東京電力の損害賠償責任の範囲とステークホルダー(株主・債権者)のどこまでに負担を求めるかの議論と共に、東京電力を再編し送電・発電の分離を主張する人が増えているようです。
趣旨としては、現在国のエネルギー政策が末端の電力供給にまで反映しているものを、供給発電と需要家への電力供給の安定が役割の送電を分けて、発電の多様化や送電側での電力確保の自由度をあげて、エネルギー政策の選択肢を増やそうということなのだと思います。
そこで出てくるのが、「スマートグリッドなどの技術があるから可能だ」という話。
私自身は技術的なことを語る能力はないのですが、メーカーでこの辺の営業担当をやっている友人から聞いた酒飲み話では、今までわが国で議論されてきた「スマートグリッド」構想は米国などとはちょっと違うようです。
彼曰く、「スマートグリッド」というのは電力会社が乱立している米国で電力の需給をバランスさせるために発達した技術で、日本では電力供給が地域電力会社の独占(発電はほとんど、送電は全部)になっているので、電力会社が自前の技術で発電から送電までをコントロールしている。
要するに日本は電力会社が発電から送電まで「スマート」に管理しているので、米国流の「スマートグリッド」は日本にはなじまないので結局電力会社の下請けになっちゃうんだよなぁというということでした(昨年の話なので正確に覚えているわけではありませんし)。
以下、経済産業省が平成22年6月15日に公表した「スマートコミュニティフォーラムにおける論点と提案」について~新しい生活、新しい街づくりへの挑戦を元ネタに考えてみます。
※ ずぶの素人の感想なので、誤解、無理解などがあったらご教示いただけると幸いです。
まずは提案内容(pdf)のp12~13(ページはpdfファイルのページで、資料に打っているページより1つ大きくなっています)で米国の事情が解説されています。
米国でスマートグリッドの標準化が急がれる理由
・ 全米で3,000社を超える電力会社が存在し、各州でも規制体系が異なることなることから、システムの相互接続性を担保し、産業競争力を向上させる観点から標準化を推進
・ 経済刺激策に基づく実証プロジェクトの本格的実施前に標準を策定する必要がある
OSTP(ホワイトハウス科学技術政策局)としては、新たなサービス創出のために、電力会社以外のサービス事業者の参入が重要と考えており、そのために情報のオープン化(個人がデータの所有権及びコントロール権を有する形態)を促進する意向
・ IT系企業がスマートメーターから得られる情報を活用したビジネス展開を開始
米国での実証実験としてはp45でこのようなものがあげられています。
米国では、各地で60以上のスマートメーターを活用したデマンドレスポンス実証が進展
① PEPCO(ワシントンDC):900世帯を対象に、料金固定型、料金変動型、報酬型の3パターンを実証。料金変動型では22~34%のエネルギー消費削減を実現
② Conneticut Light & Power:3,000世帯を対象に、同様の料金パターンを実証。同じく、料金変動型が最も効果が大きく、16~23%のエネルギー消費削減
要するに発電・送電において各社が入り乱れているので、そこを効率化するニーズが必要ということのようです。
一方で、わが国の現状は、p37にあるように発電から送電まで電力会社のネットワークに組み込まれています(「現在の供給側のネットワーク概念図」参照。クリックすると別ウインドゥで開きます。以下同じ。)。
そしてこの提案は、200/100Vに変換された後(要するに家の手前の電柱から先)の需要側でどのようにスマートグリッドを構築するか、という議論の立て方になっています。
これは、この提案をしたフォーラムの事務局が経済産業省で、委員のメンバーに東京電力と関西電力が入っていて、他の委員のメーカーは受注者側として遠慮せざるをえないし、少しでも前に進めるには経産省と電力会社の協力が必要、ということだったのでしょうか。
その結果「スマートコミュニティのイメージ」(p29)は、これまでの電力系統である「ナショナルグリッド機能」はそのままに、その先で「スマートハウス」「スマート店舗」「スマートスクール」「スマート工場」などが「ローカルグリッド機能」を形成するというものです。
※ ちなみに「ナショナルグリッド機能」の説明に
・ 原子力発電など安定的に供給できる電源をベース電源として活用する
・ 地域内での需給の統合制御を前提に、必要な範囲でローカルグリッドとの調整を実施
とあるのは、今となっては悪い冗談のようです。
なので、スマートグリッドがスマートさを発揮する局面は、「太陽光発電の変動を供給側・需要側でどう調整するか」というところで想定されています(p43「エネルギーシステムの論点」参照)。
つまりここでの「スマート」は、屋台骨の電力供給が安定していることを前提にした「賢さ」=細部作りこみ能力であって、アメリカのように発電・送電事業者が今ひとつ信用が置けないかもしれないという中でどうするかという「賢さ」=サバイバル能力とは違うようです。
しかし、今や原発事故に端を発して発電側の電力供給に不安がありうることを前提にすると、この提案書のような「スマートグリッド」では役に立たないことになりそうです。
そうだとすれば、電力会社も発電の役割と送電の役割を分け、送電側には発電が不安定になりうることを前提としたうえで需要者への安定供給を維持する「賢さ」を身につけさせるのはいいアイデアかもしれません。
ただ、この場合、送電の地域独占の是非が問題になるかもしれません。
末尾の参考資料に次のような比較があります。 (p57「スマートグリッド関連主要プレーヤーマップイメージ(国内)」) (p58「スマートグリッド関連主要プレーヤーマップイメージ(海外)」)
海外の方は「スマートメーター」のプレイヤーとして通信事業者やIT企業がいるのに対し、国内は電気事業者として電力会社が鎮座ましましています。
つまり、発電と送電を分けたとしても、送電を地域独占してしまうと(従来の送電側と結託して)スマートさの発揮をしなくなり、技術革新も起きないのではないか(最悪そこで再度トラブルが起きて信用をなくしてしまい、日本企業の登場する暇もないうちに外国企業のプラットフォームに置き換わってしまうのではないか)というものです。
なので、今の発電・送電分離の議論についても、送電会社の地域割をどうするか(たとえば、現状のエリアを細分化して料金設定の自由度を増やし地域間競争・地域活性化につなげる)とか、発電はどのように分けるのか(たとえば原子力発電は国営化する一方で他の発電と競争させてエネルギー政策を客観的に評価できるようにする)などによって将来が大きく変わって来そうです。
(このような理解は見当はずれなのかもしれませんが・・・)
原発問題は"all or nothing"の議論になりがちですが、最後は「好き嫌い」かもしれませんが、できるだけ議論の土台をすり合わせるようにしたほうが建設的だと思います(不謹慎かもしれませんが今回の事故は原発のリスクを計量化する-または何が計量化できないリスクなのかをより細分化して明らかにする-重要な経験でもあるわけですから)。
その意味でも発電・送電分離というアイデアは議論する価値があるように思います。