一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『問題は、躁なんです』

2008-04-21 | 乱読日記

書名につられて買ってみました(「新書はタイトルが9割」ですね)。

本書は、「躁病」の解説書ではありません。
医学的には躁状態の原因としては躁病以外にも、統合失調症、ヒステリー、人格障害、認知症、アルコール・覚せい剤・薬剤の影響、ホルモン異常、神経疾患、脳炎、脳腫瘍と様々なものがあり、診断自体は難しいらしいです。

最近「うつ」が日本の国民病になりつつある中で、精神科医の著者が、躁というものは単に「明るい」「元気があってよろしい」「テンションが高い」というものではなく、また「うつ」と正反対の原因や症状と言うわけでもないんだよ、といろいろな実例を交えて説明するお手軽なエッセイという感じです。

躁の特徴として「全能感」「衝動性」「自滅指向」があり、単に「明るい」のではなく破滅的、攻撃的、チープな感情ダイレクトに表面に出てくる、ということを多くの事例で説明しています。

おそらく人間は、ほぼ完璧なうつにはなれるにもかかわらず、自分の心を躁のみで塗り上げ誇大妄想にどっぷりと浸り切ることは困難なような気がしてならない。・・・うつが自然で躁が不自然、これが人の心の基本的な構図であるように思われる。嫌な話であるけれども。

精神を病んだものは孤独である。そして孤独が精神を蝕んでいくことも少なくない。躁病は俗物さ加減を露呈させ、チープな欲望を剥き出しにさせてしまうといった点では、きわめて人間くさい病気なのであった。躁病になりやすい性質とは、周囲の人々と共振し自分で勝手に思い定めたキャラクターを演じきろうとするうちに失速してしまうような性向である。彼らは他人を、社会を必要とする。それなのに彼は躁という状態ゆえに孤立していく。

なるほど、と思う部分もあり、また、ここまで行かないけど似たような人はけっこういるんじゃないか、要は処世訓との差はどこにあるんだろうと思ったりもします。
わかったようなわからないような中途半端感が一般書の限界なのかも知れません。
もっとも、このことについては著者も言及しています。

少なくとも、誰かがわたしに向かって「本当のあなたは自尊心の低さや罪悪感や恥辱感に苦しんでおり、それを覆い隠して自分を護るべく、本業の傍らに次々と本を書き続けているのですよ」と告げたら、おそらく何も言い返せないままうな垂れてしまうだろう。精神医療の胡散臭さは、このゆおなあまりにも「まことしやかな」言説が横行しすぎることが一因であるに違いない。

著者は精神医療に関する著書を多数出しているようですが、躁にはならずにうつになりそうな人かもしれません。
こんなこと書いてるくらいですから。

躁について語っていくと、その語り手は「うつ」になっていく。本書を著しながら、わたしはそんな思いを強くせずにはいられなかったのであった。

 

コメント
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