一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『〈起業〉という幻想 アメリカン・ドリームの現実』(前編)

2011-12-01 | 乱読日記

『20歳のときに知っておきたかったこと』を「起業バンザイ本」と思い込んでて、それとバランスを取ろうと買った本。

起業の実態は世の中で言われているものと大きく異なる、ということを豊富な統計資料やリサーチを元にしつこいくらいに分析しています。
かといって本書は起業を否定しているわけではなく、起業に関する神話を信じ込むことで成功の見込みに関する誤った判断を避けるべきだと主張しています。


本書によれば、アメリカでの起業の実態はかっこいいものではないようです。  


典型的な起業家は、カレッジを中退した40歳代の既婚白人男性である。彼はデモイン(アイオワ州)やタンパ(フロリダ州)など、自分が生まれ育った土地で人生の大半を過ごし、そのままそこに住み続けている。彼が始める新たなビジネスは、彼自身が長年その業界で働いた経験のある、建設会社や自動車修理工場のようなローテクなものだ。典型的な起業家が始めるビジネスは、彼自身の貯金や、恐らく銀行からの個人保証によるローンなどの形で調達した2万5000ドルの資金を元手とする個人事業である。彼は生活費を稼いで家族を養いたいだけだ。要するに、典型的な起業家とは、よくいるあなたのお隣さんのことである。  


具体的な事実としてはたとえばこんなことがあげられています。



  • アメリカは以前に比べると起業家的でなくなっているし、他国に比べて格別に起業家的な国というわけでもない。

  • 起業家は、ハイテク産業ではなく建設業・小売業などのありきたりの業種でビジネスを始める場合の方が多い。

  • 仕事を頻繁に変える人や、失業している人、あるいは稼ぎの少ない人のほうが、新しいビジネスを始める傾向にある。

  • 典型的なスタートアップ企業は、革新的ではなく、何らの成長プランも持たず、従業員も一人(起業家その人)で、10万ドル以下の収入しかもたらさない。

  • 7年以上新たなビジネスを継続させられる人は、全体の三分の一しかいない。



ベンチャーキャピタルからの資金調達(それが立派な企画書やプレゼンテーションが必要とされる大きな要因になっていると思うのですが)についてもにべもなく切り捨てます。


極端に成長性の高いバイオメディカル企業かIT企業でもない限り、あるいは独占的な優位性を持ち、過去に株式上場を成功させたチームを社内に擁しているのでもない限り、ベンチャー資本に資金を求めるといったことは忘れてしまったほうがよい。ベンチャー資本家は、非常に口やかましい投資家である上に、毎年創立される会社群のほんのわずかな割合に対してしか資金を投入しない。

・・・グーグルの最高経営責任者や、シリコンバレーのベンチャー資本は、一般の起業家がベンチャー資本投資を得られる確率を、太陽が燦々と降り注ぐ中、プールで雷に打たれるのと同じくらいの確率だと語っている。

実際はそんなに悪くない。スタートアップのシード段階でベンチャー資本を得る確率は4000分の1、それに対して雷に打たれる確率は実際には57万6000分の1だ。しかし、ベンチャー資本を獲得する確率は、芝刈りしてケガをする確率(3623回に1回)、シャワー中に不運にも転ぶ確率(2232回に1回)よりも低い。シャワーを浴びている時にどうやってベンチャー資本を得ようかと深く考え込むより、転ばないよう注意したほうがよい。そのほうがよりよい時間の使い方になるだろう。



途中まで読んでいくと、起業の実態はそうだとしても、それは無計画に起業している人が多いというだけで、上手くいっている典型例は別にあるのではないかと考えるようになります。

言い方を変えれば「イケてる俺は違うぜ、うまくやるにはクールな事業プランと本人のアントルプレナーシップがなくて企業をする奴が間違ってるんだ」という感じでしょうか。

当然著者もその辺は承知で、本書の後半では、成功した起業家とそうでない起業家の違いについて分析し、よくある起業家の神話に影響されずに起業を成功させる可能性を高めるポイント(起業というのはあくまでそういうレベルのものだという認識がそもそも大事だという前提で)を分析しています。


長くなったのでそこは次回。


 

コメント
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