一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

やはり制度設計の前提に問題があるような・・・ (構造計算書偽造問題 その10)

2005-12-02 | あきなひ

以前のエントリ で、一定の信頼を前提にしたしくみは悪質な偽造に対しては無力だ。しかし、極端な悪意の人間を前提に制度を作ったのでは過大な費用がかかり効率性が損なわれる。なので、どこかで線を引いて、制度の前提となる信頼を覆すような行為をした者には厳しい制裁を与えるというようなことで対処するしかないのではないかということを書きました。

しかし
国公認の構造計算データ、市販ソフトで容易に改ざん
(2005年12月 2日 (金) 03:10 読売新聞)

ERIや国交省の調査で、この公認ソフトが出力するデータは、「ワード」などのワープロソフトに張り付けて編集できることが判明した。
編集によりエラーの文字を消し、大臣認定番号を書き込むことができ・・・

というのを読むと、現状の制度は(本件でよく言われるように)性善説に立っているのではなく、実は「馴れ合い」を前提にしていたのではないかと思うようになってきました。

つまり、構図としては

① 国土交通省は行政改革の一環として建築確認を民間委託しろと言われた

② しかし自治体の仕事が減って人が余るおそれがあるので、指定確認検査機関が建築主事の天下り先になるような法律を作った(こちらの記事の後半参照)

③ 国会も法案作りを国土交通省に任せ切りにして、「民間委託」をした、という結果に満足していた(のではないか)

④ さらに施行令で建築主事が楽をできるように大臣認定ソフトウエアに基いて申請させるしくみを作ることで確認作業を軽減化した

⑤ しかも、大臣認定ソフトウエアは本来果たすべき機能を満足できる性能を持っていないずさんな物(これ自体国の責任を構成する可能性についてはこちらを参照)

⑥ 指定確認検査機関は受託拡大のためにはスピードアップのインセンティブが働くので、申請を「大臣認定ソフトウエア」に依存してほとんどチェックせずに確認をおろしている(それではいけないのでは、ということもこちら(⑤と同じ)を参照)

⑦ 指定確認検査機関が出した確認については、自治体も「建築基準関係規定に適合」しているかどうかの再チェック(建築基準法第6条の2第4項)をせずに素通り(それではいけないのでは、ということもこちら(⑤と同じエントリ)を参照)

と、まあ、確認申請の申請者はさすがに偽造はしないだろう、という前提で役人の利権を確保しながら、けっこう安易に規制緩和の形だけを作ってしまったのが今回の事件の元になったのではいかと思われます。

性善説というのもある意味一種の馴れ合い(信頼関係)を前提にしているわけですし、日本においては世の中の仕組み全体が多かれ少なかれ一定の信頼とか共通理解を前提にしているわけですが、今回明らかになったもろもろのことを見ると、馴れ合いの弊害のほうが大きいと思います。
※アメリカの契約のようにそもそも契約相手が契約主体として有効に存続しているか、というところからすべてを積み上げるというのもどうかと思いますので・・・


なので、建築行政、建設・不動産業界自体の信頼回復のためには、姉歯設計士(または姉歯-木村建設-ヒューザー)という「悪者」の悪事にどう対処するかだけでなく、建築確認制度自体をかなりのレベルの信頼性あるものに変えていく必要があると思います。


※過去の供給物件の信頼性を誰の負担でどこまで調査するかの問題については、政府の方針を見ながら(できれば)書こうと思います。 
※また、同様に建物の安全性にかかわる手抜き工事の問題については、建設労働を取り巻く問題などもからんでくるので、これはまとめきれるかどうか全く自信がありません・・・


<過去記事はこちら>
細かい点の整理(構造計算書偽造問題 その9)
日本ERIから学ぶこと(構造計算書偽造問題 その8)
国交省委員会招致(構造計算書偽造問題 その7)
再発防止のために必要なもの(構造計算書偽造問題 その6)
コンプライアンスと現場の取引関係(構造計算書偽造問題 その5)
依然妙案なし?(構造計算書偽造問題 その4)
CSR、倒産法制、"Empty Pocket"問題など(構造計算書偽造問題 その3)
マンションの購入者と倒壊の責任リスク(構造計算書偽造問題 その2)
構造計算書偽造問題について

コメント (2)
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細かい点の整理 (構造計算書偽造問題 その9)

2005-12-02 | あきなひ

構造計算偽造問題について、細かい点について自分の頭の整理のためにまとめたものです。
法律の条文の引用が多く、しかもかなり長いエントリになってますので、細かいことに興味のない方は飛ばしてください。

