「本庄早稲田の杜クロスカントリー&ハーフマラソン」
≪エピソード1≫
スタート後、初めての給水所。
ボランティアさんや周りのランナーが不思議そうに私を見る。
それはそうだろう、給水をどうするのかそれは興味の沸くところ。
私はおもむろに懐からストローを取り出した。
「命のストロー」と名づけ、まるでセミが樹液をむさぼるが如き、紙コップの水を飲み干した。
「なるほどね~」と何処からかの半ば呆れたような声が聞こえた。
あるボランティアさん、それでホントに走りきれるのかと問いかけてくる。
「いや、もうやめたいですよ」
との答えを返し再び走り出す私。
中間点を折り返してきて再びその給水所でそのボランテイアさんと再会。
嬉しそうに満面の笑顔で、「本当に走っちゃったんだね、よく頑張ったね」と。
ただ単純にその言葉が嬉しかった。
≪エピソード2≫
この日は暑かった。
それ程の距離でもないようなところからポツポツと歩きの入る
ランナーさんが多く見かけられた。
余裕というほどでもないが、このくらいのペースならそんなランナーさん達に
激励の声をかけながら走れる。
暫くそんな感じで走っていくとやけに呼吸の荒いベテランランナーさんと遭遇。
そして隣に並びかけた。
一瞬驚いたような雰囲気のそのランナーさん、私に年令を聞いてくる。
実際年令なのか、キャラクター年令なのか一瞬答えに詰まったが
きっと私自身の年令だろうと、「53歳です」と答える。
すると、「若い!羨ましい」と言うようなニアンスで会話を始めようとする。
が、相変わらず激しい息遣い。
そこで逆に年令を聞き返してみた。
もう60歳だと答えてくれた。
まあ私のほうが若いのは確かだが、そうは変わらぬ年代。
もうダメだダメだというので、「まだまだ行けますって、頑張らなくっちゃ!」
と、気合の一言を投げかけた。
そこで本当に気合が入ってしまったのか、私のペースに合わせ真横にその気配を
長い間感じさせるようになってしまった。
距離は10kmを過ぎた頃。
そして呼吸は益々荒くなるばかり。
この距離で、そこまで無理をしていたらこのランナーさんはきっと完走さえ危ぶまれる。
悪いと思いながらも少々スピードを上げ振り切ろうとした。
が、更に呼吸を荒らげ必死につこうとしているのが手に取るように分かる。
コース幅の狭さから私がバランスを崩し、そのせいで接触を犯す危険性もあり、
何とか離れてくれと口にも出せず、そう祈るばかり。
やがてその呼吸の気配は消え、何事も起こらずホッとした。
それにしても見事な根性見せてくれた60歳ランナーさん。
自分のゴール後、暫くしてそのランナーさんと思われる方と遭遇。
ゴール手前でハイタッチ。
ナイスラン!
