走りきれただけで充分なのに
それでも悔しい気持を
抑えきれない私は・・・・。
「板橋Cityマラソン」
今は3月。
年度末である今の時期、
殆どの同僚達は年次有給休暇を消化しきれず、この時期にまとめて取得するパターンは
いつもの事。
そうなると人手が足りず、仕事量自体は普通の状態であっても
その繁忙ぶりは半端ではない。
相当身体的にきつくなるのもこの時期ではあるが、それはお互い様。
誰が悪い訳でもなく、毎年そうして一年が終る。
しかもこの時期は季節の変わり目で、特に今年は気温の変化が厳しく
とうとう先週の中ごろには起き上がることもできなくなるほど疲労が蓄積してしまった。
それでも仕事を休む事はできず、無理やりけだるいカラダを奮い立たせ
数日の夜勤をこなしていた。
先週はそれに付け加えお彼岸であったことから、親戚の来訪を向かえ
そしてこちらからも出向くといった昔ながらの慣わしをこなさなければならず
休まる事がなかった。
そんな状態であるから短い時間でも走っておきたいこのレース前ではあったのだが
たった5kmを走るのも恐ろしくきつく感じ、それはただのこの頃の気温上昇のせいだと
思い込むことにし、何とか休日出勤を断ったレース前日の土曜日までこぎつけた。
しかし、喉は痛く、やや微熱を感じ、カラダのだるさは相変わらずで、
とてもではないがこの状態で42kmを走るなんて無理だろうと。
翌日はレースを諦め、来週の勤務に備えてゆっくりカラダを休めようとも思っていた。
就寝前、うとうとしたその時に旧友からの電話に起こされ閉口してしまったが
次の日のレースを諦めたのなら別に苛立つ事はない。
が、やっぱり心のどこかに諦めきれないところがあったのだろう。
長電話の最後にはつっけんどな対応。
我ながら大人気ないと情けない気持でいっぱいとなりながらも意識が薄れていく。
翌日、午前4時に目覚めてしまう。
喉の痛みは多少和らいだ感はあるが、やけにカラダの冷えを感じていた。
起きられない事もないが、やはり普通の状態ではないことに変わりはない。
「チップ返却の事もあるし、一応会場には向かってみるか・・・・」
走ることを諦めているというのに、それでも走る為の荷物を背負い午前6時出発。
約1時間ほど電車に揺られ会場至近の駅についたのは午前7時半。
それなのに駅周辺には人で溢れていた。
急ごうにも人の流れはそれを許さず、
ただただ流されるのみ。
頭上にはほぼ満開のさくらが
曇り空の灰色の中に浮き出されていた。
途中、知り合いとも無事合流。
今の自分の状態を説明し、走ることに戸惑っていると。
いつの間にか走る、走らないの選択が五分五分となっている事に苦笑。
さすがに大勢のランナーの人波の中にいると心がだんだんランナーの性に
目覚めていっていたのか。
喉に相変わらず痛みはある。
気温以上に寒さも感じている。
しかし、カラダのだるさは無い。
走ってひと汗かいたならきっとこの体調も好転するに違いない。
なんと能天気で勝手な思い込みの自分。
ダメだ、ダメだ、と思いながらどんどん走る準備を進めている。
時間がない、急がなくっちゃ。
着替え、栄養補給、肉刺予防、計測チップ装着、ウエストポーチも持ったし、
ハンドタオルも持った。
え~と、あとは、あとは・・・・、大丈夫、これで大丈夫だ。
この時点でスタート10分前。
トイレの順番待ちの長い列にダメだろうと思ってはいたが、一応並ぶも一向に進まない。
もう、トイレもストレッチもアップも諦め指定位置の枠に入る。
そして何を考えている間もなく遠くで号砲を聞く。
寒い、とにかく寒い。
寒さに震えながら流れの風の中に飛びこんでいった。
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あと5km
あと3km
あと1km
ゴールゲートが見えた。
何とか生きて帰ってこられたようだ。
ゴールの青いジュータンを踏んだ時、手持ちの時計は3時間39分45秒を示していた。
足首には少々ダメージがあるようだが、その他に決定的な痛みはない。
が、ともかく休みたかった。
最初から最後まで寒さに震え、カラダを冷やす事に恐怖を感じ
一度もとらなかった給水もゴール後のサービスで一気に二杯を飲み干した。
そして途中で応援をしてくれていたというもうひとりの知り合いの思いがけない出迎えに
一瞬涙がこぼれそうになったが、ここは必死に隠した。
ボロボロにはなってしまったが、やっぱり走って良かった。
身体的に残っているエネルギーは僅かだが、心には走りきれた充実感と満足感で
満ち溢れている。
正直、その時はそう思えた。
走った、走りきれた、そのことだけで充分。
だけど・・・・・。
私にとって42kmと言う距離は
そう簡単には攻略できない距離らしい。
何度走っても、
これで全てにおいて
満足ということが無い。
過去最高のタイムを記録してもまだ行けるんだと思い、走れなくても次こそはと奮い立つ。
一生かかっても、これでいいんだと思うことは私にとっては無いレースらしい。
今回も時間が経つにつれだんだん悔しさが湧き出してきた。
自己管理の未熟さや、心の弱さが結局は敗因を招く。
今回はその最たるもの。
今はカラダも心も不調の波の底に沈んでいる自分の現状を
どう扱って言ったら良いのかさえ分からないのが実情でもある。
浮上のきっかけはきっとそう簡単には見つからないだろうが、
汗をかき息を切らして進んでいけばきっと掴める筈だ。
そう信じて、今は熱のあるカラダにやっと訪れた休養をたっぷり与えている。