1 検査機関の義務について

建築基準法第77条の24 「指定確認検査機関は、確認検査を行うときは、国土交通省令で定める方法に従い、確認検査員に確認検査を実施させなければならない。 」をうけて、建築基準法に基づく指定資格検定機関等に関する省令」では

(確認検査の方法)
第二十三条  法第七十七条の二十四第一項 の国土交通省令で定める方法は、次の各号に掲げる確認又は検査に応じ、それぞれ当該各号に定めるものとする。
一  法第六条の二第一項 (法第八十七条第一項 において準用する場合を含む。)の規定による確認 次に定める方法
イ 建築基準法施行規則 (昭和二十五年建設省令第四十号。以下「施行規則」という。)別記第二号様式の第二面 から第五面 までに記載すべき事項のほか、次の(1)から(12)までに掲げる事項が記載された図書及び(13)に掲げる図書をもって行うこと。

構造計算については13号で建築基準法施行令にそれぞれ規定する構造計算をした際の計算書によることとされています。
そこで建築基準法施行令 を見ると、たとえば

(柱の小径)
第四十三条  構造耐力上主要な部分である柱の張り間方向及びけた行方向の小径は、それぞれの方向でその柱に接着する土台、足固め、胴差、はり、けたその他の構造耐力上主要な部分である横架材の相互間の垂直距離に対して、次の表に掲げる割合以上のものでなければならない。ただし、国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない。

というように規定されています。
この「国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて構造耐力上安全であることが確かめられた場合はこの限りでない」というのが「認定ソフトによる計算に従ったことを確認できればよい」という主張の根拠のように思われます。
しかし、僕は行政法の規定の読み方には詳しくないのですが(じゃあ、他の法律には詳しいのか、というツッコミはこの際置いてください)「国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて構造耐力上安全であることが確かめられた場合」という規定は、

①国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によっていること
②その計算が適正に行われたこと

を確認する義務を課しているように思います。

したがって、検査機関が計算に偽造があったことを見抜けなかったことに注意義務違反があった場合はやはり法令違反になるように思います。
特に、「こんな図面通ったら大変」偽装通報者、1年半前に指摘 の記事にあるように

「姉歯建築士の図面は「はりや柱が細く、鉄筋の本数も少なかった。どれも常識では考えられない水準だった」

というレベルであったとすれば、計算結果だけを鵜呑みにして構造図も確認しないというケースは、建築基準法違反になるのではないでしょうか?

2 行政の責任

最近よく引用されている最高裁判決 は指定確認検査機関が行った建築確認も自治体の事務である、というものですが、そこでも引用されている建築基準法第6条の2を見ると

(国土交通大臣等の指定を受けた者による確認)
第六条の二  前条第一項各号に掲げる建築物の計画(建築士法第三条 から第三条の三 までの規定に違反するものを除く。)が建築基準関係規定に適合するものであることについて、第七十七条の十八から第七十七条の二十一までの規定の定めるところにより国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者の確認を受け、国土交通省令で定めるところにより確認済証の交付を受けたときは、当該確認は前条第一項の規定による確認と、当該確認済証は同項の確認済証とみなす。
2  前項の規定による指定は、二以上の都道府県の区域において同項の規定による確認の業務を行おうとする者を指定する場合にあつては国土交通大臣が、一の都道府県の区域において同項の規定による確認の業務を行おうとする者を指定する場合にあつては都道府県知事がするものとする。
3  第一項の規定による指定を受けた者は、同項の確認済証の交付をしたときは、国土交通省令で定めるところにより、その交付に係る建築物の計画に関する国土交通省令で定める書類を添えて、その旨を特定行政庁に報告しなければならない。
4  特定行政庁は、前項の規定による報告を受けた場合において、第一項の確認済証の交付を受けた建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは、当該建築物の建築主及び当該確認済証を交付した同項の規定による指定を受けた者にその旨を通知しなければならない。この場合において、当該確認済証は、その効力を失う。
5  前項の場合において、特定行政庁は、必要に応じ、第九条第一項又は第十項の命令その他の措置を講ずるものとする。

 とあり、自治体にも「建築基準関係規定に適合するかどうか」の確認まで義務付けているように読めます。
したがって、この場合の自治体の義務がどのレベルのものかは議論の余地があるとは思いますが、上記のように偽造が明らかにもかかわらず看過した場合には自治体にも責任は生じうるのではないでしょうか。

3 国の責任

国公認の構造計算データ、市販ソフトで容易に改ざん
(2005年12月 2日 (金) 03:10 読売新聞)

ERIや国交省の調査で、この公認ソフトが出力するデータは、「ワード」などのワープロソフトに張り付けて編集できることが判明した。編集によりエラーの文字を消し、大臣認定番号を書き込むことができ

