前日0時までの仕事をこなし、帰宅してから明日に必要なものを整える。
あれが足りない、これはどうしよう、などとあたふたしていれば既に時計は午前二時を過ぎていた。
遅くとも5時半には出発したい安中までの道のり。
かなり手間のかかる身支度を考えれば早ければ早いことに越したことはないが、それではあまりに睡眠時間が短すぎる。
ここ数日の気温の高さからして睡眠不足は足を止めざるを得ない理由に申し分なく、嫌な予感たっぷりに布団に入る。
外の明るさに気づき時計に目をやると6時。
慌てて飛び起き再び今回も走れぬのかとの諦めのなか、必死で車を飛ばすがそんな時に限って前をふさぐトラック。
数キロで交差点を横切っていったがその時間の長さといったら・・・・。
何とか受け付け終了前に会場に到着。

多くのランナーたちは談笑の真っ最中でその方たちをかき分けかき分け荷物を預け、ホッと一息。
それからもう一度車に戻り身支度を調える。
会場に戻りトイレを済ませるとあれほどいたランナーたちの姿がない。

少し離れたスタート場所に行ってしまったようだ。
アップを兼ね身支度の不備を確かめるように小走りで向かうとそこには異様な集団がスタートの合図を待っていた。

ここまで焦りに焦っていた自分は他のランナーたちのハイテンションに併せられず、知り合いにさえ会えずに孤独な路傍の人となっていた。
知らぬ間にスタートが切られたようで、前を行くランナーに従って歩みを進めるがかなりペースとしては遅い。
と、言うのもゆっくり走っても十分に間に合う関所コース(20km)の参加募集人員と参加者が増え、明らかに自分の周辺には祖のランナーが多く関門の厳しい峠コース(29km)のペースじゃない。
しかしペースを上げようにも前を完全にふさがれ、無理にすり抜けることもできずほとんどあきらめの境地。
次第にばらければとの期待の中、既に杉並木まできてしまった。

このレースでは一番応援の多い場所だが視界はほとんど前と下だけの自分にはどれだけの人が沿道にいるのかさえも分からない。
歓声もかなり遮られているようで周りのはしゃぐランナーを冷たい目線でしか見られない自分の境地に半ばあきれる。
こんな気持ちでこのポイントを過ぎたのは初めてかもしれない。
それより何よりこの走り辛さはなんだ。
気付けば三本占めている紐のうち二本が緩んでしまっているようだ。
脇に刺した刀がずれて落ちそうになる。
一旦立ち止まり紐を締め直すがすぐに緩むを繰り返す。
仕方なく左手は刀を、右手は佩楯を支えながら走り続ける。

こんなことになるだろうと熊谷さくらマラソンでのテストを考えていたのだが、それができなかったツケがこの本番のこの日に発覚するとは何とも不運。
10kmを越えたころにはあまりの走り辛さから今度は一度すべてを外し再び整え紐を締める位置を変えてみた。
それからは緩むこともなくなりやっと普通に走れるようになった。
時間を見れば1時間15分を超えている。

この先の勾配のきつさを考えると関門の制限時間2時間40分はかなりきついものとなることを覚悟した。
しかも歩道を走る際は自分のペースでは走れず、信号にまたされることも予想される。
かなりピンチの状態。
その上にここまでかなりおかしな走りをしており、相当ダメージも負っている。
先に行けばいく程最悪の事態が脳裏に浮かぶ。
一昨年、かなり時間を余して関門を突破したのは良いのだけど、腰をかばった走りゆえ足のダメージが相当酷く、その上の山を登ることを断念し収容バスに乗った。
あの雰囲気の暗いバスに揺られて碓井峠を越えるのは二度とごめんである。
あらん限りの力で前に進もうとするが、今回も足に余裕はない。
ただ、足攣りの原因となるミネラル不足は前回の前橋・渋川マラソンでの経験から塩つぶを持参している。
あの時の処置で復活した足攣りは今回は防げるとある程度の自信はあった。
案の定、段差で危うく攣りそうになって慌てて塩を飲んでからはその兆候がまったくなくなった。

それでも時間的なピンチは続く。
関所を過ぎるとその先は激坂が続く。

が、そこを歩くわけにはいかない。
あと20分、15分、10分、関所コースのランナーと別れ峠コース最難関の関門へと急ぐ。
見えた!
何とか間に合いそうだ。
3分前クリア!!!

やっと間に合ったの安堵の気持ちに浸る暇もなくこれからの山登りに挑む。
いや、本当は少し休みたかった。
が、ここで休んでしまうと体が動かなくなってしまうような気がした。
動き続けたほうがいい、そう判断をし山へ挑む。
いきなりの急坂は身に応えるが気温はかなり下がった。
それでも汗が玉のように零れ落ちる。
すぐに水が欲しくなるが給水所まではまだ距離がある。
一呼吸、二呼吸入れ何とか急登をこなした。

暫くなだらかな登山道を走ったり歩いたり。
途中、かなりきつそうなランナーに声をかけ前に進む。

峠コースは参加者が絞られたようでかなり淋しい。
山中にひとりぼっちとなることも少なくない。
不安はないがそれまでの雰囲気ではないことは間違いない。
時々他のランナーと一緒になるとホッとすることもある。
それにしても今回は坂がきつい。
いつもと同じ坂なのだろうがやけに厳しく感じる。
走力が落ちたのか、それとも今回の仮装の衣裳に無理があったのか定かではないが、とにかくここまで来た以上辞める訳にはいかない。
不幸にも体調を崩し途中で横わたっていたランナーは係りの方が運転する車でこの山道を上っていった。

きついと感じても自分にはまだゆっくりだが前に進む力がある。
長い長い最後の坂を登り切るとようやくゴールが見えてきた。

やっと終わる、終わった、4時間44分の長い旅の終わりだ。

そしてサプライズ。
リザルトを見ると、なんと自分の名前が。
仮装大正6名の中に自分の名前を見つけた。
残念ながら表彰式には間に合わなかったが賞状と記念品を頂き、参加者に振舞われる蕎麦とお餅を頂き帰路についた。

バスに揺られ約1時間でスタートした安中市に戻るころにはその賞を受賞した喜びが沸々と湧いてきた。
数日、徹夜同然で製作に打ち込んできた苦労が報われ、そして本当に念願だった仮装大賞はそれまでの辛さを一気に吹き飛ばしてくれたと同時に、来年もこの賞を頂けるようにと頑張る力を頂いたような気がした。