一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

やる気のないのはどっちだ?

2006-11-07 | 法律・裁判・弁護士

(岡口裁判官のボツネタ経由)
2ちゃんねる管理人、巨額賠償に独自見解  

失踪(しっそう)説が流れていたインターネットの大型掲示板「2ちゃんねる」管理人、ひろゆきこと西村博之氏(29)が4日、早稲田大学の学園祭「早稲田祭」に登場し、講演会を行った。悪質な書き込みをめぐる訴訟で負け続け、巨額損害賠償金を抱える身だが、裁判や支払い判決を無視し続けている。西村氏は「(裁判に)勝とうが負けようが払わなければ一緒」「僕に金を払わせたいなら、そういう法律を作ればいい」と独自の見解を語った。

現在、都内に登記上の住所を置いているとされるが、そこは無人のことが多く、裁判関係書類なども郵便受けにたまったままのことが多いという。原告らは西村氏と連絡が取れず、賠償金を払ってもらえない状態が続いている。現在、西村氏が抱える未払いの賠償金は総額数千万円ともいわれる。  

西村氏は多くの訴訟について「僕は沖縄から北海道まで訴えられているので、自腹で日本中を回るか、1件100万円以上払って弁護士をつけるかなんです。でも『(裁判を)やらない』という選択肢をとったら何も起きなかった。これが現状。勝とうが負けようが、払わなければ一緒なんですよ」と独自の理論を展開。さらに「もし僕に金を払わせたいなら、国会議員に言って、そういう法律を作ればいい」とまで述べた。  

しかし、掲示板の広告収入などで巨額資産を持っているようで、年収について「日本の人口よりちょっと多いくらい」と述べ、1億数千万円以上あることをにおわせた。「2ちゃんねる」については「別に積極的になくす理由がないので、だらだら続くんじゃないですか。僕がいなくても回る仕組みなんですね」。  

細かい訴訟をいっぱい起こされて対応できないという西村氏の主張も気持ちとしてはわからなくはないですが、日本の民事訴訟は弁論主義なので、反論しなければ負けるのは仕方ないことです(また「沖縄から北海道まで訴えられている」といっても、裁判管轄は被告の住所地のはずで、全国をかけめぐる必要はないのでは?)。  


ただ逆に、勝訴判決をとっても、負けた当事者が判決に従わない場合は、勝った側は払わせたければ自ら強制執行を申し立てる必要があります。  

なので、西村氏のスタンスが「自分は裁判所に出頭せず敗訴・強制執行の腹をくくっているのに、強制執行もしないで任意に支払わないのはけしからんと言うのはおかしいじゃないか」というのは筋は通っています。

なんとなく、

「原告も弁護士も『2ちゃんねる相手に勝訴』っていう事実さえあれば宣伝や世間的excuseには十分なので強制執行までしやしない」

と、高をくくっているように見えます。

債権者が西村氏の破産を申請した、というような話もありましたが、(「2ちゃんねる」の運営主体や訴訟の被告が法人なのか西村氏個人なのかよくわかりませんが)債務名義を持っているのであれば、とっとと銀行口座(※)とか広告料の請求権とかの差押えをすればいいと思うのですが。  


結局誰も強制執行まで踏み切らないとしたら、誰も「強制的に払わせたい」とまでは思っていないわけで、それに対する西村氏の「払わない」という行為自体は制度の趣旨に反してはいません。  
世間常識から言えば「独自の見解」で決して行儀がいいとは言えませんが、理屈には合っていますね。  

企業は費用対効果を考えるといちいち回収を考えないでしょうし、依頼者がそうである以上「社会正義を貫くために手弁当でもやる」という弁護士もいないのでしょう。

西村氏的なやりくちは決してほめられたものではないとは思いますが、相手がそういう輩と承知しているのなら、10万円だろうとどんな手間ひまをかけてもきっちり回収してけじめをつけるという気合がないのであれば最初から訴えないほうがましだ、と個人的には思います。


マスコミネタにはなってますが、実は関係者全員がやる気がないのでは、と思えるような話です。
確かに2ちゃんだけで盛り上がってるだけでマスコミがとりあげなければ、訴える人もいないのかもしれません。

所詮その程度の話、ということでしょうか。


PS 年収1億円以上と言っておきながら数千万円の「巨額賠償」というのも変な記事ですね。


(※) 銀行口座についてはどの支店にあるのかが不明なうえそれぞれの訴額が小さいので、「絨毯爆撃」の差押もコスト倒れかもしれませんが、最近は優先順位をつけた複数支店に対する差押を認める判例も出ているようなので、やってみる価値はあると思います。
銀行はこの判例の流れが「支店を特定しない差押え」につながるのをいやがっているようですが、こういう世間的注目をあびる事件は突破口になりやすいので弁護士的にはさらに名を上げるにはおいしいと思うのですが・・・


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5 コメント

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ありがとうございます (go2c)
2006-11-09 21:23:05
通りすがりの法学徒さん
なるほど、勉強になります。
移送の申し立てをすれば認められるのでしょうか。
そうでないと、どこの裁判所にも訴えられ放題になっちゃいますよね。

主任さん
いえいえ、お気使いなく^^
そう考えると「社会正義」というのは相対的なものなんでしょうね。
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あっ、 (主任)
2006-11-09 02:07:03
すみませ~ん、go2cさん。
先のコメントでは、わざわざ呼びかけておきながら、お名前の1文字を忘れてしまうなんて失礼なことをしでかしてしまいました。
申し訳ありません。

確かに、相手がどうあれ、債権者はなめんなよって姿勢で初志を貫徹すべきですね。
また、費用対効果を無視してまでも社会正義を貫いた先には社会からそれ以上の還元をもらえる、ってな世の中になると上手く行きそうな気がしますが、言うは易し・・・ですか。
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管轄 (通りすがりの法学徒)
2006-11-08 10:07:04
財産権上の訴えは、義務履行地を管轄する裁判所に提起できる(民事訴訟法5条1号)。
金銭債権(損害賠償請求権も含まれる)の支払義務の履行地は原則として債権者(被害者)の現在の住所地である(民法484条)。

という理屈で原告の住所地の裁判所に訴訟提起されているものと思われます。
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最後まで手を抜かないことが大事では (go2c)
2006-11-08 08:32:45
主任さん、ごぶさたしてます。

管轄については、異議を申し立てなければそのまま通ってしまうのだったかもしれません(すんません、調べてませんw)

確かに西村氏はなめた態度なのですが、そういう相手にはきちっと強制執行までやってカタにはめることが大事だと思います。

以前簡易裁判所の裁判官と話したときに、少額訴訟制度を利用して個人が企業に5万円とかの損害賠償を請求すると、たまに企業が面倒くさがって出廷せずに個人が本来無理な訴訟であっても勝訴してしまうことがあって、そういう経験をした人は「少額訴訟マニア」になって次々と訴訟を起すので、国民の権利ではあるものの内心どうかと思う、という話をしてたのを思い出しました。
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居所でも (主任)
2006-11-08 00:05:01
go2さん こんばんは。
裁判管轄は、住所地だけではなく、確か居所もありだったように思うので、このひと(または法人)は全国に居所があるってことなのかもしれません。
いずれにしても、理屈は理屈として、義務を果たさないってのはやはりダメです。
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