≪エピソード3≫
「負けない、絶対に負けない」
そう言って私を追い抜いていったランナーさん。
きっとプライドがあったのだろう。
相変わらず激励の言葉を掛けながらのランを続けていた私にライバル心を燃やしたのか。
それはそうだろう、もし自分が逆の立場ならきっと燃えたに違いない。
そうした事がこのランナーさんのように負けん気を発揮しゴールまで突っ走ってくれたら
それはそれで私の役目としてのひとつの成功。
逆にやる気を失わせてしまったとしたら、
そして沿道からの応援が実は自分のものではなかったと気付き、
そのことによって落胆したならば、それは全て私の罪。
もしそんな方がおられたなら心から謝罪をしたい。
「申し訳ない・・・」と。
≪エピソード4≫
相変わらずすごい応援。
特に今回はお子さんよりも多少お年を召したご婦人達からの応援がすごかった。
出走前、写真をと依頼され照れながらそのご主人様の構えるカメラの前でポーズをとると
自分のからだを拘束されたような感覚にとらわれる。
きっとその奥様が私のからだを抱きかかえていたのだろう。
あっけにとられながらこの初めての体験に少々戸惑う私。
今日の自分は普通の心理状態では到底対応できない事態に陥る事が多いだろうと
覚悟しなければならないとをこの時にやっと悟った。
その後もいたるところで写真を撮られまくった。
圧巻だったのはレース中にも関わらず呼び止められ、ご婦人達と記念撮影。
立ち止まってそれに応ずる自分も自分だが・・・、思わず苦笑してしまった。
これ程たくさんの方のカメラに自分の姿が納められたのは過去最高の
出来事ではなかったのではないだろうか。
しかし、今頃はその写真全てがが削除されている事だろうが・・・。
≪エピソード5≫
あるランナーさんを追い越そうとした。
するとそのランナーさん、しきりに私を褒めちぎる。
そして決め手の一言。
「その出で立ちで、しかもこの位置で走れるのなら、普通に走ったらハーフは
2時間ぐらいで走れるの?」
ガックときてしまった言葉だったが、悪気の無い会話と言うものは実に楽しい。
またあるランナーさん、
「こういう人がいると本庄の関係者もきっと助かったし、きっと喜んでいるよ」
涙が出るほど嬉しいお言葉だった。
≪エピソード6≫
ゴール後、今までのたくさんの応援に対して素直に振り返りお辞儀をした。
まるでテレビで観たエリートランナーが行う仕草の様に。
それは心からの感謝の気持であって決してカッコつけではない。
本当に意識せず自然に出てしまった行為。
きっとこれはテレビで観るエリートランナーもそういう気持ちになったのだろうと
心のそこからそう思えた。
それまでなんとなく気障な行為だなと思っていた自分ではあったのだが・・・。
人は人に対して優しい気持になれる。
だから人は温かい。
実感である。
≪エピソード7≫
レースも終盤、コースは下り基調であったが弱い向かい風がランナーを苦しめる。
応援の人影も徐々に少なくなりかけ、この位置を走っているランナーは過酷な条件。
それでも決してゴールを諦めることは無い。
給水所にやっとたどり着いても既に紙コップは無く、皆でペットボトルの水を
手に汲み飲み干していた。
この辺りからであろうか、ピンクのカラフルなウエアの若い女性と
ほぼ同じ様なペースで走っていた。
いつからだか忘れてはしまったが、いつの間にか私が前に出ていたらしい。
距離にして18kmは越えていただろうか、私の足も無理な走法のおかげで
大分疲労がたまってきていた。
かなりペースは落ちていたと思ってはいたのだが、そのピンクのウエアの女性は
私をペーサーとして私の背中を追って走り続けたというのだ。
それがわかっていたならばもっと声もかけただろうし、
もっとペースも一定を維持して走ってあげられたかもしれない。
そんな事を知ったのがゴール後、完走証をいただきトボトボと歩き出した時だった。
そのピンクの女性と若い男性が私の前に現れ、そのお礼と共にそんな事情を話してくれた。
少なからずも私の走りがこのピンクの女性の助けとなったのなら
それこそランナー冥利に尽きるというもの。
再び感動の渦に巻き込まれていく自分を感じていた。
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こうして2時間23分あまりの夢の様な時間が終った。
しかし、この記憶は一生消える事はない。
皆さん、ありがとう!
「なみへい」はとっても幸せ者でした。
(次回、「なみへい」の全貌を明らかにします。乞うご期待)
追伸
ボストンマラソンの悲劇に対して心より冥福を祈り、またこのようなことが二度と起こらぬ
世の中になることを切に願う次第であります。
また、この大会に参加しているはずのmihoさんご夫妻のご無事を心より祈っております。
追伸2
たった今、mihoさんご夫妻が無事であるとブログにて確認。
亡くなった方や負傷を負った方には申し訳ないですが、ホッとしました。
ホントに良かった~。