化学製品の東レ(TOREY)、テイジンや化粧品のカネボウといった会社名は、皆さんご存じだと思います。では、これらの会社の昔の会社名をご存じでしょうか?
東洋レーヨン、帝国人絹、鐘淵紡績です。えっ!変な名前と思う方は、お若い方でして、私以上の年代の方々なら皆さんご存じの筈なのです。人絹とは人造絹糸、つまりレーヨンの事です。
そう、これらの会社はもともと繊維会社だったのです。繊維業界は、かつては花形産業でメイドインジャパンの象徴でもあったのですが、アジアの後発の国々の追随と円高をあおりを受けて存続できなくってなってしまった産業だったのです。
それは、もう今の企業のような苦しみどころか、存続すら難しい倒産寸前の企業経営環境だったのです。そんな危機的経営環境にあって、事業の再構築(Re-structure)・再編成の一環として、東レは化学製品部門、特に淡水化プラントや家庭用の浄水器の中空紙フィルター技術では世界的に企業になった訳です。テイジンも同様で、カネボウでは化粧品事業という独自の路線に進んで再構築を果たしたのでした。
こういった、不採算事業を転換して、新たな事業を編成するという企業手法のことを、本来はリストラクチャリング、略してリストラと言った筈なのですが・・・。
この東レの元社長で名誉会長、経団連の副会長を務められた前田勝之助さんのインタビューが3月8日付の朝日新聞に掲載されていました。
同氏曰く、「我々は今回のような不況をこれまでも経験してきました。そのため雇用をどうしたらいいのか、30年以上前から考えてきた。国際競争だから、リストラはやる。ただ、一緒に働いた人の生活環境は守るということだ。」
東レには、”人事開拓室”なる部署をもうけたり、殖産会社という子会社を作って、不況時に退社させた社員に介護や園芸など地元の需要に合わせて仕事を担って貰っているそうです。仕事の百貨店で、現在約3千人いるそうですが、以前の給料の8割は確保されているようです。特に、この人達は、逆に景気が良くなれば、真っ先に工場に戻って貰う人達、つまり予備役のようなものであるために、東レでは派遣社員は採用してはいないのだそうです。
アメリカ型の経営のように、必要が無くなれば人員を減らす経営であれば、足し算引き算ですから馬鹿でも出来ます。それが、技能の伝承という観点や雇用の維持という企業が持つハンディキャップがあるからこそ経営が難しいと思うのです。こういった、大前提なしに、子供の足し算引き算のようにポンポン解雇できる企業社会になっている昨今の企業経営のあり方には、末期的な症状になっていると言わざるを得ません。
「すべては、企業は人であるという考えから来ている。大企業の社会的責任は法令遵守と雇用の二つが重要だ。」と前田さんは言う。当たりまえのフレーズなのだが、それこそ未曾有の繊維不況を実際に乗り越えて、30年以上も前に、実際に数多くの労働者の雇用を守った経験のある経営者の言葉はとても重いのである。
事業を再編成・再構築するリストラという言葉を、実質”人員解雇”という意味にすり替えてしまった今の多くのにわか経営者に反省を促したいと思う。