマイチ調子に乗り遅れた、そのことが強く作用していると思うのです。

いや、調子に乗れなかったのではなく、自らが怖がって調子に乗るのを拒否していたのかもしれませんね。

15km~20㎞   タイム 30’37

ここで一番失敗したのが、自分の思い込み。

15km地点で折り返しだと思い込んでしまったのです。

ところが、実際の折り返し地点はそれよりももっと先の16km地点。

折り返して来るはずの前を走っていたランナーさんがなかなか現れないことにが更に不安になり、もう走れないくらいの急坂と相まって、完全に心が折れてしまいました。

カーブの為に前のランナーさんが見えない、、、そこに不安が募るのです。

こんなことを防止するために、走る前からコース図を確認しておけばよかったのですが、それを怠った私の完全な戦略ミス。

こんなことでどれだけタイムを無駄にしてしまったでしょう。

ただ、折り返してすぐに背後に着いたランナーさんに約1kmほど追われ続けました。

それを振り切れた。

嬉しかったなぁ。

相手がどんなランナーさんなのかは分かりませんが、ここで心が燃えたのです。

あらん限りの力で下って行ったものですから、振り返り相手を確認する余裕もありませんでした。

でも、これこそが自分だと再確認、久しぶりの感覚です。

あとは前を行くランナーさんに追いつき追い越すだけ。

やっとここで自分のパターンとなったのもつかの間、10㎞の部のゆっくりランナーさんと混走。

完全に目標を失い、あとは時計との戦いとなったのです。

20km~ゴール   タイム 4’18

下り基調なのにこのタイムかと、ちょっとがっかり。

子のスピードなら4分を切っていたかもしれないと思っていたのに残念です。

しかし、足に感じる疲労はそれほど感じず、ヨロヨロとゴール後に座り込むランナーさんに比べたら、元気すぎる足。

つまり心肺も足も使いきれなかった。

それは序盤の勾配にビビってしまったことが原因で、心の弱さが自分に貯金を作らせてしまった結果だったのです。

ペース配分はともかくとして、レース感や事前の情報収集がなされていなかったことが”敗因”

まあ、復帰初戦という言い訳ができる今回はこれでも由としましょうか。



結果、1時間44分30秒

惨敗とまでは言わないけど、”勝者”では決してありません。

次回の「ぐんまサファリ富岡マラソン」はこの失敗を繰り返さないよう、しっかりコースを頭に入れておきましょう。



はっはは、またもや勾配が・・・。

でもね、失敗ばかりではなく、つかんだものもあるのですよ。

スピードの感覚がパチンと蘇った、、、ここ数年感じていなかったモノを感じた。

それが錯覚か幻かわかりませんが、確かに感じた。

それを証明しようと、これからの練習を一生懸命に頑張っていこうと思っています。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「天国行きのバスはこちらです」

