褒めまくる映画伝道師のブログ

映画の記事がメイン。自己基準で良かった映画ばかり紹介します。とにかく褒めることがコンセプトです。

映画 戦艦ポチョムキン(1925) 映画史において革命的な作品です

2023年06月10日 | 映画(さ行)
 1925年のソ連時代の映画、ということで相当古いし、もちろんモノクロ、サイレント。本作のハイライトシーンの舞台となるオデッサの階段だが、現在におけるウクライナに位置し、このシーンのおかげで戦艦ポチョムキンの名は永遠に語り継がれ、映画史上に燦燦と輝く名作となった。今回俺自身がやっと観ることが出来たのだが、流石の俺もモノクロ、サイレント、そしてソ連映画となると本当に見応えがあるのか不安だったのが、今に至るまでズルズルと観るのを引き延ばしてきた原因の一つ。恐らく多くの人も俺と同じ想いを持っている人も多いはずだが・・・

 早速だが、実際に起きた戦艦ポチョムキンの反乱を基にしたストーリーの紹介を。
 戦艦ポチョムキンが航海している最中の出来事。日頃の上官の仕打ちに水兵達は不平不満を募らせていたのだが、ある事を切っ掛けに水兵達の不満が爆発する。それは、うじ虫の湧いた肉のスープを無理矢理飲まされそうになったこと。そんなスープなど水兵の誰も飲んでいないのだが、上司から非情な宣告が通知される。それはスープを飲んでいなかった者は銃殺刑に晒されること。その宣告を切っ掛けに水兵達は一致団結して、上官達に立ち向かい戦艦ポチョムキンを乗っ取るのだが・・・

 あらすじにも書いたが肉に湧き踊っている「うじ虫」の様子の見せ方のアイデアに感心させられた。1つ間違えればグロテスクの極みだが、モノクロの映像ということもあり不快感はない。むしろ帝政ロシアの専制政治の批判に対するメタファーとして効いてくる。
 そして戦艦ポチョムキンを乗っ取って、オデッサに入港してからのシーン。そこまでに宗教、市民の不平不満等などを描いて見せるなど、ソ連万歳のシーンが色々あったように思えたが、そんな物を忘れてしまいそうになるぐらいぶっ飛んだシーンが、冒頭で述べたオデッサの階段における虐殺シーン。このシーンを面白いと書いてしまうと、このご時世においては非常に不謹慎も甚だしいのは承知しているが、一気に飲み込まれるぐらいの勢いで俺の脳内を活性化させられた。
 オデッサの階段が映画史において革命をもたらし、後々においてブライアン・デ・パルマ監督も自らの作品において露骨にパクっているし、もしかしたら黒澤明監督の普及の名作である七人の侍もあれほど面白い映画にならなかったかもしれない。
 古すぎる、サイレント、モノクロなんて理由で敬遠してたら勿体ない面白さが、本作にはある。そして上映時間も75分と短いのも有難い。出来ればもっと平和な時に観て欲しいと思ったりしたが、あんまり観るのを先延ばしにして欲しくないぐらいの凄さがある、ということで今回は戦艦ポチョムキンをお勧め映画として挙げておこう

 監督はセルゲイン・エイゼンシュテイン。本作で才能を見せつけたが、けっこうな早死にしているのであんまり作品が多くないのが残念。この監督では本作しか観ていないが、イワン雷帝が観たいです。





 
 
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映画 サンセット大通り(1950) 映画界の内幕をバラします

2023年06月07日 | 映画(さ行)
 元国会議員で暴露系YouTuberを名乗る〇〇シーが逮捕されたが、今回紹介する映画サンセット大通りは同じ暴露系でも、映画界の内幕を暴き出した映画。最近でもハリウッドの内幕を描いた映画は多いが、本作はその走りであり、それらの映画に大きな影響を与えているのは間違いあるまい。
 かなり古い映画であり、今では古典的名作として挙げられることのある映画ではあるが、昔のサイレント映画に造詣が深い人にとってはたまらないシーンが連発。なんせ実名はバンバン出てくるし、サイレント映画界時代の大物だったあの俳優、映画監督も本人役で登場する。そういった意味ではサイレント映画にオマージュを捧げているようにも思える映画だ。
 さて、本作を観る前に知っておきたい事として大まかな映画の時代の流れの説明が少し必要だろう。だいたい1900年頃に映画は始まったようだが映像はモノクロ(白黒)で、サイレント(無声映画)。しかし、1920年代後半からトーキー(声有りの映画)となり、やがてカラー映画も作られることになる。そんな映画の流れに被害を受けたのがサイレント時代に活躍した女優たち。サイレントにモノクロの時代なら美人や可愛い子ちゃんであれば、映画スターの座に居続けられるとしたものだが、それがトーキーになってくると台詞は棒読みではいけないし、訛りがキツイ、発音が悪いとかも致命傷になりかねない。更にモノクロだと顔のシワやシミがバレなかったりで誤魔化しが利かすことができるが、カラーになるとそれらをカバーするのが大変だし、モノクロだと美人だと思っていたのにカラーになったら案外だったなんてこともあり得たりする。更なる加齢による容姿の衰えはモノクロ映画全盛期にスターの座を掴みとっていた女優達の多くは、このような弊害によって急に仕事が無くなったりして、次第に忘れられた存在になってしまうなんてことも多々あった。そして本作が公開された1950年という時を想うと、既にトーキー全盛であり、サイレント時代に活躍した映画女優にとっては如何に厳しい時代だったか、今の人にも想像できるだろう。
 
 長い前触れはこのぐらいにしておいて、本題のストーリーをできるだけ簡単に紹介しよう。
 ハリウッドのサンセット大通りの豪邸で独りの男がプールにうつ伏せで浮かぶ格好で死んでいる男がいる。彼は金に困っていて売れない二流の脚本家であり、名前はギリス(ウィリアム・ホールデン)。彼は何故死んでしまったのか?
 ギリスが死亡する半年前のこと、彼はすっかり生活に困窮し車の取り立てに追われていた。取り立てから逃げおおせた所が、ハリウッドのサンセット大通りにある外見は幽霊屋敷化した豪邸。恐る恐る家の中に入っていくと、そこにはサイレント映画時代の大スター女優であったノーマ・デズモンド(グロリア・スワソン)と怪しげな雰囲気をしている執事のマックス(エリッヒ・フォン・シュトラハイム)が住んでいた。外見とは裏腹に、家の中は結構なきらびやか。最初こそはギリスは追い返されそうになるが、どういうわけか、ノーマからこの家に住んでも良いと言われる。いかがわしい雰囲気が漂うこの家から出て行きたかったギリスだったが、結局は住みこむだけでカネは貰えるし居つくことに決める。しかし、ノーマの過去の栄光に縋り付く妄想は次第に激しくなり、寄りに寄って彼女に惚れられてしまっては益々の不自由さを感じる。脚本家としてハリウッドで成功する夢を全て捨てて、田舎へ帰る決心をしたギリスだったのだが、冒頭の悲劇が起きてしまい・・・

