一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『〈起業〉という幻想 アメリカン・ドリームの現実』(後編)

2011-12-04 | 乱読日記

間が開いてしまいましたがつづき。

後半からは、どういう起業家が成功を収めるか、逆に言えば大半の起業家はどういう過ちをおかしているかが論じられます。

著者は、そもそも起業自体が成功の確率の低いものだ、という認識が必要だと説きます。  

・・・平均的な起業家はほとんど失敗せざるを得ない。もし、平均的な新しいビジネスが何年も生き延びることになるのなら、平均的な既存企業は失敗していなければならないし、また、アメリカの起業家数が上昇することになるだろう。しかし、その数は、過去二十年から三十年にわたってほとんど変化がないこと、また、すでに設立されたビジネスは簡単には失敗しないことは誰もが知っているので、ほとんどの新たに始められたビジネスが失敗しているというのが真相に違いないのだ。  

だからといって起業をすべきではない、とは言いません。  

しかし、ほとんどの起業家が失敗するからといって、起業家になるべきではないなどと早合点しないでほしい。データは少数が大変なお金持ちになるということも示している。  

起業家になるべき理由は、もう一つ存在する。それは個人の幸福だ。さまざまな研究から幅広く集めたデータによれば、人は他人のために働くよりも、自分のために働いた方が幸せになれる。  

ただ、起業するにあたり正しい準備と賢明な選択をすることが必要なのにもかかわらず、大半の起業家がそれをしていない(統計や研究が明らかにする成功の要因に反するという意味ですが)と指摘しています。

たとえば

  • 典型的な起業家は過剰に楽観的である
    (平均的な起業家は自分の会社が成功する確率を81%と評価しているが、これは新たなビジネスの一年後の生存率よりも高い)
  • 多くの起業家がこれまで働いてきた産業や自分のスキルにあった産業を選択するが、産業によって成功率は劇的に異なる。一番大事なのは望ましい産業を選択することである。
    (孫正義氏はソフトバンク創業の前に、全産業の利益率を比較した表を作ったというような話を読んだことがありますが、大半の起業家は起業する際に産業間の比較をしないそうです。)
  • ほとんどの起業家が小規模のビジネスを少ない資本金や資産や従業員で始めているが、より大規模のスタートアップ企業のほうが資本を得やすく、利益率が高く、成長も大きく失敗しにくい。
    (これは、前半で言及されたベンチャー資本を集めるのは難しい、という現状を考えるとかなり高いハードルではありますが)
  • 多くの起業家が、以前の勤め先と同一の、あるいは似たような顧客を相手にし、同一もしくは類似の製品を販売するが、研究によれば、新企業の業績は、ほかの会社が見逃しているような顧客を探し出すことで向上する。
  • 多くのスタートアップ企業が、個人のお客に対して製品やサービスを販売するが、アメリカでもっとも速く成長した企業の90%は、企業を顧客にしている。
    (本書のデータがカバーしていない最近だとスマホのアプリ開発とかだとB2Cもやりやすいのかもしれませんし、そういうところは競争も激しそうですね)
  • 起業の成功例として、若くして起業をした人がよくあげられるが、多くの研究によれば、よりよい教育を受けた起業家、創業前に誰かの下で働く期間が長かった起業家、起業しようとする会社が属する産業での経験は失敗の確率を下げることができる。

ひとことで言ってしまえば、起業は成功すればリターンは大きいがそもそも成功の確率は低いものであり、勢いでやるものではなく周到な計画が必要、という至極真っ当な結論になります。

ただ、慎重に考えすぎるとなかなか起業に踏み切れなくなってしまうので、そこのところのバランスが難しいんでしょうね。

起業を考える人、またはそういう人に相談された人は一読してみるといいと思います。

 

コメント
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