2017-11-23 03:30:23 | 童話
私ども、「アノヨトラベル」では、お旅立ちのお客様の為に(三途の川発~えんま裁判所行)の直通バスを毎日運行しております。
私はそのバスの運転手。皆様の安らかな旅のお手伝いをと、いつも優しく安全な運転を心掛けております。おや、本日最後のお客様が、ようやくお着きになられたようですね。
ご予約のお客様名簿によりますと、喉に餅を詰まらせ、お亡くなりになられた新兵衛さんとあります。あらあら、大変お疲のご様子。顔色もさえず、おぼつかない足取りでいらっしゃいます。はてさて、大丈夫でしょうか。ここは少々、お休みいただきたいところですが、残念ながら出発の時刻が迫っております。
「お客様、お待ちしておりました。」
ゆらゆらと揺れた足取りの新兵衛さん。
しがみつくようにご乗車くださいました。
「ふう、すまないね、運転手さん。」
「はい、よろしゅうございますよ。」
これでご予約のお客様、全員揃われましたね。
「では、これより三途の川を越え、えんま様の待つ裁判所へと向かいます。」
“ち~ん”とおかしなクラクションを鳴らしたバスは皆様を乗せ、いよいよご出立です。
当然ですが、車内はとても静かです。
どなた様もうつむき、目はじっと閉じたまま。
ですが、そんなお客様も、途中に立ち寄るドライブインではバスを降り、こぞって深呼吸。きれいな山並みや青い空を見て、やっと気が晴れるのでしょう。どこからともなく、笑い声なども聞こえてまいりました。
「ふう、生き返ったようだよ。ねえ、皆さん。」
今日のお客様は、まったくおかしなことをおっしゃいます。思わず私もクスッと笑ってしまいました。しかし、相変わらず元気のないお客様もいらっしゃいます。
「運転手さん、あとどれくらいかかるのかね。」
力なくお聞きになる新兵衛さんもその中のおひとりです。
「はい、まだしばらくかかりますが。いかがなされましたか。」
「いやね、腹がへって仕方ないんじゃよ。ひと口目で餅を喉に詰まらせ、それっきりじゃもんでな。」
「はあ、それはお気の毒に。」
先ほど力なく歩いていたのは、そのせいだったのですね。新兵衛さんは、情けなさそうにお腹を撫でています。
「もし、よろしければ、私のお弁当をお分けいたしましょうか。」
「いいのかい?」
「はい、これは鬼がにぎってくれた本物のおにぎりです。きっとお気に召すと思いますが。」
「ほう、そうかいそうかい、それはすまないな。おお、これはうまそうだ。」
新兵衛さんは、嬉しそうに私の差し出す大きなおにぎりを抱え、お席に戻っていかれました。私どもは、お客様に心地よくお過ごしいただけるよう、様々なサービスをご用意しております。何かございましたら、ご遠慮なさらず、なんなりとお申し付けくださいませ。
バスは、やがてビルの立ち並ぶ、光にあふれた街へと進みます。鬼の住むマンションでしょうか。赤や青に塗られたお洒落な建物や、子供たちが鬼ごっこで遊ぶ公園なども見えてきました。そんな街の一番奥にある、ガラス張りのとても大きなビル。これこそが、えんま裁判所なのです。
「はい、皆様、大変お疲れ様でした。到着でございます。」
すると、「はあ~」とのため息が、あちこちから聞こえてきました。お辛くなるのも無理はございません。皆様は、ここで天国行きか、地獄行きかを告げられるのですから。
「それでは皆様、このエレベーターで42階までお進みください。そのあとは、係りの鬼がご案内いたしますので。」
新兵衛さんもうなだれながらエレベーターに吸い込まれていきました。
私は、裁判所からお帰りのお客様を、いつもこうして、お待ちしております。そして、天国行きがお決まりのお客様には祝福を。
残念ながら、地獄行きのお客様には、お慰めの言葉のひとつでもと思っております。
ささやかなサービスではありますが、こうした気遣いこそが、一番大切だと思っております。
さて、先ほどのお客様たちが戻ってこられました。もちろん、あの新兵衛さんもご一緒です。
「やあ、運転手さん、待っていてくれたのかね。ありがとうよ。おかげで、わしら全員、天国へ行くことになったよ。」
「はあ、それはよろしゅうございました。」
皆様、クチャクチャなお顔で、手を取り合い喜んでいます。そして、新兵衛さんの目からは、ポロリと大粒の涙がこぼれました。きっと、色々なことを思い出しているのでしょう。私も思わずぐすりともらい泣き。この時ほど、生きがいを感じられることはございません。
「はい、それでは皆様、天国行きのバスはこちらになります。」



「JX童話の花束」落選作品です。

はっはは、ただの与太郎話になっちゃっていますね。

落選は当然ですわ(笑)

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ニッサン童話と絵本のグランプリ」下書き原稿です。

2017-06-18 04:42:45 | 童話
    「かばん屋のゆううつ」
 秋も深まり山にはそろそろ雪が降り始める季節になりました。そんなある日の午後です。ひとりの紳士が困り顔で公園のベンチに腰かけています。膝の上には肩にかけるベルトがぷっつりと切れてしまったかばんが置かれています。紳士はしばらく考えている様子でしたが、やっと何かを思いつたのでしょう。重そうなかばんを抱え、町の方向へと歩きだしました。そして、紳士は一軒のかばん屋を見つけだし、その店の前で立ち止まりました。