 死亡した人間が『どうして私はこんな事になったのでしょう?』って観客に問いかけてストーリーが進み、ちょいちょい死亡した男のナレーションが入る構成。今では結構このようなスタイルの映画はあるが、当時は相当に珍しいように思う。演出が秀逸なお陰で、この死亡した男性の遺体の撮り方が魅せる。
 さて、この嘗ての大スターであるノーマ・デズモンドだが過去にしがみ付く様子が怖いし、また銀幕に復帰するためのストイックさも怖い。ノーマを演じるグロリア・スワソンだが、この人自体がサイレント期の大スター女優。実は彼女は等身大の自分を本作で演じていたことになる。そして、このような背景が最後の最後で本領発揮の名場面につながるのだ。
 そして、執事のマックスだが異様な雰囲気を醸し出しているが、この人の正体をここでバラすことは止めておくが、演じるエリッヒ・フォン・シュトラハイムを知ると、この映画の非常に計算されいることが良く理解できるだろう。そして、この人物もそれまでは何だか不気味だったのが、最後に一気に光輝く。
 サスペンスタッチでフィルムノワールの典型的な作品だが、最後の最後に強烈なシーンで魅せるから、本作の評価は非常に高い。もちろん最後の最後だけが優れた映画ではない。本作の脚本家はギリスのような二流脚本家ではないことが、映画全体の台詞からよくわかるし、ちょいちょいシニカルな笑いもある。俺が印象的だったのが、ノーマが自宅にかつてのサイレント全盛の映画スターを集めてカード遊びをしているシーンがあるのだが、その時にギリスが語る台詞は笑えた。
 ただでさえ人生負け組みのギリスがノーマによって追いつめられる様子はホラー映画に近いし、非常に洗練されたタッチは演出の妙を感じさせる。あまりにも古い映画なので、本作の登場人物に対して感情移入し難い面はあるかもしれないが、古い映画をよく知っている人にとっては最初の方にも述べたように色々な意味で楽しめる。もちろん映画の方も見応え充分でサスペンス好きな方なら非常に楽しめる。暴露系と言ってしまうと最近では非常に印象の悪さを伴ってしまうのが残念だが、演出のテクニック、シニカルな笑い、ストーリー構成といった玄人受けする映画として今回はサンセット大通りをお勧めに挙げておこう

 監督はビリー・ワイルダー。何回もこのブログでは書いているが、俺の最も大好きな映画監督。随所にテクニックを感じさせる演出は本当に楽しいし、本作のようなサスペンス、ラブコメになかなかに得意幅が広い監督。色々とお勧め映画はあるが、あえて一作だけ挙げるとアパートの鍵貸しますは何回でも観れます







 

 

 
 
 

















 
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映画 三人の妻への手紙(1949) 洗練された映画です

2022年05月29日 | 映画(さ行)
 昔の映画監督には非常にお洒落で落語のような思わず唸らさせられる作品を撮る監督が多くいた。例えばエルンスト・ルビッチ、フランク・キャプラ、ビリー・ワイルダーのような監督は本当に抜群のテクニックで映画ファンを楽しまさせてくれる。そのような監督の中でジョーゼフ・L・マンキーウィッツを忘れてはならないだろう。今回紹介する映画三人の妻への手紙は彼の演出力が活かされた作品で、最後の終わり方もなかなか洒落ている。まあ、相当昔の映画であり当然時代背景も今とは違うから、このようなストーリーは現在では通用しないだろうが、とにかくセンスが良い作品だ。

 駆け落ちなんて要素が入ってくるが、楽しく観られるストーリーの紹介を。
 ニューヨーク近郊において、デボラ(ジーン・クレイン)、ローラ(リンダ・ダーネル)、リタ(アン・サザーン)の女性達は子供達のボランティアでピクニックに行くために遊覧船に乗ろうとしていた。そこへ、自転車にのって少年がやってきて、3人の共通の友人である美女アディ(声のみ)からの手紙を渡される。その内容はアディが3人のうちの誰かの夫とこれから駆け落ちする、という内容だった。近くに公衆電話があったのだが、手紙の内容を読んでいる間に船は出発。3人は平静を装いながらも、実は三人とも夫がアディと一緒に駆け落ちしてしまう理由が思いあたるのだった。三人の妻たちはボランティア活動どころではなく、早く自宅へ帰って夫がアディと駆け落ちしないかそればかり気になってしまい・・・

 もう今だったら船で陸を離れても携帯電話で直ぐに確認できるだが、本作が製作された時代はだいぶ昔。船からの俯瞰的なショットで公衆電話が写されるシーンがあるのだが、何ともやるせないシーンだ。本作が上手いのが駆け落ちを計画しているアディというのが、一回も登場しないこと。しかし、誰もが羨むような美女であることをわからせるような演出がなされているのが巧みな構成。しかもアディというのが色々なシーンでナレーターとして入ってくるので、どれだけの美人なのか考えさせられたりしてストーリーに没入できる。もちろん三人の妻たちの誰の夫がアディと駆け落ちしたのかと考えることによって映画に惹きつけられる。そして、ラストシーンでは思わずなるほど!と楽しめたし、オチも良かった。この映画は公衆電話や手紙、その他の小道具が巧みに使われていて監督の演出の力を感じるし、駆け落ちを題材にしながらも観ていて楽しめるし、笑えることもできる。
 出演陣の三人の妻たちは美人ばかりであり、しかもまだ売れていない頃のカーク・ダグラスが出演しているのも映画ファンには楽しめるだろう。最近にはない上質な映画を観たい人に今回は三人の妻への手紙をお勧めに挙げておこう

 監督は前述したジョーゼフ・L・マンキーウィッツ。お勧めは幽霊と未亡人イヴの総てジュリアス・シーザー裸足の伯爵夫人等がお勧めです。




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映画 ジェミニマン(2019) 驚異の映像を観ることになります

2022年04月03日 | 映画(さ行)
 先日の米アカデミー受賞式の時に、司会者に妻のことを弄られて怒ったウィル・スミスが司会者に平手打ちをぶちかました。俺なんかは流石はウィル・スミス!自分の妻が精神的にダメージを背負わされるようなことを言われて、黙っていたんでは男が廃ると思って、ウィル・スミスの行動を絶賛していた。そして、やはり暴力を行ったことに対してアカデミー主演男優賞受賞時には涙を流しながら謝っていたが、なんだかんだ言っても暴力はいけない。謝罪したウィル・スミスに対して、俺なんかはあの状況でよく謝ったよ、と思いますます彼のファンになったぐらいだ。
 しかしながら、アメリカではあのウィル・スミスの行動に批判が多いし、アカデミー会員を剥奪されるなど、ペナルティーを背負ってしまった。しかし、人を傷つけるような最低な冗談をほざいた司会者に対しては、今のところはお咎めなし。確かに暴力はいけないが、言葉の暴力でショックを受けている人もこの世の中にはたくさんいる。この世の中は何かが狂っている。だいたい、飲み会で参加者を騙してピンハネしている奴が、議員になって市民の税金で報酬をもらっている世の中が存在していることが、正気の沙汰じゃないだろう。

 さて、話が横にズレまくったがウィル・スミスで思い出した映画が今回紹介する映画ジェミニマン。映画俳優歴としては既に30年近くになると思うが、出演する作品は軒並み大ヒット。ドル箱スターと呼ばれるに相応しい活躍をしているので、今後の彼の映画俳優としての活動が心配だ。その中でもジェミニマンは比較的最近の作品であり、50歳を超えてまだまだアクション映画で頑張る姿が嬉しい作品だ。ちなみに今回のウィル・スミスの役だが、他の映画でもよく見られる引退を決意したヒットマン(暗殺者)。もう既に72人も殺してきた凄腕スナイパー。どうせなら100人を撃ち殺してから引退しろよ!なんて思ったりしたが、本作の台詞にも出てくるが、良心が芽生えてしまうと、暗殺者としてはもう潮時。そもそも溺れそうになった経験から水が嫌いだったり、蜂アレルギーを持っている弱点がある時点で暗殺者として失格だと思ったのだが、完璧な暗殺者が主人公よりも弱点を抱えている暗殺者を主人公にした方が面白いということに気付いたキャラクター設定は確かに本作を面白くした。
 そもそも、引退を決意したヒットマンが何かと妨害されるというのはよくあるストーリー。しかし、この映画が超面白くさせているのが自分と戦う相手。しかも、超驚きのアクションシーンを見せてくれる。

