くりまんじゅうの日記

世間より少し いやだいぶん遅れている
老シーラカンスです。

おばを見送って。

2014-09-04 | 日記

夫の実家近くに住む義姉から 〇子おばちゃんが亡くなったと 連絡を受けました。

〇子おばは夫の亡父の妹で 大正10年生まれの93歳。60代で逝った夫のお墓を守って
1人暮らしをしており 近くにそれぞれ家を持つ息子2人が 毎日母の家を訪れ気をつけて 
おりましたが 人の手を借りずとも なんでも出来る93歳でした。
                                   
同じ県内でも夫の実家まで 今は2時間半と近くなりましたが 以前は車で4時間近くかかり
両親のお墓参りに帰ったとき 〇子おば宅に寄ると よう来てくれたと喜び 帰りはお土産
にと冷蔵庫から出した干物を 新聞紙に包み 持たせてくれました。                                                        

〇子おばは若い頃 隣村の漁師のおじとお見合いをし 男前の相手に一目ぼれして
ルンルン嫁いだそうですが 漁師の妻の過酷さは 農家出の自分には想像もつかぬ
つらいものであったと 語ったことがあります。

漁を終え船が港に着くと 漁師の妻は天秤棒に振り分けて魚を担ぎ 近隣の村へ行商に
行くわけで 普通は売れるたびに荷は軽くなりますが 食べ盛りの4人の子を育てるため
代金をお米でもらい 帰りは行きよりもさらに重い荷を担ぎ 帰ったといいます。

嫁ぎ先は代々漁師の家で カマス獲り名人といわれた舅が逝くとき 舅の最期の言葉は
「オラが死んだら ここらへんのカマスは なんぼか 寛がぁや」であったそうです。

当時の漁村は貧しく 働けども暮らしは楽にならずで そんな中〇子おばは 代々貧乏から
抜け出ることが出来んのは子どもを教育せんからだ 貧乏から抜けるには 子の教育しかない
と思ったそうで 数年前に亡くなった 北野武氏の母さきさんと まるで同じ考えになります。

幼い頃から4人の子は 翌朝父が海に出るための網にエサを掛ける仕事を 手伝わずうちは
寝てはならん そんなオキテがうちにはあったと 我々夫婦と同世代の長男は笑って言います。

歳の詰んだ子が中高と進学する頃 おじも毎日は海に出なくなり その地区の漁業組合長に
納まって 天秤棒からリヤカーになっていた〇子おばの行商も終わり 次は 得意の和裁を
活かし 人さまの着物を縫うようになります。

たびたび高知市の繊維問屋に 反物を買いつけに来る 〇子おばの運転手になったおじは
以前より色白になりふっくらして 増々イケメンになったと 当時の私には映りました。

呉服商売は当たり 以前のボロ家を壊し新しく建てた大きな家は 1階は〇子おばの店になり
いつ行っても 反物に囲まれた店内で 縫う姿を見たものです。

呉服商売の成功がなければ 漁師の収入だけで4人の子の教育は とても無理な話でした。  

〇子おばの希望通り 4人の子は皆教育を受け うち2人の息子が帰り 地元で就職して
もうこれで親の役目は果たした これからは夫婦2人でのんびり旅行しようかね と言った
矢先におじのガンが見つかり 発見が遅かったため 帰らぬ人となりました。

その頃から だんだん時代とともに着物の需要は減っていき 以前のように反物をたくさん
仕入れることが減ったものの それでも〇子おばは人さまの 着物を縫って暮らしていました。

田舎は歳祝いなど おきゃくごとを家でやりますが 元漁師の妻はみごとな包丁さばきを見せ
カツオやモンゴウイカを 皿鉢に盛り付ける腕は さすがのものでした。


火葬場の白い煙を見ながら 今 天に昇って行く〇子おばは 若き頃一目ぼれした男前の
おじの元へ 自分で仕立てた白無垢を着て嫁いでいくのかなと ふと思いました。

「これで 親の兄弟姉妹は 全員 おらんなってしもぉた」  横で夫がつぶやきます。

大正 昭和 平成と3つの時代の途中で戦争も経験した中で 自身の確かな目で 各時代を
見据えたくましく生き抜いた 土佐のはちきん〇子おばの 長い人生が終わりました。

〇子おばだけでなくこの時代を生きた女性は 強くなければ今日まで生き残れぬ そんな
時代であったろうと思われ 皆が ぶんたち姐さんでありました。

4人の子から9人の孫 さらに9人のひ孫と 大所帯になった一族は 日本各地から集まり
母 おばあちゃん ひばあちゃんである〇子おばを見送りました。   
                     

                         

                     

                                                                              

コメント (46)
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