「ごめん。ご店主、ご店主はおるかな。」
「はいはい、ただいま。」
店の奥からお腹がぷるんと出っ張った店主が慌ててやってきました。
「お待たせいたしました。いらっしゃいませ。
今日はどのようなご用件で。」
紳士は切れたかばんのベルトを差し出し、
「これを見てくれたまえ。見事にぷっつりといってしまった。これを何とか修理していただきたいのだが。」
かばん屋は、切れたベルトとほどけた縫い目を念入りに見ていましたが、首を三回ふり、
「旦那様、これを修理するのはもう無理でございます。お気に入りのかばんでしょうが、どうです、ここはひとつ新調してみては。」
かばん屋の顔がほころびます。
「しめしめ、今日はこれで上客が三人目。こりゃ儲かるわい。」

 それは今朝のことでした。慌てた若者がかばん屋に駆け込んできました。
「かばん屋さん、このかばんのカギを失くして困っているんです。なんとか開けてもらえないでしょうか。」
今が朝食のかばん屋は、食事のじゃまをされたと機嫌がよくありません。
「さあね、ぼっちゃん。私はカギ屋じゃございません。そりゃね、カギのなくなったかばんはもう使えませんぜ。よろしければそのかばん、私が処分しておきましょう。」
若者はがっかりして、「そうですか」と言い残し帰っていきました。若者のおいていったかばんは茶色の大きな革かばん。二、三日分の旅の荷物なら楽に入るくらいの大きさです。
「こりゃ儲かった。こんなカギぐらいちょちょいと開けられるさ。」
かばん屋は机の引き出しから針金やねじ回しを持ち出し、あっという間にかちゃりとカギを開けてしまいました。かばん屋は満足そうにふふっと笑ってそのかばんをきれいにみがき、店の商品の棚に並べてしまいました。

 そこに今度は品の良いご婦人が日傘をさしてやってきました。
「ごきげんよう、かばん屋さん。」
「いらっしゃいませ、奥様。何かお探しでしょうか。」
どうしたのでしょう。今日はかばん屋には珍しく休む間もありません。
「かばん屋さん、わたくし、これから旅に出るのですが、ちょうどいいかばんがなくって困っているの。何かいい物がないかしら。」
かばん屋は心の中で「しめた!」と叫んでしまいました。さっきの若者の革かばんを売りつけてやろう。こりゃ大儲けだぜ。
「奥様、このかばんなどいかがでしょう。この茶色の革は最高級品でございます。」
ご婦人はそのかばんが気に入った様子。
「まあ、素晴らしいですわ、この色つや。気に入りました。」
そう言ってかばんを開けようとするご婦人。すると、かばん屋は顔を曇らせて言います。
「ですが奥様、このかばんにはカギがありません。ちょっと不便ですが、それでもよろしければお買い上げくださいませ。」
「そうですか。それは残念ですね。」
と、言ってご婦人は諦めかけています。まずいと思った口の巧いかばん屋は慌てました。
「奥様、これはお値打ちですよ。奥様でなくてもきっと直ぐに売れてしまうでしょう。」
ご婦人は頬に手をやり悩んでいる様子。
「それでは、こうしていただけないかしら。」
ご婦人はそう言って、自分のそれはそれは上等そうな手提げかばんを差し出しました。
「ちょっと古いかばんですが、これと交換していただくとうのはどうでしょう。かばんがふたつあっても仕方ないですものね。」
そう言われてかばん屋は、ご婦人のかばんをまじまじと見つめて考えました。
「どうせ、ただで手に入れた革かばんだし、あの手提げかばんの方がよほど立派じゃないか。ここは取り替えても損はないな。」
かばん屋はにこやかな顔をして言います。
「よろしゅうございます。奥様に喜んでいただけるならそういたしましょう。私は儲けよりもお客様に喜んでいただきたいのです。」
ご婦人は満足そうにその革かばんを抱えて帰っていきました。かばん屋はご婦人の手提げかばんをぴかぴかに磨き上げ、あの革かばんの代わりに店の棚にまた置いてしまいました。