 それでは簡単にストーリーの紹介を。
 ベルギー、リエージュにおいて。高速列車が走っている乗客の中に居るテロリストを狙ってDIAに所属する凄腕スナイパーであるヘンリー(ウィル・スミス)は、その時が来るのを、準備万端で待っていた。高速列車がトンネルに入る前に作戦成功で、テロリストを殺すことに成功。しかし、ヘンリーは運が悪ければ全く関係のない少女を撃ってしまうところだったし、ターゲットの頭部を狙ったのに首筋に命中してしまったことに、ヒットマンとして自信がなくなりDIAを辞めて、暗殺者を引退することに決めた。
 しかし、ある日のこと友人のジャックに呼び出され、ヘンリーが殺した相手はテロリストではなく、分子生物学者であることを知らされる。その情報を知って以来、ヘンリーはDIAの暗殺部隊に命を狙われるが、女性DIAの職員であるダニー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)を巻き込み、元DIAのパイロットで友人のバロン(ベネディクト・ウォン)の協力を得て、バロンの自宅があるコロンビアに逃げる。
 しかしながら、ヘンリーの行動は何故かバレバレ。世界中で悪事を働く組織ジェミニのリーダーであるヴェリス(クライブ・オーウェン)はヘンリー抹殺のために新たなるヒットマンをヘンリーを差し向けるのだが、その新たなるヒットマンの正体は・・・

 実は相手のヒットマンは何と自分のクローン。しかも、23歳の若者だ。23歳の自分のクローンとハイレベルな戦いを見せる。特にバイクを使ったアクションシーンには驚いた。そして何より驚くのが、23歳のウィル・スミスのクローンだが、本物の人間が演じているのではなくて、実写ではないことを知って驚くだろう。実はCGで作られたようで恐るべき映像革新を本作で見ることが出来るのだ。動き、顔の表情、あり得ないレベルであり、本作を観れば、もう大スターに莫大なギャラを払う必要はない。いや、CGで偽物を作り上げるのに大幅に予算を計上する必要があるか。

 とにかくウィル・スミスが可哀想と思う人、革新的映像を使った映画を観たい人、自分VS若き23歳の自分といったあり得ない戦いを観たい人、戦争を利用して莫大な儲けを企んでいる組織があることに怒りを感じる人に今回はジェミニマンをお勧め映画として挙げておこう。

 監督はアジア人で最もハリウッドで成功しているアン・リー監督。アメコミ、文芸、ヒューマンドラマといった非常に幅広い分野で傑作を生みだしている名監督。お勧めは台湾時代の時の恋人たちの食卓、アメリカ南北戦争を舞台としたシビル・ガン 楽園をください、ワイヤーアクションをふんだんに使った任侠映画グリーン・ディスティニー、マーベル映画のブームを起こしたエリック・バナが主演のハルク、第二次世界大戦の日中戦争を舞台にしたエロエロ映画ラスト・コーション、トラと一緒に海を漂流するライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日あたりがお勧めです。
 
 

 



  
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映画 殺意の瞬間(1956) 男は騙されやすいです

2022年03月21日 | 映画(さ行)
 数多くの傑作を遺したジュリアン・デュヴィヴィエと名優ジャン・ギャバンだが、映画史に遺る名コンビと言っても良いと思うのだが、本作もなかなか派手さは無いがフランス映画らしい渋いサスペンス映画になっている。冒頭から流れるシャンソン風の音楽が非常に心地良いのだが、あまりにも恐ろしい歌詞に俺は凍りついてしまったが、その時だけ目をつぶって聴けば良かった。
 ジャン・ギャバン演じる50歳を超えているように見えるオジサンが主演だが、礼儀正しく思いやりのある良い人なのだが、こういう役を本当に彼は上手く演じる。特に本作の彼はマフィアの親分ではなく有名料理店のコックの役だから、尚更良い人に見える。しかし、いつもジャン・ギャバン演じる主人公の欠点はすぐに女性を好きになってロクな結末にならないこと。本作でも20歳ぐらいの可愛い女性に痛い目に遭わされる。

 男って若くて綺麗な女性には騙されやすいと改めて知らされるストーリーの紹介を。
 アンドレ(ジャン・ギャバン)は離婚をしていて子供はいないが、パリの有名料理店のオーナー兼料理長。毎日、有力者が訪れる有名な店だ。そして、彼には息子以上に年齢が離れているが、ジェラール(ジェラール・フィリップ)という知り合いがいるのだが、まるで本当の父親のように面倒をみてやっている。
 ある日こと、アンドレの元嫁であるガブリエル(リュシエンヌ・ボガエル)の娘であり18歳のカトリーヌ(ダニエル・ドロルム)が、マルセイユからアンドレを訪ねてやって来た。20年も前にガブリエルとは離婚しているので、アンドレとカトリーヌは全く血の繋がっていない他人。しかし、カトリーヌは数日前に母のガブリエルが亡くなって、行く場所も無いのでここにやって来たと告げる。どことなく水ぼらしい姿をしたカトリーヌが可哀想に感じ、彼の家に泊めることにし、仕事も与えるようにしたのだが、実はカトリーヌは結構な悪女であり・・・

 離婚して独り者のアンドレだが、お手伝いのおばさん、そしてディスコを経営している母親が近くにおり、この2人の年配の女性が非常にしっかりしているし、巧みなキャラクター設定で重要な役を演じている。この年配の女性がしっかりしているので、もう50歳の中年以上のオジサンが人生の失敗を繰り返さないように止めている。
 しかし、やばいのが小悪魔的美少女であるカトリーヌ。我々のようなオジサンになると、みっともないのだが、少し若い女の子から声を掛けられると大喜びでウキウキしてしまう。本作のジャン・ギャバンもすっかりカトリーヌのあらゆる嘘に騙されて、息子のように仲の良かったジェラールとは完全に仲違いしてしまい、危うく自分の命だけでなく全財産を乗っ取られそうになる。こういう映画を観ると、全く知らない若い女性から声を掛けられると、喜んでばかりいないで少しは相手の企みを考えるようにしなければいけないと思った。
 少し苦い味がするようなサスペンス映画であり、最初は性格の良さそうな可愛い女の子が次第に本性を見せていく展開にスリルを感じさせる。サスペンス映画とはいえ、中年男の悲哀を感じさせる殺意の瞬間を今回はお勧め映画に挙げておこう。

 監督は前述したジュリアン・デュヴィヴィエ。ジャン・ギャバンとのコンビでは望郷が素晴らしいし、地の果てを行くもお勧め。他にオムニバス風に展開される舞踏会の手帖、幻想的な雰囲気が漂うわが青春のマリアンヌ、アラン・ドロン主演で遺作の悪魔のようなあなた等お勧め多数です。
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映画 自由を我等に(1931) 大量生産時代の到来を皮肉る

2021年12月09日 | 映画(さ行)
 AI(人工知能)の最近の発展は目覚ましく、意外にも早く現在の人間の仕事をロボットが手っ取り早くやってしまう時代が来るかもしれない。今でも昔なら人間が手作業でしていた仕事を機械が効率良くやっているのを多く見受けられるが、そんな時代を予見していたかのような内容の映画が1931年のフランス映画である自由を我等に。社会風刺劇の体を成していながら、人生の哀歓を感じさせるストーリー。この現代社会は労が多い割に、大して報われなかったりすることに嘆きたくなるが、そんな不満を本作は少々でも吹っ飛ばしてくれるのが良い。

 人生なんて良いことも悪いこともあるんだと改めて気づかせてくれるストーリーの紹介を。
 刑務所に入れられているルイ(レイモン・コルディ)とエミール(アンリ・マルシャン)は昼間は長い台を挟んで向き合って仕事をしている。ある日のこと2人は刑務所の脱獄を企てる。しかしながら、看守の目に留まってしまい、エミールはルイを逃がしてやり、自らはそのまま刑務所での生活が続いてしまう。
 脱獄したルイはそれからはトントン拍子で人生を過ごし、蓄音機の製造会社の社長にまで登りつめる。一方、エミールの方は刑務所暮らしから抜け出すものの、浮浪者と間違えられて再び刑務所暮らし。すっかり人生に絶望したエミールは独房で首つり自殺を企てるのだが、何とロープを括り付けた鉄格子が外れて、そのまま脱獄して逃亡。そして偶然にも求職者の列に紛れ込むのだが、何とそこはルイの会社だった。さて、思わぬ形で再会することになった2人だったのだが・・・

 この再会のシーンが非常に印象的。犯罪者でありながら社長にまで登りつめ、その地位を守るための口封じ代としてルイは札束をどんどんエミールに与えようする。しかし、エミールは純粋にルイとの再会を喜んでいたのだ。この2人の友情が良い。何をやっても上手くいかないエミールだが、これがなかなかの愛されキャラ。綺麗な嫁さんとたくさんの札束に囲まれた社長のルイよりも、少しばかりぶきっちょなエミールの方が、一瞬だが羨ましく感じた。
 この感動的な2人の再会だが、ハッピーには向かっていかない。ようやく運が向いてきたかと思われたエミールにしても、ほろ苦いことが起きたりする。ルイにしてもオートメーション化された新工場を立ち上げようとするが、過去のキズが襲い掛かってくる。そしてラストシーンでは2人ともが、みすぼらしい姿に落ちぶれてしまう。最後に高級車を羨ましそうに見つめるルイのケツをエミールが蹴り飛ばすシーンが出てくるが、そんなエンディングを見て俺なんかは人生に何が一番大切なのかを教えられた。
 1931年の作品だから映画自体がサイレントからトーキーに変わっていく頃。本作もどことなくサイレント映画の影響がまだ色濃く残っていて、古さを感じさせる。オートメーション化された大量生産の時代の社会風刺劇ではあるのだが、ミュージカル風でもあり、ドタバタ喜劇を基調としているので、わざわざ深読みしなくても純粋に楽しめる映画。個人的にはけっこう笑いのツボがハマったし、人生ってこんなものだよねって思えるのが逆に勇気づけられた。
 戦前のフランス映画と聞くと全く観る気が失せる人が多いと思うが、個人的には1930年代のフランス映画は最強だと思っている。喜怒哀楽が全てを感じることができる映画として今回は自由を我等にをお勧め映画として挙げておこう。

 監督はフランス映画史のみならず世界的にも名監督と言われる部類に入るルネ・クレール。同時代のフランスの映画監督には名監督が多いが、特にこの人の作品は人生の哀歓を感じさせるのが良い。お勧めとして巴里の屋根の下巴里祭リラの門を挙げておこう。


 

 

 

 
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映画 セルピコ(1973) これぞ正義の男です

2021年11月23日 | 映画(さ行)
 我が国においても、すぐにカネを受け取ってしまう政治家が多いのが、何とも嘆かわしい。そんな輩に是非とも観て欲しい映画が今回紹介するセルピコ。何だかよくわからないタイトル名だと感じた人が多いと思うが、本作は実在した警察官であったフランク・セルピコ(現在も存命中)の身に起きた事件を基に描いたストーリー。何の悪びれもなく平気でカネを受け取ったり、配ったりする政治家も問題があるが、正義を貫くべき警察機構の中で賄賂が横行しているなどは許しがたい行為。そんな汚職が蔓延しているニューヨーク市警全体をマトモな組織に改革しようとする警察官であるフランク・セルピコの行動が描かれる。なんせ犯人逮捕よりも、警察官の不正行為を無くそうとすることに忙しい警察官である。

 正義という言葉を簡単に口に出す浅ましい人間がこの世の中には多いが、命がけで正義を貫こうとする大変さを痛感できるストーリーの紹介を。
 ある夜、救急病院に顔面を銃撃されて重傷を負っているニューヨーク市警のセルピコ(アル・パチーノ)が運び込まれる。もちろん警察関係の連中へ連絡が届くが、彼らは遅かれ早かれこのような事が起きると思っていた。それは何故か?時は過去をさかのぼってセルピコの警察学校の卒業のシーンへ。
 理想に燃え、念願の警察になったのだが初日から彼が見たのは先輩警官のダメっぷりな仕事ぶりと日常的に行われる賄賂や不正の横行。自らは警察官としての信義に基づき汚いカネを渡されても決して受け取ることをしなかった。しかし、その態度が同僚たちの反感を買ってしまい孤独感を深めていく。よって何度も異動を申し出ては勤務地を変えてもらうのだが、どこへ行っても見てしまうのは警察署内で行われる賄賂の横行。それを上司たちも不正を見て見ぬをする始末。すっかり腐敗してしまったニューヨーク市警に幻滅を感じながらも、正義感の強すぎるセルピコは内部告発に踏み切る。しかし、そのことは彼を更なる孤独へ追い詰め、同僚たちからの嫌がらせを招き、命の危険にまで及ぶのだが・・・

 実話に基づいているストーリーだが、ニューヨーク市警の腐敗に驚く。これではニューヨークの住民も安心して暮らせない。しかし、本作を観て思うことは正義を貫くことが、どれだけ大変かということ。セルピコ自身も堕落した組織の中で上手く立ち回っていれば、もっと安定した暮らしができたはず。しかし、彼の警察官たる使命、矜持がそんな不正を許せない。組織で孤独感に襲われても、恋人と別れることになっても、給料が安くて出世の道を断たれようとしても、彼はニューヨーク市警に蔓延る腐敗、汚職に戦い続けるのだ。
 それにしても議員の中には私利私欲に邁進する奴が居るが、セルピコの爪の垢を煎じて飲まさせてやりたい。正義を貫くこともそうだが、改革を最初に手を挙げて行うことが如何に大変かがよくわかる。わずか月1日だけ国会議員になって、月額100万円の文書交通費を受け取ることができるなんて、どう考えてもおかしいだろう。国も地方も議員の大改革が必要だし、そもそも今までの国会議員の連中は何を寝ぼけてたんだ。普段は冷静な俺も流石に本作を観たら、ついつい怒りが湧いてきてしまった。
 しかし、まだ当時のアル・パチーノは本作の前年にゴッドファーザーに出演していたが、まだ若手であり、背も低いのだが、名優としての貫録がすでに漂っている。未だに活躍しているし、名優としての地位も築いているが、彼の初期の代表作として本作は外せないだろう。
 ド派手なシーンはないが社会派刑事映画として本作は映画史に燦燦と輝く名作。何かと理不尽なことが、まかり通ってしまう世の中に怒りが収まらない人だけでなく、自らのプライドの持っていき方を学べる映画として今回はセルピコをお勧め作品として挙げておこう。

 監督は社会派作品で傑作を連発しているシドニー・ルメット。過去の辛い経験から立ち直ろうともがく質屋、裁判映画の傑作十二人の怒れる男、米ソ冷戦の核戦争の恐怖を描いた未知への飛行、テレビ業界を痛烈に批判したネットワーク、これまたアル・パチーノが主演し、銀行強盗を演じた狼たちの午後、今や伝説的俳優として印象に残るリバー・フェニックス主演の旅立ちの時等お勧め多数の監督です。
 




 




 

 

 
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映画 スパイ・ゲーム(2001) 師弟の絆に感動

2021年11月08日 | 映画(さ行)
 ロバート・レッドフォードブラッド・ピットという公開当時は新旧二枚目スターの豪華共演といった触れ込みでも話題となった映画。今やロバート・レッドフォードは80歳代半ばで顔はしわくちゃで、この映画の公開時でもすでに明日に向かって撃て!スティングでのイケメンだった容姿は既にない。
 一方ブラッド・ピットだが50歳代半ばを超えて、まあその割には格好良い方だとは思うが、それでも最近はどちらかと言えば二枚目を封印したような作品が多くなってきている。本作の公開時はまだ30歳代半ばでバリバリのイケメンスター。しかしながら本作での彼は拷問にかけられてしまって血みどろの顔面をさらしているだけに、久しぶりにイケメンの彼を見たいと思っている女性に対しては本作はその点では魅力に落ちるか。

 主演にネームヴァリューの高い二人を持ってきたとなると、俳優の魅力頼みの作品かと思われるが、それは本作に限っては間違い。タイトル名から想像できるようにスパイを描いた内容。しかし、007シリーズやミッションインポッシブルシリーズのようなお気軽さはなく、スパイの世界の非情さ、心理戦や駆け引きといった大人向きのスパイ映画。それでいてパワフルな場面も見れる娯楽性も兼ね備えている。

 現実でもアッチやコッチで色々とやらかしている悪行がバレているCIA(中央情報局)の男たちを描いたストーリーの紹介を。
 中国の蘇州刑務所でビショップ(ブラッド・ピット)は医師に成り済まして入り込むが、もう少しのところで目的を達せられずにスパイ容疑として捕まってしまい、拷問を受ける。その折にワシントンのCIAで働くミュアー(ロバート・レッドフォード)は今日だけ働けば定年退職を迎えるのだが、CIA香港支局長から電話がかかってきて、ビショップが捕まったことを知る。ビショップはかつてはミュアーの部下として働いており、ベトナム、ドイツ、レバノンでの作戦では一緒に任務を行っていた。しかし、あくまでも私情に流されることなく任務を成功させることを一番に考えるミュアーの考え方に疑問を持ち始めたビショップは彼の元を去り、それ以来二人は音信普通になっていた。
 ビショップが捕まったことはCIAの幹部たちも知るところとなり、ミュアーもビショップの件について会議に参加させられる。そして、米中関係に亀裂が走ることを恐れた上層部たちはビショップを見殺しにしようとしていることを察知したミュアーは彼を助けようと奮闘する・・・

 いきなりブラッド・ピットが捕まってしまうシーンから始まってしまうので、彼の出演シーンは殆ど拷問シーンばかりかと思われるかもしれないが、ちょいちょい間に入ってくるだけ。主に映画はロバート・レッドフォードとブラッド・ピットの出会いから、別々の道を進むことになってしまうに至る回想シーンがメインであり、ブラッド・ピットがボコボコに殴られるばかりではないので、多くの彼のファンの女性はその点において心配することはない。
 本作を観るとスパイの世界における命がけで現場の最前線で働く者の悲哀を感じさせるし、安全な場所から目的だけのために指図する者の人命を軽んじる態度が腹が立つ。CIAのみならず世界の諜報機関の裏側がさりげなく描かれているのが興味深い。
 そして、本作はなぜブラット・ピットが単独で蘇州の刑務所に潜り込もうとしたのか?そんな疑問を引っ張りながらストーリーは続くのだが、それを知った時に男の俺は心が熱くなった。そして途中でお互いの考え方の違いから袂を分かってしまった師弟とでも呼ぶべき2人だが、ディナー作戦を通じた絆の深さ,固さには大いに感動させられた。
 二大スターのうちの片一方でものファンの人、娯楽映画の影響で俺もスパイになりたいと思っている人、駆け引きや心理戦を駆使したサスペンス映画が好きな人、トニー・スコット監督作品と聞いて心が躍った人・・・等に今回は映画スパイ・ゲームをお勧めとして挙げておこう

監督は前述したようにトニー・スコット。あの名匠リドリー・スコット監督の弟であり、その兄以上のヒットメーカーだった彼が自殺したのには本当に驚きました。彼の死は本当にアクション映画が好きな人には大きな痛手だということを今になっても思います。ちなみにトム・クルーズ主演のトップガン、エディ・マーフィー主演のビバリーヒルズ・コップ2といって大ヒット作品は彼の作品。原子力潜水艦内における対立を描いたクリムゾン・タイド、国家の陰謀に巻き込まれてしまうウィル・スミス主演のエネミー・オブ・アメリカ、デンゼル・ワシントンが幼い少女の用心棒を務めるマイ・ボディガード、これまたデンゼル・ワシントン主演でタイムトラベラーを扱った抜群のアイデアが楽しいデジャヴ、これまたデンゼル・ワシントン、ジョン・トラヴォルタがの二大スターが地下鉄のハイジャックを舞台に戦うサブウェイ123 激突がお勧め。

 



 

 

 
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映画 死にゆく者への祈り(1987) 哀愁が漂う元テロリスト

2021年10月19日 | 映画(さ行)
 すっかり最近は大人しくなったIRA(アイルランド共和軍)だが、かつては北アイルランドやイギリス本土において爆弾テロを度々起こしていた。IRAについての詳しい説明は各々で調べてもらうとして、今回紹介する映画は冒険小説の巨匠であるジャック・ヒギンズの同名タイトル小説を映画化した死にゆく者への祈り。当時イケメンバリバリのミッキー・ロークが元IRAのテロリストの主人公を演じている。
 元テロリストと言っても今まで多くの人間の命を奪ってきているだけに絶対に近づきたくない人間のタイプの典型。しかし、ミッキー・ロークが演じる元テロは哀愁を感じさせ、愛おしくさえもある。人殺しに同情してしまう俺って我ながらアホかと思えたりもしたが、でも本作を観ればきっと多くの人が俺と同じ思いするはずだ。

 さて、必死に運命に抗うように生きる男の悲哀を感じさせるストーリーの紹介を。
 北アイルランドにおいて、IRAのマーティン(ミッキー・ローク)はイギリス軍の車両をぶっ飛ばそうとするが、誤ってスクールバスを爆破させて多くの子供達を死なせてしまう。そのことにショックを受けたマーティンはIRAを抜け出し、ロンドンに潜伏する。かつてのIRAの仲間、地元の警察から追われる身となったマーティンはロンドンから逃げてアメリカへ渡るために、大金とパスポートの報酬と引き換えに、地元のギャングの葬儀屋を営む親分であるミーアン(アラン・ベイツ)から敵対する相手のギャングの親分の暗殺の依頼を受ける。これを最後の暗殺の仕事と決めたマーティンは難なく成功させるのだが、その現場を神父(ボブ・ホスキンス)に目撃されてしまい・・・

 祖国のために正義を貫いているつもりが、罪なき人間を巻き込んでしまうことにより自らの信念が脆くも崩れ去る。新しい人生を切り開こうとするマーティンだが、暴力の波はひたすら彼を追いかける。かつてのIRAの仲間からは追いかけられるし、潜伏先でも警察から追われ、そして新天地へ渡るために背負わされる仕事が人殺し。彼には常に死の影がつきまとう。
 殺害現場を見られた神父も簡単に殺そうとすればできたのだが、ここからがこの映画の真骨頂。暗殺者と神父の奇妙な交流が描かれる。少しづつ良心に目覚めつつあるが、それでも罪の意識に悩まされ続ける暗殺者、神に仕える身であるがゆえの葛藤に悩まされる神父。この悩める男たちが背負わされる宿命に、哀しみや辛さを感じさせる。非常に宗教をイメージする画が多いのが特徴の映画だが、特に最後のクライマックスで訪れる場面は印象的。果たして神は苦悩に満ちた男たちにどのような結末をもたらすのか。
 盲目の少女の汚れなき心は暗い影を落とすこの映画において清涼飲料水のような役割を果たし、街を牛耳る極悪人の表でみせる仕事は葬儀屋という設定は面白い。そしてロッキーシリーズの熱い名曲を手掛けたビル・コンティのアイリッシュ風の音楽は聴きごたえがある。ミッキー・ロークの主演映画の中ではそれほど有名な作品ではないと思うが、猫パンチ以前の格好良いミッキー・ロークが見れる。脇役も豪華で50歳半ばから急にアクションに目覚めたリーアム・ニーソンの若き頃も見れます。
 悩める男に胸きゅんな女性、重厚なサスペンス映画が好きな人、ジャック・ヒギンズの小説が好きな人、IRAに興味がある人、宗教的題材(カトリック)について興味がある人等に今回は死にゆく者への祈りをお勧め映画として挙げておこう
 

 

   
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映画 寒い国から帰ったスパイ(1965) スパイの世界が知れます

2021年05月10日 | 映画(さ行)
 007シリーズやミッション・インポッシブルシリーズといった大ヒットシリーズのスパイ映画もド派手なシーンが多くて楽しめるとしたものだが、あまりにもリアリティが無さすぎて白けながら観ている人もいるだろう。もっと現実のスパイの世界を味わいたいという人にお勧めしたい映画が今回紹介する寒い国から帰ったスパイ。スパイ小説という分野を広く認知させたジョン・ル・カレによる代表作であり、それを原作とする映画化作品だ。ジョン・ル・カレの小説はたくさん映画化されてもいるが傑作だらけ。そんな中でも本作は抜群の出来栄えにして、昔から数多あるスパイ映画の中でも最高傑作と言って良いだろう。
 本作で描かれているのが、敵国に潜り込む二重スパイ。そもそもスパイなんか映画の世界だけの話だろう⁈なんて思っている人がいるが、実際に現在でも二重スパイの暗躍は当たり前にある。第二次世界大戦において日米が戦い引きずり込まれた要因として、ソ連が日米両国に送り込んだ二重スパイの存在もある。まあ、日本なんかはスパイ天国とよばれているぐらいだし、俺の近くにも日本人のふりをしながら、他所の国のスパイなんじゃねえ?なんて疑わしき者もいる。
 
 東西冷戦の時代で、ドイツにベルリンの壁が設置されている背景が懐かしく感じられるストーリーの紹介を。 
 ベルリンの壁の検問所でイギリスの諜報員であるリーメックが東ドイツ側から一斉に射撃を食らって殺される。敵国に送り込んだ優秀なスパイが次々に殺されてしまう等、ベルリン支部の諜報部の主任リーマス(リチャード・バートン)は、イギリスに呼び戻されて失敗だらけの責任を取らされて解雇。失意のどん底に陥ったリーマスは、すっかり酒浸りになり、酔った勢いで人を殴ってしまうなど荒んだ生活を送っていた。
 しかし、これは敵を欺くための作戦であり、頃合いを見て再びイギリス諜報部に呼ばれて極秘任務を受ける。それは東ドイツの凄腕諜報員のムント(ペーター・ファン・アイク)を失脚させること。リーマスは巧みに東ドイツへ潜り込み、ムントと内部で敵対するフィードラー(オスカー・ウェルナー)と接触することに成功。フィードラーにムントがイギリス側の二重スパイであることを吹きこみ、作戦成功するかと思われたのだが・・・

 前述した大ヒットシリーズの映画を観ている人の中には、主人公が格好良くアクションをこなし、綺麗なネエチャンを抱きまくるシーンを見て、俺もスパイになりたいなんて考えを持ってしまう人も居るかもしれないが、本作を観ればそんな考えはぶっ飛ぶ。祖国のために働きながらも、最後は使い捨て同然の扱いにスパイの悲哀を大いに感じることができるだろう。それにしてもベルリンの壁が壊れても、今も世界中で争いが絶えないのは何とも悲しい限りだ。
 ストーリーは非常に重厚で、二転三転する展開はサスペンス映画としても楽しめる。そして、ベルリンの壁が存在していた頃の世界情勢を知ることができる映画としても本作は歴史的価値の高い映画と言えるだろう。大人向きのスパイ映画が観たい人、ジョン・ル・カレの作品が好きな人、ベルリンの壁を舞台にした映画が好きな人・・・等に今回は寒い国から帰ったスパイをお勧め映画として挙げておこう

 監督はマーティン・リット。ポール・ニューマン主演のハッドがお勧めです。
 ジョン・ル・カレ原作のお勧め映画として、裏切りのサーカス、ユアン・マクレガー主演のわれらが背きし者、フィリップ・シーモア・ホフマン主演の誰よりも狙われた男、フェルナンド・メイレレス監督、レイフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ共演のナイロビの蜂がお勧めです。

 

 
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映画 さらば愛しき女よ(1975) ハードボイルド映画です

2021年03月14日 | 映画(さ行)
 世界一有名な私立探偵であるフィリプ・マーロウの産みの親である推理小説家であるレイモンド・チャンドラー。ハードボイルド小説の草分け的な人物であり、彼の影響を受けた作家はアメリカのみならず日本にも多い。彼の原作は色々と映画化もされているが、今回紹介するのが彼の中でも代表的な作品であるさらば愛しき女よ。主人公のフィリップ・マーロウを演じるのが、この映画が公開された時、57歳ぐらいであるロバート・ミッチャム三つ数えろのハンフリー・ボガード、ロング・グッドバイのエリオット・グールドなんかのマーロウは凶悪犯に立ち向かう若さとタフさを感じさせられたが、ロバート・ミッチャム版のマーロウは、年齢を増したこともさることながら、虚ろな表情も重なり、非常に枯れた味わいを感じさせる。冒頭の登場シーンにおいて弱音を吐いているところだけなら、探偵稼業を引退寸前のような覇気の無さを醸し出してしまっている。
 
 今や警察から追われる身となってしまい、行方不明者ばかり探し出すことに追われる探偵の仕事に嫌気を感じているフィリップ・マーロウの活躍?を描くストーリーの紹介をしよう。
 1941年のロサンゼルスにおいて。警察から追われることになってしまったマーロウ(ロバート・ミッチャム)は潜伏していた安宿からロス市警の友人でもある刑事ナルティ(ジル・アイランド)を電話で呼びだし、今日も2つの死体が飛び出し、合計7人の死人を出してしまった事件の経過を説明していた。
 ある日のこと、やたら力が強いマロイ(ジャック・オハローラン)という大男と出会い、彼からベルマと言う女性を探して欲しいと頼まれる。マロイは7年間刑務所に入っており、その間元カノのベルマから何の連絡も無かったという。早速、マーロウはマロイと一緒に、かつてベルマが働いていたというナイトクラブに行くのだが、その店はすでに当時とはオーナーが変わっており、店の雰囲気もすっかり様変わりしていた。それでもベルマに会いたいマロイはオーナーを恐喝して彼女の居場所を聞き出そうとするのだが、勢い余って正当防衛とはいえ殺人を犯してしまう始末。マーロウはマロイをさっさと現場から離れさせ、彼に興味をもったマーロウは独自でベルマを探し出そうとする・・・

 冒頭からムードたっぷりの音楽とロサンゼルスの夜の風景がマッチしており、ちょっとばかり大人な雰囲気を感じさせる。そして、ロスの夜景を見下ろすロバート・ミッチャム演じるフィリップ・マーロウが登場するのだが、疲労感を漂わせる私立探偵の姿が人生経験豊富な大人の男を感じさせる。そして、この私立探偵が優秀なのが危険だと分かっていても職務に邁進する姿。しかし、それ以上にツボがハマったのが、彼の口から暗めだが多く飛び出す冗談。これが大なり小なりではあるが、100%の確率で笑える。どれだけの堅物のジジイになっても、常にユーモア精神は持ち続けたいと強く思った。
 そして、個性的な登場人物たちも魅力的。かなり純粋すぎる依頼人である大男、常に笑顔を振りまきながら拳銃や鈍器を使う暗殺者、やたら怪力なおばさん、そして男を滅ぼしそうな怪しい目付きをしたシャーロット・ランピリング演じる魅惑的な謎の美女、そして売れていない頃のシルベスター・スタローンなど、個性的な脇役陣も大いに楽しめる。
 まあ、探偵の行く所々で死人が出てくる展開は、この手の分野においては新鮮さはない。しかし、何かといかがわしいロサンゼルスの街は情緒たっぷりだし、とにかく男という生き物は本当に馬鹿なんだということがよくわかる。溌剌とした元気のいい奴なんか出てこないので、明るい気分になれる映画ではないが、酸いも甘いも多くを経験している大人な人には今回はハードボイルド映画さらば愛しき女よをお勧めとして挙げておこう。



 

 
 
 
 
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映画 スリー・ビルボード(2017) 先の読めない展開が楽しいです

2020年12月01日 | 映画(さ行)
 長年映画を観ていると5年に1回ぐらいは、これは本当に良く出来た映画だな~と感心することがあるが、その内の1本が今回紹介する映画スリー・ビルボード(3枚の看板の意味)。観ていて最初は不条理に立ち向かう肝っ玉母ちゃんのお話かと思っていたら、そんな単純な映画ではなかった。個性的な登場人物達が巻き起こす行動によってドンドン悪い方向に転がっていく展開は、意外性に溢れ、笑いとバイオレンスの振り幅のギャップに惹きつけれ、観ている最中は着地点が全く想像できない。確かに映画自体もサスペンスなのか、コメディなのか、ヒューマンドラマなのか特定の分野に決めつけるのが不可能な内容。

 それでは出来るだけネタバレしない程度でストーリーの紹介を。
 アメリカのミズリー州の田舎であるエビングという町が舞台。7カ月前に娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は深い悲しみから立ち直れずにいた。一向に捜査が進展しないことに苛立ちを覚えた彼女はついに行動を起こす。それは殺害現場近くの三枚の看板を借りてメッセージを目立つようにドカンと載せる。一枚目に『娘はレイプされて焼き殺された』、二枚目に『未だに犯人が捕まらない』、三枚目に『どうして、ウィロビー署長?』。
 町中の誰もがミルドレッドに同情するかと思いきや・・・

 頑張れ母ちゃんと思っていたら、案外この母ちゃんも少々問題があったりする。また、ウィロビー署長というのは権力まみれの能無しかと思っていたら実は深刻な秘密があったり、ウィロビー署長の部下にディクソン(サム・ロックウェル)という警官がいるのだが、これが人種差別者であり、暴力も厭わず、しかも相当頭が悪くて、このクズっぷりは一生治らない末期の重症レベルだと思っていたら、意外にもオ~なんて感心させてくれる。複雑な人間の内面事情というのを感じさせるキャラクター設定が上手い。
 そして、暴力的なシーンの描き方が映像で見せる。特に印象的なシーンはディクソン警官が警察署の向かいにある広告店の二階にガラスを割りながら押し入り、店主を窓から投げ飛ばして、そして降りて行って更に暴行を加えるシーン。この一連のシーンの強烈さもインパクトあり過ぎだが、これをワンカットで撮るように見せるテクニックにも大いに感心させられた。ストーリー展開だけでなく映像的にも魅せる映画だ。
 暴力が暴力を呼ぶ負の連鎖が描かれているが、本作ではその断ち切り方が見事。現実の世の中でもなかなか憎しみが切れない関係が続いているのをあちこちで見かけるが、本作が示すように意外に簡単なところに解決の糸口があるのかもと思わせるシーンが散りばめられているのが良い。それにしても急にオレンジジュースが飲みたくなってきたのは何故だろう?
 少しばかり凝ったストーリーが好きな人、コーエン兄弟監督の映画が好きな人、クリント・イーストウッド監督の映画が好きな人、暴力と笑いが融合した映画が好きな人等には今回はスリー・ビルボードをお勧め映画として挙げておこう

 監督はマーティン・マクドナー。怪作とも言えそうなセブン・サイコパスがお勧めです。


 
 
 
 
 
 
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映画 情事(1960) 釈然としないですが・・・ 

2020年10月29日 | 映画(さ行)
 政界、芸能界、スポーツ界にと次々に不倫をしてしまうゲス男のニュースが報道されている。寄りによって、どうして誰もが羨むような奥さんがいながら男は浮気をしてしまうのか?家庭だけでなくカネや名誉まで捨てて浮気してしまう彼らの行動だが、愛する女性には一途に尽くす俺には到底理解できない。しかしながら、一方で不思議なのがさっさと離婚しない奥様の方。こんなサイテーな旦那なんか捨てちまえと俺なんかは思ったりするのだが、夫婦のみならず男女の仲というのは本当に難しい。そんな男女関係を描いた名作といえば今回紹介する映画情事。前述した日本男子達もかなりヒドイ奴に思えるが、本作の主人公である男性イタリア人も相当にイタイ。ところがもっと興味深いのがモノクロの画像の中でも輝くブロンド女優であるモニカ・ヴィッティ演じる女性の行動及び心理。個人的には非常に釈然としないものがあったのだが・・・。

 さて、揺れ動く男女関係に戸惑いを感じさせるストーリーの紹介を簡単に。
 恋人同士であるが倦怠期を迎えつつあった建築家のサンドロ(ガブリエーレ・フェルツェッティ)と上流階級の娘であるアンナ(レア・マッサリ)。そんな2人ははアンナの親友であるクラウディア(モニカ・ヴィッティ)を誘って孤島へのバカンスにでる。ところが突然アンナは姿を消してしまう。ヨットに同乗していた友人達や捜索隊を呼び出して孤島及びその周辺を探し回るが見つからない。しかし、サンドロとクラウディアは僅かな望みをかけてアンナを探し出す旅にでるのだが、次第に2人の仲が急接近してしまい・・・

 サンドロなんかは恋人のアンナが消えた途端にクラウディアにキスを迫る不届き者。それに対してクラウディアは親友が行方不明になっているのに、そんな疚しいことはできないとの想いを持っている。しかしながらクラウディアも後ろめたさを感じながらもサンドロに惹かれていく。一歩近づいて、半歩遠のくような男女間の微妙な距離の接近が興味深く観ることができた。世間は男性の不倫を徹底的に叩くが、男女の関係なんて案外こんなものかも?なんて俺には思えた。しかし、本作の真骨頂はラストの結末。なんだか釈然としない気がするが、一方で女性に対して感謝の気持ちが芽生えてきた。
 内容だけでなく映像的にはイタリアの建造物が活かされているし、男の視線を一斉に浴びるモニカ・ヴィッティの女っぷりも良い。そりゃ~、こんな女性と行動を共にしてたら俺もやっぱり惹かれてしまう、というのは冗談。観る人によって賛否両論あるだろうし、女性は本作に対してどのように感じるのか個人的には興味がある。エンターテイメントさは全く無いに等しいが、気だるい映画が観たい気分の人に今回は情事をお勧め映画に挙げておこう。

 監督はイタリア映画の巨匠ミケランジェロ・アントニオーニ。本作が彼の出世作品になるが、個人的にはそれ以前に監督したさすらいがお勧めです。






 

 


 



 
 
 

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映画 ジャスティス(1979) 悩める弁護士が見れます

2020年06月19日 | 映画(さ行)
 ハリウッド映画というのは本当に法廷映画の分野において傑作が多いが、今回紹介する映画ジャスティスもその例に漏れない。ちなみにジャスティスとは正義という意味。しかしながら、正義の意味をマトモに理解している人間は俺も含めて殆ど居ないし、人によって考える正義というのは違うのかもしれない。
 さて、アル・パチーノ演じる主人公である弁護士の最初の登場シーンが非常に面白い。いきなり刑務所に投獄されている惨めな姿が見られる。それにしても、なぜ弁護士ともあろう人間が刑務所に入っているのか。そこには憧れの職業である弁護士の姿はまるでない。法廷映画ならではのサスペンスやスリルは二の次。そんなことよりも真っ当な弁護士が何かと悪戦苦闘する姿を通して、司法制度の限界、法の矛盾が描かれている。法治主義の下に生きる我々にとって、なかなか考えさせられる内容だ。
 
 それでは弁護士という職業がいかに大変な仕事であるかが理解できるストーリーの紹介を
 アメリカのボルチモアが舞台。刑務所に若い弁護士であるアーサー(アル・パチーノ)が拘留されていた。普段からそりが合わずに対立していたフレミング判事(ジョン・フォーサイス)を裁判中に殴ってしまったのだ。優秀で何かと正義漢の熱い彼のもとには、拘留所を出た後でも直ぐに仕事が舞い込み、継続中の仕事も重なり何かと忙しい。
 ある日のこと、フレミング判事が強姦罪で告訴される。普段から彼を嫌っているアーサーと同僚たちはザマ~見ろとばかりに笑いこけ、そして彼は有罪だと揶揄するのだが、あろうことにフレミング判事はアーサーに弁護を頼み出てきた。当初は弁護を断っていたのだが・・・

 無罪の証拠があるのに未だに刑務所から脱してやれない苦しみ、仲間の怠慢でせいで依頼人が自殺してしまったり、大嫌いな人間なのに弁護を引き受けさせられたりで次々と悩ましい問題が主人公に襲い掛かる。しかも、自殺願望を持っている判事、精神がすっかりおかしくなってしまった弁護士、デタラメな裁判など彼を取り巻く法曹界の人間のダメっぷり、そして正当に裁くことができない法の矛盾等がマトモな弁護士である主人公を苦しめる。
 弁護士になりたいと思っている人に、まずは本作を観ろと言いたい。それからでも難関な司法試験を受けても遅くない。だいたい公職選挙法に違反している奴が法務大臣になってしまう今日この頃。ロクでもない奴が権力を握ってしまうのだから、憧れの職業に就いてもその後は色々なジレンマに悩まされるだろう。
 個性的な登場人物達は楽しいし、使用されている音楽は格好良いし、社会派作品にありがちな退屈さはない。そして所詮は人間が作り上げた法律、制度に完璧なものなどあり得ないことを気づかせてくれる内容が良い。何はともあれアル・パチーノが好きだけれど本作は未見の人、法曹界の現実を知りたい人、弁護士になりたがっている人、正義という言葉が大好きな人・・・等に今回はジャスティスをお勧め映画に挙げておこう

 監督はノーマン・ジュイソン。人種差別をテーマに描いた映画を時々見受けるが、エンタメ性に優れた作品も多い。白人署長と黒人刑事が対立しながらも殺人事件捜査に協力しあう夜の大捜査線、ポーカー試合を舞台にしたギャンブル映画シンシナティ・キッド、大人の気分が味わえるサスペンス映画華麗なる賭け、ロマンチックコメディの月の輝く夜に、実話を基に冤罪で刑務所に入れられてしまった黒人ボクサーが自由を勝ち取るまでの姿を描いたザ・ハリケーン等、お勧め多数の名監督です。

 

 
 
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映画 砂と霧の家(2003) House(ハウス)とHome(ホーム)の違いが理解できる?

2020年02月03日 | 映画(さ行)
 毎日、何かと愚痴をこぼしてばかりいる俺だが、この寒い冬でも暖かい家に帰って布団の中で寝れることに幸せを感じる。しかしながら、今こうしている間にも自分の住む家が無くなってしまったり、手放さないといけない事が起きるようなことが充分にあり得るのは、災害の多い日本に住んでいる者ならば感じること。誰にだって好まざるともホームレスになってしまう可能性はあるのだ。
 さて、一軒の家を巡って元住人と現在の住人との激しい対立を描いた映画が今回紹介する砂と霧の家。原題のHouse of Sand and Fogを直訳しただけの邦題だが、これが非常に意味深で逸品なタイトル名だということは本作を観ればわかる。

 もしも自分の住む家がなくなったらどうしよう、なんて考えさせられるストーリーの紹介を。
 夫に家を出ていかれ精神的ダメージを背負ったキャシー(ジェニファー・コネリー)は、亡き父親の遺産である家で独り暮らし。しかし、わずか500ドルの税金をうっかり滞納してしまったために家を差し押さえられてしまう。キャシーが弁護士に相談へ訪れたところ、行政の手違いだと判明。難なく差し押さえを回避できると思っていたのだが、既に家は競売に掛けられており、イランから亡命してきた元高官のベラーニ(ベン・キングズレー)一家に買われていた・・・

 イスラム革命のあおりを受けてイランから亡命してきたベラーニだが、故郷では大佐である高官だった男なだけにプライドが高い。しかしアメリカに来てからは昼は肉体労働、夜は売店でバイトをしている屈辱の日々。そんな彼の目に相場の4分の1という非常に安い物件が目に入った。時代背景はリーマンショック前であり、しかもこの家から海が見渡せるように祖国を思い出させる。そして、しばらくしてからは、この家を相場で売って大金を得て、イランでの優雅な暮らしをアメリカの地でもう一度なんて野心に燃えている。それだけに偶然見つけたとは言え、この家に対する執着心は並外れている。一方キャシーの方も、このまま黙って見過ごすとホームレスになってしまうだけでなく、父親の遺産であり様々な思い出が詰まっている家を簡単に手放せない。
 お互いに引くに引けない事情があるだけに、一軒の家の所有を巡って激しいバトルが繰り広げられる。しかも、なかなか着地点が想像できないので先々の展開が気になり、退屈しないで観ることができる。そして、主人公の2人だけでなく脇役に至るまで細かい人間描写が優れているのも素晴らしい。特にキャシー側の助っ人的な役割を果たす地元の副保安官の男のキャラ設定が抜群。そりゃ~、キャシーを演じるジェニファー・コネリーみたいな美人でプロポーションも抜群だったら、助けたくなるのも当然ってか。

 ストーリーはドンドン悪い方向へ転がっていくし、結末もなんだか後味が悪く感じる。しかし、観終わった後に多くの人は感じるだろう。家よりももっと大切な物があるんだということを。ひたすら明るくて楽しい映画しか好まない人にはお勧めできないが、個人的には本作のような暗闇の中で一寸の灯りが見えるような映画はお気に入り。アメリカとイランの仲がただならぬ気配が漂っている今だからこそ今回は砂と霧の家をお勧め映画として挙げておこう。



 監督はヴァディム・パールマン。非常に斬新な構成と驚愕な結末に感動させられるダイアナの選択がお勧めです。


 
 

 

 
 
 
 
  
 
 
 
 
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