るそうです。
検査機関や行政が主張するように彼らの業務が構造計算の確認でなく「大臣認定ソフトによる計算をしたことの確認」であるとすればなおのこと、少なくとも認定ソフトによることは確実に確認できるような仕組みになっている必要があるはずです。

つまり、そもそもこの「認定ソフト」は本来果たすべき機能を満足できる性能を持っていなかったわけです。これは1で引用した「国土交通大臣が定める基準」自体が不適切だったわけで、これ自体国の過失になりうるのではないかとも思います。

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日本ERIから学ぶこと(構造計算書偽造問題 その8)

2005-12-02 | あきなひ

ここ数日俄然注目を集めている指定検査機関の日本ERIですが、構造計算書偽造問題が発覚してからしばらく経つというのに、会社のコンプライアンス態勢・リスク管理の

ネットに記事が載ったベースですが時系列に並べると

ERI社長、イーホームズ社長の「1年前に隠蔽」を否定
(11月30日(水)8時30分 日刊工業新聞)

日本ERIの鈴木崇英社長は同日、国土交通省で会見し「大変驚いている。隠蔽の事実はない。直ちに弁護士と相談し告訴する準備をしている」と語り、藤田社長の発言を否定

他人に噛み付く前に自分のガードを固めるべきではないか、と思っていたら

「不正知りながら放置」不備通報の業者、ERIを批判
(12月1日(木)3:10 読売新聞)

社長らはERIを訪れ、「単なる計算ミスではなく、作為的なものだ。他の物件も調べた方がいい」と強く対策を求めたが、その後、ERI側からは何の連絡も来なかったという。ERIは「応対者が、上司に報告する必要がないと判断したようだ。結果として被害を拡大させ申し訳ない」としている。

「結果として・・・申し訳ない」というのは自らの法的責任は認めないものの遺憾の意を示す言葉としてQ&A集などに載ってそうな言い回しではありますが、これは自分の法的責任がないと確信を持った上で言わないと逆効果になったりするんだよなぁ、とますます「切り口上の強気のリアクション」に心配がつのります。

日本ERI、姉歯事務所関連物件の状況を公表
(12月1日(木)11時1分 ラジオNIKKEI)

日本ERIは1日、姉歯設計事務所が関与した16物件について、これまでに判明した事実を公表した。構造計算書の改ざんが認められ、建築基準法に満たないことが判明したのは・・・の3件。構造計算書の改ざんが認められたものの、建築基準法を満たしていることが確認された物件が2件。構造計算書の改ざんが認められ、現在精査中の物件が6件。明確には構造計算書の改ざんが認められず、建築基準法を満たしている物件が4件。構造計算書の改ざんの有無を含めて現在精査中の物件が1件となっている。

「これまでに判明した事実」って、事件発覚時から調査を始めていたらなぜまだ全貌が把握できないのか、と素朴に思います(後の記事を見ると11/22に既に役所に報告していたみたいですが)。「立会い」で一歩遅れてしまった以上、残る1件まで含めて全体を一気に公表したほうがいいような・・・

「国交省認定ソフトに欠点」 日本ERI指摘 耐震偽装
(2005年12月 1日 (木) 13:22 朝日新聞)

だから、他人の批判をする前に、自分のガードを固めないと・・・
(ソフトの欠陥問題は別のエントリで書こうと思ってます)

川口市のマンションも倒壊の恐れ 耐震強度偽装
(2005年12月 1日 (木) 21:24 朝日新聞)

日本ERIは1日、姉歯建築設計事務所が構造計算した埼玉県川口市のマンション「グランドステージ川口」について、計算書が偽造され、建築基準法の強度を満たしていないと、市に報告した。11月22日には「改ざんはなかった」と報告していた。

・・・

残った1件でなく、報告済みの物件というところが致命傷ですね。
これで全物件「再調査の再調査」ということでしょうか。


あまり他人の批判ばかりしていても仕方ないので、自らへの戒めを含めての教訓

① 顧客や社会への説明責任を果たすために、事態の全貌の把握を第一にする
② 内部調査は内部での隠蔽も念頭において徹底的に行う
③ 責任問題に対する弁明、他人への責任追及は緊急性(免許停止等)がない限り後回しにする
④ 後で覆されたり、異なった事実が出てくるような不用意な発言は絶対にしない

とまあ、あたりまえの事なのですが、マスコミなどに追い立てられる中では冷静な判断は出来なくなってしまうのかもしれません。

それから、こういうときは経営トップにも、事態の展開に一喜一憂したり一刻も早く事態から逃れたいとしてジタバタしたりせずに「腹の据わり」が求められますね。

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