そんな時です。あの紳士が現れたのは。
「旦那様、このかばんなどいかがでしょう。」
紳士に差し出されたのはご婦人の持ってきたぴかぴかの手提げかばん。
「ほう、きれいなかばんだな。それにこの頃、肩がこってな。肩掛けが少々辛くなってきたところだ。そうだな、それをいただこう。」
「ありがとうございます、旦那様。」
かばん屋は笑いをこらえるのに必死です。
「旦那様、その切れてしまったかばん。よろしければ私が処分しておきましょう。」
「おお、それは助かる。」
かばん屋はそのかばんを修理してまた売ってしまおうと考えているのです。紳士はそんなかばん屋の悪だくみも知らず、自分のかばんから大事そうに置時計を取り出しました。
そのあまりに立派な置時計にかばん屋の目は釘づけ。かばん屋は魔法にかかったように、その置時計がどうしても欲しくてたまらなくなってしまいました。
「旦那様、大変立派な時計をお持ちですね。」
いかにも物欲しそうにその時計を見回すかばん屋に紳士は言いました。
「これはな、春を告げてくれる大切な時計なのだが、それ程気に入ったのならこのかばんと交換ということでどうです。」
かばん屋はびっくりしています。
「春を告げる、ですか。よく分かりませんが、よろしいんですね、時計をいただいても。」
と言って、その置時計をさっそく抱きしめ、子供のように小躍りをして喜んでいます。
そんなかばん屋の姿を見ながら紳士はぴかぴかのかばんを下げて帰っていきました。

翌朝のことです。また慌てて昨日の若者がかばん屋にやってきました。
「かばん屋さん、カギが見つかったんだ。ボクのかばんを返してくれよ。」
今朝も食事のじゃまをされたかばん屋は不機嫌です。
「ぼっちゃん、そりゃないですぜ。処分してもいいって言うから・・・。」
と、言いかけてかばん屋はごくりとつばを飲み込みました。
「処分したのはこのかばんのことですか。」
なんと、若者の後ろにはあの品の良いご婦人が今日も日傘をさしてそこに立っているのです。そして、手にはあの茶色の革かばん。
「お母様、ありがとうございます。お父様もこっちにきてください。」
驚いたことに、ご婦人の横にはあの紳士もいるではないですか。紳士は涼しい顔をして言います。
「やあ、かばん屋さん。ああ、その棚に置いてあるかばんは私のかばんですね。」
かばん屋は案の定、紳士のかばんを直して、ちゃっかり店の棚に置いていました。これまでの悪だくみが全部ばれてしまったかばん屋の顔は、見る見るうちに青ざめていきます。
「かばん屋さん、私の時計とかばん、返してもらうよ。いいね。」
かばん屋はそう言われるとむきっと顔をあげ、
「旦那様、そりゃないですぜ。全部直したのはこの私で・・・。」
と言いかけて、口をつぐんでしまいました。
なんと、三人の目がけもののようにギラリと光ったのです。紳士は棚にある自分のかばんに手をやりながら、
「そうですか、それではその時計だけはお礼の代わりに置いていきましょう。」
「ちっ」と、舌打ちしたかばん屋でしたが、
仕方ありません。この時計だけでも手に入ったのだからここは我慢するかないようです。
「旦那様、ありがとうございます。」
そう言いながらもかばん屋は悔しくて仕方ありません。三人の帰える後姿をしばらく見送っているとそのお尻からポンっと茶色いしっぽが飛び出たのが見えました。「あっ、やられた!」かばん屋は慌てて時計を見ましたが、それは目を疑うような、ただの汚いガラクタ時計。どうしてこんな物だが欲しくなったのか不思議でなりません。かばん屋は力が抜け、へなへなと座り込んでしまいました。

「父さん、上手くいったね。拾ったかばんがぴかぴかだよ。人間って面白いね。でも、大事な時計なのに、あげちゃって大丈夫なの。」
「ああ、本物はこれから行くあなぐらに大切においてあるから大丈夫だ。安心しなさい。」
「さあ、あなた達、これからこのかばんに冬の間の食べ物をたんと詰め込みますからね。また上手く人間達をだますのよ。」
「分かったよ、母さん。そんなの簡単だよ。ねえ、父さん。」
そんな三匹の笑う声が、秋の風に乗って遠くから聞こえてきました。
今年の冬も寒くなりそうです。


ハイ、見事に落選いたしましたわ。
ここも厳しい世界でございます。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする