一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

社外取締役の義務付け

2012-03-27 | コンプライアンス・コーポレートガバナンス

社外取締役の義務付けと社外要件の厳格化をめぐる9つの疑問について(中間試案振り返り③)(bizlaw_style)

相変わらずためになります。
素人にもわかりやすく論点が整理されているうえに筆者のつっこみも鋭く、また参考文献の紹介も充実しています。

社外取締役の機能を経営陣の業績評価に求めるのであれば、細かい意思決定まで関与させる必要は無く、むしろ関与させるべきではないのかも知れない。・・・個々の経営判断の適切さを判断するのは執行サイドがやれば十分で、その会社の細かい実務を把握しているわけではない社外取締役に判断を求めてもしょうがない。各意思決定に対するコンプライアンス上のチェックの必要性もあるけど、それは監査役に任せておけばいいのではないか。社外取締役はもっと大きな視点で、経営側の業績目標の達成状況や今後の方向性をチェックするなどの経営への監督・評価機能が期待されているものと考えられるから、そうだとすれば、もっと決議事項を減らして、監督に集中させた方が良いというのも合理的な考え方のように思う。

社外取締役を導入するという前提であれば、たしかにこの方向はいいんじゃないかと思います。
社外取締役から個別の経営判断の義務を軽減すれば、専門性と独立性のトレードオフの問題も緩和できますし。
(ただ、社外取締役の導入をする必要がある、または、導入したほうがよりよくなる、というのは本当なのかという前段の大きな議論はありますが)

日経ビジネス2012年3月19日号の記事ソニーとニッセンの明暗 業績は統治で変わるで成功例として紹介されているニッセンのスタイルもこれに近いです。


一方で、エルピーダにおける半導体工場のように、設備投資が巨額でハイリスク・ハイリターンの業界において、会社の命運をかけるような投資判断を「執行の問題」として経営陣に任せてしまうのであれば、取締役会は単なる経営陣のコミットした業績目標とその結果を評価するだけになってしまうというところが問題になるかもしれません。
特に、専門性に劣る社外取締役が過半数を占める会社においてそのような意思決定ができるのかという問題もあります。(こういう局面を想定すると責任範囲の議論にもなると思います。)


また日経ビジネスの記事ではソニーの社外取締役さらには取締役会議長をつとめた中谷巌氏のトップ交代の力学を“空気”だというコメントを紹介しています。

「社外取締役のできる最大の仕事は経営者の交代だが、やはり“世論”の影響のようなものが大事になる。常識的に考えて、ここまで業績が悪くなって、これなら仕方ない・・・というような(判断の)かたちになっていく」

有識者としてはビッグネームであろう中谷氏ですらこうだとすると、社外取締役がたすうになった取締役会といえども、経営陣の評価どころか、「業績が悪化し、世間の評判も落ちたにもかかわらず居座っている経営者を排除する」程度の機能しかもたなくなってしまう可能性もあります。
そのためのコスト(言うなれば「保険料」)として妥当かどうかは議論になると思いますし、個人的にはそんなものなら導入する意味がないと思います。


結局、もし社外取締役の導入を義務付けるとしても、あまり厳格なルールにすると個別の会社の特性に合わない硬直的なものになってしまうので、かえって機能しなくなると思います。
また、子供っぽい話ではありますが法律で「義務付けられた」場合、企業経営者は義務付けられた最低限にとどめがちになるので、その辺も考慮した方がよいのではないでしょうか。

義務付けするにしても「最低X人/Y%」というのでなく、それぞれの企業があるべきスタイルを選べるように幅を持たせ、企業側は取締役会と経営陣の役割分担をどのようにしたかについての説明責任を負う、というようなスタイルがいいように思います。

含みの多い手を考えるべし、ですね。




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